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ダンジョン攻略に飽きたので、酒場巡り始めました。〜元SSSランク冒険者(24歳・童顔)、美味しいお酒とご飯を求めて無双中〜  作者: カタギリ


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第46話

 古老に教わった山道を、メルティは休むことなく登り続けた。


 鬱蒼と茂る木々の間を進むにつれ、空気は少しずつ冷たく湿っていく。やがて森の奥、苔と蔦に覆われた古びた石造りの建物が姿を現した。


 ひび割れた柱。崩れかけた石段。長い年月の間に、建物そのものが森へ飲み込まれようとしている。


「――ここが、古代水脈遺跡」


 メルティは入口の前で足を止めた。


 中から流れてくる空気はひんやりとしている。


「……行ってみましょう」


 ランタンへ火を灯し、薄暗い遺跡の中へ足を踏み入れた。


                              *


 内部の壁には、何本もの石造りの水路が走っていた。


 けれど、そのすべてが乾いている。溝の底には白い水垢だけが残り、長い間ここへ水が流れていないことを物語っていた。


「本当に、止まってますね……」


 メルティはしゃがみ込み、水路の底へ指を這わせた。


 乾いている。


 けれど、壁際の一部だけには薄く苔が残っていた。


「……?」


 ランタンを近づける。


 苔は一本の水路に沿うように、遺跡の奥へと続いている。


「こっちは、少し前まで水が流れてた……?」


 メルティはその跡を辿って進むことにした。


 しばらく歩くと、三本の水路が交わる広間へ出た。


 中央には巨大な石盤。


 その周囲には、錆びついた三つの回転式の取っ手が並んでいる。


「……なんでしょう、これ」


 石盤には古い絵が彫られていた。


 一番上には山。


 その下には、水晶のようなもの。


 そこから二本の線が伸び、一方は湖へ、もう一方は畑へ続いている。


「山から……何かを通して……湖と畑に?」


 メルティは首を傾げる。


「古老さんが言ってた、水と魔力を巡らせる仕組み……ですかね」


 試しに、一番近くにあった取っ手へ手をかけた。


「これかな」


 ぐっと回す。


 ――ゴゴゴゴゴ……。


「……!」


 突然、広間の奥から重い駆動音が響いた。


 石壁の一部が動き、中から巨大な石の巨人が姿を現す。


「ゴォオオオオッ!」


「えっ!?」


 振り下ろされた拳を、メルティは慌てて躱した。


 ――ズガンッ!


 床が大きく揺れる。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 石の巨人――ガーディアンは、容赦なく次の攻撃を繰り出してくる。


 メルティは反射的に拳を構えた。


「……いや」


 そこで止まる。


 周囲には、乾いた水路。


 古びた石盤。


 そして、壊れかけた操作装置。


「ここで倒したら、余計に分からなくなりそうです」


 メルティは拳を下ろし、攻撃を躱しながら広間を見回した。


「というか……私、何か間違えました?」


 ガーディアンが再び拳を振り上げる。


 メルティはひらりと後ろへ跳び、先ほど動かした取っ手へ飛びついた。


「戻します!」


 元の位置へ回す。


 ――カチン。


 その瞬間。


「……?」


 ガーディアンの動きが止まった。


 振り上げられていた拳が、そのままゆっくりと下ろされていく。


「……やっぱり」


 メルティはガーディアンと取っ手を交互に見た。


「これ、敵じゃないんですね」


 間違った操作をした者を排除するための、遺跡の防衛装置。


 そう考えれば辻褄が合う。


「となると……正しい順番がある?」


 メルティは改めて石盤の絵へ目を向けた。


                              *


「山……水晶……湖と畑」


 メルティは腕を組み、石盤の前で唸っていた。


「んー……」


 こういうものは、あまり得意ではない。


 魔物なら、弱点を見つければいい。


 美味しいものなら、食べればいい。


 けれど古代の装置となると、そう簡単にはいかなかった。


「……困りました」


 しばらく石盤を眺めていた時だった。


 ふと、一つのことに気づく。


「これ……傷?」


 三つの取っ手のうち、一つだけ、根元の石がわずかに削れている。


 何度も動かされてきた跡だった。


 さらに、その取っ手から伸びる水路には、他よりも濃い水垢が残っている。


「最初は、これ?」


 メルティは慎重に取っ手を回した。


 ――カチン。


 ガーディアンは動かない。


「合ってます!」


 少し嬉しくなった。


 次に石盤を見る。


 山から水晶へ。


 そして水晶から湖と畑へ。


「じゃあ……山から来たものを、ここに通して……」


 二つ目の取っ手を動かす。


 ――ゴゴ……。


 水路の奥から、かすかな音が聞こえた。


「……水?」


 耳を澄ませる。


 ほんの僅かだが、どこか遠くで水が流れる音がしている。


「合ってる……!」


 残る一つ。


 メルティは最後の取っ手へ手をかけた。


「これで……!」


 回す。


 ――ガコン。


 広間全体に、低い音が響いた。


 直後、中央の石盤がゆっくりと沈み始める。


「わっ……!」


 その奥から現れたのは、地下へ続く石の階段だった。


 同時に、先ほどまで立ちはだかっていたガーディアンが、その場に片膝をつく。


 青白く光っていた目が、静かに消えた。


「……通っていいってことですか?」


 もちろん返事はない。


「じゃあ、お邪魔します」


 メルティはぺこりと頭を下げ、階段へ足を踏み入れた。


                              *


 地下へ降りるほど、空気の湿り気が増していった。


 壁を走る水路にも、ところどころ水滴が残っている。


「こっちには、水がある……」


 ということは、水そのものが消えたわけではない。


 どこかで止まっている。


 メルティは足音を忍ばせながら、さらに奥へ進んだ。


 やがて――。


「……!」


 視界が大きく開ける。


 辿り着いたのは、円形の巨大な広間だった。


 その中央。


 淡い青白い光を放つ巨大な水晶が、宙に浮かんでいる。


「これ……」


 石盤に描かれていたものと同じだった。


「水脈の……中心?」


 水晶からは本来、四方へ魔力が流れているのだろう。


 けれど今は、その光がひどく弱い。


 理由はすぐに分かった。


「……何ですか、これ」


 水晶の表面へ、無数の黒い蔦が絡みついている。


 太いもの。


 細いもの。


 まるで獲物を締め上げる蛇のように、水晶へ何重にも巻きついていた。


 そして蔦が脈打つたび、水晶の光が僅かに吸い取られていく。


「これが……湖に届くはずの魔力を?」


 メルティは慎重に近づく。


 黒い蔦の隙間から見える水晶には、細かな亀裂がいくつも走っていた。


「……かなり弱ってます」


 これを力任せに引き剥がすのは簡単だ。


 蔦ごと吹き飛ばすことだってできる。


 けれど――。


「水晶まで壊れちゃいますね」


 メルティは拳を下ろした。


 少し考える。


 そして、腰へ手を伸ばした。


「……あ」


 指先に触れたのは、ガラハドが作ってくれた銀白色の鞘。


 ゆっくりと、星銀のナイフを抜く。


 遺跡の淡い光を受け、刃が静かに輝いた。


「そうでした」


 肉の繊維を潰さず。


 柔らかな生ハムさえ、薄く切り分けられる刃。


 そして何より――狙った場所だけを、余計な力を使わずに切ることができる。


 メルティは水晶に絡みつく無数の蔦を見上げた。


「これなら……」


 水晶を傷つけずに、蔦だけを切れるかもしれない。


 メルティは大きく息を吸った。


 星銀のナイフを、静かに構える。


「――やります」


 この街の湖を。


 畑を。


 人々の食卓を。


 そして、まだ食べられていない湖王鱒のムニエルを取り戻すために。


 メルティは、最初の一本へと刃を近づけた。


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