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騎士の俺がお妃様!?  作者: 現野翔子
魔王国編その二

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メルとのお出掛け

 仕事は一段落。そんな話だったのに、ファルクスはまた別の仕事ができてしまったそうだ。それは仕方ないのだが、何故か朝から竜鱗製首飾りを着けられた。さらにファルクスからも口付けと共に魔力を貰い、その他にも色々と魔術を掛けられる。随分と厳重な守りだ。こんなに安全に気を遣うなんて、何か危険なことでもあるのだろうか。

「俺が少し離れる。メル、フラールを頼んだ。危険かどうかは行ってみないと分からないが、念の為だ。」

 ファルクスが行けば俺が危険になるかどうか分かる。どういうことだろう。メルがいれば鱗の装備品もファルクスの魔術も必要ない気はするが、それほど心配してくれているのだと感じられる。彼を安心させるためにも屋敷で大人しくしていよう。そのつもりだったのだが、今日はメルの巣に行こうと誘われ、久し振りに三人でお出掛けだ。しかしファルクスはすぐに出掛けてしまう。ここからどう行くのだろう。飛んで行くのだろうか。メルが送り届ける間はお留守番だろうか。

「下り専用の近道がある。魔術で強化すれば魔人の体でも耐えられるからな。お前は使うなよ。」

 魔術で強化しなければ耐えられない危険な道らしい。付き添いがいない時は近づかないでおこう。一度街まで降りられれば獣人や鳥人が運営する運送屋がある。素早い移動も可能だ。ファルクスなら部下の中にも移動を手助けしてくれる人がいるだろう。俺もミールウスが抱えて移動してくれたことがある。ファルクスの指示でまたどこかにお使いに出掛けているため、今回ミールウスはいない。

 名残惜しむように口付けと抱擁を交わす。そんなに長く帰って来られないのだろうか。メルには抱擁だけだ。もうメルのほうが大きいのに子どもに対するように抱き締め、頭を撫で、と出掛けて行った。卵から育てたなら実質我が子か。

「さっ、前回行けなかった所に連れてってやるよ。まずは魔花!」

 気分を切り替えるようにメルは先導してくれる。案内したい場所が沢山あるらしい。まずはと竜の体に乗せられ、竜鱗製の紐で固定される。落ちないようにしてくれるのは有り難いが、何かする前に一言教えてほしい。そう言いかけ、着地した場所の美しさに言葉を失う。広げた両腕くらい大きな花、その斑模様の肉厚な花弁は半透明で色鮮やか。ほとんど透明に近い箇所も不透明の箇所も混ざっている。どうだと自信満々なメルにも納得だ。本人が作ったわけではないが、これがあるからここはメルの巣になっている。俺も何だか居心地が良い。一週間は掛かるという話だが、勉強もしていればそのくらいあっという間だろう。

 勧められて魔花に触れる。魔力が流れ込む感覚があるが、ファルクスから貰う時とは異なり、冷水が背筋に流れるような少し怖い不快感を伴った。メルはなんてことのない顔で触っているため、同じ感覚は抱いていなさそうだ。メルから魔力を貰おうか。魔力の受け渡し自体は夫婦や恋人でなくとも行う。口付けはファルクスから魔力を受け取る場合にするだけのため、口付けをせずにメルから魔力を貰うこと自体は問題ない。

「直接の魔力はちょっと負担大きかったかな。元人間だもんな。」

 元人間であることが影響しているのか分からないが、メルも俺を抱きしめて魔力を送ってくれる。全身が熱い。送り過ぎだ。まだこの辺りの加減は難しいのかもしれない。一度止めてもらい、呼吸を整える。魔花の近くにいて少しずつ染み込むような魔力の吸収に留めよう。相手が変われば感じ取る魔力も大きく変わる。そんな当たり前のことを忘れていた。結婚してからはファルクスの魔力ばかり貰っていたからだろうか。メルの魔力はファルクスと全く異なる性質を持っていた。温度も、勢いも何もかも違った。ぼんやりとしてしまう心地良さは全くない。

「じゃあ魔力操作の練習に付き合ってほしい。魔花の上に魔力を少しずつ吐き出す感じ。俺も同じ場所に吐き出すから、その吐き出した魔力を二人で混ぜ合わせるんだ。」

 魔花の上では危険ではないだろうか。そう別の場所、例えばメルの巣の中にある小屋を提案すれば受け入れてくれる。体調悪化に備えて寝台に座り、倒れても怪我をしないよう対策も取った。これで魔力を合わせられる。目印になるようメルの鱗を一枚置き、そこに目掛けて魔力を細く吐き出す。ゆっくりと糸のように、メルの魔力とも絡めていく。焚き火に手を翳しているような熱さだ。ふっと集中力が途切れた。今日はここまでだ。また明日ここに来よう。


 夜寝る時くらいしか会えない日々が一ヶ月も続いた。ファルクスは色々対処したり、王都と弟グランス殿下の所を行ったり来たりと忙しそうだ。そのため、勉強の進捗も何も報告できていない。毎日メルの巣に行っていることも、だ。メルとも魔力を合わせ、繊細な扱いについて教えている。元々俺が得意としている分野だ。教えることでさらに磨きがかかったかもしれない。

「そろそろ魔花でやっても大丈夫そうだろ?」

 この一ヶ月で何度か言われたことだ。最初の頃は暴れる彼の魔力を俺が絡め取り、鎮めるような状態だったため全く大丈夫ではないと抑えていた。今も彼の魔力を俺が整える形になっているが、最初ほど荒ぶっておらず、少々落ち着いた波打ち方になっている。何故魔花の傍でしたいのか分からないが、確かに今の状態なら危険は最小限。ファルクスの予定が空いてから、傍にいてもらっている時にと思っていたが、まだ時間が掛かりそうなら先にやってしまっても良い。魔花は特別な場所という感覚もある。俺のことを気に掛けてくれていることも伝わっているため、少しくらい彼の願いを叶えてあげよう。

 相変わらず硝子細工のように美しい魔花。その花弁の中央に魔力を流す。メルと俺の魔力で糸を撚るように合わせていく。メルの指示で魔力の糸で鍋を作るように、そしてその鍋の蓋を閉じるように意識を変えた。小屋で魔力を合わせていた時とは異なり、全身に倦怠感が広がる。途切れることなく撚った魔力の糸は織られ、赤と淡い緑の混ざった石のような球体が魔花の上には乗っていた。

「本当に、作れるんだな。あっ、やば。」

 俺と同じような疲れた声に達成感が乗っているメルだが、途端に何かに気付いた。何かまずいことがあるのだろうか。面白い見た目の宝石だ。抱えるほど大きく、実用性はなくとも貴族の家に飾るには十分だろう。

「今すぐご主人様に報告に行こう。」

 焦っている様子なのに宝石は割れ物と大切に抱え、小屋に向かう。メルの落ち鱗で宝石を包み、俺にも大事にするよう念押しした。今戻ってもファルクスは忙しい。今日は俺の休日なのだから、夕方になってからでも良いだろうと言ったのにメルは竜に姿を変え、俺を背中に乗せる。外が全く見えないほど俺ごと包み込み、速度を上げた。真っ暗にはならないよう気を付けてくれているが、宝石が転がってしまっても通れない大きさの穴しかなく、その宝石も変形させた鱗でしっかり固定されている。

 体感では五分も掛からず屋敷に到着する。ただいまと言う暇もなくメルは慌てて扉をくぐった。宝石を渡し、早足のメルについて行く。両腕で抱え、扉を開ける役割も俺に任せている。一瞬たりとも宝石を片腕で持つ状態にはしたくないようだ。

「ご主人様!ごめんなさい!」

「仕事中だ。なんだ、それは。」

 挨拶もせずに謝罪するメルを見て、ファルクスは不思議そうな顔をする。そして何かに気付いたように笑い出した。ゆっくり説明しろと求め、メルの様子を観察している。メルはゆっくり説明と言われて少し落ち着いたのか、深呼吸を何度もしてから説明を始めた。

「卵、生ませちゃった。ごめんなさい、まさか本当にできるとは思わなくて。」

 いや、落ち着いてはいなかったようだ。卵とはなんだ。生ませた、とはなんだ。俺は産んでいない。魔力を撚り合わせ、魔花の上にそれを生み出しただけだ。宝石のように見え、とても硬かったこれが卵。竜は人間と繁殖方法も異なるのか。だとしたら、これは俺とメルの子になる。いや、駄目だろう。俺はファルクスの妻だ。それにメルは竜基準ではまだ子どもという話だった。魔力で生み出すなら年齢など関係ないという話になってしまうのか。性別すら関係ないのか。

 俺も一回落ち着こう。竜の子作りの方法なんて知らないのだ。メルが勘違いしているだけの可能性もある。しかし少なくともメルは子どものできる行為だと知って俺にあんなことをしようと誘ったのか。それは大問題だ。

「二人ともよく聞け。これは卵じゃない。」

 つまりメルの勘違い。浮気をしたことにならなさそうで一安心だ。それでもメルの行動は問題になる。好奇心で子どもができると思っているようなことをすべきではない。それと一体誰が、あれで竜は子どもを作れる、と教えたのかも問題だ。ただその前にファルクスはこの屋敷までの移動方法を確かめた。メルも悪いことをした自覚があるのか、素直に答える。

「飛んで来た。緊急事態だから仕方ないと思ったんだ。その、卵作っちゃったって思ったから。」

 本当に卵なら緊急事態だったため、この判断自体は間違いではないだろう。ヴェルート王国の人々は戦々恐々としているかもしれない。連絡を入れる必要があるとファルクスは文を認める。仕事を増やしてしまった。

 部屋で休んでいると良いと執務室を出される。メルも報告できて安心したのか、俺と一緒にお茶をしている。メルは俺のことをどう思っているのだろう。年齢としては俺より幼いが、子どもというほどではない。ヴェルート王国ならもう大人と認められ、仕事をする年齢だ。魔王国でも仕事はしている。子を作るということは夫婦や特別な間柄しか許されない。それは知っているのだろうか。

「世界樹が与えてくれる、って。だから魔花で魔力を合わせるんだ。」

 世界樹からの贈り物など小さな子どもに教えるような内容ではないか。育つにつれそれが方便だと気付いていくものだと思うが、メルは純粋すぎたようだ。俺から教えて良いものだろうか。非常に気まずい。人間ならそろそろ知らないといけない年齢だが、竜なら知らなくても良いのだろうか。好奇心で卵を作ろうとするなんてとんでもない。メルの倫理観はどうなっているのだろう。

 侍女の用意してくれたミルクティーを飲み、言葉を選ぶ。まずはいつ、誰から聞いたのかを確かめよう。

「昔ファルから聞いた。あとラクエウスとかミールウスも言ってた。」

 ヴェルート王国で子どもに教える感覚と同じだ。これは責められない。竜としては子どもだが、人の姿はもう大人と遜色ない。表情が幼い程度だ。子どもを作る能力面は分からないが、しっかりと教えるべき年齢だろう。まず子どもを作る責任の話からすべきだろうか。好奇心で作ろうとしては困る。それとも魔力を合わせる以上の特別な触れ合いを伴うと教えれば理解するだろうか。

 俺とファルクスがしていることの一部を教える。俺達は子を為すことができないが、それでもメルに教える第一歩としては妥当だろう。共に入浴し、共に眠り、互いに口付け、素肌に触れ合う。これ以上はまだ早いだろう。

「ふーん。基本的にしちゃ駄目、ってことだ。」

 そういうことだ。上手く伝わっているか不安だが、ひとまず事故は避けられそうだ。俺はファルクス以外と入浴しない。夫がいるからと他を全て拒める。メルを拒んでも傷つけることはない。

「確かに魔力を合わせるのとキスするのとだったら、キスのほうがハードル高いな。」

 その感覚は持ってくれているらしい。俺としてはメルと魔力を合わせることも避けたい。多少慣れたとはいえ、負担は大きかった。魔力の相性なのか、操作能力の差なのか。ファルクスの魔力は心地良い。熱くなることもあるが、不快感とは異なる感覚だ。

 話題を変えよう。メルは幼い頃どうしていたのか。両親とファルクス達に育てられ、元気にしていたような話を聞いたことはある。妹や弟はいないため、竜の赤ん坊や卵を見たことはないのだろう。だからこそ、あの宝石を卵と誤認した。

「竜の知り合い自体少ないからな。親以外は知らない。ずっと東のほうに行けばいるらしいけど、俺は行ったことないし。」

 竜は数が少ない。そう書物にはあったが、魔王国内に少ないという話なのかもしれない。ずっと東、なら十分に数を把握できているわけではなさそうだ。魔王国で生活していないなら必要のない情報なのかもしれない。興味はあるが、先に学ぶべきは魔王国に住む種族、さらに優先すべきはファルクスの領地に住む人々のことだ。夏に向けて、二種族についてより深く学ばなくてはならない。休憩時間に竜についても深く調べてみようか。

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