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ダンジョン攻略に飽きたので、酒場巡り始めました。〜元SSSランク冒険者(24歳・童顔)、美味しいお酒とご飯を求めて無双中〜  作者: カタギリ


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第10話

 翌朝、宿の一室で財布の中身を確認したメルティは、小さくため息をついた。

「……王都の物価、高めですね」

 昨夜、ワインとローストビーフのお代わりを重ねに重ねた結果、財布の小銭がずいぶんと寂しくなっていた。

 もちろん、元SSSランク冒険者として稼いだ莫大な貯蓄は、冒険者ギルドの預かり金として、今もたっぷり残っている。だが、旅先での飲食代をわざわざそこから切り崩すのは、メルティの主義に反していた。

「よし。日銭、稼ぎましょう」

 思い立ったが吉日とばかりに、メルティは身支度を整え、王都の冒険者ギルドへと足を向けた。

                              *

 王都のギルドは、これまで巡ってきたどの街よりも規模が大きく、掲示板にも膨大な数の依頼書がびっしりと貼り出されていた。メルティは腕を組み、その一枚一枚を吟味するように見つめていく。

「んー、手っ取り早く稼げるのは……」

 依頼書を見るたびに、頭の中で報酬の金貨を計算する。そんな中、ひときわ大きく、赤い縁取りのされた依頼書が目に留まった。

『危険度:A。王都近郊・黒鉄山脈に出没する【鋼鉄の暴威(アイアン・ラヴェジャー)】討伐依頼。討伐が困難なため、報酬は通常の三倍』

「三倍」

 その一言に、メルティの目がきらりと輝いた。効率がいい――それだけが、彼女の判断基準だった。

「これにしましょう」

 迷いなく依頼書を引っぺがし、受付へと向かう。

 その光景を遠巻きに見ていた周囲の冒険者たちが、ざわりとどよめいた。

「あの嬢ちゃんがA級を!?」

「十五歳くらいにしか見えないのに!?」

「単独で!?」

 ざわつく視線の中を、メルティは意にも介さず受付カウンターへと進んだ。

「これ、お願いします」

 依頼書を差し出されたベテランの受付嬢は、書面に目を通した瞬間、驚愕に目を見開いた。

「お、お客様、これは危険度Aの……お一人で受注されるおつもりですか?」

「はい。手っ取り早いので」

「て、手っ取り早い……!?」

 絶句する受付嬢を尻目に、メルティはギルドカードを提示すると、あっさりと踵を返し、王都の外へと向かっていった。

                              *

 黒鉄山脈は、鋭く切り立った岩肌が続く、荒涼とした地帯だった。

 メルティが足を踏み入れてほどなく、大地を揺るがすほどの重い足音が響き渡る。木々の合間から姿を現したのは、全身を鋼鉄のような硬質な鱗で覆われた、巨大な猪型の魔獣だった。両の眼が赤く光り、荒い鼻息とともに、地面に深い爪痕を刻んでいる。

「ゴアアアアアッ!!」

 咆哮とともに、鋼鉄の暴威が猛然と突進してくる。その一撃を受ければ、並の岩壁すら容易く粉砕されるだろう、圧倒的な質量と速度だった。

 メルティはその突進を、日傘を差したまま、ひらりと一歩横にずれるだけで軽々とかわす。

「散歩がてら、ですね」

 呟きながら、指先にほんの少しだけ魔力を灯す。極限まで絞り込まれた、無駄のない一撃だった。

 すれ違いざま、その指先が魔獣の額へ、ことりと軽く触れた――ように見えた瞬間。

 ドンッ。

 鈍い音とともに、巨大な鋼鉄の体躯が、地響きを立てて崩れ落ちた。

 辺りには、静かな砂埃が舞い上がるだけ。あれほどまでに恐れられていた魔獣は、傷ひとつ見えないほど綺麗な状態で、ただ静かに横たわっていた。

「――終わり」

 メルティは日傘をくるりと肩に担ぐと、何事もなかったかのように王都へと引き返していく。

                              *

「え……もう、討伐完了、ですか……!?」

 わずか一時間足らずでギルドに舞い戻ってきたメルティに、受付嬢は声を裏返しながら報告書を受け取った。急いで確認に走った職員が、真っ青な顔で戻ってくる。

「ほ、本当に討伐されています……。しかも、ほぼ無傷の状態で……」

 その報告に、ギルド内がざわめいた。

「マジかよ……」

「あれを一人で……?」

 受付嬢が慌てて奥へ駆け込み、ほどなくして報酬の金貨袋が運ばれてきた。ずしりと重い袋が、次々とカウンターの上に積み上げられた。

「こ、これが討伐報酬……通常の三倍の、規定金額だ……!」

 メルティはずっしりと重い金貨袋を受け取ると、満足げに頬を緩ませた。

「ありがとうございます。これで美味しいお酒が飲めます!」

 その屈託のない笑顔に、周囲のどよめきは、いつしか呆れと感嘆の入り混じった笑い声へと変わっていった。

                              *

 先ほどまで寂しかった財布をすっかり膨らませ、ほくほくとした足取りでギルドを出たメルティの前に、豪奢な白馬に引かれた馬車が、すっと横付けされた。

 馬車の扉が優雅に開き、中から金髪をなびかせたアルベルト王子が、決めポーズと共に姿を現す。

「――待っていたぞ、メルティ嬢!」

 その芝居がかった登場に、メルティはずしりと重い金貨袋を抱えたまま、こてんと首を傾げるのだった。

「昨夜のそなたの美しい振る舞い、そして今また聞こえてきた、紅蓮の暴れ牛単独討伐の武勇伝……! ますますこの私の心を掴んで離さんぞ!」

 王子は自信満々に胸を張ると、優雅な手つきで招待状を差し出した。

「これは私からの、愛のプレゼントだ。王宮御用達の超最高級料亭にて、最高の料理と極上の酒を、そなたにご馳走しよう!」

「――!!」

 メルティの目が、これまでにないほど大きく見開かれた。

「王宮御用達……最高級料亭……」

 ごくり、と喉が鳴る。

 王子の愛の言葉には欠片も心が動かないメルティだったが、「王宮御用達」「最高級」「タダ」という単語の羅列には、抗いようのない魅力があった。

「行きます。今すぐ行きましょう」

 これまでのどんな依頼を受けた時よりも、力強く即答するメルティ。その勢いのまま、ずんずんと馬車に向かって歩き出す。

 あまりの食いつきの良さに、王子は一瞬きょとんとしたものの、すぐに得意げな笑みを浮かべた。

「ふ……ふはは! そうか、そうか! 分かってはいたが、やはりそなたもこの私の魅力には抗えなかったか!」

 金色の髪をかき上げ、自信満々に胸を張るアルベルト。

「王都中の令嬢が涙して羨む、私からの特別な招待だ! さあ、乗るがよい!」

 メルティは王子の言葉など右から左に聞き流しながら、馬車の座席に腰かけると、うきうきとした様子で窓の外を眺めた。

「王宮の料亭……どんなお肉が出てくるんだろう……。お酒も、きっとすごいのが……」

 その表情は、恋する乙女のそれではなく、次なる極上のグルメに思いを馳せる、純粋な食いしん坊の顔だった。

 向かいの席に座った王子は、そんなメルティの様子を見て、自分に見惚れているとでも思ったのか、満足げに何度も頷いている。

「ふ……この私に落ちるのも無理はない」

 馬車はがたごとと石畳を進み、王宮へと向かっていく。

 互いにまったく別のことを考えながら、それでも二人を乗せた馬車は、同じ方向へと軽やかに走り出していった。

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