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ダンジョン攻略に飽きたので、酒場巡り始めました。〜元SSSランク冒険者(24歳・童顔)、美味しいお酒とご飯を求めて無双中〜  作者: カタギリ


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第21話

リセルが厨房の奥からごそごそと支度を始めるのを、メルティはわくわくとした様子で見守っていた。

「特別に仕込んだ酒に合わせるなら、料理もそれなりのものを出さないとね」

 そう呟きながら、リセルは手際よく鉄鍋を火にかける。ほどなくして、じゅうっと小気味よい音とともに、香ばしいバターの匂いが店内に広がり始めた。

「――お待たせ」

 運ばれてきたのは、分厚く切り分けられた、艶やかな飴色のキノコだった。表面はこんがりと焼き色がつき、たっぷりの香草バターが絡みついている。まるでステーキのような、堂々とした佇まいだった。

「大樹の芳醇キノコステーキだ。この森でしか採れない特別な逸品でね」

 そして、リセルが取り出したのは、あの深い緑色をした瓶。栓を開けた瞬間、爽やかな柑橘を思わせる香りが、ふわりと立ち昇った。

「んー、いい匂い……」

 メルティはさっそくフォークとナイフを手に取ると、キノコステーキに切り込む。ほろりと崩れる感触の後、キノコとは思えないほど濃密な汁が、断面からじゅわりと溢れ出した。

 一口。

「――んんんんっ!!」

 思わず声が漏れる。

「お肉みたい……! ううん、それ以上に濃厚な旨味です……!」

 噛むたびに深い味わいが広がり、香草バターの芳醇な香りに、ほんのりとしたスパイスの刺激が重なる。歯応えもしっかりとしていて、まるで極上の肉料理を食べているかのような満足感だった。

「これ、キノコなのに……こんなに贅沢な味がするなんて……!」

 メルティが目を輝かせながら味わう様子に、リセルはどこか誇らしげに口元を緩めた。

「うちの森は、いい土壌でね。年月をかけて、じっくり養分を蓄えるんだよ」

 続けて、キリッと冷えた緑色の果実酒をひとくち。

「――んっ!」

 柑橘を思わせる爽やかな香りが口いっぱいに広がり、舌に残っていた香草バターのコクを、すっと軽くしていく。

「んふぅ~……! 森の恵み、最高です……!」

 キノコをひとくち、酒をひとくち。メルティはうっとりと目を細めながら、フォークとグラスを夢中で往復させた。

 そんな様子を眺めながら、リセルも自分のグラスに酒を注ぎ、ゆったりと味わい始める。カウンターを挟んで交わされる会話が、いつしか穏やかで気安いものへと変わっていった。

「あんたみたいに、料理を心から楽しんで食う奴、久しぶりに見たよ」

「だって、本当に美味しいので」

「……ふん。素直な奴だね」

 リセルは満更でもなさそうに、グラスを揺らす。

 しばらく酒を酌み交わすうちに、彼女の口調は、初めて会った時よりもずっと柔らかくなっていた。

 メルティも、ふと気づく。

 一人で静かに味わうお酒も好きだ。けれど、こうして同じ酒を飲みながら、美味しいと話す時間も悪くない。

「……ふふ」

「なんだい、急に」

「いえ。楽しいな、と思って」

 そう答えると、リセルは一瞬だけ目を丸くし、それから小さく笑った。

「そうかい」

 すっかり緩んだ空気の中、メルティはふと、思い出したように口を開いた。

「あの、リセルさん」

「ん? なんだい」

「実はわたし、数千年に一度仕込まれるっていう『月光酒』っていうお酒を探して、この街に来たんです」

「――!!」

 リセルは目を見開き、手にしていたグラスを危うく落としかけた。

「なに……!? あんた、月光酒を探してるのかい……!?」

「はい。旅先で噂を聞いて、どうしても飲んでみたくて」

 驚きに固まっていたリセルだったが、すぐに、にやりと口の端を持ち上げた。

「――ふん、あんた運がいいね」

「え?」

「あの酒は、樹海の最奥にある巨木の花が開いた時だけ仕込まれるんだが……」

 リセルは声を落とし、どこか楽しげに続けた。

「ちょうど今夜、その花が開くって話なんだよ」

「――!!!!」

 メルティの目が、これまでにないほど大きく見開かれる。

「今夜……!?」

「ああ。数千年ぶりの大きな開花になるだろうって、森の長老たちの間で噂になっててね」

 メルティはがたりと椅子から身を乗り出した。

「見に行きたいです……!」

 その勢いに、リセルは思わず苦笑した。

「まったく、忙しない奴だね」

 それから、リセルは自分のグラスを、くいっと一気に呷った。

「――よし、決めた」

 空になったグラスを、カウンターにことりと置く。

「あたしも、あの花が咲くところは、まだ一度も見たことがないんだ。せっかくだ、あんたと一緒に見に行ってやるよ!」

「本当ですか!」

「ああ。それに、もし本当に月光酒が仕込まれるなら、あたしだって一杯くらい味見してみたいしね」

 リセルの言葉に、メルティは満面の笑みを浮かべた。

「よろしくお願いします!」

 二つのグラスが、再びこつんと触れ合う。

 窓の外では、夕暮れの光が徐々に薄れ、樹海全体が静かに夜の帳へと包まれ始めていた。

 数千年に一度だけ咲くという、幻の花――そして、そこから生まれる伝説の月光酒。

 リセルと一緒に出かける、初めての夜の冒険。

 メルティの胸は、まだ見ぬ光景と酒への期待でいっぱいに膨らんでいた。


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