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騎士の俺がお妃様!?  作者: 現野翔子
魔王国編

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木果村

 鳥奏村の村長さんや途中から会話に加わってくださったメルのお友達からも話を聞かせていただけた。メルはファルクスに話を促されてもあまり話さなかったが、それも幼い頃の様子を想像する手助けになるだけだ。実年齢でも俺のほうがお兄さんなのだから、少しくらい子ども扱いしても良いだろう。

 その日の夜は鳥奏村に泊めて頂き、翌日隣の木果(もっか)村に移動する。村の外で一度着替える予定だ。木果村は栗鼠の村。その村を訪問するに相応しい衣装を持って、待ち合わせ場所にラパーチェが待機してくれている。木陰に隠れて着替えれば、森に潜む栗鼠の装いと褒められた。華やかな鳥の装いから一転、色合いが全体的に落ち着いている。鏡がないため分からない部分もあるが、黄色や桃色がなくなっており、色鮮やかな雰囲気はなりを潜めているだろう。丈の長いカーディガンから丈の短いボレロに変わり、お嬢様から森の娘に変わったような気分だ。スカートも丸く足を包み込んでおり、くるりと回転してもふわりと広がるような物ではなくなった。リボンも紐に変わり、それも枝のような色と意匠にされている。ファルクスは何と言って褒めてくれるのだろう。

 戻れば二人も着替えを済ませていた。どちらも色味が明るくなっており、俺よりも濃い栗色を含んでいる。いつも黒を含んでいるファルクスも今は新緑のジャケットに身を包み、シャツも白と明るい。俺のブラウスと彼のシャツ、俺のボレロと彼のジャケットが同じ色で、鳥奏村の時よりお揃い感が増している。スカートとズボンの明るさが異なる程度で、わざわざお揃いにするなんて新婚であると見せつけているようだ。もう言っても遅いが、せめて中の服と上着、スカートかズボンの色の位置を変えることはできなかったのだろうか。

「正真正銘新婚だ、何も問題はないな。お前も今回はヒールじゃない、走り回っても良いぞ。」

 ヒールでなくても夫人は駆け回って遊んだりしない。そうでなくとも俺だって大人になっているのだ。今は遊ぶ時間ではないと理解できる。ただ、ここで言い返しても微笑む彼に頭を撫でられるだけだ。俺が大人になり、引き下がってあげよう。

 メルも鳥奏村の時より明るい色合いの服に身を包んでおり、美味しそうな栗色のシャツを着ている。よく見れば鱗のような柄が栗のようにも見えてきた。羽の模様も枝の模様になっており、鮮やかな鳥の雰囲気は明るく落ち着いた付き人の服装になっている。ヴェルート王国では護衛の服装などいつでも制服だったが、ファルクスの意向では異なるらしい。

「ただの護衛ではないからな。そんなものは必要ない。メルにも似合うだろう?」

 ファルクスは人を着飾るのが好きなのだろうか。俺としては鳥奏村に行っていた時の濃い紅と緑の服装のほうが格好良く、見ていたくなった。これも似合ってはいる。褒めればやはり照れたように笑い、俺のことも褒めてくれた。

 気分の良いまま木果村だ。ほど近いという話のため、少し歩くだけで栗鼠がちらほらと見え始める。これがただの栗鼠なのか、栗鼠の獣人なのか、俺には見分けが付かない。二人も何も反応しないため、ただの栗鼠なのだろう。村の入口では栗鼠のような耳の生えた人が出迎えてくださった。素朴な雰囲気で小柄なお爺さんだ。俺達への挨拶の中に、俺が甘い菓子が好きだと聞いたという話も含まれており、それに合わせて茶の用意をしていると教えてくださる。通るまでの木々も育てている物で、秋にはこの辺り一帯に木の実が散らばるという。今は白く小さな花々が愛らしいが、目を楽しませるだけでなく実りが彼らの生活を豊かにしてくれていると誇らしげだ。

 案内された会場も木々に囲まれており、テーブルクロスにも小さな葉やまだ青い木の実の刺繍が施されている。疲れているだろうと早速様々な菓子が並べられた。どれでも好きな物からと勧めてくださる。つまり一度に何個も食べて良いということだ。メルはやはり背後に控えているが、食べられないのだろうか。菓子より肉のほうが好きそうだったが、菓子も嫌いではなかったはずだ。使用人や護衛と同じ扱いなら家具のように扱うべきではあるが、魔王国ではそこまでの扱いではなかった。鳥奏村では村人とメルも会話し、交流していた。一緒に食べても良いだろうか。ファルクスに小声で許可を求めるとまた頭を撫でられた。

「村長、メルも同席させて構わないか?」

「もちろんですとも。席もちょうど一つ余ってしまいましたからね。」

 今回の訪問では全ての村で太腿に座らせるつもるなのだろうか。歓迎してくださっている彼らは当然俺とファルクスの席を別で用意してくださっているのに、また使っていない。別々で座ったほうが菓子は絶対に食べやすい。それなのに下ろしてくれるつもりがないようだ。第一ファルクスだって食べにくく、茶も飲みにくいだろう。まさか手を付けないはずはない。歓迎の時に出された物に一切手を付けないなど、仲良くするつもりはないという意思表示になりかねない。

 俺達の誘いと村長の許可を得て、メルも少々戸惑いながら着席した。礼儀作法は習わせていると聞いている。それでも少し緊張しているようだ。鳥奏村とは異なり、よく遊びに来ていた村ではないからだろうか。その二つの村の間に交流はあると聞いているが、メルの感覚では何か違うらしい。ともかくこれで一緒に菓子を食べられる。まずは何にしよう。俺のスカートと同じような色のムースや白い花が飾りに乗ったケーキなど様々だ。

「乗っている花も全て食べられます。奥様のお口に合えば良いのですが。」

 奥様。確かにそうだ。屋敷の人は名前で呼んでくれるため、未だに慣れない。いや、慣れてきてはいるのだが、毎回必要以上に反応してしまう。街を歩いていても奥様という呼び掛けに挙動不審な態度を取ってしまっている。その度照れて可愛いと言われることには慣れた。何も顔に出していないはずだ。今だって新婚に相応しい、初めての公務として可愛らしい妻を演じられているだろう。

 最初は小さく白い花の飾りが乗ったケーキにしよう。本物の花に見えるのに食べられるなんて面白い。ヴェルート王国では花のように作ったクリームや砂糖の組み合わせだった。今回の花は表面に艶があり、飴のような質感だ。しかし中身は透き通っておらず、飴細工のようには見えない。その部分だけ食べてみても、舌と上顎でパリパリと潰せるくらいの硬さだ。僅かに砂糖の甘さも感じられるが、その中にもう少し爽やかな果物のような甘さがあった。クリームはもう少し甘さが強いが、中身の生地が木の実の香ばしさを持っている。贅沢なひとときだ。

「お気に召したようで何よりです。こちらもいかがですか。」

 今度は栗のような形のクッキーだ。一口で入るほど小さい。こちらは甘さよりも香ばしさや刺激を感じる味だ。さらにパウンドケーキも勧めてくださる。フォークで切る感触もしっかりとしており、混ざるナッツの食感も面白い。甘さだけでなく塩味も感じられる。今回の訪問が終わったら特に気合を入れて鍛錬しよう。太ってしまいそうだ。

 ファルクスは茶を飲むばかりであまり菓子を食べていない。要らないのだろうか。せっかく用意してもらったのなら楽しまなくては失礼だ。メルは勧められるままにサンドイッチなどを楽しんでいる。俺がファルクスに座っているから食べにくいのだろうか。しかしここに座るよう誘導したのは彼自身だ。

「そうだな。俺の手は塞がっているから、お前が食べさせてくれるか?」

 嘘吐きだ。俺を支えるために手が塞がっていると言うが、それなら茶も飲めない。茶は飲んでいるのだから食べようと思えば自分で食べられる。仲睦まじい姿を見せるのが目的だろう。家でもこんなことをしないのに、なんてことをさせようとするのか。酷い人だ。ヴェルート王国の夫人や令嬢はどれだけ夫や婚約者と愛し合っていても、人前で物を食べさせ合ったりしない。町娘にはそういう子もいたが、積極的な子限定だ。俺は男同士でもあまりそういうことをしなかった。上手にできるか分からない。

 言えば言うほど村長さんの視線も生暖かくなってくる。メルも俺が色々言って抵抗している姿を不思議そうに見ている。ファルクスは相変わらず微笑んでおり、俺の葛藤を楽しむ余裕まで見せてきた。こういうことをしたいなら冬の間に練習すれば良かったのだ。いきなり本番で言い出すなんて、ただの意地悪だ。目一杯苦情を入れさせてもらおう。

「いつまでやってんだよ。」

「仕方ないだろう、フラールは恥ずかしがり屋なんだ。心の準備に少し時間が掛かるだけだ、なあ?」

 メルの発言も助け舟にはならなかった。ファルクスの言葉も上手く否定できず、俺は恥ずかしがり屋ということになってしまった。俺の不満が楽しいのか、恥じらいながら頑張る姿が良いと追い打ちまで掛けてくる。調子に乗った落とし前は屋敷でつけてもらおう。彼の言葉を借りて恥ずかしいからと拒んでやっても良いが、本当に恥ずかしがったわけではないと証明するため応じよう。初恋の乙女でもないのだから、このくらいは余裕だ。ただ練習もなしにいきなり言われたから不満があるだけ。そのことを勘違いしてもらっては困る。

 心の準備は整った。周りからどう見えるかなんて考えないほうが良い。夫の太腿に腰掛け、菓子に喜び、気に入った菓子を手ずから食べさせるなんて行動は人目を憚らない甘え方だ。深呼吸をし、自分も食べているナッツのパウンドケーキを差し出す。さほど甘くない菓子だ。甘い雰囲気にはならないはず。俺には見られながら戯れる趣味などない。

「美味いな。お前も続きを食べると良い。」

 中断していたのはファルクスが食べさせてほしいと言ったからだ。何を優しいふりをしているのか。じとりを視線を遣れば、フォークを奪われた。もっと食べたいのだろうか。それならもう一つ用意されている物を使えば良いのに、何をしたいのか分からない。そのフォークが俺の食べていたナッツのパウンドケーキを取り、俺の目の前に近づく。まさか俺に食べさせようとしているのか。これができるなら自分で食べられただろう。フォークを受け取ろうとしても渡してくれない。仕方なく口を開けば、香ばしさと塩味の菓子が頬を緩めてくる。これでは食べさせてもらって喜んでいるようになってしまうではないか。しかし振る舞っていただいている物を食べて顰め面をするわけにもいかない。これが作戦だろうか。なんだか負けた気分だ。

 菓子に夢中の時間は終わりだ。木果村について学んだことを活かしながらの会話に集中しよう。村長が話してくれたように、この村では木の実の生産が盛んで、それを加工した食品も多い。立ち入りに関する制限が設けられているわけではないが、小柄な者の多いこの村に立ち入る際は振る舞いへの配慮を求めている。令嬢教育を受けてきた俺には特別なことではなかったため、さらりと教わる程度だった。メルが緊張しているのも日頃のような行動は避けなければならないためだろう。

 顔見せや交流が目的のため、難しい内容はなかった。美味しいお茶菓子と会話を楽しみ、見送られる。彼らの姿が見えないほど離れ、木陰に隠れ、ようやく気を緩められる。まずはファルクスへの苦情だ。人前での必要以上の触れ合い、特に太腿に俺を座らせたこと、互いに食べさせ合う行為。あれらは本当に必要だったのか。

「領主夫妻が仲睦まじく領民を気に掛けているとなれば彼らも安心するだろう。可愛いご令嬢が来たと分かれば喜びもする。お前を知ってもらうのに良い方法だ。」

 わざとらしい演技は必要ない。むしろ大袈裟に演じていれば不自然さも目立つ。そうしなければならない理由でもあるのかと勘ぐらせてしまうだろう。不仲ではないと分かる範囲の、常識的な対応をすれば十分ではないか。夫婦として互いへの尊重があれば領民を不安にさせることはない。深く愛し合っている姿ではなく、信頼し合っている様子が見えれば良い。何が言いたいかと言うと、互いに食べさせ合うなんてよほど周りの見えない馬鹿な恋人同士しかしないだろうということだ。

 言いたいことを言っても、ファルクスは微笑ましいものを見る目で俺を見てくるだけ。メルも俺が何を言いたいのか分かっていないような表情を浮かべている。食べさせ合うなんて不満、と簡潔に言ってようやくその部分だけ伝わる始末だ。

「照れてるだけ、に見えたけど。ちょっと食べさせ合うくらい普段もしてただろ。何を今更」

「メル、あまり指摘してやるな。本人は真面目に言ってるんだ。」

 余裕の態度にも腹が立ってきた。俺は真面目に言っているが、ファルクスは真面目に受け取っていないらしい。普段は人前で食べさせ合うなんてしていない。この前メルに一瞬見られただけだ。二人きりの時だって頻繁にしているわけではない。手を繋いで歩くなどの行為の際も自然に見えるよう、それ以上の行為も練習しようという話をしていただけだ。

 必死に言い募れば言い募るほど、俺が恋愛結婚したご令嬢のようになってしまう。ファルクスの謝罪も心が込められているようには聞こえない。また改めて、機会があれば追求してやる。今は次の村に行く予定があるから、一旦保留にしてやるだけだ。

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