↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン攻略に飽きたので、酒場巡り始めました。〜元SSSランク冒険者(24歳・童顔)、美味しいお酒とご飯を求めて無双中〜  作者: カタギリ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/65

第24話

 牛すじ煮込みを堪能した後、メルティは満腹のお腹をさすりながら、のんびりと露店街を歩いていた。

 色とりどりの野菜や、焼き菓子、雑貨を並べる店々を眺めながら歩いていたその時、ふと、少し先で言い争うような声が聞こえてきた。

「――だから、今月はもうこれ以上払えないんだよ!」

 声の主は、小さな露店の奥で、必死に両手を広げて自分の商品を守ろうとしている、白髪の老婆だった。目の前には、柄の悪い男が二人、下卑た笑みを浮かべながら立ちはだかっている。

「うるせえな、婆さん。払えねぇなら、この店をたたむしかねぇんじゃねぇか?」

「そ、それだけは……! ここは、亡くなった夫と二人で始めた店なんだ……!」

 震える声で訴える老婆に、男たちはにやにやと笑いながら、乱暴に露店の商品を蹴り飛ばそうとする。

「――あの」

 メルティは、その様子を見て、迷わず足を止めた。

「困ってる人に、意地悪しちゃダメです」

「あぁ? なんだ、ガキが偉そうに――」

 振り向いた男が、面倒臭そうにメルティへ手を伸ばしかけた、その瞬間。

 メルティは、軽く曲げた指先を、ぴんと弾いた。

「――こら」

 パチンッ、という小気味よい音とともに、男の巨体が、まるで見えない壁にでもぶつかったかのように、勢いよく吹き飛んでいった。もう一人の男も、慌てて逃げ出そうとしたところを、同じように軽い一撃で沈められる。

 あっという間に、二人組のならず者は、露店の外に伸びていた。

「――だいじょうぶですか?」

 メルティが老婆に声をかけると、老婆はしばし呆然と目を丸くしていたが、やがて、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。

「あ、あんた……! 本当にありがとうよ……!」

                              *

 感謝しきりの老婆に連れられて、メルティは路地裏にひっそりと佇む、小さな食堂へと案内された。

「これはほんの気持ちだけど、どうか召し上がっとくれ」

 運ばれてきたのは、こんがりと黄金色に揚がった、分厚い豚カツだった。傍らには、爽やかなハーブの香るタルタルソースが添えられている。そして、氷を浮かべた、淡く色づく発泡酒のグラスも。

「王都の黄金豚カツと、うちの店特製の冷やしりんご発泡酒だよ。息子が丹精込めて育ててる豚でね」

「わぁ……いい匂い……」

 メルティは早速、豚カツにナイフを入れる。サクッという小気味よい音とともに、断面から、じゅわりと肉汁が滲み出した。

 一口。

「――んんんんっ!!」

 サクサクの衣を噛み締めた瞬間、その奥から、極上の豚肉ならではの甘い脂と、濃厚な肉汁が溢れ出す。噛むほどに広がる旨味に、思わず頬が緩んだ。

「お肉、甘い……! 脂が全然しつこくない……!」

 そこに、爽やかなハーブタルタルをたっぷりと絡めて、もうひとくち。

「んんっ……! さっぱりしてて、いくらでも食べられそう……!」

 続けて、キリッと冷えたりんご発泡酒をひとくち。

「――んっ!」

 シュワシュワと弾ける泡とともに、フルーティーな甘みと爽やかな酸味が、口の中に広がっていく。豚カツの脂を、すっと洗い流すような清涼感に、思わずため息が漏れた。

「んふぅ~……! 助けて良かったです……!」

 揚げたての豚カツと、冷たい発泡酒。その絶妙な組み合わせを味わいながら、メルティは満ち足りた笑顔を浮かべていた。周囲を助けたことへの見返りというよりも、ただ単純に、この一皿とこの一杯が、心から美味しかったのだ。

                              *

 豚カツを綺麗に平らげ、満足げに一息ついたその時だった。

 通りの向こうから、慌ただしい足音とともに、ギルドの職員らしき男が、真っ青な顔で駆け抜けていく。

「た、大変だ! 冒険者ギルドに緊急招集がかかった……! 北の古代遺跡で、とんでもないことが起きてる……!」

 その叫び声に、食堂内が一瞬でざわめいた。

「な、なんだって?」

「北の古代遺跡って言や、大昔に封じられた邪神様がいるって噂の……!」

「あそこに派遣されてた調査隊が、今もう連絡が取れねぇらしい……! なんでも、封印に異常が出てるとか……!」

 ざわめきの中、メルティの手が、静かに止まった。

 ――先日、隣のテーブルで耳にした、あの何気ない噂話。

「……本当だったんですね」

 小さく呟き、メルティは空になったグラスを、そっとテーブルに置いた。

 いつもの、のんびりとした気配が、その瞳から、すっと消えていく。

「――行かないと」

 立ち上がったメルティに、老婆が心配そうな声をかけた。

「あんた、どこへ行くんだい」

「北の遺跡です」

「な、なんだって!? あそこは危険だって話だよ、あんたみたいな子が行くところじゃ――」

「大丈夫です」

 メルティは、老婆に向かって、いつもと変わらない穏やかな笑みを浮かべた。だがその奥には、これまで見せたことのない、静かで確かな覚悟が滲んでいた。

「――この街の美味しいご飯とお酒が奪われるのは、困りますから」

 その言葉には、これまでの旅の中で出会った、数え切れないほどの美味しい料理と、温かい人々との時間が、確かに込められていた。

 メルティは食堂を後にすると、迷いのない足取りで、北の方角――かつて誰も足を踏み入れなかった、封印の地へと向かって、歩き出していった。

 街の喧騒が、少しずつ遠ざかっていく。

 その先に何が待ち受けているのか――メルティ自身、まだ知る由もなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。