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騎士の俺がお妃様!?  作者: 現野翔子
コンシアンス王国編

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道を得る

 奥様と十分に話していただくため、夕食の時間まで旦那様の部屋に行くことは控えた。ふいに時間が空いてしまったが、何をして過ごそう。久しぶりに何も考えない時間を過ごせそうだ。庭を一人で歩かせていただいても良い。ファルはどうしているだろう。たまには町に出掛けることも許されるだろう。そう思わぬ休日に浮かれていたのに、ティミド様に呼び止められた。

 ちょっとお話、と軽い調子の部屋への誘い。ティミド様は反戦派であり、特別対立する理由もない。父親の新しい愛人に見える俺が気になるのだろうか。私室に連れ込んだのにじっと顔を見るだけで何も仰らない。にこりと微笑んで見せても特に反応もない。少々居心地の悪い視線だ。

「少し気になって君達のことを調べさせてもらった。」

 羅列される情報は俺達が知られても問題ないと思っている演技を始めてからのものだ。夫婦として村を回っていたこと、ヴェルート王国から来たこと。重大な秘密を知った、弱みを握ったような態度が不思議だ。そう話の続きを促すと、家を乗っ取ろうとしているのでは、と質問された。ここは戦争を止めるために動いていると素直に答えよう。治癒士という立場を存分に活かせば真剣さは伝わるだろう。旦那様とは男女の仲ではない。ティミド様が心配されるようなことは何も無い。

「それならアルバトロス公爵家に紹介しても構いませんね。」

 今はどこも治癒士が足りていない、彼らなら効率よく使ってくれる、と安心材料をくれる。家のことは自分たちで解決できる、クランティフ公爵家は反戦派だ、と宣言までしてくださった。奥様とも十分話し合いをされているのだろう。しかし話はそれだけでは終わりではないようで、少しだけ言い淀んでから言葉を続けられた。

「姉の、ラフィネの様子も教えてください。手紙一つくださらないので、分からないのです。以前見かけた時は夫の隣で笑っていましたが、それしか知らないのです。」

 こちらが目的だろうか。ラフィネ様の様子をティミド様に教える。幸せにやっているのかどうかを知りたいだけなら、教えないよう言われることもないだろう。いずれにせよさらに高位の家に繋がる機会を頂いた。そう紹介を感謝すれば、疑念の目は向けつつも旦那様の下へ連れて行ってくださる。俺も同席させた上で話し合おうとされているのか。俺にとって悪い展開にはならないだろうが、何だか怖い雰囲気だ。

 緊張しつつ旦那様の部屋に戻れば、奥様と真剣に話されていた。結論は出せたのだろうか。それを尋ねる前にお二人はティミド様の話を聞かれる。俺への疑いとアルバトロス公爵家への紹介。つまりは疑わしいからこの家から俺を引き離そうという話だ。俺としては目的に一歩近づけるため歓迎できる。ファルも一緒なら心強い。

「アルバトロス公爵とアルエット君に鳩を飛ばそう。殿下にも連絡が必要だな。戦場の兵は全て引き上げる。領民への説明は、ユムール、一緒に来てくれるか。」

「もちろんよ。私一人でも十分だわ。」

 復讐に燃える領民を怖がっておられるようなのに、自分も行く点は譲らない。領主としての責任は感じておられるのだろう。直接の説明などないことが基本なのに、自ら赴かれるつもりのようだ。これからは夫婦で存分に話し合っていただくとして、俺達は結局どこに行けば良いのか教えていただきたい。

 一つずつ順番に教えてくださる。アルバトロス公爵家領は西部にある。ラフィネ様は愛人オネット様の二人目のお子さんらしいが、オネット様はあまり関心を示されなかったそうだ。

「私も気に掛けるようにはしていたのだけれど、それでも少し気まずそうだったのよ。だから早々に婚約者を付けて、そちらで面倒を見ていただくようにしたの。」

「西部はまだマシだ。クリスタロ神国からの干渉はあるようだが、アルバトロス公爵家なら跳ね返せる。だからラフィネにはそちらにいてもらっている。」

 愛人の娘のことも奥様は大切にされた。魔王国へ攻め入っていたコンシアンス王国貴族なのに良い人だ。これは戦争が止められなかったら非常に辛い思いをすることになりそうだ。気まずいどころでは済まないだろう。

 続けて旦那様は連絡を入れる殿下についても話してくださる。その御方は戦場におられる第二王子殿下であり、臣下にも恐れられるほどの剣の達人。獣人と斬りあった逸話もお持ちらしい。魔王国との関係や戦争に対する意見などは不明。ただ国王陛下の指示に従っておられる。その国王陛下が積極的に戦争を推し進めており、同じく戦争に対して積極的な貴族を重用されているそうだ。魔人への恨みなどに関しては不明だが、戦争をしている以上、魔王国との敵対関係は続けるつもりと分かる。

 ファルと相談すれば今すぐ戦場に向かうかどうかも決められる。旦那様の容態も安定し、反戦派になると聞かせてもらった以上、ここに留まる理由はない。その人となりや本人の意思も確かめたいところだ。

「王太子殿下は反戦派だ。無闇に攻撃しても無意味という立場で行動されている。」

 魔王国との友好に積極的な立場というわけではないようだ。友好云々は終戦協定が結べてからの話か。王太子殿下に鳩は飛ばしてもらえるだろうか。手紙の中身を見られないように気を付ければ、魔王国第一王子とその妻としての書状を届けられるかもしれない。危険過ぎるだろうか。これもファルに相談だ。俺だけでは結論を出せないとこの場を辞する。ファルは今オネット様の傍にいるそうで、旦那様の指示を口実に連れ出す許可も頂けた。有り難くオネット様の部屋からファルを連れ出すが、やはりオネット様は俺のことを敵だと思っておられるようで酷く睨まれる。女狐だの何だの言われたが気にしない。もうこの家を離れるのだ。もう少しだけ直接的な攻撃を我慢していただければ何の不満もない。

 旦那様達との話をファルに伝え、第二王子殿下に近づく良い機会だと勧める。戦場に向かうことになるが、上手く行けば戦闘だけでもその場で止められる。駄目でも俺達が戦いに参加するわけではない。旦那様からの鳩も飛ぶ。俺達が着く頃には紹介も済んでいるはずだ。

「行こう。この家はもう十分だ。」

 俺と同じ結論に達した。早速と旦那様に伝えれば、既に文を認めていると鳩を飛ばされた。俺達も出立しよう。元々旅を続けるつもりで荷物は少ない。心配した旦那様が食料など多く持たせようとしてくださったが、荷物が増えれば移動時間が延びる。最低限怪しまれない程度の食料だけ頂き、すぐに屋敷を出た。

 治癒士の女性の振りは続ける。それでも少し緊張感の薄れた時間だ。オネット様とはそんなに長く一緒にいなかったのか、密着することがなかったのか、ファルからも他の女の匂いはしない。

「お前は旦那様の膝の上を確保するのに、俺には少しの触れ合いも許さないと。なるほどな、良い傾向だ。シャワーの代わりに上書きさせてもらおう。」

 移動中の休憩時間に寝る前の口付けのように触れられた。魔力は心地良いが、これではこのまま眠ってしまいそうだ。そう軽く抵抗し、少しの魔力に留めてもらう。遊んでいる時間はないのだ。ファルにとってこそ重要な時間だろう。魔王国への襲撃を止めるために急ぐのだ。

 休憩もほどほどに足を進める。東部は訪問者への警戒心が強いと確認済み。わざわざ立ち寄ることはせず、なるべく避けて第二王子がおられるという拠点を目指す。村の跡地が利用されているようで、荒れた畑に兵士の姿があった。家も利用されているようだが、天幕も張られている。見張りに伝えればセルペンテ家の家紋を求められた。十分に話が通っているようで、それだけで拠点内部を案内される。治癒士が十分に確保されているここに俺の出番はない。怪しまれないだろうか。そうならないための旦那様の連絡がどこまで効力を発揮するかが問題だ。

 案内された家では気品のある男性が騎士らしき人達と会議をしていた。急いで来たため、手紙にあった日付より早く着いているかもしれない。数日くらい待つと伝えるが、今すぐ話したいと人払いをしてくださった。気品のある男性が第二王子殿下だ。他の騎士も体格の良い人ばかりだったため気にならなかったが、目の前に立つと圧迫感が増した。

「お前が女装の治癒士か。」

 ばれていた。あれだけ密着すれば当然か。鈍感な人なのかと思っていたが、分かっていて黙っていてくれただけだった。何か事情があると思ってくださったのかもしれない。やはり優しい方だ。外ではファルの妻で通していることを伝え、他に旦那様からは何を聞いているのか尋ねる。

「優秀な治癒士と聞いた。毒の治療を行ったと。」

 毒のことも伝えているようだ。魔力があまり多くないため、大怪我の治癒は得意でなかった。その分知識と器用さで補おうと研鑽に努めた。毒の種類は調べられるだけ調べた。入手できる範囲ではどんなふうに感じられるのか魔力で調べることもした。戦場での治癒ではあまり求められない部分だ。大量生産可能な毒は治癒できる人も多く、常備薬もある。それより酷い裂傷や骨折を多く治せる人のほうが重宝される。旦那様に使われた毒は大量生産に向かないが、貴族なら簡単に入手できるような物だ。俺も試してみたことのある毒だったため、解毒も難しくなかった。

「なるほど。それで、何が目的だ?わざわざ女装してまで侯爵家に入り込み、戦場にいる王子にまで接触を図るくらいだ。よほど大事な用件があると見る。」

 戦争を止めてほしいと言って、斬られないだろうか。いや、そうならないために治癒士として紹介を受けてきている。気に食わなくても帰らされる程度だ。そう覚悟を決め、魔王国との無謀な戦争を止めるためにヴェルート王国から入ったことを伝える。同時にヴェルート王国での出来事も語れば信憑性は増すだろう。ヴェルート王国の民に大きな被害はないが、それは第二王子の独断による戦だと判断されたから。関わった貴族は全て代替わりしている。魔王国侵攻を決めた第二王子は処刑された。貴族の一部は何者かによって殺害されており、魔王国側の間者によるものと考えられている。魔王国が本気を出せば皆殺しにだってできるだろう。そんな危機感がヴェルート王国にはあると偽る。魔王国第一王子がヴェルート王国との友好を望んでいるから、ヴェルート王国の民は生存を許されているのだ。

「圧倒的な実力は私も見ている。多くの兵を殺すことなく無力化するほど、奴らは余力を残している。」

 何かを話しかけ、口を閉ざす殿下。散歩に行こうと拠点の外まで連れ出された。人払いしてなおあの場所では話せないことでもあるのだろうか。質問を許される雰囲気でもなく、ただ黙ってついて行く。周囲を確認し、誰もいないと前置きし、先程の話の続きを始めた。

「少しずつ死人は出ている。兵も疲弊している。恨みだけを心に戦い続けられる人間は多くない。もう限界に近いのが現状だ。」

 現場は戦争を早く終わらせてくれと思っている。殿下は終わらせるつもりがおありなのだろうか。その質問には答えることなく、俺が毒に詳しいことを確認された。治すために学んだ結果、少し作り方も覚えている。毒の成分を無効化するために調べる過程で、その毒の抽出の仕方も学んだのだ。

「そうか。陛下は耄碌された。私の言葉も兄の言葉も届かない。」

 王子なのに国王に対して他人行儀だ。王族ならこんなものなのだろうか。ヴェルート王国の王族も家族としてどのような関係だったかなんて俺は知らない。そこを知るほど親しくはなかった。王太子殿下が妹王女を大切にしていたことは知っている。騎士に女装させ、魔王国第一王子に近づけるほどだ。

 コンシアンス王国第二王子殿下は切り替え、一つの方向を指し示した。

「アルバトロス公爵からアルエットとラフィネを預かっている。彼らに会ってみてくれ。」

 それなのに彼らに関しては情報をくれず、拠点に戻された。殿下に言いつけられた部下の一人がまずアルエット様の所まで案内してくださる。普段はアルバトロス公爵領の領主軍に勤め、今回は治癒隊とその護衛のみを率いる形でここまで来られているそうだ。

 今は何か紙を眺めておられた。声に気付くとすぐに片付け、対応してくださる。相貌は俺と変わらない年齢に見えるが、物腰はもっと年上の男性に見える。公爵家の方のため観察を切り上げ、失礼のないよう令嬢の礼をする。ファルも平民らしい礼に留めた。どうしてここに案内されてきたのか説明すれば、楽しそうに笑われる。何かご存知なのだろうか。

「俺の妻も紹介するよ。今はまだ忙しいかな。少しで良いから手伝ってくれると助かる。」

 アルエット様自ら怪我人の集められている天幕まで案内してくださった。俺の治癒術では手伝い程度にしかならないが、少しでも出血を止めるよう力を尽くす。今夜は多めに魔力を頂こう。戦場で貴重な食料も俺達のために使わせる必要はない。俺達はコンシアンス王国軍の壊滅ではない方法で戦争を止めようとしているのだ。

 今いる怪我人の治癒を終え、眠っている彼らのためにと声の聞こえない距離まで連れ出される。一緒に来られた女性がアルエット様の奥様なのだろう。アルエット様の熱い抱擁を受けておられる。まだゆっくり会話はできないようだ。最も忙しく動かれていた治癒士の彼女はお疲れだろうに嬉しそうに応じられている。アルエット様とは対照的な銀髪に緑目をお持ちで、並ぶと互いの色合いを強調しているようだ。彼らに感化されたのかファルも俺に口付け、魔力を流し込む。多くの魔力を消費してしまったため有り難いが、控えめにしなければ思考が鈍る。物足りないくらいで止め、彼らに何も言われないうちに自己紹介を行う。アルエット様から彼女の紹介も行われた。優秀な治癒士のため、こうして戦場に同行されている。表情こそ柔らかいが、こうして怪我人をずっと見ているような環境でそうできるほど強い女性だ。

「優秀な治癒士なんて褒めすぎだわ。私は私にできることをしているだけだもの。」

 優しい微笑みも可愛らしい少女ではなく強く格好良い女性のものに見える。先程まで怪我人の手当を行っていたことはその服に付いた血からも分かる。しかしこちらも落ち着いた様子で、それが戦場での日常だと態度で示していた。

 アルエット様も自分達だけではできることに限りがあると仰った。人手が圧倒的に足りていない、と。その上で戦場に留まることへの疑問も発せされた。

「確認だが、殿下は間違いなく仰ったんだな。陛下は耄碌された、と。」

 間違いない。他人が言えば不敬になりそうな耄碌という言葉も使われていた。何故かそれを俺達に聞かせ、それからアルエット様とラフィネ様に会うよう仰った。

「他人の魔術で生み出された毒は治癒できるのか。」

 解析に時間が掛かるため、その間に手遅れになる場合もあるだろう。解毒も生み出された毒の場合は一つ一つ異なる対処が必要なため、動植物由来の物や鉱物由来の物に比べて時間が掛かる。経験したことのない毒相手になることも考えられるため、必ず解毒できるとは言えない。

「既に体内に取り込まれた毒でも解析できるのか。」

 体内にある状態で解析できなければ意味がない。解毒したい場合の多くは既に取り込んだ後、体調を崩してからだ。取り込まれる前の状態で傍にあるとも限らない。

 返答を聞いてか、アルエット様は数秒考えられた。しかしすぐに懐から小瓶を出される。ラフィネ様に何か囁き、ラフィネ様は魔術を用いてその瓶を透明な液体で満たした。

「これが何なのか分かるか。解析してみてくれ。」

 まさかラフィネ様が魔術で毒を生み出されるのか。毒と薬は表裏一体。しかし毒は歓迎されず、作れたとしても秘匿するもの。そうしなければ無実の罪を着せられかねない。初対面の俺達に明かすなどどういうつもりなのだろう。驚きつつも慎重に解析する。魔力を通じて香りや味、音に例えられる感覚を鋭敏にする。甘く柔らかな、少しの鋭さを含むこれは過剰に摂取するようなことがない限り、人体に害のない物だ。ただの砂糖水。確かに生み出すことができれば珍しいが、毒と言うほどではない。

「特別感を出して少量だけ与えれば薬にもなるわ。特に精神を病んでいらっしゃる方には効果的よ。」

 甘い食べ物は気分を上げる。それは分かるが、何故あんな意味深に渡されたのか。毒かと身構えてしまったではないか。言い方に気を付けつつ苦情を入れれば、ラフィネ様は小瓶を握りしめ、中身の色を変える。再び解析を行うと今度は毒だ。入手も簡単な芋由来の毒で、効果もこの量なら少し腹痛がする程度だが、毎食カップ一杯分ずつでも摂取を続ければいずれ胃に穴が空き、内部から体を破壊していくだろう。

「解毒してみてくれ。」

 指示されるままに解毒を行う。植物由来の毒なら得意分野だ。簡単に解毒できると見せれば感心された。彼らのお眼鏡には適っただろうか。

「しばらくアルバトロス治癒隊の一員として動いてくれ。ファル殿は俺の雑務の手伝いを頼む。薬や包帯の調達にも人手はいるんだ。」

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