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ダンジョン攻略に飽きたので、酒場巡り始めました。〜元SSSランク冒険者(24歳・童顔)、美味しいお酒とご飯を求めて無双中〜  作者: カタギリ


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第12話

ステーキを三皿平らげ、ワインもすっかり空にした頃、アルベルト王子はどこか不満げに腕を組んでいた。

「ふむ……」

「アルベルト様? どうかしましたか?」

「いや……あれだけの美食をもってしても、そなたの本当の心を完全には満たしきれておらぬようだと思ってな」

 王子は勝手に一人で分析を進めると、やがて何かを閃いたように、ぱちんと指を鳴らした。

「よし、決めたぞ! ならば私と行く、至高のデートだ!」

「でーと?」

 メルティが小首を傾げると、王子は得意げに続けた。

「王室が代々守り続けている、特別保護区――『幻の秘境醸造所&農園』だ。数年に一度しか採れぬ黄金葡萄で作る、『幻の神聖スパークリングワイン』。そして、秘境でしか育たぬ魔獣から作られる、『極上熟成生ハム』がある」

「――!!!」

 メルティの瞳が、まばゆいばかりに輝いた。

「行きます!!」

 食い気味の即答に、王子は一瞬きょとんとしたものの、すぐに満足げな笑みを浮かべる。

「ふ……そうか、そうか! 私とのデートに、そこまで胸を高鳴らせるとはな!」

 メルティはすでに馬車の方向へと歩き出しており、その言葉はほとんど届いていなかった。

                              *

 馬車に揺られること半刻。

 王都の喧騒を離れ、木々の生い茂る山道を抜けた先に広がっていたのは、緩やかな丘一面に広がる、美しい葡萄畑だった。木漏れ日が葉の隙間から降り注ぎ、風に揺れる葡萄の房が、きらきらと黄金色に輝いている。

「わぁ……」

 畑の奥には、石造りの小さな醸造所と、その傍らにテーブルが一つ、丁寧に用意されていた。

「これが、幻の神聖スパークリングワインだ。この畑でしか育たぬ黄金葡萄を、数年に一度の収穫でしか作れぬ、王家秘蔵の一本でな」

 案内人がうやうやしく捧げ持ってきたボトルは、栓を抜いた瞬間、ぽんっと小気味よい音を立てた。細長いグラスに注がれると、無数のきめ細かな泡が、光を弾きながら底から立ち昇っていく。

 同じ頃、テーブルの傍らでは、大きな塊の生ハムが薄く薄く、繊細な手つきで削ぎ落とされていた。透けるほど薄く切られたそれは、艶やかな飴色の脂を纏い、木漏れ日を受けてしっとりと輝いている。

「わぁ……」

 メルティは目を輝かせながら、まずスパークリングワインをひとくち。

「――んんっ!!」

 シュワシュワと弾ける泡が、口の中いっぱいに広がる。葡萄本来の芳醇な果実味が、爽やかな酸味とともに舌の上で弾け、驚くほど清々しい余韻を残していった。

「果物みたいな甘さなのに、後味すっきり……! これ、いくらでも飲めちゃう……!」

 続けて、薄く切られた生ハムを一枚。舌の上に乗せた瞬間、飴色の脂がすっとほどけていく。

「――!!!」

 熟成された肉の濃い旨味と、ぴりっと効いた塩気が口いっぱいに広がった。噛むほどに深い味わいが増し、思わずもう一枚手を伸ばしたくなる。

 そして、スパークリングワインをひとくち。

「んんぅ~っ……!!」

 生ハムの塩気と脂を、爽やかな泡がすっと洗い流していく。口の中が軽くなると、また次のひとくちが欲しくなる。まさに悪魔的な相性だった。

「幸せすぎます……!」

 完全にとろけきった表情で、メルティはグラスを両手で包み込み、うっとりと目を細める。頬は薔薇色に染まり、木漏れ日の下で輝くその笑顔は、まるで一枚の絵画のようだった。

 その様子をじっと見つめていたアルベルト王子は、しばし言葉を失っていたが――やがて、ふっと柔らかく目を細めた。

(……この笑顔が、見たかったのだ)

 王子はグラスを軽く掲げながら、いつもより落ち着いた声で言った。

「メルティ嬢。もしそなたが望むのならば、私は世界中の美食を、そなたのために集めてやろう。この国の権力も、財力も、すべて使ってな」

「――!!」

 メルティは、ぱっと顔を輝かせた。

「アルベルト様、すごくいい人です……!」

 感動に瞳を潤ませながら、まっすぐに王子を見つめる。

 もちろんその感動の正体は、「愛」などという高尚なものではなく、「これから一生タダで美味しいものが食べられるかもしれない」という、極めて実利的な喜びだったのだが――そんな真実を知る由もない王子は、頬を赤く染め、満足げに頷いた。

「ふ、ふふ……分かってくれたか! よし、これからも二人で、美食の旅を続けようではないか!」

「はい! よろしくお願いします!」

 葡萄畑を渡る風が、二人の間を優しく吹き抜けていく。

 片や恋の勝利を確信し、片やこれからも美食にありつける未来を確信する――噛み合っているのかいないのか分からない、けれど不思議と居心地の良い関係が、こうしてまた一つ、築かれていくのだった。

 木漏れ日の下、二人分のグラスが、乾いた小気味よい音を立てて触れ合った。

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