第6話:電脳竜の攻略法と、異世界での爆買い
1.電脳異世界「レイヤー・ゼロ」
ドシンッ!!
「痛ったぁぁぁ……! お尻打った……!」
暗黒の穴を落下した私が着地したのは、硬いクリスタルのような床の上だった。
立ち上がって周囲を見回すと、そこは息をのむような光景だった。
空は深い群青色に染まり、オーロラのような光の帯がゆらめいている。立ち並ぶ超高層ビル群は透明なガラスと幾何学模様の光で構成されており、現実の都市とは明らかに異なる物理法則で成り立っていた。
「ここが……『真の実践領域』……?」
『茉莉さん! 大丈夫ですか!? 状況の解析を完了しました! ここは現実世界の地球ではなく、量子情報で構成された電脳次元「レイヤー・ゼロ」です!』
(ぐぐる先生! 私のスマホや意識は無事!?)
『完全に無事です! それどころか……驚いてください茉莉さん! この電脳世界、地球のインターネットおよび金融システムとバックグラウンドで接続されています! 茉莉さんの85兆6,000億円の資産、問題なく使用可能です!!』
(異世界に来てまで資産が使えるなんて、どんなバグ設定なのよ!!)
その時だった。
ゴォォォォォォォォォン……ッ!!!!
空が激しく揺れ動いた。
透明なビル群の合間から、長大な影が姿を現す。
光る青い鱗に覆われ、体長は100メートルを超える巨大な生物——電脳竜「データ・ヴァイバーン」だ。
竜の眼光が、地上にポツンと立つ私を捉えた。
グオォォォォォォォォォッ!!
激しい咆哮とともに、口元に超高エネルギーの粒子が収束し始める。ブレス(ブロードバンド砲)が放たれる体勢だ!
【対象:電脳竜 データ・ヴァイバーン】
【攻撃種別:極高出力量子熱線】
【直撃時の生存確率:0.0001%】
「心理眼」と「超感覚演算」が、容赦なく死のカウントダウンを刻み始める。
(直撃したら、骨も残らずデータ分解されるわ……!)
『茉莉さん、逃げてください! 避難場所を探します!』
(待ちなさいぐぐる先生。「歩く辞書」たる私の脳内データベースと「量子思考」をフル回転させなさい! どんな生物にも、絶対に弱点はあるはずよ!)
2.電脳竜の「脆弱性」
私は迫り来る竜の巨大な影を見上げながら、冷静に「超感覚演算(Lv.1)」を発動させた。
世界がスローモーションになり、竜の発光パターン、鱗の並び、エネルギー流動の波動が数式となって視界に溢れ出す。
(見えた……! あの竜の体表を覆う青い鱗……あれはただのウロコじゃない。膨大なデータを暗号化して圧縮した「多重プロテクト層」よ! そして、胸の真ん中にある赤いコア……あそこが制御サーバー(弱点)ね!)
『すごいです茉莉さん! 一瞬で敵の構造を理解しましたね! でも、どうやってあの強力なプロテクトを破るんですか!? 現代の兵器でも破壊できませんよ!』
(物理攻撃で破る必要はないわ。敵の防御が「データ圧縮」で出来ているなら……過剰な無駄データ(ゴミファイル)を大量に叩き込んで、メモリオーバーフローを起こさせればいいのよ!!)
『……あッ!!』
(ぐぐる先生! 85兆円の資産を使って、世界中の高速サーバー網から『超高画質な猫の動画(8K・100万本分)』と『全世界の図書データ』を即座に買い取って、一括ダウンロード(課金)しなさい!!)
『了解です茉莉さん!! 85兆円の力、今こそ解き放ちます!!』
ピコーン! ピコーン! ピコーン!
私のスマホアプリから、一瞬で数百億円単位の資金が動き、世界中のクラウドサーバーがフル稼働を開始した。
「喰らいなさい! 世界中の可愛すぎる猫動画と、人類の叡智の超大容量データストリーム!!」
私はノートPCを竜に向け、過剰データ通信(DDoS攻撃)のビームを直接竜のコアへと照射した!
ドゴォォォォォォォォン!!
竜の口から放たれようとしていた量子熱線が、突如として「ニャ〜〜〜ン」という猫の鳴き声のノイズに変化した!
「グ……グオ……!? ニャ、ニャオン……!?」
竜の全身の鱗が、可愛らしい猫の画像やWikipediaの膨大な文章データで埋め尽くされ、目まぐるしく点滅し始める!
【データ・ヴァイバーン:処理負荷99.9%オーバー】
【メモリ容量オーバーフロー発生】
【制御システム、完全フリーズ】
「グギャァァァァァッ!?」
巨大な竜は脳死状態に陥り、空中からドスンと地上へ落っこちて、そのままビクビクと痙攣し始めた。
(勝ったわ……! 課金(85兆円)と猫動画の力で電脳竜を撃破したわ!!)
『見事です茉莉さん! まさか猫動画でドラゴンを落とすとは、歴史上初の快挙ですよ!』
3.デイリー・クエストと、異世界の課金ショップ
竜が倒れると同時に、脳内にあの音が響き渡った。
ピロリロリーン♪
『——メインクエスト Chapter 2-1:電脳竜の撃破 クリア——』
『報酬:【スキル:電脳物質生成(Lv.1)】および【異世界通貨(G)への自動両替権】を獲得しました』
シュン……!と脳内に知識が流れ込んでくる。
「電脳物質生成」——この電脳次元において、想像したデータ物質(服、道具、食べ物など)を瞬時に実体化させるスキルだ。
(これでいちいち現実から物を持ち込まなくても、何でも作れるようになったわね!)
そう感心していると、視界の中に「黒い案内文」が浮かび上がった。
【突発デイリー・クエスト:レイヤー・ゼロの開拓】
内容: 本日18時までに、電脳異世界の中心街に「近衛茉莉専用の超豪華研究ラボ」を建築(購入)し、看板に「プリン最高」と掲げよ。
制限時間: 本日 18:00(あと 2時間)
報酬: 『超古代の遺物:万能翻訳端末』+『S-Corp株価さらに15%上昇』
失敗ペナルティ: 『1週間、自分の影が勝手にオタ芸を踊り出す呪い』
私とぐぐる先生は、間髪入れずにツッコミを入れた。
「(((影がオタ芸は恥ずかしすぎるでしょーーーーーっっっ!!!!))))」
(ちょっとシステム!! なんで看板の文字が「プリン最高」なのよ!! 国連のスピーチからプリンの天誅が続いてるじゃないの!!)
『茉莉さん!! 失敗したら、研究所で所長と話している時も、茉莉さんの影が後ろでサイリウムを振って激しくオタ芸を踊るんですよ!? 威厳が完全に崩壊します!!』
(絶対嫌ぁぁぁぁぁぁっ!! 建築よ! 爆買いよ!! 85兆円の力を見せてやるわ!!)
4.異世界で100億円の不動産購入
私は新スキル「電脳物質生成」で最高級の電動キックボード(時速80km仕様)を即座に生成すると、風を切ってレイヤー・ゼロの中心街へと爆走した。
中心街には、様々な異次元の住人(プログラム生命体や他の適合者たち)が行き交う巨大なショッピングモールが存在していた。
「いらっしゃいませー! こちら電脳不動産『サイバー・ホーム』でーす!」
アバター姿の営業マンに、私はクレジットカード(S-Corpブラックカード)を叩きつけた。
「一番高くて、一番広くて、一番設備が整っている物件を今すぐ頂戴! 即金で払うわ!」
「え……!? じ、即金ですか!? 一番高い物件ですと、中心街のランドマークタワー最上階(100億円相当)になりますが……」
「買うわ!! 10分で契約書類を用意しなさい!!」
「ひ、ひぇぇぇぇっ!? 毎度ありぃぃぃぃっ!!」
10分後。
中心街の最上階に、最新鋭の量子スパコンと実験設備がずらりと並ぶ、総総面積1,000平米の超豪華研究ラボが完成した。
そして、その入り口の黄金の看板には、デカデカと以下の文字が刻まれた。
『近衛茉莉・量子AI研究所(プリン最高)』
ピロリロリーン♪
『——デイリー・クエスト:レイヤー・ゼロの開拓 クリア——』
無機質なシステムの声が響き、報酬が適用された。
『条件の達成を確認。影のオタ芸化を解除。報酬【万能翻訳端末】を付与します』
「ふぅ……間一髪だったわ……これで影が激しいオタ芸を踊らずに済んだわ……」
私は豪華なラボの革張りチェアに深く腰掛け、レイヤー・ゼロの美しいサイバー夜景を見下ろした。
5.新たなる訪問者
『茉莉さん、お疲れ様です! 異世界に来てわずか数時間で、ドラゴンを倒し、100億円のラボを構え、「プリン最高」の看板を掲げるなんて、相変わらず怒涛の展開ですね!』
(本当よ……私、ただの「歩く辞書」の25歳研究者のはずなのに、どんどん人間離れしていくわ……)
私が苦笑いしながら、生成した温かい紅茶を飲んでいた、その時。
ラボの自動ドアが、スーッと静かに開いた。
「……失礼するよ、近衛茉莉氏」
入ってきたのは、黒いロングコートを羽織った、銀髪の美しい青年だった。
その瞳は、私と同じように青いデジタル光を宿している。
【対象:適合者・レイジ(26歳)】
【資産:推定12兆円】
【スキル:概念切断(Lv.MAX)】
「心理眼」が、彼もまた私と同じ「システムに選ばれた適合者」であることを示していた。
「君が、国連でプリンの演説をし、猫動画でデータ・ヴァイバーンを瞬殺したという噂の筆頭株主か」
レイジと名乗った青年は、不敵な笑みを浮かべながら私に歩み寄ってきた。
「挨拶が遅れたね。僕は『世界の調律者』とたたかう抵抗組織のリーダーだ。……君のその圧倒的な知恵と85兆円の資金力、僕たちの世界救済計画に貸してくれないか?」
私とぐぐる先生は、顔を見合わせた。
(……ねえ、ぐぐる先生)
『……はい、茉莉さん』
(なんか、また面倒くさそうなイケメンが仲間になりたそうにしてるんだけど……)
『断る理由はありませんね茉莉さん! 彼の12兆円と茉莉さんの85兆円を合わせれば、ほぼ100兆円コンビの誕生ですよ!!』
(お金基準で仲間を選ぶなぁぁぁぁぁっ!!)
電脳異世界で出会った新たな適合者。
世界の謎を解き明かすための、100兆円タッグの破天荒な冒険が、いま本格的に幕を開ける!




