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騎士の俺がお妃様!?  作者: 現野翔子
ヴェルート王国編

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令嬢の夜会

 帰宅し、お父様とお母様に今日の恋愛相談の結果を報告する。ジョストラ辺境伯の嫡男ティーロが自分へのお勧めだった、交流の機会がほしいと希望を出した。俺の意を汲み、夜会の情報にお母様も意識を向けてくださる。そうして得られた夜会の機会。辺境伯も参加する夜会だ。ここで積極的に話をしよう。

 意識して見るとティーロ様は引き締まった表情をされており、こうした夜会を好んでいないことが分かる。令嬢達にも避けられているわけではないが、ダンスを申し込まれているわけでもない。かといってダンスの申し込みを断られているわけでもない。嫌われているわけではないが、辺境には行きたくないという打算で誘いがない。じっと見つめるような誘ってほしい雰囲気だけで察してくれる人だろうか。

「初めまして、可愛いお嬢さん。僕と踊っていただけませんか。」

「はい、喜んで。」

 本当に次期辺境伯という点が足を引っ張っているだけか。誘ってあげている、のような雰囲気を出すこともなく、そっと手を差し出し、その手に俺が手を重ねるのを待ってくれた。重ねても優しく包むように握り、俺の歩幅に合わせて誘導してくれる。完璧な紳士だ。表情こそ硬いが、威圧感を覚えさせるほどではない。単に緊張しているだけか。

 ダンスが始まっても動きは滑らかで、そっとリードしてくれる。強引な様子もなく、会話に集中できる強度だ。その会話もきっかけは彼が用意してくれるが、俺の話したいことは全て話させてくれ、内容にも答えてくれる。おしゃれ関連は分からないと素直に言い、説明にも良い反応が返ってくる。何より純粋な疑問をそうと聞こえるように表現し、何が良いのか分からないと言うような馬鹿にした雰囲気を含ませない。誤解を招かないよう言い方に配慮してくれている。本当に本人には何の非もない。体格も目立たないがしっかりと筋肉が付いている。羨ましいことだ。

 領地の話も俺から持ちかけよう。魔王国と隣り合っており、だからこそ辺境伯という称号がある。辺境だから嫌、は田舎だからではない。重要視される分危険だから嫌、なのだ。魔王国との関係の悪くない今も危険なのだろうか。

「全くの安全とは言えませんね。人間に対する敵意の強い者が侵入していく危険があると魔王国側からも連絡をもらっています。もちろん魔王国内で対処しようとしてくださっていますが、網の目を潜り抜けてしまう者もいますから。無許可の侵入者は問答無用で討伐して良いとの書面も頂いています。」

 魔王国民でもヴェルート国民でも選民意識を持っている者はいる。魔王国民には魔人や獣人といった俺達人間よりも魔力量や身体能力に優れた種族が多く、人間が魔王国民憎しで侵入しても各個討伐が簡単にされてしまう。捕縛も難易度が下がる。一方で人間がそれら種族の者と対峙する場合にはその不利を覆すだけの技量や数が必要になる。捕縛より討伐の難易度が低いため、捕縛ではなく討伐の許可が得られていることは大きい。迅速な討伐ができるおかげで被害の拡大を許さない。

「殺し合いで魔王憎しにならないよう、討伐は許可されている、魔王国内でも犯罪者扱いの者を討伐したのだと周知するよう努めています。少し物騒な話をしてしまいましたね。」

 俺から振った話だ。城下町の見回りなどを行う立場ではあまり他国の話を身近に聞けない。実際関わっている人からの話は興味深い。俺も伯爵家の次男として学んだ知識を活かし、彼との会話を楽しむ。勉強は得意と言えるほどではないが、こうした会話も楽しめるなら学べて良かった。あの勉強がなければ何を言っているのか欠片も理解できなかっただろう。

「君みたいな子は珍しいよ。いや、他にもいることにはいるんだけど、そういった子の場合は親が心配して反対するようでね。上手くいかないんだ。」

 怖いと思う子も多いだろう。そもそもそうした知識を入れるような勉強をさせてもらえなかった子もいるかもしれない。俺は他とは違うと主張したい。親は私に弱いから社交界への顔見せもできたと言えば、希望を感じてもらえるだろうか。

「社交界デビューもさせなかったようなご両親なら、きっととても心配されるだろうね。」

「私だって一人前です。勉強だって魔術だって頑張ってるんですから。治癒術も少しなら使えるんですよ。きっとお役に立てます。」

 背伸びした少女になってしまっただろうか。少し関係を急いたかもしれない。しかし何かあるなら領地か王都邸。入り込むにはある程度の関係性が必要だ。ティーロ様には悪いが、最悪婚約までは進めさせてもらおう。

 ティーロ様との交流は問題なく、機会があればまた、と一度離れる。夜会では一人との交流に絞ってはいけない。自然な流れだ。次は誰かからの誘いを待とうか。そう壁に凭れ、ジュースを貰う。先程から視線を感じているのだが、その相手が問題だ。俺の弟であり、フラウの兄ということにもなっている。会場まで来る際も俺を凝視していた。夜会用の華やかなドレスを着ている姿は初めてのため、物珍しいのかもしれない。一度目のダンスの際も言葉数が少なかった。今は他の令嬢とのダンス中なのにこちらばかり見ている。とても失礼な行動だ。案の定、相手の令嬢には怒られている。当然の結果だ。しかし反省した様子もなく真っ直ぐこちらに向かって来る。これでは妹離れできていないと思われてしまう。スペッキオはこんなに俺に懐いていただろうか。

「フラウ、悪い虫に狙われてないか?」

 今回の目的の詳細は伝えていない。ただ任務の一環とだけ。そのことを忘れているわけではないようで、酒ではなくジュースを共に楽しむ。何度隣に立っても身長は変わらない。幼い頃は俺のほうが高かったのに、今は抜かされた。同じ両親から生まれているはずなのにどうしてこうも差ができるのか。彼も男性の中で比べると小柄なほうだが、俺よりほんの少しだけ大きい。肩幅もある。騎士として任務に当たれる程度には十分な肉体だ。そう比較してか、何度も何度も可愛いと言う。素直なことは良いことだが、感想は浅い。何がどう可愛いのか言わなくてはお世辞かどうか相手に伝わらないだろう。まだ紳士には程遠い出来だ。飲み物を一つ飲みきり、次のダンスの誘いを待つ。数人と踊り、客観的に見た自分の令嬢としての完成度を確かめたい。それなのにスペッキオは今だと言わんばかりに俺を誘う。妹とばかり踊っていてはいけない。この一回だけだと注意して、再び会場の真ん中付近にまで進んだ。

 踊るためには密着する。二度目だが、また自分より逞しい体に嫉妬してしまいそうだ。スペッキオも可愛いご令嬢と踊れば良いのに、踊りながら俺の顔を凝視している。

「いくら見ても飽きないほど、フラウは美人だな。俺の理想の女の子だ。」

 足を踏んでやる。痛そうな顔をしつつもダンスは止めない。一体何を言っているのか。兄の女装姿だと知っていてなお、理想の女の子と発言するなど彼の趣味が分からない。本物の妹だとしても周囲の令嬢と良い仲になるには適切でない発言だ。妹より周囲の令嬢を見てほしい。今回は妹として断る理由を作ってもらえたとして、口頭注意で許してやろう。

 男に気を付けろという意味のない言葉を聞き、ダンスの時間を切り上げた。次に狙いたい相手は団長の息子だが、彼は夜会に参加されない。会ってみるという行動も取りにくいが、わざわざそんな行動を見せずともティーロ様が素敵だったからとお勧めしてくださった方には言い訳もできる。あっちもこっちも見比べるような行動を表に出すと印象が悪い。他は令嬢として十分な対応だけし、特別な対応はティーロ様限定にしよう。夜会終了時までその態度を貫き、スペッキオと一緒に帰る。屋敷に着いたら早速ティーロ様への手紙を書こう。


 ティーロ様とのお出掛けの予定を取り付けた。行き先は郊外の景色の良い場所。街中は避けた。俺は王都の巡回当番にも組み込まれ、住民との交流も多い。可愛いと言う人も多く、女装すれば抱けるや女装していなくとも付き合えると豪語する酔っぱらいもいたほどだ。遭遇して俺だと気付かれると困る。騎士としての名誉に関わるのだ。郊外なら巡回の騎士こそいるが、通行人は少ない。気付かれる危険も最小限だ。

 今回の会話も互いに関するもの。以前よりさらに踏み込んだ内容だ。俺はフィブラ伯爵の末娘フラウ。そのため特に自領地について再勉強した。箱入り娘だが不勉強というわけではない。そんな設定だ。むしろ社交よりも勉強や研究に力を入れていたから箱入りの状態でも将来への不安が少ない環境だった。特に魔力量に優れるわけではない俺は魔力の効率的な運用のため、実際軽い研究の真似事は行った。その成果を一部困り事を抱えている住民に共有したため、出歩けば声を掛けてもらえることも多いのだ。研究の成果はティーロ様にも一部教えて差し上げよう。

「良いのか?君の大事な手柄だろう。」

「ええ、是非役立ててください。私一人が抱えているより救える命が増えるはずです。」

 はっとした表情になるティーロ様。何かおかしなことを言っただろうか。騎士団でも既に一部開示した技術だ。小手先の技術と馬鹿にする者も多く、魔力保有上限の増大に努めない者の甘えとも言われたが、増大と効率化を並行して行えばより多くの回数、魔術を発動できる。生まれながらの才能に甘え、それを補う努力を下に見る者の声が大きすぎる。一度に全て開示しないことを勧めたラーマ隊長は俺の敵が急激に増えないよう気遣ってくださったのだろう。

「すまなかった。手柄や名誉より、領民や部下の安全が優先だ。この技術は有り難く頂戴する。立派な領主、立派な男という言葉に惑わされていた。立派な人間は手柄や名誉より実益を優先できるはずだ。」

 競争の中に放り込まれ、何をすべきか見失っておられたのだろう。早々に勝つことを諦めた立場からは眩しく見える。戦い続けることは体力も気力も消耗することだ。彼らの指標で戦うことを諦めればずっと楽に集中できる。可愛いという言葉を受け入れたわけでも甘やかされたいわけでもない。今は可愛い令嬢に扮しているから可愛いという褒め言葉を変装の成果として受け入れているだけだ。

「格好良いな、君は。何をすべきか、何が大事なのか見えている。そのために自分にできることを知り、行動している。格好良い一人前の大人だ。社交界デビューの時期なんて些細な問題だった。」

 女装していない時でもあまり言われない格好良いという褒め言葉を、可愛い令嬢になっている今言ってもらえる。不思議なことだ。この人は外見ではなく内面を見てくれる人。人間としての魅力を持っている。そんな人を騙すことには罪悪感があるが、調査のためだ。良い人でも犯罪に加担していることはあり得る。知らずに協力してしまっていることもある。領地を治める立場で知らなかったなどという言い訳は通用しないが、全てを把握することも不可能だ。彼が良い人だからと油断せずに行こう。

 むず痒い気分になりつつ、彼の領地の話や魔王国の話に変える。魔王国には基本入国できない。特別な許可を貰えば行き来もできることになっているが、基本的に許可は降りない。俺のような立場では到底得ることのできない許可だ。

「魔王国に興味があるのか。来年は魔王国から第一王子殿下が来られる予定の年だ。運が良ければ話せるかもしれないな。」

 楽しみだと言うが、ここからどうジョストラ辺境伯の領地邸に連れて行ってもらおう。親を通して連絡すべきか。早速婚約を申し込み、交流や予行練習のために行く、という形にしても良い。私の研究を評価してくれた、として今申し込んでも良い。ダンスも楽しかった、魅力的な人、と重ねる。

「箱入り娘と聞いていたから人見知りする子かなと思っていたけど真逆だね。とても積極的だ。僕としては嬉しいけど、もっとよく考えなくて大丈夫かい?結婚を焦っていないかい?」

 彼も決めかねているのか、本当にフラウのことを想ってくれているのか。ここは一度素直に聞き入れ、申し込みを保留にさせてもらおう。親とも相談すると言えば十分だ。

「うん、慎重になって良いよ。僕は逃げないから。魔王国に接する辺境伯の家に嫁いでくれる物好きなんてそうそういないさ。」


 ただの交流の時間を過ごし、フィブラ伯爵家王都邸に帰還する。早速婚約の話をお母様にしよう。まずお母様を説得しなければお父様も倒せない。相手を騙す形になるため、反対はされるだろう。しかしジョストラ辺境伯の領地まで行けなければ調査としては不十分だ。騎士団への報告書も慎重にならなければ調査していると気付かれる。報告回数は極力減らしたい。

「よく知らない人の家に行くなんて危険よ。貴女はとても可愛いから血迷った坊やに食べられちゃうかもしれないわ。」

「よく知らない人じゃないわ。今日だって沢山お話したもの。ティーロ様なら大丈夫。とても良い人よ。それに何かあっても殴るから心配しないで。魔術だって十分使えるんだから。」

 魔術士には遠く及ばないだけで、自衛のための技術としては十分な水準だ。しかし互いに本心を隠した会話は互いの望む結論や折衷案に結びつかない。ただ平行線になるだけだ。ただお家に行きたいだけという主張を繰り返す。目で調査のためと訴えて伝わるだろうか。

 伝わったのか伝わらなかったのか。ともかくお母様は好きにしなさい、まずは王都邸にお邪魔してからよ、と折れてくださる。次はお父様だ。お母様にも同行していただき、一緒にティーロ様のお宅訪問の許可を求める。

「すぐ家に呼ぶ男は駄目だ。婚前の令嬢を簡単に家に上げ、何をしようとしているかなんて分かるだろう?お前はもっと自分の愛らしさを自覚するんだ。」

 お母様とおおよそ同じ注意の仕方だ。呼ばれたわけではない、自分から行きたいと言ったという主張も駄目だの一言で片付けられる。本当に娘というわけではないのにどうしてこうも貞操を気にするような言葉で引き留めるのか。万が一のことがあっても男だとばれるだけで、一線を超えることにはならないというのに。

「大丈夫!婚約してくれるなら私は構わないわ。あの人は簡単に捨てるような人じゃないもの。ねえ、どうしても駄目?」

 我ながらこれが通用するとは思っていないが、上目遣いでおねだりする戦法に切り替える。令嬢教育の中でお母様から教わった技術だ。中身を知っているお父様が相手でも効果はあるのだろうか。疑問を抱きつつの実験は成功し、頭を抱え、溜め息を吐きながらも条件付きの許可をくれた。条件は三つ。先にこちらの家に彼を招き両親と会わせること、手紙は出す前にお父様とお母様の目を通すこと、ティーロ様からの手紙もお父様かお母様と一緒に読むこと。本当に娘のような対応だ。いや、本当に娘なら条件付きの許可すら出なかったのかもしれない。

 用事は終わりだ。弾んだ気分で部屋に戻り、手紙を書く。いきなりお家には行けないが招くならできる、だから来てほしい、貴方の予定に合わせる。必要な内容はそれだけだ。この前のお出掛けに関するお礼やもっと仲良くなりたい、もっと貴方のことを知りたいという想いの部分も入れれば完璧だ。相手が良い人でなければ罪悪感も薄かったのだろうが、仕方ない。

 手紙を書き終え、早速お父様とお母様に提出だ。そう向かおうとすればもうお休みの時間だと侍女に止められる。明日確認してもらおうと保留にされ、入浴の時間だ。令嬢はこんなに時間を掛けて髪と肌の手入れをしているのかと驚いたものだが、もう慣れた。騎士団の寮では続けられそうにない手入れだが、一部の保湿クリームなどを塗る程度ならできる。今のうちに何を使っているのか聞いておこう。

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