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騎士の俺がお妃様!?  作者: 現野翔子
ヴェルート王国編

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複雑な任務

 騎士学校での任務を終え、通常の任務だけに戻る。王都内部の巡回と、王都周辺の巡回だ。王都周辺の巡回では魔物討伐を行うことも多いが、全員が自分の役割を把握しているため特に危険なことはない。日課の中には訓練も含まれる。その訓練の最中、ラーマ隊長に呼び出された。住民の小さな悩み事解決なども評価してくださり、給料には反映させにくいからと個人的に何度も食事を奢ってくださった。説教や始末書作成のために呼び出される人は恐れているが、理不尽なことは言われない。夕食の誘いにしては時間が早く、わざわざ食事の誘いのために呼び出すことも珍しい。一体何だろう。

「またデートのお誘いか?可愛い子はいいね、ただで美味しい物が食べられて。」

 俺より魔術も頭も劣る男のやっかみだ。他の小柄な女性騎士も彼を避けており、近々遠方に異動予定になっている。甘やかしてくれる人のいない環境で十分鍛えられることだろう。どうして俺も彼女達と同じ扱いになっているのかとも思うが、嫌な奴がいなくなるのは大歓迎だ。

 少し嫌な思いをしつつも案内されていく。いつもの書類仕事をする部屋ではなく団長室への案内だ。そこには団長だけでなく王太子殿下までおられた。団長は渋くて落ち着きのある頼もしい大人の男性といった雰囲気で、民衆からも人気のある方だ。王太子殿下もその立場に見合った余裕と落ち着きを持っておられる。彼らのように俺もなりたいものだ。

「日々のお勤めご苦労。早速だが、特別任務をがある。」

 団長自ら言い渡される任務。特別という言葉が大いに不安だ。身元は確かかもしれないがそれは他も同じであり、目立った功績を上げているわけでもない俺に一体何だろう。王太子殿下のこちらを探るような視線も気になる。軟派野郎から見られる時よりは不快感がないが、似たような種類の視線だ。疑問を抱きつつも黙って聞く。

 任務の内容は潜入捜査。潜入は専門にする部隊もあるが、今回は貴族同士の交流のため、平民には任せられない。事が発覚した際の処罰や評判などの観点で、任務に当たった騎士の身が危険に晒されすぎる。俺なら伯爵家の次男であり、最低限身を守るための身分がある。そうしなければ騎士団の任務、団長の指示と言っても今後に差し支えるそうだ。

「潜入場所は令嬢の集まりとされているヴェスティ公爵家での茶会。茶会が開かれたら参加する形になる。」

 目的は裏取引の現場になっていないかの確認。その茶会に参加した令嬢は身分差の婚姻も多く、どこで出会ったのかという疑問のある婚姻もある。外から見る限り本当に令嬢しか参加していないそうだが、それなのに高位の令嬢が身分の低い家の男に、あるいは身分の低い令嬢が高位の貴族男性に、繋がっていることが不自然。本物の令嬢が参加して危険な男と結婚させられては事だと、男性騎士の任務としたそうだ。まず化けるために何をさせられるのだろう。

「その心配は要らない。君は十分愛らしい。女装していなくとも血迷う男も既に現れている。それに、母君から聞かせていただいた話になるが、令嬢教育の基礎も修めているそうじゃないか。」

 母上、何を教えているのか。おかげでとんでもないことをさせられそうになっている。まずはと用意されているドレスまで着せられる。ラーマ隊長が着付けの技術を持っていたとは意外だ。三人にしっかり観察される。完成度を確かめるために王太子殿下もおられるのだろうか。

「胸も尻も小ぶりが好みの男もいる。安心すると良い。大変愛らしい出来だ。お母上の若い頃にそっくりじゃないか?夜会では引っ張りだこだな。」

 全く嬉しくない。その慰めは女の子向けのものだろう。もう少し胸筋も腹筋もあって良いが、団長が仰るのは魅力的な脂肪の話だ。

 団長は王太子殿下にも見栄えを確認される。頭の天辺からつま先まで観察された。王太子殿下は頷き、十分な容姿とおそらく褒め言葉をくださる。むしろ本気になりすぎる人もいるかもしれないという言葉はお世辞なのか、揶揄なのか。細部の動き方や令嬢らしい話し方などまだ学ぶことはあるという指摘は本気でこの任務に当たれという圧力だ。声の問題も既に用意されている変声用魔道具で解決されてしまった。任務も今日からすぐ始めるようにとの指示だ。だから巡回登板や雑務の当番から外されていたのだ。捕縛技術の向上を求められているのかと思っていた。早速、と王太子殿下が俺を連れて行こうとされるが、今はドレスだ。このまま騎士団の中を抜けて行くのか。そんな質問にも騎士の姿勢の良さはある、令嬢に見えると慰められただけ。いや、制服に着替えさせてほしいという話だ。顔を見られれば俺だと気付かれる。

「なんだ、恥ずかしいのか。これを頭から被り、俯き加減でいろ。俺が誘導する。」

 顔の全面を覆うヴェールを被せられ、手を引かれる。脱いだ服も団長室に置きっぱなしにするのか。入った所を見た人がいればこれでも気付くだろう。声を掛けられて挨拶も返さない令嬢にもなるが、返せば俺だと分かる。八方塞がりだ。

「殿下、令嬢フラウには騎士や王家とは無関係な立場でいてもらいます。貴方の傍で令嬢教育はできません。」

「分かっているよ。しかし残念だな。こんなにも愛らしいのに。」

 お出掛けも交流もなし。騎士団関係者が身近にいるとなれば警戒させかねないから。もちろんその茶会参加者には身内に騎士のいる者もおり、彼女達からの証言では何も怪しいことはないそうだが、証言としては不十分だ。彼女達は調査のために赴いたわけではない。そのため、令嬢としての利益を得ることのない、調査を任務として請け負った騎士が必要になった。確かに令嬢としての利益を得ないという点では最適だろう。何せ令嬢ではないのだから。王太子殿下と交流がないことは一安心だ。常に強い緊張を強いられる。今のように揶揄われても迷惑だ。

 俺の預かり先もこれからだった。預かり先はフィブラ伯爵家、つまり俺の実家。令嬢教育も母上が行う。箱入り娘を少し遅めの社交界デビューさせるという名目で、俺を娘として出すそうだ。ずっと箱入りにするつもりだったから兄弟も彼女の存在を伏せていたという設定だ。偽名はフラウ。フラールから取った名前だ。何事もないようにフラールとして帰還し、そこからはもうおおよそフラウとしての行動だ。朝晩の鍛錬時間はフラールになっても良い。変声用魔道具は受け取った。宝石が先端に付いた首飾りになっているが、着用はまた後だ。

 王太子殿下の送るという有り難い提案を断り、数日馬で移動し、一人で実家に入る。使用人達にまで連絡されているのか、急な事なのに何の疑問もないように出迎えてくれた。事情を把握してくれているのなら隠す必要なく、入浴と着替えを手伝ってもらう。いつもは一人でできるが、令嬢としての髪や肌の手入れは分からない。ドレスも一人では着られない構造になっており、侍女の手が必要だ。普段着ドレスも既に用意されている。どう不自然にならないよう用意したのだろう。

 早速フラウとしてお父様とお母様に挨拶だ。子どもの頃、お母様に令嬢教育の基礎を受けさせられたことを思い出す。それが嫌で騎士になるため全力を尽くしたというのに、こうして本格的な令嬢教育を受ける羽目になるなんて。

「お帰り、フラウ。まずお前は私達の末娘になる。それにしても、ますます母に似たな。」

 諸々の情報共有を行い、基本的には令嬢フラウとして行動する。結局フラールは長期休暇のため領地に帰還したことにするそうだ。お母様も喜々として令嬢教育に挑むつもりのようで、厳しい毎日になることを覚悟するよう伝えられる。フラウという名に反応できるよう、家の中でも毎日フラウとして過ごす。

 令嬢教育は早速明日から始められる。親が子の声を間違えるということも起きにくいよう、家の中でもずっと変声用魔道具は装着し、それは眠る時も例外ではない。まだ自分でも自分の声に違和感を覚えるがこれもそのうち慣れるのだろう。


 順調に令嬢教育は進んでいる。昔教えたことを覚えている、騎士になるための努力も姿勢の維持や優雅に見せるためのゆったりとした動きに役立っている、とお母様も沢山褒めてくれた。令嬢のような話し方にもドレスにも自分の声にも慣れてきた。この調子なら問題なく令嬢として社交界デビューできそうだ。

 自信も付いた、お母様のお墨付きも貰った。令嬢としての始まりは他の令嬢たち同様、今年社交界に出る子達が参加する夜会だ。王都に帰還して以降はもう朝晩の鍛錬も見える場所では行わない。フラールは領地にいる設定のまま、フラウだけが王都にいることになっている。

 会場入りでは視線を集めた。他の初社交界の子達は俺よりも年少の子ばかりで、箱入りにしようとしていたという理由付けの必要性を痛感する。いつまでも閉じ込めるわけにはいかない、本人も大人になりたいと希望していた、と今年出てきた設定だ。初めての社交界では全員に注目されながらの入場となり、成人したことの祝いの言葉を頂ける。この作戦については一部の王族には伝えられているが、知らない王子もいる。その上伯爵令嬢が王子の誘いを拒めるわけもなく、目を付けられないように注意しろとだけ言われた。既に第二王子が凝視しているような気もするが、どう気をつけろと言うのか。

 最初のダンスはエスコートしてくれた弟スペッキオと。フラウから見ると兄になる。ダンスもお母様から合格が出ており、スペッキオとも練習済み。同じ両親から生まれているはずなのに俺よりも少し背が高い。俺は特に低く、他の令嬢と同程度のため、スペッキオも違和感なく踊れると言っていた。違和感が生まれないことは喜ぶべきだろう。複雑な気持ちになりつつも足を踏むことなく無事にダンスを終え、次の人と踊り、と夜会の時間は過ぎていく。やはり今まで欠片も話題に上らなかったフラウに興味津々の方は多く、何度もダンスに誘われ、ダンス以外の時間も令嬢の輪の中に加えていただけた。そろそろ疲れてきたとダンスは断って良いだろう。俺の任務は令嬢同士の茶会、特にヴェスティ家主催の茶会で何が起きているのか調べることだ。その茶会に招かれるよう、令嬢達との関係は密接に、友好的に築きたい。

「やっぱり出会いを求めて参加されたの?お家に閉じこもっていては素敵な方と結ばれる夢も実現しないものね。」

 そうだということにする。家族はよくしてくれるが、自分も自分にできることがしたいと言い訳を添える。魔術も少しならできる、刺繍もお菓子作りも嗜んでいる。しかし家族からの評価だけでは不満。いつまでも子どものように甘えてばかりなんて不安。そんな言葉を並べる。

「今まで良い出会いはなかったの?」

「お父様とお兄様方がとても心配されて。今までは心配させてはいけないと思って控えていたのですが、従うばかりではいけないと思ったのです。」

 ぐっと拳に力を入れる。ある程度勉強してきている、と自分の強みも訴える。彼女の話も聞く。互いの興味のこと、家族のこと、様々だ。少なくとも数人と友好的な交流ができた。また次回、同じように交流を進めていこう。


 何度も夜会に出席し、茶会に招かれ、俺も招いた。そんなことを繰り返し、ついにヴェスティ公爵家での茶会に招かれる。ここが本番だ。何が起きているのかこの目で確かめる。

 ヴェスティ夫人の歓迎の挨拶が終われば、数人が同じテーブルに着く。最初の話題は装飾品やお菓子、最近の舞台や役者に関して。今までの茶会と変わりない令嬢の話題だ。ここでの茶会の後、特定の男性と親しくし始め、婚姻にまで至る事例が明らかに多いと聞いたが、何も特別なことがない。少し言い方を考えて、このことを聞いてみようか。

「ここに出席すると素敵な男性と結ばれるという噂を聞いたのですけれど、何か特別なことをされているのですか?」

「あら、貴女も気になる?良いわよ。まずはどういう人が好みか教えて頂戴。」

 調べるなら相手の誘いに乗ることも必要だ。どういう人が好きか、乙女らしい回答をしよう。優しい人、一緒にいて安心できる人、気後れせずに済む相手、私を大切にしてくれる人、距離の詰め方をこちらに委ねてくれる人、距離感を一緒に探ってくれる人、など思いつくだけ全て言う。嘘というわけでもないが、そんな男性を求めているわけはない。

「可愛らしい希望ね。貴女のような人ならきっと誰でも好きになるわ。外見の希望とか、剣術や魔術が得意かどうかとか、年齢はこの範囲でとか、そんな希望はないの?」

 すぐに触れてくるような人は困る。容姿は特に拘りないが、こちらの容姿に拘る相手も嫌。あまり観察されると男だと気付かれる危険性もあるためだが、ここは貶されると悲しいという言葉、いきなり触られると怖いという言葉に置き換えよう。まずは穏やかな友人になれる人が良く、欲しい相手は心を通わせられる相手であって競争相手ではないことも言い添えよう。

「ああ、自分が自分が、自分のほうが上、みたいな人は嫌ってことね。まあ、だいたいそうよ。勘違いした令息にも令嬢にもままいるタイプね。」

 騎士の中にもいる。競争意識で自分を鍛えるなら良いが、事ある毎に自分が勝っている、お前なんてと絡んでくる相手は面倒だ。女性騎士にも絡まれるが、彼女達の場合は剣術や魔術の実力ではなく私のほうが可愛い、綺麗、のような意味の分からない内容が多い。誰に何を言われたのだろう。この令嬢の姿は彼女達に見せないほうが良さそうだ。

 俺の回答に何を感じたのか、それなら、とヴェスティ夫人は思案している。少し待てば数人の名を挙げてくれた。知っている名前もあれば知らない名前もある。返事に困っていると、それぞれの特徴を説明していくから好印象や嫌だと思う部分を教えるように頼まれた。まずはヴェルート王国王都騎士団団長の息子。年齢は三十代と少々上で、団長によく似た厳つい顔立ちに、さらに傷が入っており怖い印象を持たれることがあるそうだ。ただしそれを自覚しておられ、小さな子どもに泣かれると落ち込んでおられたとか。可愛い一面もお持ちの方のようだ。お顔は団長も格好良い方のため、俺からすればさほど怖く見えないだろう。

「ふんふん、これで可愛い、ね。よしよし。十歳以上離れていることは気にならない?」

 ここは気にならないと答えておこう。大人の余裕を持った男性なら魅力的、と返す。こちらの歩幅に合わせる余裕は若すぎるより年齢が上の人のほうが持っていそうだ。しかしこれまで特定のお相手がいなかった理由が分からない。それも団長の息子という肩書があってなお相手が見つかっていない。何かあるのか心配になる要素でもある。

「その点は大丈夫よ。服装や髪型の変化に気付かないだけだから。お化粧の変化には気付くけど、体調が悪いのか心配されたという不満を元恋人の方々は漏らしていたわ。」

 問題なさそうだ。顔色を見てくれているのなら恋人に無関心というわけではない。顔を見すぎて服を見ていないだけだろう。団長に似て、素敵な方のようだ。

 次は辺境伯の息子。こちらの年齢は二十代前半で、文武両道という評判だ。引く手数多でもおかしくなさそうなのに、婚約者も恋人もおられない。

「魔王国と隣接するから怖い、という点で避けられているわね。特に魔物が多い地域でもあるわ。親もそんな危険な地域に嫁がせたくないのよ。彼自身というより彼の継ぐ領地の問題ね。」

 人だけを見るととても良い。親しい令嬢も多いが、結婚となると踏み込めず、友人以上にはならない。そんな立ち位置の人らしい。

「嫁げば領地にも行くわ。問題ない?」

 いきなり前線に立てと言われるわけではない。今は魔王国とも険悪な関係ではない。自由な往来はないが、互いにあまり関わりのない状態が数百年続いている。無断で侵入した場合は互いに侵入者に対する処罰を受け入れる形だ。無断入国はそもそも犯罪。その犯罪者に対する処罰を行うことになっている。ヴェルート王国からは送り返そうとしたこともあるそうだが、それなら処刑してくれという返信があったと歴史の授業で習った。国同士の関係のため代表者数人が行き来することはあるが、それも多くて年に一回だ。全体的には友好的、なのだろうか。今は特別危険な領地ではなさそうだ。

「詳しいわね。魔王国というだけで怖がる子も多いのよ、という話ね。」

 俺が最初の二人に良い反応を返したからか、この二人と仲良くなってみると良いと勧めてくださった。今まで交流のない人と令嬢が接触を図ろうとする理由は分かった。紹介相手も怪しい人とは限らない。団長の息子は他が調べられる。辺境伯の息子のほうが調査は難しいか。次の夜会に彼は参加しているだろうか。

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