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騎士の俺がお妃様!?  作者: 現野翔子
魔王国編その二

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安らぎのひとときから

 予定していた二箇所への挨拶を終わらせ、また休息の時間だ。もちろん勉強しつつではあるが、ファルクスも多忙というほどではない日常に戻った。白珠村に関しては隠さなくてはならない部分も多いため、土産話も剛牙村の話に偏る。それでも水中を動く不思議な感覚の話はできた。

 メルが国境付近まで飛んできてしまった件も無事に理解を得られたようで、ミールウスもどこかほっとした様子を見せている。ヴェルート王国まで何度も行き来するのは大変だっただろう。上手く敵対の意思がないことを伝えられたようで良かった。

「本当だよ。ファルクスは人使いが荒いんだから。」

 元はと言えば俺とメルが卵型の結晶を作ったことが原因だ。あれをまさかメルが子作りだと思っていたなんて驚きだが、卵型に近づいている段階でその勘違いに気付けただろうか。どうしてメルがあれを試してみたいと言ったのかよく考え、尋ねてみても良かった。メルは質問を拒んだりしないだろう。卵を作る方法と聞いたから試してみたいと言われれば、俺が止められた。ファルクスに相談してからとは言えた。そうすればその方法で卵はできないと明らかになり、魔力を合わせる感覚に付き合うくらいならと相手してあげられたはずだ。

「まさかそれで子どもができるなんて思わないから仕方ないよ。俺も仕事増やされた苦情はメルに入れたし。」

 ミールウスは魔王国第二王子グランス殿下の所にも行き来し、忙しそうに飛び回っている。ヴェルート王国に行ける人がミールウスになるのは分かるが、グランス殿下の所も彼でないといけないらしい。何か起きているのだろうか。コンシアンス王国の上層部も、魔王国に敵対的な者から友好的な者に変わった。全てではないが、国王が友好的な態度なら影響は大きいだろう。有力貴族の中にも友好的な者はいた。上手く協力できれば国として友好的、せめて終戦に導く程度のことはできてほしい。

 コンシアンス王国のことはもう俺にできることがない。そうメルが卵だった頃の話に戻す。彼も竜の子育てを手伝った。その時はどんな様子だったのだろう。

「卵の様子を見るだけの時間は休憩も同然だったね。魔力を注ぎ込むと絞り尽くされそうで死にそうになったけど。」

 竜は成長に大量の魔力を必要とする。魔力の出てくる場所と認識したら際限なく吸い取ってしまうのだろう。卵の状態ならそれを言い聞かせることもできない。その死にそうになった時はどうしたのだろう。

「仕事の量を大幅に減らしてもらったね。日常生活で精一杯になっちゃって。分かってからは卵から離れて仕事優先だったかな。生まれてからはちょこちょこあげてたけど。」

 鳥人は空を飛ぶために魔力を使う。だから効率的な魔力の操作を幼い時分より習得することが多い。それを吸い取られたならたしかに仕事にも生活にも支障を来すだろう。生まれてからならある程度躾できる。小さい頃のメルはどうだったのだろう。ファルクスからは聞いたが、ミールウスからはあまり聞けていない。

 質問を重ねながら聞いていると、そういえば、とミールウスがグランス殿下の所にコンシアンス王国から姫が送られたと聞かせてくれた。当然ファルクスには報告済みで、その対処も決まっている。しかしそこに俺も同行するかどうかは俺次第。俺も同行すれば、という話が出ている理由は、その姫と言われている人物が少年だったこと。それも本人は自分がどういった立場で送られ、何を期待されているのか全く理解していない。読み書きもできない。そこで人間の国から妻として送られたという共通点のある俺が話してみないか、ということらしい。俺は拒否権なく送られたわけではなく、自分の立場も理解している。上手く話せるだろうか。心配ではあるが、話してみることはできる。ファルクスが期待してくれているなら俺も一肌脱ごう。

「また忙しくなるね。フラールもしばらくゆっくりしたら良いのに。」

 この話を伝えておきながら何を言っているのか。ミールウスだって俺なら行くと答えることくらい予想していただろう。ファルクスも俺の同行を止めるつもりはないはずだ。そのつもりなら最初から俺に聞いてみるという行動に出ない。

「心配されても可愛くお願いすれば叶えてくれるよ。何でも、ね。」

 可愛くお願いはよく分からないが、頼んではみよう。そうファルクスの執務室へと向かう。当然仕事中だったが、グランス殿下の所に同行したいという話は聞いてくれた。コンシアンス王国から送られた少年姫との交流なら、俺にとって仕事になる。できることがあるなら是非やらせてほしい。そう伝えればファルクスは喜んでくれた。やはりその少年の対処に彼もグランス殿下も困っていたのだろう。

「向こうでは神経を使うだろう。今のうちに十分休んでおいてくれ。」

 ファルクスの気遣いに感謝し、早速お昼寝をさせてもらう。布団の上で横になりつつ、グランス殿下の領地に関する書物を捲る。ファルクスの領地だけでも様々な種族がいたのだ。グランス殿下の領地にはここで見ない種族だっているかもしれない。彼らとも友好的に会話できるだろうか。


 ゆったりとした時間は過ぎ、出立の朝を向かえる。メルの背に乗せてもらい、グランス殿下の屋敷へ向けて飛び立った。今回は俺も動きやすいよう女装せずに向かっている。魔王国内では令嬢の振りも必要ないのだ。ただファルクスが気に入っているようだから着ているだけ。たまには茶会用の気合を入れたドレス姿も見せてあげようか。

 竜に乗っての移動で、揺れも最小限。確かにこれならドレスでも問題はなかっただろうが、これはメルの配慮のおかげだ。ヴェルート王国の馬車よりも乗り心地が快適だ。いや、王族や公爵家の馬車なら魔術による細工が施されていたのかもしれないが、伯爵家程度ではそんなものなどなかった。騎士になってからは馬車ではなく馬に乗ることが多く、乗っても御者台。乗り心地を気にする立場ではない。改めて全く違う立場になったことを実感する。

「魔王国内にも馬車はあるが、人間の国より少ないかもしれないな。人型より獣型のほうが小さな者は獣型になって荷袋に入ることもある。」

 栗鼠や鼠くらいの大きさならついでに連れて行ってもらうこともできる。運賃は大幅に節約できそうだ。もちろんその移動法を好まない者もいるそうで、その場合は人型の移動になる。そうなれば馬車や獣人車での移動だ。

 メルは母親より小さいとは言え、二人と少しの荷物くらい乗せても余裕で飛べる。速度も十分なため、一日で到着できた。何事も起こるはずなく、グランス殿下も笑顔で出迎えてくださった。一刻も早くコンシアンス王国から来られた姫に会ってほしいのか、すぐに自ら案内されようとする。しかしファルクスがそれを止めてくれた。竜の背という快適な移動でも疲労はある。まずはシャワーを浴びて少し身を休める時間が欲しい。そう俺達のために用意された部屋に案内していただいた。

 案内された部屋は落ち着いた良い趣味で整えられており、うたた寝もしたくなるような部屋だ。だけど今はそんなことをしている場合ではない。早く身支度を済ませ、グランス殿下の迎えられた姫君に会いに行かなくてはならない。

「先に話を聞いても良い。今は最低限しか聞いていないだろう?」

 何かしてはいけないことがあるなら先に聞くべきだろう。しかしそうでないなら先に会いたい。先入観を入れるよりその子自身と話し、何をしてあげれば良いのか、どういった態度を取ってあげれば良いのか見たい。何も分かっていなさそうだったとは聞いた。対応に困っているとは言っていたが、すぐに他人に会わせられるほどの体調や状態ではある。それなら会ってみて対応を決めたい。

「ならそちらは任せよう。俺はグランスに詳細を聞く。」

 重要な部分だけ共有してもらおう。それ以外は本人から知る形にする。そう侍女にコンシアンス姫の部屋まで案内してもらった。訪問を知らせる声掛けにも自ら扉を開けることで答えられ、姫としての教育など受けていないことが窺える。姫として送られた少年という話のため、今は俺も女装に変えた。同じ立場に少しでも近づければ、話をしてもらいやすいかもしれない。本人に自覚がなくとも他国からやってきた姫。そうヴェルート王国での正式な令嬢の礼をする。コンシアンス王国とは少し異なる部分があるかもしれないが、魔王国式より馴染んだ作法に見えるだろう。この子がそうした作法を学ばせてもらっていたのなら、ではあるが。この対応がコンシアンス王国式とは違うとして不快に思われるなら、教えていただけば良い。ただ、これは何も教育を受けていないという話なら杞憂だろう。

「あ、え、初めまして。えっと、何だっけ?あっ、ラミナです。グランス様が付けてくれたんです!」

 会話にはあまり慣れていないのかもしれない。名前もグランス殿下によるもの。元の国や名前が良い記憶なら名前まで奪われた、となるのだろうが、ラミナは嬉しそうに言っている。これはコンシアンス王国でのことは聞かないほうが良さそうだ。教育を受けられていないこと、少年なのに姫として送り込まれたことから想像できたことでもある。まずはここでの生活から聞いてみようか。

 お茶を淹れ、ラミナにも座ってもらう。装飾は控えめながら上質な布のスカートを身に纏っているが、その裾捌きは不慣れなものだ。姫扱いなら立って歩けるようになった頃に習うこともできていない。お茶もふぅふぅと何度も冷まして飲んでいる。その動きも洗練されておらず、教育されていないというのは知識の面だけでなく所作にも及ぶと分かった。読み書きできないことは聞いた。言葉は通じているが、話し方などについて学んだ形跡は見て取れない。

「フラール様、ラミナは何か変ですか?」

 周囲の対応が腫れ物扱いだったのだろうか。少年と言っても細すぎるため心配されていたのかもしれない。そう侍女に用意してもらったお茶菓子を勧め、特に変に見える部分はない、どうしてそう感じたのか尋ねる。グランス殿下の行動に問題があれば俺から注意させていただこう。

「みんな優しいんです。お腹空いてない?痛いとこない?って。」

 痩せた少年がいれば聞いても自然だ。つまり彼は今までそうした声掛けをされてこなかったことになる。姫と言われて来たのに、姫扱いすらされていなかった。変かと尋ねながらここに来てからのことを楽しそうに語る彼。特にグランス殿下とその腹心エクエスの話が多い。エクエスは狼の獣人と聞いている。狼の形態になればラミナも癒やされるのではないか。一度提案してみよう。

「エクエス様はワンちゃんなのですか?」

 おおよそ合っていることにしよう。言いたいことがあるなら本人から訂正が入るだろう。それができるくらい親しくなっていそうだ。グランス殿下とも十分信頼関係を築けているようであり、俺がいなくとも問題はなさそうに見える。女物ではないズボンも用意してもらおうか。この様子では自分の好みの服も分かっていなさそうだ。俺もスカートやドレスの日とズボンの日があると説明し、今度用意してもらおうと伝える。ラミナも楽しみにしてくれた。彼には理解が難しいかもしれないが、この後の殿下達から話を聞く際にも同席してもらっても良い。俺は長く滞在しないため、グランス殿下とエクエスが支えられるならそのほうが良い。そのためにもある程度話を聞くことも必要だろう。分からない話を聞いて、勉強すれば分かるようになると言っても良い。その都度確認してもらい、今何が起きているのか理解してもらっても良い。コンシアンス王国との関係も少し改善に向かっただけで、まだ問題が解消されたわけではないのだ。

 それにしても、戦争を続けないため、魔王国と休戦するためとして送られた姫のはずなのに、こんな子を選ぶなんてどうかしている。新しいコンシアンス王国の王はそんな人物だっただろうか。少し話しただけでその内面の全てが分かるはずなどないが、それにしても不思議だ。休戦のために、というならこのような状態の人物を送るだろうか。厄介払いにも見える。ただ、それを詰問するのもラミナには負担だろう。おそらく彼は知らない。コンシアンス王国への対処もどうするか決めるのはグランス殿下だ。相談に乗るのだってファルクスだろう。今の俺にできるのはラミナに寄り添うこと。グランス殿下に貰った名前を気に入っているのなら、服にもグランス殿下の瞳や髪の色を含めれば喜ぶかもしれない。姫を王子に送るというのはそういうことだ。婚約者扱いが妥当だろう。ラミナには難しいだろうか。実際どうするかはグランス殿下に考えて頂くとして、俺は自分がファルクスとどう過ごしているかを話してあげても良い。

 まずは目の前のお菓子を食べたそうにしているラミナに勧めることか。何枚だって食べれば良い。今は礼儀作法を学ぶより、その痩せ細った体に栄養を与えることが先決だ。

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