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騎士の俺がお妃様!?  作者: 現野翔子
コンシアンス王国編

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国王陛下の信頼

 国王陛下の体は見る見るうちに健康体へと戻っていった。遅延行為を行わなければこんなものだ。少しずつ書類にも目を通されるようになり、国境付近の兵備に特別の関心をお持ちだった。まだ王太子殿下に仕事を任されているが、いつ戻られるか分からない。そろそろ日常生活は問題なく送れているため、俺が魔人化した人間だと教えてみよう。

 午前に今までの報告書や現状を纏めた書類を確認し、昼食後の休憩時間を経て軽い運動、それから運動後の体調確認。王太子殿下はまだ暗殺を諦めていないのか、それとも陛下に恨みのある者も多いのか、飲食物には未だ化粧品や毒草の類が混ざっている。先にこちらの詳細を伝えるべきだろう。本人もどんな立場なのか理解してくれたほうが、口に入る危険を減らせる。

「恨まれることなど分かっている。戦場で散っていった者の遺族は憎らしく思っているだろうな。だが、涙を飲んで攻めなければ、より多くの犠牲を生むのだ。ただ魔王国との国境近くに生まれただけの無力な民も、その慰問に向かった彼女も、何の罪も戦う力もないのに奪われた。」

 拳を握り締められる。その奪った相手は本当に魔王軍なのだろうか。確かに魔王国内に武力を以て侵入しようとした相手には応戦し、死なせたこともあっただろう。魔王国民にも犯罪者はいるため、そういった者がコンシアンス王国に侵入し、コンシアンス王国民を殺害するような犯罪行為もあったかもしれない。本当に人が殺したのか、魔物が殺したのか、判明していない部分も多い。魔物に殺された前提で話を続けてみようか。魔花から生まれた獣が人を襲った。痛ましい事故だ。これを魔王国の仕業と思っているのだろうか。ほんの少しの疑問として陛下に問いかける。

「魔物は魔王国から侵入してくる。送り込まれていることは確かだろう。」

 国境付近には魔花がある。だからそこに人は住まず、大雑把にその辺りが国境となっている。そこから魔王国側にもコンシアンス王国側にも魔物は流れ込む。ヴェルート王国との国境と似た状態だ。異なる点は国境付近に関する取り扱いが話し合えていないこと。知性があるように見えない魔物が誰かの指示に従えるように見えるのかも疑問だ。あまり言い募っては不信感を与える。先に俺のことをどう思っているのか聞いてみよう。

「感謝している。褒美は何が欲しい?可能な限り叶えよう。」

 本心に聞こえるが、魔王国との友好の一歩なんて聞いてもらえるだろうか。何も説明せずにこんなことを言えば間者と疑われるかもしれない。魔人化した人間と言っても同じという懸念もあるが、そこはこの感謝の気持ちを信じよう。

 意を決して実は魔人化した人間だと告げる。しかし難しい顔でどういうことか詳細を求められた。言われて見ればそうだ。ファルクスに聞くまでは俺も魔人化するなんて言葉を聞く機会はなかった。魔人から魔力を多く受け取れば魔人化し、寿命が延びたり魔力が増えたりする。性格面への影響はない。俺が魔人化を受け入れた理由も伝えればより一層、魔王国への誤解は解けるだろう。俺はファルと運命的な出会いを果たし、結婚したことになっている。ファルを受け入れ、少しずつ体が変質した。魔人化し、魔人の夫と共にいる今の幸福も語っていく。妻としての演技だ。そう自分に言い聞かせ、愛しい夫の話をする。惚け話をどこまで言うか迷いつつ、思いつく限りを続けた。魔力の受け渡しに不必要な口付けを毎日繰り返し、そもそも魔力を受け渡す必要もない時にも口付けと触れ合いの時間を過ごす。人間の寿命を大きく超えた時間で習得した魔術や剣術、入手した多くの知識で俺を守ってくれている。立場や人種の違いから寂しさを抱かないよう、傍にいてくれる。俺の自由を約束し、その上で共に在りたいのだと、俺に興味があるのだと離れている時間のことを聞く。そうして愛に満ちた時間を伝えるほどに陛下の疑念に満ちた表情は微笑ましいものに変わっていった。魔人は恐るべき人間の敵ではないと信じてもらえただろうか。

「彼が魔人の中の異端とは考えないのか。」

 魔人自体がそもそも少ない。魔王とその子孫のみが純粋な魔人であり、その他は魔人化した他種族だ。俺にとっての特別な相手はファル一人だが、他の魔人達だって世界征服を目論んでいるわけではない。ただ自分達の領土と民を守ろうとしているだけだ。少なくともこの数百年は魔王国側から侵攻していない。コンシアンス王国の記録ではどうなっているのだろう。

「こちらの記録では魔王国からの侵略に対抗し、悪の根絶を掲げ、魔王国に侵攻した記録はある。だが、その魔王国からの侵略者はおおよそ人の姿ではない。」

 魔物か、動物の形態を取っている獣人や鳥人、あるいは竜。魔人は魔術に長けるため、姿を変えていた可能性は残る。理性のない侵略者なら魔物の可能性が高いように思えるが、それを証明する術はない。現在のことなら捕まえて魔物だと示せるが、侵略者の骨もないなら過去に関しては難しい。ただ、陛下が魔王国からの侵略者が人の姿ではないと言ってくださったことは、それが魔王国の支配下にない魔物の仕業の可能性を受け入れてくださっていると考えて良いだろう。話し合いの余地くらいは生まれたのではないだろうか。

 期待に応えるように、陛下は侵攻の再開を保留にしてくださった。今すぐに友好への道を進めると決めることは難しいだろう。急に今までの考えを改めることも、その姿勢を周囲に見せることも混乱を招く。大臣や他の貴族達との話し合いも必要になるはずだ。今は亡き側室様への想いもどう消化するか迷われることだろう。復讐という方法ではなく静かに弔うことを提案したいが、そこに踏み込めるほどの仲ではない。ここは陛下からの言葉があるまで触れずにいよう。俺の親のような年齢の方だ。ご自分で一つ一つ飲み込まれていくことだろう。

「クリスタロ神国については知っているか。」

 知らないわけがない。この世界に生きていてクリスタロ神国について知らないのはよほど物知らずか監禁されている子どもくらいだ。ヴェルート王国でも対魔王国の中心、聖女と勇者を抱える一大軍国、宗教国と習っている。魔王国では厄介な国扱いと聞いた。国境を接していないのに強く敵視し、何度も兵を送ってくる。そうかといって国境を接している協力国に侵攻すれば、それを大義名分にさらなる兵が送られた記録がある。無用な争いを避けることは魔王国の労働力を軍事力以外に回せるということ。そのためにファルクスを始めとする現魔王に連なる方々は友好のために動いている。ファルクスの作戦は現状成功しており、ヴェルート王国は魔王国と休戦し、交戦のない百年を実現した。この前の一件も犯罪者の仕業として処分された。引き続きジョストラ辺境伯を通じてやり取りしているようだ。

 そのクリスタロ神国はコンシアンス王国に対して魔王国侵攻に関する支援を行っている。コンシアンス王国内部にはクリスタロ神国から派遣された兵も多く、簡単に方針を変えられるわけではない。魔物に殺された側室様の無念を晴らすためにも、すぐに答えは出せないようだ。魔王国侵攻は復讐にすらならない。そのことを話しつつ飲み込まれているのか、しかしそれならどうするという疑問は抱いたまま。毒の影響は排除したとは言え、まだ完全復活とはいかない。今は王太子殿下が代わりに政務を行われており、王妃殿下の代わりも王太子妃殿下が務めておられる。それで十分回っているのなら、その心身を癒やすために休養されても良い。治癒士として呼ばれた身を活かし、国のことを考えずに済む立場、つまり引退することを軽く勧める。

「王太子は何度も休戦の提言をしてきた。民の窮状に思うところがあったのだろう。君が魔人なら、彼女を殺した魔物と無関係であることも理解できる。今しばらく、王太子に預けてみても良いのかもしれんな。」

 失った側室様の話をしている時、声に力が入らなくなった。復讐先を見失い、恨みよりも悲しみが勝ったのだろうか。本人にとってはどちらが良いなんてこともないのだろうが、周囲としては復讐に巻き込まれるくらいなら悲しみに浸っていてくれたほうが良い。結論を出されても決定を伝えるには俺が邪魔だ。少し一人で過ごしていただこう。王太子殿下にももう毒を盛る必要はないことを伝えたい。また食事の時間に戻ると言い、お傍を離れる許可を頂いた。

 行って急に会えるわけがないと思いつつ使いを出せば、王太子殿下も俺に会いたがっていると面会を許可してくださった。部屋では人払いを行い、進捗を求められる。俺からも報告したかった内容だ。今まで盛られていた毒は全て俺が排除し、少しずつ解毒を進め、現在は治癒せずに療養すれば良い体調にまで戻っている。それは少しずつ政務に取り掛かる陛下の姿から把握されているだろう。最も伝えるべき内容は陛下が戦争の継続を保留にされたこと。クリスタロ神国との関係性も引き合いに出したということは、少しでも休戦に向けての意識が生まれているということだ。魔物と魔人の違いは理解していただき、魔王国への侵攻が亡き側室様の無念を晴らすことにならないとも分かってくださった。今なら王太子殿下への継承も穏便に話し合えるのではないだろうか。

「感謝する。穏便な継承であれば反発も減る。最も良い結果だ。毒に関してはもう少しだけ警戒を続けてくれ。」

 犯人の捜索などの話はない。王太子殿下の指示で毒を盛っていたのなら咎め立てることは可哀想だ。その指示の訂正が行き届くまで、まだ毒入りの水や食事は届く。やはり陛下のお傍を長時間離れるにはまだ早い。その間にさらに陛下の信頼を勝ち取り、クリスタロ神国について聞き出していきたい。王妃殿下も何かご存知だろうか。親友を失った悲しみはお持ちだが、その復讐のために夫を失うことも本意ではないだろう。国王陛下が元気になられた今、王妃殿下の説得も上手くいきそうだ。

 王太子殿下との必要な会話を済ませ、王妃殿下への面会を求める。こちらは国王陛下の見舞いに来られていたため、その時間にお邪魔させていただく。二人も俺を交えてしたい話がおありらしい。

「話は聞いたわ。私達はあの精鋭達が国境を越えて来ない違和感を無視しすぎてしまったのかもしれないわね。」

 襲撃を受けている。それなのに国境付近に配備された十分な兵は国境を越えない。確かにそれは違和感があるだろう。きっと本気になれば魔王国はヴェルート王国とコンシアンス王国を同時に相手できる。現状魔王国第二王子軍のみが出ているのだ。第一王子軍には竜もいる。魔王軍にはもっと大きな竜と過去には勇者と呼ばれたお方も聖女と呼ばれたお方もいる。総力を上げればこの大陸を支配することも不可能ではない。

「彼女の無念を晴らしたい気持ちはまだある。だから魔王国侵攻ではなく魔物殲滅のための作戦を立てるべきだと考えているの。」

 国王陛下は心身の衰弱もあり迷っておられたが、王妃殿下は既に次にすべきことを見出されている。魔物は魔力の放出される結晶、魔花から無限に生み出される。今いる魔物を全て殺したとて、また生まれてくるため殲滅は不可能だ。それでも倒し続けることが人にできる最大の抵抗。魔王国でも魔花を監視し、人里に魔物が降りて来ることのないよう管理している。ヴェルート王国でもしているのだ。同じことがコンシアンス王国にもできるだろう。最初にすべきことは国内全ての魔花の把握。魔王国の方針も伝え、国境から兵を撤退させればその分の人員を魔花の捜索に充てられる。復興のためにも人員は必要なため、どこまで割けるかによって発見の時間も左右されるだろう。

「せめて場所の検討だけでも付けば良いのだけれど。民の心を想うなら、代替わりが良いかしら。戦争を推し進めた国王と王妃のままでは、いつまた戦乱の時代に戻るか分からないと不安でしょう。今なら療養を口実にできるわ。何かあれば助言程度ならできる。最終決定はあの子達に任せましょう。大丈夫、頼りになる二人よ。」

 主導権は王妃殿下にある。これから代替わりの儀の準備も進められるそうだ。この状況だからこそ盛大に執り行い、時代が変わることを民に示す。貴族達にもこれから従うべき相手を示す。そのために重要な儀式だ。ここはコンシアンス王国内のことのため、俺達が関わることはない。協力するとすれば魔花の捜索の部分か。一つ見つかればその周辺にはない。一つも見つかっていないなんてことはないだろう。一つでも分かればそこから次の魔花のある範囲は絞れる。十分現実的に捜索できる範囲だ。その協力なら俺達でなく、知識のある魔王国民でもできる。問題は受け入れてもらえるかどうかだが、俺達の協力者として人間の姿で入り込んでもらうことはできるだろうか。

 俺の提案は二人に受け入れていただけた。ほとんど王妃殿下がお話されていたが、国王陛下も納得はされているようだった。まだ頭は十分に回っておられないのかもしれない。王妃殿下は国王陛下が元気になったためか、むしろすっきりとした顔で判断を繰り返している。魔花捜索の人員を魔王国から派遣するならファルへの相談が必要だ。まだ国王陛下の食事を検査するため長く離れられない。王宮に彼を呼び寄せたいが、許可は得られるだろうか。

「夫が魔人なのよね。素敵よ、愛は全てを超越するのだから。また明日、ここで相談しましょう。」

 魔王国王子であるとは明言していないが、魔王に連なるという話はしてしまった。人員を呼び寄せるための権力については何も話せていない。話す必要があるかどうかも、ファルと共に決めたい。魔人であることを受け入れてくださったなら、そのことも話して良いだろうか。信頼できる人格の持ち主だ、とはファルにも伝えよう。一番の峠は乗り越えた。今夜はよく眠れそうだ。

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