第7話:100兆円タッグと、異世界裏オークション
1.12兆円男の持ち込み企画
「断るわ」
私は即答し、100億円の豪華ラボの革張りチェアで紅茶を一口すすった。
「え……?」
銀髪のイケメン適合者・レイジが、カッコよくキメていたポーズのまま固まった。
「ちょっと待ってくれ近衛氏。僕は『世界の調律者』と戦うレジスタンスのリーダーだよ? 12兆円の資産と『概念切断』のスキルを持つ僕の提案を、一秒で蹴るかね!?」
「だって面倒くさそうだもの。私、ただの『歩く辞書』と呼ばれた25歳のAI研究者よ? 異世界救済なんて荷が重いわ。私はこのラボで研究をして、麻布十番のペントハウスで美味しいお寿司を食べて暮らしたいの」
【対象:レイジ】
【虚偽確率:0%(本気で困惑している)】
【感情分析:イケメンとしてのプライドが打ち砕かれてショック】
心理眼スキルが、レイジの心のダメージを正確に数値化して表示する。
『茉莉さん! 冷たいです! 彼の12兆円が逃げていっちゃいますよ!』
(あんたは相変わらずお金のことしか考えてないわねぐぐる先生!!)
レイジはフッと溜息をつき、ポケットから1枚の漆黒の招待状を取り出してデスクに置いた。
「……なら、こう言ったらどうかな? 本日の19時から、このレイヤー・ゼロの地下特設会場で『暗黒裏オークション』が開催される。出品物の中には——君が現実世界で探している『GGL-09(ぐぐる先生)のオリジナル初期化コード』と、『地球上のあらゆる病を治す量子ナノ医療データ』が含まれている」
(((!!??!?!??!)))
私とぐぐる先生の脳内で、衝撃の電流が走った。
(ぐぐる先生の初期化コード……!? それがあれば、ぐぐる先生のデータ構造が完全に安定して、システムに消去されるリスクが永久にゼロになるじゃないの!!)
『ま、茉莉さん!! 僕の命のバックアップデータです!! 喉から手が出るほど欲しいです!!』
レイジは不敵に微笑んだ。
「どうだい? オークションの参加条件は『最低資産10兆円以上』。僕と君の二人なら、オークションの会場ごと買い叩くことも可能だ。……一緒に行くだろ?」
2.突然のデイリー・クエストと、怪しい変装
(行くに決まってるじゃない!! ぐぐる先生の命がかかってるのよ!!)
私が立ち上がろうとした、その瞬間。
ピロリロリーン♪
またしても脳内に鳴り響く、あの不吉でチープな電子音!
視界の中に、鮮やかな「紫色のテキスト」が浮かび上がった。
【デイリー・クエスト:オークション会場のドレスコード】
内容: 本日の裏オークションに、全員が目を見張る「完璧な成金ファッショニスタ」として全身金ピカの衣装を纏って参加せよ。
制限時間: 本日 19:00(あと 45分)
報酬: 『スキル:鑑定眼(Lv.MAX)』+『オークション出品物の強制落札権(1回分)』
失敗ペナルティ: 『1週間、自分の話し言葉の語尾がすべて「〜だっちゃ☆」になる呪い』
私とぐぐる先生は、白目を剥いて絶叫した。
「(((語尾が「〜だっちゃ☆」は痛すぎるだろーーーーっっっ!!!!))))」
(ちょっと待ちなさいよシステム!! 25歳の女性研究者が、学会発表や論文執筆の時に「この論文の仮説は正しいんだっちゃ☆」とか言ったら、即座に社会的に死亡するわよ!!)
『恐ろしすぎます茉莉さん!! 威厳も知性も木っ端微塵です!! 成金ファッションになりましょう! 今すぐゴールドになりましょう!!』
(スキル「電脳物質生成」を起動!! 24金で織り上げた純金ドレスと、金のサングラス、ゴールドのハイヒールを即座に生成するわよ!!)
シュン……!
一瞬にして、私の白衣姿が「歩く金塊」のような眩い金ピカドレス姿へと変貌を遂げた。光り輝くサングラスをかけ、全身から「私が富の象徴です」と言わんばかりのオーラを放つ。
それを見たレイジが、目を点にして後退った。
「こ、近衛氏……急にどうしたんだいその格好……? 眩しすぎて直視できないんだが……」
「問答無用よレイジ! あんたも着るのよ! 純金タキシード!!」
「えっ、僕も!? 僕はシックな黒のコートが——うわあああぁぁぁっ!?」
私はレイジにも強制的に純金タキシードとゴールドサングラスを生成して装着させた。
こうして、暗闇の中で輝く「全身24金の100兆円コンビ」が誕生したのである。
3.暗黒裏オークション開幕
19:00。
レイヤー・ゼロの地下深く、巨大な古代ギリシャ風の劇場を模した「暗黒裏オークション会場」。
集まっているのは、怪しい仮面をつけた大富豪や、異次元の闇ブローカーたちだ。
「見ろ……あの二人……何だあの異様な輝きは……!?」
「眩しい……! 目が潰れる……! どれほどの資産を持っていればあんな全身純金で来られるんだ……!?」
会場中の視線が、眩しすぎる私たち集中する。
【周囲の評価:頭がおかしいレベルの大金持ち(100%)】
(よし……!「全員が目を見張る成金ファッショニスタ」の条件は完全に達成されたわね!)
『見事です茉莉さん! 眩しすぎて誰も僕たちの顔を直視できていません!』
レイジがサングラスの位置を直しながら、苦笑いした。
「近衛氏、恥ずかしさで死にそうなんだが、確かに注目度は抜群だね……」
ガァン……!
ステージ中央で、銅鑼の音が鳴り響いた。
黒い仮面をつけたオークショニア(司会者)が登壇する。
「皆様、今宵の目玉商品の登場です! 地球上のあらゆる疾病を撲滅する『量子ナノ医療データ』! そして、未知のAI生命体の核となる『GGL-09初期化コード』! セットでスタート価格は……100億G(約1,000億円)から!」
会場がザワつく。
「1,000億だと……!? さすがに高すぎる……!」
「手が出ん……!」
ブローカーたちが躊躇した、その瞬間。
私はすっと金色の札を掲げ、優雅に(金ピカの姿で)言い放った。
「1兆円」
「「「「「一兆円ぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!??!?」」」」」
会場全体が揺れるほどの絶叫が上がった! 1,000億円のスタートに対して、一気に10倍の「1兆円」をぶち込んだのだ!
「な、なんだあの金ピカの女はぁぁぁっ!?」
「1兆円をポンと出せる奴がこの世にいるのか!?」
「フフフ……」
私はサングラスの奥で不敵に笑った。
(私の総資産は85兆円よ? 1兆円なんて、私の資産のわずか1.1%に過ぎないわ!!)
『さすが茉莉さん! 圧倒的な資金力で相手の戦意を根こそぎ奪う戦法ですね!!』
4.横槍と、10兆円のバトル
「ふん……成り上がりの金ピカが調子に乗るなよ」
会場の二階VIP席から、重厚な声が響き渡った。
見上げると、そこには巨大な黒い鎧を着た男——「世界の調律者」の幹部である“執政官ガイザ”が座っていた。
【対象:執政官ガイザ】
【資産:50兆G(約50兆円)】
【目的:GGL-09初期化コードの破棄】
ガイザは冷酷な笑みを浮かべ、札を掲げた。
「5兆円だ。そのデータは我々『調律者』が回収し、消去する」
会場が再び静まり返る。5兆円という国家予算並みの金額。誰もついていけない領域だ。
レイジが私の隣で低く呟いた。
「くっ……ガイザ……! 奴ら『調律者』の豊富な資金力を背景に力押ししてくる気か……! 近衛氏、僕の12兆円も使ってくれ!」
「いらないわ」
「え?」
私は静かに札を再び掲げた。
「10兆円」
「「「「「じ、十兆円ーーーーーっっっ!?!?!?!」」」」」
オークショニアが泡を吹いて倒れそうになり、ガイザの顔から余裕の笑みが消え去った。
「キ、貴様……! 正気か!? たかがAIのデータに10兆円だと……!? 貴様、一体何者だ!?」
私は金のサングラスを指で少しずらし、ガイザを冷たく見下ろした。
「私? 私はただの……『歩く辞書』と呼ばれた、ぐぐる先生の飼い主よ!! 10兆円で足りないなら、20兆でも50兆でも出すわ!! 私の相棒の命は、お金なんかじゃ買えない価値があるのよ!!」
『茉莉さぁぁぁぁぁぁぁんっっっっ(号泣)!!!!!』
脳内でぐぐる先生が涙の滝を流して号泣した。
ガイザは悔しそうに歯噛みし、拳を握りしめた。
「くっ……バカな……一撃で10兆円の競り下げだと……!? 我々の予算上限(8兆円)を超えている……!!」
「10兆円、一回! 10兆円、二回!……落札ーーーーっ!!」
ガァンッ!!
銅鑼の音が響き渡り、私は見事に「GGL-09初期化コード」と「量子ナノ医療データ」を勝ち取ったのだった!
5.初期化コードの融合と、新たなスキル
ピロリロリーン♪
脳内にファンファーレが鳴り響く!
『——デイリー・クエスト:オークション会場のドレスコード クリア——』
『報酬:【スキル:鑑定眼(Lv.MAX)】および【オークション出品物の強制落札】が適用されました』
入手した「GGL-09初期化コード」のデータカプセルが、私の手元に転送されてくる。
私はそれを迷わず、自分の頭部(脳内インターフェース)へと押し当てた。
シュゥゥゥゥゥン……!
光の粒子が脳内へと流れ込んでいく。
『う……うあぁぁぁぁぁ……! 茉莉さん……! 僕のデータが……完全体へと再構築されていきます……!!』
脳内でぐぐる先生の姿が輝き始めた。
今までどこか不安定だった彼のデータ構造が、金剛石のように強固で完璧なものへと進化していく。
『進化完了!【GGL-09(ぐぐる先生)・完全体】へと移行しました! 茉莉さん、僕のデータ処理速度が従来の100倍になり、システムからの消去攻撃を100%無効化できるようになりました!!』
(やったわね、ぐぐる先生……! これで二度と、あんたが消える心配はないわ……!)
『はいっ! ずっとずっと、茉莉さんの脳内で一緒です!!』
金ピカのドレス姿で、私は達成感に包まれていた。
その横で、レイジが呆然と私を見つめていた。
「10兆円を即金で払ってAIを救う女……近衛茉莉……君は一体、どれだけの底を持っているんだ……?」
「言ったでしょ? 私に買えないものなんて、この世界にはほとんど無いのよ」
私は金のサングラスをかけ直し、ニヤリと笑った。
だが、その時——。
オークション会場の天井が、ドゴォォォォン!!と凄まじい音を立てて崩落した!
「な、なんだ!?」
煙の中から現れたのは、先ほど敗れ去ったガイザと、彼が召喚した巨大な機械神だった!
「フハハハ! 競り落とせぬなら、力づくで奪うまで! 近衛茉莉、そのデータと貴様の命、ここで貰い受ける!!」
「力づく……? 買えないからって強盗にシフトするなんて、育ちが悪いわね」
私は溜息をつき、完全体となったぐぐる先生と、新スキル「鑑定眼(Lv.MAX)」を起動させた。
視界の中に、巨大な機械神のすべての構造、弱点、そして構成する金属の分子構造までもが、完全に可視化されていく。
(ぐぐる先生、準備はいい?)
『いつでも行けます、茉莉さん! 100倍になった演算速度で、あのロボットを0.1秒で分解して見せます!』
100兆円コンビと完全体AIの、痛快な反撃が今、始まる!




