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ダンジョン攻略に飽きたので、酒場巡り始めました。〜元SSSランク冒険者(24歳・童顔)、美味しいお酒とご飯を求めて無双中〜  作者: カタギリ


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第20話

 暗殺組織のアジトを後にしたメルティは、腹ごなしがてら樹海の奥へと歩を進め、やがて――目的地である「樹海都市」に、無事たどり着いた。

「――わぁ」

 目の前に広がる光景に、メルティは思わず足を止めた。

 見上げるほど巨大な樹々が、天を突くようにそびえ立っている。その太い幹や枝の上には、木そのものと一体化するようにして、無数の家々が寄り添うように建てられていた。木々の間を渡された吊り橋や、蔓を模した階段が、街全体を複雑に繋いでいる。木漏れ日がきらきらと降り注ぎ、澄んだ空気の中に、微かな花の香りと、瑞々しい緑の匂いが漂っていた。

「――すごい……」

 これまで巡ってきたどの街とも違う、幻想的で静謐な光景に、メルティの胸が高鳴っていく。

 だが、そんな旅の高揚感とは裏腹に、街を歩くメルティに向けられる視線は、決して温かいものではなかった。

 すらりとした長い耳を持つ、美しい住人たち――エルフたちが、遠巻きに、どこか値踏みするような冷たい視線を投げかけてくる。

「……人間か」

「珍しいね。この森の奥まで来るとは」

 ひそひそと囁かれる声には、明確な警戒と、排他的な色が滲んでいた。しかし、メルティはそんな空気などまるで意に介さず、きょろきょろと辺りを見回しながら、目的の場所を探していく。

「んー、お酒の匂い……こっち、かな」

 鼻をひくつかせながら辿り着いたのは、大樹の根元にひっそりと佇む、古びた小さな酒場だった。苔むした木の扉を開けると、ふわりと、森の木の実を思わせる甘い香りが鼻先をくすぐる。

「――いらっしゃい」

 カウンターの奥から、抑揚のない声が返ってきた。エプロン姿で酒瓶を磨いていたのは、切れ長の瞳が印象的な、エルフの女性だった。すっと通った鼻筋と、どこか気の強そうな眉が、独特の存在感を放っている。

 彼女はメルティの姿を一瞥すると、あからさまに眉を寄せた。

「――人間はお断りだよ。他を当たりな」

「あの」

 メルティは怯むことなく、しかし丁寧にカウンターへと歩み寄る。

「一口だけでいいので、お酒をいただけませんか」

「……」

 リセルはしばし値踏みするようにメルティを見つめていたが、やがて面倒くさそうにため息をついた。追い払うにはこれが早いと判断したのだろう、棚の隅から適当な瓶を取り出すと、雑にグラスへと注いだ。

「ほら。これでも飲んで、さっさと帰りな」

 差し出されたのは、これといって特徴もなさそうな、素っ気ないラベルの果実酒だった。

 メルティは「ありがとうございます」と丁寧に頭を下げると、まずグラスに鼻を近づけ、静かに香りを確かめる。それから、大切そうに、ひとくち含んだ。

「――」

 口の中で、じっくりと味わうように、ゆっくりと目を閉じる。

「銀月苺の樹皮熟成ですね」

「……は?」

 その一言に、リセルの手が、思わず止まった。

「香りはとても素晴らしいです。でも……仕込みの時期が、去年より少し早いですか? 渋みの奥に感じる若さが、そう教えてくれます」

「――!!」

 リセルは大きく目を見開き、グラス磨きの手を完全に止めた。

「お、おい……。あんた、まさかそれを、たった一口で見抜いたのかい……!?」

「はい。すごく美味しいお酒です。丁寧に造られているのが分かります」

 メルティは決して自慢げにではなく、ただ純粋に感想を述べただけといった様子で、もうひとくち味わっていた。

 リセルは、しばし言葉を失ったまま、目の前の小柄な少女をまじまじと見つめた。適当にあしらうつもりで出した安酒の、正確な銘柄どころか、仕込みの時期のずれまで言い当てられるとは、思ってもみなかったのだろう。

「……へぇ」

 やがて、その口元に、これまでとは違う、面白がるような笑みが浮かぶ。

「ただの人間じゃないみたいじゃないか」

 カウンターに肘をつき、興味津々といった様子で身を乗り出してくる。

「名前は?」

「メルティです」

「あたしはリセルだ。この店をやってる」

 リセルと名乗ったエルフは、腕を組みながら、改めてメルティを見つめた。

「あんた、そこまで酒の味が分かるってことは……相当な酒好きだね」

「はい。お酒とご飯のことだけは、誰にも負けたくないので」

 あっさりと答えるメルティに、リセルは思わず、小さく噴き出した。

「面白い奴だ」

 棚の奥から、これまでとは違う、古びたラベルの瓶を取り出す。

「これは、この店でしか出さない特別な一本さ。あんたほどの舌なら、きっと分かるはずだよ」

 とくとくと注がれた、深い緑がかった液体を、リセルは満足げに見つめた。

「本当の『樹海の味』ってやつを、教えてやるよ」

 その言葉に、メルティの目が、期待に満ちてきらきらと輝いた。

「よろしくお願いします!」

 その返事に、リセルは思わず、口元をふっと緩めた。

 これまで誰一人として認めることのなかった、この頑固な森の料理人が、初めて人間に対して見せた、小さな心の変化だった。

 カウンターに置かれた二つのグラスが、木漏れ日を受けて、静かに輝いていた。


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