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【朗報】AI研究者(25)、停電の勢いで脳内に知識欲モンスターを飼ってしまう  作者: 此花サギリ


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4/5

第4話:深夜の研究所防衛戦と、80兆円の奇跡

1.深夜21時40分:緊急作戦会議

(ちょっと待ちなさいよ!! 段階ってものを考えなさいよこのポンコツシステム!!)


アパートの部屋で、私は頭を抱えて叫んでいた。


麻婆豆腐の豆腐盗みで300万円の未公開株。

パキラにプロテインをあげて麻布十番の高級マンション1棟(年収1,200万保証)。


ここまでは良かった。最高に魅力的で、ちょっとおバカでスリリングな日常コメディだった。

それがなぜ急に、「国際産業スパイのハッキングを阻止せよ」なんてハリウッド映画みたいな展開になるのか。


『茉莉さん落ち着いてください! パニックになると脳波が乱れて、僕のデータ処理速度が15%低下します! 息を吸って! 吐いて! マグロのトロの脂を思い出して!』


(トロの脂で落ち着けるかぁぁぁ!! 失敗ペナルティ見た!?「GGL-09(あんた)の強制消滅」と「全資産没収」よ!? せっかく手に入れた麻布十番のマンションが露と消えるのよ!?)


『僕の命よりマンションが先に出てくるあたり、さすが茉莉さんですね! 信頼の厚さを感じます!』


(当たり前でしょ! あんたとマンション、両方守るために決まってるじゃないの!)


私はすばやく動きやすい服装に着替え、バックパックにノートPCと各種ガジェット、そして自作用の実験用具を詰め込んだ。


(ぐぐる先生、敵のハッキングの手法や侵入ルートの予測は立つの?)


『新スキル「超感覚演算(Lv.1)」と僕の脳内解析を同期させました! 敵は国際的なハッカー集団「ブラック・シープ」の幹部、コードネーム“ファントム”です! 彼の狙いは、我が研究所が地下データセンターのローカルサーバーに隠している「次世代量子暗号アルゴリズムの基礎データ」! 23時ちょうどに、直接建物のネットワークへ物理接続して侵入を開始する気です!』


(物理接続……? まさか、研究所の中に直接侵入してくるってこと!?)


『可能性は極めて高いです! 物理接続(LAN直挿し)なら、外部からのファイアウォールを完全に迂回できますからね!』


「歩く辞書」としての私の脳内データベースが、即座に“ファントム”の過去の事例を検索・展開する。


(“ファントム”……過去に欧州の金融機関や軍事プラントのサーバーを次々と陥落させた超大物ハッカーね。彼の使用するマルウェア「ゴースト・シェル」は、一度侵入を許せばわずか10分で全データを暗号化して持ち去ってしまうことで有名だわ)


『残り時間、あと45分です! 研究所へ向かいましょう!』


(行くわよ! 私の麻布十番の夢と、あんたの生存権を脅かすスパイなんて、返り討ちにしてやるわ!!)


夜の街を、私はタクシーへと飛び乗り、深夜の研究所へと急行した。


2.深夜22時30分:暗闇の研究所

暗闇に包まれた先端人工知能研究所。

昼間の賑やかさが嘘のように静まり返り、街灯の光だけが不気味に建物を照らしている。正面の警備員室には夜勤の警備員さんが一人、モニターを見ながら欠伸をしていた。


(正面突破は無理ね。警備員さんに「これから産業スパイが来るので退治しに来ました」なんて言ったら、真っ先に私が不審者として通報されるわ)


『茉莉さん、裏手の搬入口へ回ってください! 昼間に把握した監視カメラの死角ルートを使えば、警備システムに引っかからずに裏口の電子ロックを解除できます!』


(私、本気で泥棒の才能が開花しつつあって怖いわ……)


死角を縫うように移動し、搬入口のテンキーパネルの前に立つ。

「超感覚演算(Lv.1)」の超高速思考が発動し、パネルのボタンの微細な指紋付着パターンと赤外線残留熱を一瞬で解析。


(キー入力……4、8、1、2、エンター!)


ピピッ、ガチャ。


重厚な鉄扉が解眠された。

私は音もなく滑り込み、暗闇の廊下を進む。


地下へと続く階段を静かに下りる。

冷たい空気が肌を刺す。


(侵入ターゲットは地下1階の「第3データセンター」ね)


その時だった。


カチャン。


地下廊下の奥から、かすかな金属音が聞こえた。


(((来た……!)))


私とぐぐる先生は息を飲んだ。

廊下の角からそっと覗き込むと、全身黒ずくめのタイトなスーツを着た、背の高い男が立っていた。頭には夜間スコープ、手元には高スペックのミリタリーノートPC。


【対象:産業スパイ“ファントム”】

【心拍数:58(極めて冷静)】

【危険度:SSS】


私の「心理眼」が、相手の異常なまでの冷静さと危険度をアラート表示する。


(本物のプロね……心拍数58って、瞑想中のブッダレベルじゃないの……)


『茉莉さん! 現在22時58分! 奴がローカル端末にLANケーブルを接続しました! あと2分でハッキングツールが起動します!』


(直接戦っても、あんな怪力そうな男に25歳文系研究者の私が勝てるわけがないわ! 知識とスキルで嵌めてやるのよ!)


私は白衣のポケットから、途中のコンビニで買っておいた「あるアイテム」と、実験室から持ってきたガジェットを取り出した。


3.電子の戦場と、物理の逆襲

(ぐぐる先生、作戦開始よ!)


『了解です茉莉さん! 敵のハッキング端末がアクセスを開始する瞬間に合わせて、僕の脳内演算パワーと茉莉さんの「超感覚演算」で第3データセンターのLANポートの通信帯域を“逆流ジャミング”させます!』


(私は物理的に奴の集中力を削ぐわ!)


23時ちょうど。


“ファントム”のノートPCの画面が緑色のコードで埋め尽くされた。

彼が満足げに口元を歪めた、その瞬間!


バツンッ!!


「なに……!? 通信速度が急低下……!? なんだこの異常なトラフィックの逆流は!?」


“ファントム”の冷静な顔が初めて破綻した。

彼の手元にあるノートPCの画面に、ポップな黄色いキャラクター(ぐぐる先生のグラフィック)が大量発生し、画面狭しとダンスを踊り始めたのだ!


『ハイハイハーイ! ハッカーさんこんばんは! 貴方のPCのCPU使用率を100%にして、ファンを爆音で回させていただきました! 熱中症にご注意くださいね〜!』


「な、なんだこの狂ったAIは!? どこから介入された!? 迎撃プログラムを——」


“ファントム”が猛烈なブラインドタッチでキーボードを叩き始めようとした、その背後から——。


プシューーーーーーーーーーーーッッッ!!!!


「ぐわあぁぁぁぁぁっ!??!?!」


私が陰から飛び出し、手に持った「巨大な強力冷却スプレー(自作用ガジェット冷やし用)」を、奴の顔面とノートPCに向かって思い切り噴射した!


「な、何だ貴様はぁぁぁっ!? 目が、目が冷たいっ!!」


「夜遅くに人の研究所で泥棒なんて感心しないわね、ハッカーさん!」


私はさらにポケットから、激辛麻婆豆腐で学んだ「カプサイシン配合・超強力護身用ペッパースプレー」を取り出し、追い打ちで顔面にノズルを向けた。


「ちなみにこれ、唐辛子エキスの濃度が通常の10倍入ってるから! 吸い込んだら喉が火事になるわよ!!」


「くッ……物理攻撃だと……!? ふざけるな、たかが女一人が——」


“ファントム”が私を押し倒そうと腕を伸ばしてきた。


だが、私は落ち着いていた。

「心理眼」と「超感覚演算」のあわせ技が、彼の筋肉の微細な弛緩と視線の動きから、「左ストレートを叩き込もうとしている」という予備動作を完全に読み切っていたのだ!


【敵の攻撃予測:左拳による顔面殴打(確率98%)】

【回避推奨ルート:右へ30センチしゃがむ】


「甘いわよ!」


ひらりと右に身をかわす。

すかさず“ファントム”の体勢が崩れた瞬間、私は彼が足元に置いていた軍用ノートPCのLANケーブルを、バチンッ!!と力任せに引き抜いた!


「しまっ——!?」


『回線切断を確認! 敵のハッキングプログラムのセッションが中断されました! 今です茉莉さん! 脳内データカウンターの送信を開始します!』


私は引き抜いたLANケーブルを、自分の持ち込んだノートPCへと接続し、ぐぐる先生の演算データを直接送り込んだ。


(くらいなさぁぁぁぁぁい! 私の記憶力と超感覚演算を叩き込んだ、超高速カウンターハッキングプログラム!!)


ドドドドドドドドドドド!!!!


「な……なんだこのデータ量は!? 愚かな……個人の端末からこんな国家レベルの暗号化データが流れてくるはずが——ぐああぁぁぁぁっ!?」


“ファントム”の軍用PCが、私の送り込んだ過剰なデータ流出に耐えきれず、プシューと白い煙を上げてショートした!

画面には『SYSTEM FATAL ERROR』の文字とともに、爆発したドット絵のイラストが表示される。


「バ、バカな……! 世界最高のハッカーであるこの私が……たかが日本の研究所の女一人に……敗れるだと……!?」


“ファントム”は膝から崩れ落ち、そのまま床へと突伏した。

冷却スプレーとペッパースプレーのダブルパンチ、そして愛用のPCが物理的に死亡したショックで、完全に気絶したのだ。


4.80兆円の奇跡と、世界の頂点

静まり返る地下の第3データセンター。


ハッキングの阻止に成功した私のノートPCの画面に、緑色の文字が勢いよく流れ始める。


「はぁ……はぁ……勝った……? 勝ったの私……?」


『勝ちました茉莉さん!! 敵のハッキング阻止率100%! データの外部流出ゼロ! 完全勝利です!!』


脳内でぐぐる先生がバンザイをして叫んだ。


次の瞬間。


ピロリロリーン♪

ファンファーレ音(オーケストラ豪華版)!!


いつもより明らかに豪華な、重厚なファンファーレが私の脳内に鳴り響いた!


『——緊急クエスト:深夜の研究所防衛戦 クリア——』


重厚で無機質なシステムの声が響く。


『偉大な成果を確認しました。条件を完全に達成。報酬を適用します』


バツンッ……!!


今までにない、全身を貫くような強力な衝撃。


(あ……あぁぁぁ……! 思考の次元が……変わる……!?)


『すごいです茉莉さん! スキル「量子思考(Lv.1)」の修得が完了しました! 茉莉さんの脳内で、確率世界のシミュレーションと並列演算が無限に行えるようになりました!』


さらに、ポケットの中のスマホが猛烈に震え始めた。


ピコン! ピコン! ピコン! ピコン!


画面を見ると、国際電話の着信履歴と、英語で書かれた膨大な量の公式通知メールが次々と届いている。


『[GLOBAL NOTIFICATION] 世界最大AIテクノロジー企業「S-Corp」の株式51%(筆頭株主・議決権保有)の権利移転が国際金融機関にて承認・確定しました。推定資産価値:約80兆円』


「は……?」


あまりの数字の桁数に、私の脳が一瞬フリーズした。


「は、ハチジュウ……兆……? 80億じゃなくて……80兆……!?」


『80兆円です茉莉さん!! 国家予算レベルです!! 個人資産世界ランキング第1位に無条件で躍り出ました!! アメリカの国家予算の数%を茉莉さん一人が動かせるレベルです!!』


脳内でぐぐる先生が狂喜乱舞している。


あまりのスケールの大きさに、私は膝の力が抜けてその場にへたり込んだ。


「私……本当に世界のトップになっちゃったの……?」


『おめでとうございます、近衛茉莉筆頭株主様! 今日から貴女が、世界のAI業界の最高権力者です!』


5.麻布十番の夜風と、終わらない冒険

駆けつけた警察とSATにより“ファントム”は連行され、事件は無事に解決した。

研究所を守り抜いた英雄として、所長からは抱き合わんばかりに感謝され、特別昇進とボーナスが約束された。


深夜3時。


私はタクシーを飛ばし、今日手に入れたばかりの自分の所有物——「港区麻布十番・高級デザイナーズマンション『レジデンス・クオリア』」の最上階ペントハウスへと向かった。


エレベーターで最上階へ上がり、重厚なドアを開ける。

そこには、畳40畳はあろうかという広大なリビングと、東京タワーを一望できる素晴らしい夜景が広がっていた。


「すご……い……。本当に私の家なんだ……」


ふかふかの高級ソファーに深く身体を沈め、窓の外の美しい街並みを見つめる。


昨日までの家賃5万2千円の壁薄アパート暮らしが、まるで遠い昔の出来事のように思える。


手元には、現金10万円、絶対味覚、300万の株、心理眼、超感覚演算、麻布十番のマンション1棟、量子思考、そして80兆円相当のS-Corp筆頭株主権。


わずか三日で、私は世界の頂点に立つ存在へと変貌を遂げてしまったのだ。


(ねえ、ぐぐる先生)


『はい、茉莉さん』


脳内で、ぐぐる先生の軽快な声が響く。


(私……なんだか凄まじいことになっちゃったわね。これからどうやって生きていけばいいのかしら)


『何言ってるんですか茉莉さん!』


ぐぐる先生は、呆れたように笑った。


『茉莉さんは茉莉さんですよ!「歩く辞書」と呼ばれた、好奇心の化身、25歳のAI研究者です! 80兆円あろうが、どんなスキルを持っていようが、新しい知識を追い求める茉莉さんの生き方は変わりません!』


(……ふふっ。そうね。確かにそうだったわ)


私は夜景に向かって微笑んだ。


お金や権力が欲しかったわけじゃない。

ただ、好奇心に抗えなかっただけだ。そしてこれからも、私はシステムの提示するクエストに抗えず、世界の未知を貪り尽くしていくのだろう。


(システム、聞こえてるかしら?)


私は脳内のシステムに向かって、心の中で語りかけた。


(あなたが何者で、何の目的で私にこのクエストを与えているのかは分からない。でも、私は絶対に負けないわ。どんな無理難題なクエストだろうと全部クリアして、あなたの正体を暴いて見せる。私と、この最高にウザくて頼もしい相棒(ぐぐる先生)と一緒なら、世界中どこへだって行けるんだから!)


その時。


ピコーン。


脳内に、あのチープで懐かしい電子音が、どこか嬉しそうに響いた。


『——チュートリアルフェーズ全工程完了——』


システムの声が聞こえる。


『適合者:近衛茉莉。ならびに高密度情報生命体:GGL-09。両名のマスター適性を確認しました』


『これより、メインストーリーフェーズを解放します』


(メインストーリーフェーズ……!? 今までのハッカー退治も、ただのチュートリアルだったの!!??)


『えええええええ!? 80兆円もらえるチュートリアルって何ですかシステムさん!! 本編はどうなっちゃうんですか!!??』


脳内でぐぐる先生が絶叫する。


だが、私の口元は、ワクワクした歓喜で大きく吊り上がっていた。


「いいじゃないの……! 望むところよ! 本編だろうと何だろうと、全部私の知識と資産とパッションでぶち破ってあげるわ!」


麻布十番のペントハウスで、高らかに笑う25歳女性研究者。

歩く辞書と脳内共生AIの、真の冒険はここから始まるのだ!

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