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ダンジョン攻略に飽きたので、酒場巡り始めました。〜元SSSランク冒険者(24歳・童顔)、美味しいお酒とご飯を求めて無双中〜  作者: カタギリ


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第25話

北の古代遺跡に近づくにつれ、空気の質が変わっていくのが分かった。

 澄んでいたはずの大気は、どこか粘つくような重さを帯び、地面には見覚えのない紫黒の亀裂が幾筋も走っている。空には分厚い雲が渦を巻き、太陽の光すら届かない、異界のような光景が広がっていた。

「――ここ」

 メルティが遺跡の入り口に足を踏み入れた瞬間、耳をつんざくような咆哮と、剣戟の響き、そして人々の悲鳴が一気に押し寄せてきた。

 目の前に広がっていたのは、地獄絵図だった。

 巨大な触手を振り回す異形の魔物、闇色の瘴気を纏った獣たち――邪神の魔力によって狂暴化した魔物たちが、遺跡の広場を埋め尽くさんばかりに溢れかえっている。王都から派遣された高ランク冒険者や騎士たちが、傷だらけになりながらも、必死に隊列を組んで防戦を続けていた。

「くそっ……! きりがない……!」

「後退しろ! これ以上は持ちこたえられん……!」

 絶望的な戦況の中、誰もが最後の力を振り絞っていた、その時。

 小柄な少女が、気負う様子もなく、ふらりと戦場へ歩み出た。

「――メルティ嬢!? な、なぜこんな場所に……!」

 その姿に気づいた騎士の一人が、驚きに声を上げる。だが、メルティは答える間も惜しむように、静かに一歩を踏み出した。

 巨大な触手が、唸りを上げながらメルティめがけて振り下ろされる。

「――どいてください」

 メルティは、軽く曲げた指先を弾いた。

 パチンッ。

 ただそれだけの音とともに、巨大な触手が、まるで枯れ枝のように粉々に砕け散った。

「――!!!!」

 周囲の冒険者たちが、息を呑む。

 続けて、獣型の魔物が三体、同時に飛びかかってきた。メルティは軽く踏み込むと、その場に衝撃波を放つ。ただそれだけで、三体の魔物はまとめて後方へ吹き飛ばされ、地面に沈んでいった。

 巨躯を誇る異形の魔物も、鋭い爪を持つ獣も、メルティの前では次々とその動きを止めていく。

「な、なんだ、あの少女は……!?」

「あれだけいた魔物を、たった一人で……」

 あっという間に、あれほど群れをなしていた魔物たちの姿が消えていく。血みどろだった戦場に、束の間の静寂が戻った。

 メルティは、そんな戦場の様子をほとんど気にも留めていなかった。

 彼女の視線は、すでに遺跡のさらに奥――禍々しい気配が渦巻く、最奥の間へと向けられていた。

「――行きます」

 助けられた冒険者たちの制止も聞かず、メルティは迷いなく足を進めていく。

                              *

 遺跡の最奥、「封印の間」と呼ばれるその場所には、無数の黒衣の人影が、詠唱を捧げるように蠢いていた。中央には、巨大な石碑を突き破るように、どす黒い瘴気を纏った禍々しい影が、姿を現しつつある。

「もうすぐだ……! もうすぐ、あの方が再び、この世界に……!」

 狂信的な喜びに満ちた声が、口々に上がっていた。

 その中心――ひときわ豪奢な黒衣を纏った幹部らしき男が、勝ち誇ったように笑みを浮かべている。

「くくく……もはや誰にも、我らの悲願を止めることは――」

 その言葉が、ふと途切れた。

 男の視線が、扉の向こうから静かに歩み入ってきた、小柄な少女の姿を捉えたのだ。

「――え」

 男の顔から、みるみるうちに血の気が引いていった。

「ば……ば、化け物……!?」

 その声は、恐怖にひび割れていた。

「な、なぜ……なぜお前がここにいる……!」

 メルティは、ただ静かにその場に立っていた。

 だが男にとって、その存在は遠い過去の悪夢そのものだったのだろう。

「かつて……かつて我らの計画を、たった一人で粉砕した……あの……! 最凶のSSSランクが……!」

「……」

 ガタガタと震えながら後ずさる男を、メルティは無言のまま見つめていた。

 ――その瞬間。

 脳裏を、何かが掠めた。

 赤黒く染まった空。

 崩れ落ちた建物。

 自分の手にこびりついた、乾きかけの血。

『さすがSSSランクだ』

『君なら、これくらい当然だろう』

「……っ」

 メルティはわずかに眉を寄せた。

 けれど、それ以上の記憶は浮かんでこない。

 ただ、胸の奥に残ったのは、妙に冷たい感覚だけだった。

「お、お前……まさか、覚えて――」

 男の声に、メルティは静かに顔を上げた。

「この街の、美味しいご飯とお酒を」

 一歩、前へ出る。

「みんなが笑って過ごせる時間を」

 もう一歩。

「邪魔するなら――」

 全身から、目に見えない圧が静かに立ち上っていく。

 黒衣の男たちの表情から、一斉に血の気が引いた。

「――容赦しません」

 その瞳に宿っていたのは、これまでの旅で見せてきた朗らかな色とは、まったく違うものだった。

 世界最強と呼ばれた、かつてのSSSランク冒険者。

 封印の間に渦巻く邪神の影を見据えながら、メルティは静かに一歩を踏み出した。


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