第5話:メインストーリー開幕と、国連からの招待状
1.80兆円のモーニングルーティン
麻布十番のペントハウスで迎える、初めての朝。
「う〜〜〜ん……! ふかふかのベッド、最高……!」
朝日が差し込む広大なベッドルームで、私——近衛茉莉(25歳・AI研究者にして世界最大AI企業S-Corpの筆頭株主)は、シルクのパジャマに身を包んで伸びをした。
窓の外には東京タワーがそびえ立ち、眼下には東京の街並みが広がっている。
『おはようございます茉莉さん! 今朝の資産残高ですが、S-Corpの株価が昨夜のニュースを受けて7%高騰したため、茉莉さんの資産は80兆円から85兆6,000億円へと微増いたしました!』
(微増のスケールがバグってるのよぐぐる先生!! 5兆6,000億円増えるって何なの!?)
『ふふん、これで世界のお金持ちランキングダントツの第1位ですね! ちなみに今朝の朝食は、麻布十番の老舗ベーカリーから焼きたてのクロワッサンを専属コンシェルジュに届けてもらいましたよ!』
(絶対味覚(Lv.1)で味わう焼きたてクロワッサン……バターの香りと小麦の甘みが脳髄に染み渡るわぁ……)
高級コーヒーを飲みながら、私はタブレットでニュースをチェックしていた。
世界のトップニュースは、昨夜私が撃退した国際ハッカー集団“ファントム”の逮捕と、謎の日本人女性(私)がS-Corpの最大株主になったという電撃ニュースで持ちきりだった。
「ふぅ……でも、私はあくまで一人の研究者よ。今日も普通に大学の研究所へ行って、五十嵐所長の論文チェックを手伝わないと——」
その時だった。
ピロリロリーン♪
出た。
チュートリアルが終わったはずなのに、脳内に響き渡るいつものチープな電子音!
視界の中に、今まで見たこともない「金色のテキスト」が眩い光とともに浮かび上がった。
【メインクエスト Chapter 1:国連スピーチと宇宙の謎】
内容: 本日15時までに、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で開催される「世界AIサミット」にS-Corp筆頭株主として出席し、演壇で「世界中の子どもたちに毎日美味しいプリンを届ける」と宣言せよ。
制限時間: 本日 15:00(あと 7時間)
報酬: 『超技術:室内型核融合発電プラントの完全設計図』+『スキル:言語完全補正(Lv.MAX)』
失敗ペナルティ: 『全資産の即時 freezing(凍結)』および『一生、何を食べても納豆の味がする呪い』
私とぐぐる先生は、クロワッサンを口にくわえたまま絶叫した。
「(((急にスケールがデカい上に、主張がおバカーーーーっっっっ!!!!))))」
(ちょっと待ちなさいよシステム!! 今からスイス!? ジュネーブ!? 飛行機で12時間以上かかるのよ!? あと7時間でどうやって行けっていうのよ!!)
『ま、茉莉さん!! 失敗ペナルティを見てください!「何を食べても納豆の味」ですよ!? 絶対味覚の状態で全食事納豆味なんて、正気を保てません!!』
(そこじゃないでしょ!? 物理的に移動時間が足りないのよ!!)
2.80兆円の力:超音速移動作戦
『茉莉さん、「超感覚演算(Lv.1)」を起動してください! 85兆円の資産とS-Corpの権力を使えば、解決策は一瞬で弾き出せます!』
(……あッ!!)
私の中の「量子思考(Lv.1)」と「超感覚演算(Lv.1)」が高速回転を始める。
思考速度が10倍になり、世界中の航空ネットワークとS-Corpのアセットが脳内で繋がっていく。
(S-Corpが極密裏に開発していた超音速ビジネスジェット機「S-Bird(マッハ3.5飛行可能)」……成田空港のプライベートハガーに配備されているわ! これを使えば、東京からジュネーブまでわずか3時間半で到達できる!!)
『即座にS-CorpのCEOに連絡し、専用機の出撃要請を出しました! 成田空港までヘリで移動します! 茉莉さん、着替えてください!』
(ヘリ!? 私の人生、展開が早すぎて目が回りそうよ!!)
10分後、マンションの屋上ヘリポートにS-Corpの超高級ヘリが飛来。
私はフォーマルなブランドスーツに身を包み、ヘリへと飛び乗った。
成田空港へ急行し、そのまま漆黒の超音速ジェット機「S-Bird」へ搭乗。
マッハ3.5で上空2万メートルの成層圏を駆け抜ける。
窓の外には、丸みを帯びた地球の水平線と深い宇宙の青が広がっていた。
「すごい……本当に3時間半でスイスに着いちゃうのね……」
『フフン、これが80兆円の力です茉莉さん! ちなみに、国連での演説原稿は僕が完璧に作成しておきましたよ!』
(原稿の締めくくりが「世界中の子どもたちに毎日美味しいプリンを!」になっている原稿でしょ……? 国連の代表たちがどんな顔するか、想像しただけで胃が痛いわ……)
3.スイス・ジュネーブ:国連本部の衝撃
現地時間 14時15分。
スイス・ジュネーブの国連欧州本部。
会場は、世界各国の首脳、IT企業のCEO、科学者、そして大勢の報道陣で埋め尽くされていた。
「次の登壇者は……突如として世界最大AI企業S-Corpの筆頭株主となった、日本の天才研究者、近衛茉莉氏です!」
万雷の拍手と、無数のフラッシュの中、私はステージの中央へと歩み出た。
【対象:会場の各国首脳・記者(約2,000名)】
【感情分析:不信感40%、好奇心50%、期待10%】
心理眼スキルが、会場全体の緊張感を数値化して表示する。
(ふぅー……落ち着くのよ茉莉。私は「歩く辞書」。知識と度胸だけは誰にも負けないわ)
マイクの前に立ち、私は会場を見渡した。
「言語完全補正」のスキルがなくても、私の脳内データベースには世界各国の主要言語が完璧に網羅されている。
「皆様、こんにちは。近衛茉莉です」
澄んだ英語でスピーチを始める。
私はまず、新スキル「量子思考」を用いて導き出した『次世代AIと人類の共生についての革新的な数理モデル』を滔々と語った。
会場の空気 gelato(氷)のように固まっていた首脳たちが、息を呑み、目を見開いて私の言葉に耳を傾け始める。
「す、素晴らしい……! なんという深遠な知見だ……!」
「彼女こそ、真のAI時代のリーダーだ……!」
会場が深い感動と賛辞に包まれていく。
(よし……完璧な掴みね! ここから……例の「アレ」をぶち込むわよ……!)
私は深く息を吸い込み、真剣な眼差しで会場の首脳たちを凝視した。
「……そして、我々S-Corpが提示する、最も重要かつ緊急性の高いグローバル・イニシアチブを発表します」
会場全体がゴクリと唾を呑んだ。世界中の生放送のカメラが私に寄る。
「我々は本日より——世界中のすべての子どもたちへ、毎日1個の美味しいプリンを無償で届けるプロジェクトを開始します!!」
「……はい?」
会場の2,000人が、鳩が豆鉄砲を食らったような顔でフリーズした。
国連事務総長が眼鏡をずらし、アメリカ大統領が耳を疑い、記者たちが一斉に首をかしげる。
「プリン……? プリンと言ったのか……?」
「AIの未来の話ではないのか……!?」
静寂が支配する会場で、私は堂々と(ヤケクソで)胸を張り、畳みかけた!
「そうです! プリンです! 栄養価が高く、笑顔を生み出し、平和の象徴となる究極のスイーツ! AI技術の真の目的は、人類に笑顔をもたらすこと! その第一歩こそが、毎日のプリンなのです!!」
静寂——。
そして……。
ワァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!
「「「ブラボーーーーーーッッッ!!!!」」」
なんと、フランス大統領が立ち上がり、猛烈な拍手を送り始めたのだ!
「素晴らしい哲学だ! 技術の還元とはそういうことだ!」
「感動した! 我が国もプリン輸送ラインの確保に全面協力しよう!」
会場全体が雷鳴のような大歓声とスタンディングオベーションに包まれた!
【発言の評価:大絶賛(100%)】
【狂気度:測定不能】
(((拍手しちゃったよこの人たちーーーっっっ!?!?!)))
『大成功です茉莉さん!! システムの条件を完全に満たしました!!』
ピロリロリーン♪
脳内にファンファーレが鳴り響く!
『——メインクエスト Chapter 1 クリア——』
『報酬:【室内型核融合発電プラントの完全設計図】および【言語完全補正(Lv.MAX)】を授与します』
脳内に膨大な物理学とエネルギー工学のデータが流れ込んでくる。地球のエネルギー問題を一発で解決できる、文字通りのオーパーツ(超技術)だ。
4.黒い影と、真の敵
スピーチを終え、国連本部の豪華な控室に戻った私。
「はぁぁぁぁ……疲れた……。まさか国連でプリンの演説をして、スタンディングオベーションを受けるなんて……」
『最高でしたよ茉莉さん! ニュースのトレンド1位が「#GotPudding」で埋め尽くされています!』
ふっと一息ついた、その時。
控室の明かりが、パッと消えた。
「……え?」
室内が漆黒の闇に包まれる。
非常用電源すら作動しない。
『茉莉さん警戒してください! 空間の電磁波が異常増幅しています! これはハッキングではありません……物理法則そのものが歪められています!』
部屋の真ん中の空間が、まるで水面のように歪み始めた。
そこから現れたのは——全身が透明なガラスのような物質でできた、人間型の謎の存在だった。
【対象:未知の生命体(識別不能)】
【危険度:エラー(測定不可)】
私の「心理眼」が、警告の赤色で点滅し、エラーを吐き出す。
「……初めまして、適合者・近衛茉莉」
ガラスの男が、直接私の脳内に声を響かせてきた。それはシステムの声とも、ぐぐる先生の声とも違う、冷たく機械的な声だった。
「君がシステムのテストをクリアし、『核融合の設計図』を手に入れたことを確認した。……我々は『世界の調律者』。君たちが『神の技術』に手を伸ばすことを拒む者だ」
(調律者……? あなたたちが、このシステムを作ったの……!?)
「システムは我々が与えた『淘汰の秤』だ。愚かな人類が技術に溺れて滅びるか、君のような適合者が世界を導くか……。だが、試練はここからだ」
ガラスの男が手をかざすと、私の足元の床に、巨大な黒い魔法陣のような幾何学模様が浮かび上がった。
「来給え。最初の『真の実践領域』へ」
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!?」
床が抜け落ち、私とぐぐる先生は、底のない暗黒の深淵へと呑み込まれていった!
5.次元の狭間で、笑う研究者
どこまでも落ちていく感覚。
『茉莉さんっ! 茉莉さんっ! しっかりしてください! 空間座標が不連続になっています! 地球上のどこでもない次元へ転送されています!』
脳内でぐぐる先生が必死に叫んでいる。
暗闇の中で、私は白衣の裾をなびかせながら、ふっと目を覚ました。
手元には、85兆円の資産。
脳内には、絶対味覚、心理眼、超感覚演算、量子思考、言語完全補正、そして核融合の設計図。
(……ふふっ)
『茉莉さん……? 落ちながら笑ってますよ!? ショックで頭が追いついてないんですか!?』
「何言ってるのよ、ぐぐる先生」
私は暗黒の風の中で、不敵にニヤリと笑ってみせた。
「国連でプリンの演説をさせられたと思ったら、今度は異次元ダンジョンにお招き?……最高じゃないの!」
(歩く辞書と呼ばれた私に、未知の異世界を見せてくれるっていうのなら……全部解析して、論文にして、私の知識にしてあげるわ!!)
『流石です茉莉さん!! どこへ行こうと、僕たちは一緒です!!』
暗闇を抜けた先に広がっていたのは——高層ビル群がクリスタルのように輝き、空を竜のような巨大なデータ生命体が泳ぐ、見たこともない「未来型・電脳異世界」だった。
ピロリロリーン♪
『——メインストーリー Chapter 2:電脳異世界の竜と、最初の試練 開幕——』
「行くわよ、ぐぐる先生! 異世界のクエストも、全部攻略して見せるわ!!」




