第8話:完全体AIの真価と、異世界の経済崩壊
第2話:パキラとプロテインと、麻布十番の夢
1.巨大機械神の脅威
ゴォォォォォォォン……ッ!!
オークション会場の天井を破って降臨した巨大機械神。
全高50メートルを超える鋼鉄の巨躯からは、異世界の高濃度エネルギーが溢れ出し、周囲の空間そのものを歪めていた。
「ハハハハハ! 観念しろ近衛茉莉! この『古代機械神』は、概念攻撃以外のあらゆる物理・電脳攻撃を完璧に無効化する絶対防衛障壁を備えている! 10兆円のデータもろとも、塵に帰すがいい!」
二階のVIP席から、執政官ガイザが高笑いする。
【対象:古代機械神 デウス・エクス・マキナ】
【防衛障壁:絶対概念装甲(強度:無限大)】
【推奨対策:撤退(生存確率 0.001%)】
レイジが即座に腰の光剣を引き抜き、私の前に立ち塞がった。
「くっ……ガイザの奴、本気でここを更地にする気か! 近衛氏、僕の『概念切断』で一時的に足止めする! 君はその隙に逃げ——」
「逃げないわよ」
私は眩しすぎる純金ドレスの裾をふわりとなびかせ、金のサングラスの位置をすっと直した。
「だって私、さっき手に入れたばっかりだもの。『鑑定眼(Lv.MAX)』」
シュン……!
私の視界が、青いデジタル格子から深遠な金色のデータ世界へと切り替わった。
新スキル「鑑定眼(Lv.MAX)」——それは単なる解析にとどまらず、対象の「歴史」「構造」「分子配列」「価格(価値)」そして「設計上の不具合」のすべてを即座に見抜く最高峰の観察スキルだ。
(見えたわ……! ガイザの言っている『絶対概念装甲』の正体が……!)
『茉莉さん!【GGL-09完全体】の超並列演算を開始しました! 鑑定眼から得たデータをリアルタイムで解析中……解析完了しました!』
ぐぐる先生の声が、以前とは比べものにならないほどクリアで重厚な知性を帯びて脳内に響く。
(解説をお願い、ぐぐる先生!)
『はい! あの機械神の障壁は「概念」などではなく、単に高周期で振動する「高密度量子フィールド」です! しかも、製造されたのが約10万年前のため、関節部の潤滑データに重度の経年劣化が発生しています!』
(つまり?)
『はい! 右膝の第3ジョイントに、家庭用のオリーブオイルをさすだけで全機能が永久停止します!!』
「(((脆弱性が地味すぎるでしょーーーーーっっっ!!!!))))」
私とぐぐる先生は、心の中で同時にズッコケた。
2.オリーブオイルと100兆円の科学力
「何をゴソゴソと話している! 死ねぇぇぇっ!」
ガイザの叫びとともに、機械神が巨大な鋼鉄の拳を振り下ろしてきた!
ドゴォォォォォォォォン!!
「近衛氏っ!?」
レイジが叫ぶ。だが、私は一歩も動かなかった。
「量子思考(Lv.1)起動。回避ルート計算——完了」
私は優雅に左へわずか15センチ足を滑らせた。巨大な拳が目と鼻の先を通過し、凄まじい衝撃波が巻き起こるが、私の純金ドレスは傷一つつかない。
「な……!? 避けた……だと!?」
「ぐぐる先生、『電脳物質生成』で準備はできた?」
『バッチリです茉莉さん! 【高濃度エクストラバージンオリーブオイル(純度100%・電脳圧縮仕様)】を1,000リットル生成完了しました!』
「行きなさい! 100兆円の科学の力!!」
私はポケットから取り出したスプレーガン(電脳物質生成で作った超高圧噴射機)を、機械神の右膝のスキマに向けて一気に噴射した!
シュパァァァァァァァァァンッ!!
澄み切ったオリーブオイルの微粒子が、機械神の右膝ジョイントへと吸い込まれていく。
「な……何だその液体は!? 攻撃ではない……油!? なぜ油を吹きかけている!?」
ガイザが狂ったように叫ぶ。
次の瞬間。
ギギギギギギ……ボカァンッ!!
経年劣化で固まっていた100万年前の超潤滑関節に、突然最高級のオリーブオイルが流れ込んだことで、摩擦係数が急激にゼロに低下! 制御ギアが空回りし、高周期量子フィールドの共振周波数が大暴走を起こした!
「グ……ガガガガッ!??! 制御不能……! 膝が……膝の動きが滑らかになりすぎて止まらないぃぃぃっ!?」
巨大機械神は、自分の右膝がツルツルと滑りまくった結果、盛大にバランスを崩し——。
ズドォォォォォォォォンッ!!
オークション会場の壁を突き破り、そのまま地下の谷底へと滑落していった。
「「「「「お、オリーブオイルで倒したぁぁぁぁぁぁっっっ!!??!?」」」」」
会場に残された悪のブローカーたちが、泡を吹いて卒倒した。
レイジは光剣を握ったまま、開いた口が塞がらない様子で私を見つめている。
「こ、近衛氏……君は一体……何者なんだ……? 10万年の古代兵器を、オリーブオイルで……?」
「言ったでしょ? 私は『歩く辞書』よ。どんな複雑なシステムにも、必ず素朴な攻略法が存在するの」
私は金のサングラスをクイッと上げ、勝ち誇った笑みを浮かべたのだった。
3.悪の組織を「買い取る」作戦
二階のVIP席に取り残された執政官ガイザは、顔を蒼白にしてガタガタと震えていた。
「ひ……ひぃぃぃっ! 化け物め……! だが、これで勝ったと思うなよ! 我が『世界の調律者』の総資産は500兆円! 組織の全戦力を投入して、貴様を追いつめてやる——」
「あ、それ無駄よ」
私はスマホの画面をタップしながら、冷たく言い放った。
「え……?」
「今、完全体になったぐぐる先生の超高速ハッキングと、私の85兆円の資産を担保にしたS-Corpの国際買収スキームを使ってね……」
ピコーン!
ガイザの端末に、緊急の財務通知が届いた。
『【重要】「世界の調律者」の筆頭株主および全アセットの所有権が、近衛茉莉氏(S-Corp)へと移転されました。貴方の役員解任が決定しました』
「……は?」
ガイザが端末を二度見、三度見する。
「が、我が組織の全株式とアセットが……買い取られている……!?? わずか30秒で……500兆円規模の組織が買収されただとぉぉぉっ!?」
「ええ。あなたたちの組織、経営母体が暗号通貨で流動的だったから、S-Corpの買収AIを使ったら一瞬で過半数の議決権(51%)を押さえられたわ。今日から『世界の調律者』は、私の傘下の『株式会社プリン推進機構』に改名します」
【対象:旧『世界の調律者』】
【現在の状態:近衛茉莉の完全子会社】
【ガイザの役職:無職(解雇)】
心理眼スキルが、ガイザが人生のどん底に叩き落とされたことを淡々と表示する。
「そんな……バカな……我々の世界征服の野望が……買収されて……子会社に……!?」
ガイザはその場に崩れ落ち、精神的ショックで絶句した。
レイジは頭を抱えて呻いた。
「戦う前に組織ごと買い取って無力化する……敵に回したら一番恐ろしいタイプの勇者だな、君は……」
4.突然のクエストと、現実世界からの悲鳴
ピロリロリーン♪
またしても脳内に響くファンファーレ音!
『——メインクエスト Chapter 2-2:暗黒オークションと調律者の買収 クリア——』
『報酬:【スキル:概念改変(Lv.1)】および【電脳異世界と現実世界の自由往来権】を獲得しました』
脳内に、世界の根幹ルールを書き換える危険すぎるスキル「概念改変」がインストールされる。
(これでいつでも現実世界と異世界を行き来できるようになったわね!)
ホッと息をついたのも束の間。
ピコーン! ピコーン!
私の現実に置いてきたスマホから、大量の着信音が鳴り響いた。
画面を見ると、日本の五十嵐所長から50件の着信履歴と、パニック気味のメールが届いていた。
『近衛くん!! 大変だ!! 君が昨日プロテインをあげた所長室のパキラが……パキラがさらに進化して、研究所の天井を突き破って巨大な花を咲かせたんだ!! さらにその花から『甘いプリンの匂い』が放たれていて、近所の住民が押し寄せて大騒ぎになっている!! すぐに戻ってきてくれぇぇぇっ!!』
(((パキラが暴走してるぅぅぅぅぅぅぅっっっ!!??)))
『茉莉さん!! プロテインの超希釈液と、国連での茉莉さんの「プリン演説」の概念が共鳴して、パキラが『プリン産出植物』へと変異したようです!!』
(科学の限界を超えさせるんじゃないわよ私の行動はァァァァッ!!)
レイジが不思議そうに私を見た。
「どうしたんだい近衛氏? 顔色が真っ青だが……」
「レイジ、悪いわ! 私、一回現実世界に戻って100万円の巨大マッスルプリン・パキラを鎮圧してくるわ!!」
「プ……プリン・パキラ……!? 何を言っているんだ君は……!?」
私は「電脳異世界と現実世界の自由往来権」を起動し、眩い光とともに現実世界の研究所へと転送を開始した!
「行くわよぐぐる先生! 世界の危機(所長のパキラ)を救うわよ!!」
『了解です茉莉さん! 85兆円と完全体AIの力で、巨大パキラを剪定しましょう!!』
電脳異世界を制した「歩く辞書」近衛茉莉の舞台は、再び混乱の渦中にある現実世界の研究所へ!
破天荒すぎる彼女の日常は、まだまだ終わらない!




