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ダンジョン攻略に飽きたので、酒場巡り始めました。〜元SSSランク冒険者(24歳・童顔)、美味しいお酒とご飯を求めて無双中〜  作者: カタギリ


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第17話

 保冷箱を大切そうに抱えたメルティが、昨夜の屋台へと駆け込んだのは、まだ日が高い時間帯だった。

「持ってきました!」

 どんと保冷箱をカウンターに置くと、蓋を開けて中身を見せる。艶やかな飴色の大鋏と、ぷりぷりとした尾の身が、冷気に包まれたまま鎮座していた。

 店主は目を瞬かせながら覗き込み――次の瞬間、大きく仰け反った。

「――!!!? こ、これ……巨大砂サソリの、しかもほぼ無傷の……!? 本当に獲ってきたのか!?」

「はい。散歩がてら」

 あっさりとした返事に、周囲で聞き耳を立てていた冒険者たちも、次々とカウンターに詰め寄ってきた。

「まさかあの伝説の魔物を、一人で……!?」

「しかもこの状態の良さ……! 商業ギルドが競り落とすレベルの上物じゃねぇか……!」

 店主はしばし呆然としていたが、やがて震える手で肉を持ち上げると、次第にその瞳に、料理人としての闘志が宿り始めた。

「――よし! こいつは、うちの伝統の調理法でいただくとしよう!」

                              *

 店主が案内したのは、店の裏手に設けられた、砂を敷き詰めた特殊な調理場だった。中央には、真っ赤に熱された炭が幾重にも埋め込まれ、その上の砂が、ゆらゆらと熱気で揺らめいている。

「これが、オアシス伝統の『熱砂蒸し焼き』だ。砂そのものを蒸し器代わりにして、じっくりと旨味を閉じ込めるんだよ」

 店主は手際よく尾の身をたっぷりの香草とスパイスで包み込み、灼熱の砂の中へと丁寧に埋めていく。同時に、大きな鋏は炭火の上に直接乗せられ、じゅうじゅうと香ばしい音を立てながら炙られ始めた。

 じりじりと焼ける音、立ち昇る香草の爽やかな香り、そして食欲をそそる香ばしい匂い。その匂いに誘われるように、次から次へと客が集まってきては、期待に満ちた顔で調理場を覗き込んでいく。

「――お待たせ!」

 しばらくして、砂の中から掘り出された尾の身は、ほんのりと湯気を纏いながら、みずみずしい光沢を放っていた。同時に、香ばしく炙られた大鋏も、大皿に堂々と盛り付けられる。

 そして、待ちに待った酒――砂漠の壺で長年寝かされた琥珀色の熟成酒が、大きな器になみなみと注がれた。

「オアシス秘蔵の椰子熟成酒だ。とろりと濃厚で、こういう贅沢な肉料理にゃ最高の相棒だぜ」

「――いただきます!」

 メルティはまず、湯気を纏う尾の身に箸を伸ばす。

「――んんんんっ!!!」

 噛んだ瞬間、ぷりっとした弾力が舌を跳ね返す。ほどなくして濃厚な甘みが広がり、香草の爽やかな香りが、その味をさらに引き立てた。

「甘い……! ぷりぷりで、こんなの初めて……! どんな高級なエビより濃厚です……!」

 続けて、炭火で炙られた大鋏の身を一口。

「んんっ……! こっちは香ばしさが強くて、また違う美味しさ……!」

 外側の香ばしさと、中にぎゅっと詰まった甘い身。その違いを楽しむように、メルティはもう一口頬張った。

 そこに、椰子熟成酒をひとくち。

「――んんぅ~っ……!」

 とろりとした甘みと、壺で長く寝かされたことによる深いコクが、サソリの身の甘さに重なっていく。飲み込んだ後にも、芳醇な余韻がゆっくりと残った。

「んふぅ~……至福です……」

 完全にとろけきった表情で、メルティは目を細める。その様子を見ていた周囲の客たちも、我慢できなくなったのか、次々と自分の分を注文し始めた。

「おい、俺にも一杯くれ!」

「あの伝説の肉、俺も食ってみてぇ!」

 あっという間に酒場は満席となり、あちこちで蒸し焼きの香ばしい匂いと、乾杯の声が響き渡る。誰かが即興で楽器を鳴らし始めると、それに合わせて手拍子まで起こり始めた。

「お嬢ちゃんのおかげで、伝説の肉が食えたぜ!」

「こんな最高の宴、久しぶりだ! 乾杯!」

「乾杯!!」

 砂漠の民ならではの豪快で温かい宴が、その場に集った人々を包み込んでいく。メルティも周囲の熱気に押されるように杯を掲げ、何度も乾杯を交わした。

 自分が持ち帰った食材を囲んで、知らない人たちまで楽しそうに笑っている。

 そんな光景を眺めながら飲む酒は、一人で味わう時とは、ほんの少し違う気がした。

「……ふふ」

 理由はよく分からないまま、メルティもつられるように笑って、もう一度杯を掲げた。

 そうして宴が続くうちに、いつしか太陽は沈み、砂漠の空には満天の星が広がっていた。

                              *

 宴もほどよく落ち着いた頃、メルティは椰子の木陰に腰かけ、涼やかな夜風に頬を撫でられていた。お腹も心も、これ以上ないほど満たされている。

 空を見上げれば、砂漠特有の澄んだ星々が、頭上いっぱいに輝いていた。

「んー……」

 満足げに息を吐き、メルティは満天の星に向かって呟いた。

「砂漠の料理も、最高でしたね」

 冷たいビールに始まり、スパイシーな串焼き、夜市の冷やし麺、そして伝説の魔物肉。この街で味わった一つひとつの記憶が、心地よい満足感とともに胸の中に積み重なっていく。

 夜風にゆらめく椰子の葉音を聞きながら、メルティはふと、これから向かう先へと思いを馳せた。

「――次は、どこへ行きましょうか」

 まだ見ぬ土地に、まだ見ぬ美味しいお酒とご飯が待っている。その予感だけで、胸の奥がじんわりと温かくなっていくのを感じながら、メルティは満ち足りた笑みを浮かべた。

 オアシスの夜は、どこまでも穏やかに更けていくのだった。


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