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ダンジョン攻略に飽きたので、酒場巡り始めました。〜元SSSランク冒険者(24歳・童顔)、美味しいお酒とご飯を求めて無双中〜  作者: カタギリ


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第19話

「――ふぁ~……よく寝たぁ」

 メルティが目を覚ましたのは、見知らぬ豪奢な一室だった。天蓋付きの寝台に横たえられ、窓の外にはうっそうと茂る樹海が広がっている。二日酔いの気配など欠片もない、すっきりとした目覚めだった。

 起き上がろうとしたところで、両手足に巻きつけられた、鈍く光る鎖の存在に気づく。刻まれた紋様から察するに、それなりの魔力封じの効果を持つ、特注の魔法拘束具のようだった。

「あ、これ邪魔ですね」

 メルティは特に慌てる様子もなく、寝ぼけ眼のまま指先で鎖を摘まむと、まるで糸くずでも千切るかのように――プチッ、プチッ、と軽やかに引きちぎっていった。

                              *

 メルティが起きた気配を察したのか、ほどなくして部屋の扉が勢いよく開いた。

「ククク……ようやく目覚めたか、怪物め!」

 部屋へと踏み込んできたのは、豪華な黒衣を纏った、いかにも怪しげな中年の男だった。周囲には、屈強な部下たちがずらりと控えている。

「我々、闇に生きる暗殺組織の恐ろしさを、これから存分に――」

 ボスは芝居がかった仕草で両手を広げ、朗々と演説を始めた。だが、その言葉はメルティの耳をあっさりとすり抜けていった。

「――」

 メルティの視線は、ボスの背後――屋敷の奥へと向けられていた。ぴくり、と小さな鼻が動く。

(お肉の匂い……それに、すごく良いお酒の香りも……)

「聞いているのか! 我らはお前を無力化し、依頼主より莫大な報酬を得るために――」

「――失礼します」

 メルティはボスの言葉を遮ると、するりと立ち上がった。

「な、なんだ、貴様……」

「あちらから、いい匂いがするので」

 目を輝かせながら、メルティは扉に向かってためらいなく手を伸ばす。だが、鍵のかかったその扉は、彼女にとっては薄い板切れも同然だった。

 ズドオオオンッ!!!

 扉ごと、その先の壁までもが、まとめて粉々に吹き飛んだ。

「なっ、なにをする!? そこは我らの――」

 ボスの制止も間に合わないまま、メルティは瓦礫の向こうに広がる大広間へと、迷わず足を踏み入れていった。

                              *

 大広間の中央、長い食卓の上には、これから始まるはずだった「勝利の宴」のための料理が、これでもかと並べられていた。

 艶やかな焼き色をまとった、王室級の極厚ローストビーフ。その傍らには、百年もの熟成を経たという格式高いラベルの魔導赤ワインが、これ見よがしに鎮座している。

「――!!!」

 メルティの瞳が、まばゆいばかりに輝いた。

「連れてきてくれて、ありがとうございます……!」

 感謝の言葉とともに、迷わずナイフを手に取り、極厚のローストビーフに切り込む。柔らかく、しっとりとした感触が刃先に伝わってきた。

 一口。

「――んんんんっ!!」

 噛んだ瞬間、濃厚な肉汁と上質な脂の甘みが口いっぱいに広がる。厚切りなのに驚くほど柔らかく、噛むほどに肉の旨味が深まっていった。

「柔らかい……! 肉汁がすごい……!」

 続けて、百年物の赤ワインをグラスに注ぎ、ひとくち。

「――んんぅ~っ……!」

 熟した果実を思わせる豊かな香りと、年月を重ねた丸みのある味わい。肉の脂を包み込みながら、長い余韻を残していく。

「これ、お肉とすごく合います……!」

「な、なにをやっている、あの女は!?」

 異変に気づいた部下たちが、我先にと武器を構え、メルティへと殺到する。

「構うな、今のうちにやってしまえ!」

 しかし、メルティは片手にワイングラスを持ったまま、もう片方の手で、向かってくる部下たちを一人、また一人と軽く弾き飛ばしていく。

 パン、パン、と小気味よい音が響くたびに、屈強な男たちがまるで木の葉のように吹き飛び、次々と床へ沈んでいった。

「がはっ……!」

「う、動けねぇ……」

 あっという間に、大広間は伸びた部下たちで埋め尽くされていく。それでいて、メルティのグラスからは一滴の酒もこぼれていなかった。

 その一部始終を、部屋の入り口で立ち尽くしたまま見ていたボスは、ぶるぶると震え始めた。

「ば、化け物……! こんな……こんなの、勝てるわけが……」

 その言葉に、メルティの手がほんの一瞬だけ止まった。

 けれど、何も言わない。

 すぐに残っていたワインをひとくち飲むと、最後のローストビーフまで丁寧に味わい尽くした。

「――ごちそうさまでした!」

 あまりの絶望に白目を剥き、その場に崩れ落ちたボスを尻目に、メルティは伸びきった男たちの間を軽やかに通り抜ける。

 屋敷を出ていくその足取りは、まるで高級店で食事を終えた帰りのように、満ち足りたものだった。

                              *

 ――一方その頃、王都。

 執務室に飛び込んできた急報に、アルベルト王子は勢いよく椅子から立ち上がった。

「な、なんだと!? メルティ嬢が、樹海の宿場町で何者かに拉致されただと……!?」

 報告書を握りしめる手が、わなわなと震え出す。

「メルティ嬢に、なんということを……!」

 いつもの芝居がかった調子はなかった。

 握り締めた拳が、執務机へ叩きつけられる。

「すぐに近衛騎士団を招集しろ! 私自ら出撃する! この王都の総力を挙げてでも、あの卑劣な組織を叩き潰してくれる!」

 部下たちが慌てて出撃の準備に走り回る中、王子は自分専用の豪華な鎧に袖を通しながら、燃えるような瞳で樹海の方角を睨みつけていた。

「待っていろ、メルティ嬢! 今、この私が救い出しに――」

 その頃、当のメルティは腹ごなしに樹海の宿場町を歩きながら、幻のエルフ木の実酒を飲ませてくれる店を、のんびりと探している最中だったのだが――王子がそれを知る由もなかった。


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