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騎士の俺がお妃様!?  作者: 現野翔子
魔王国編

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32/60

異種族との交流へ向けて

 結婚お披露目会は終わり、ファルクス邸に帰還した。帰りもメルの背に乗り、眼下の平原、幾つも連なる山脈を楽しみ、山脈に隠れるらしい盆地を想像した。ラクエウスとの勉強も再開され、一層気合が入る日々だ。メルも来る頻度が上がり、これがむしろ彼らにとっての日常だったのかと思い知らされた形だ。ファルクスも離れていた間に溜まった仕事を片付けられたようで、もう三食共にし、間食も共にできている。

 今は何故かラクエウスだけでなくメルやミールウスまで揃った時間にされている。呼び出され、部屋に行ってみれば、茶が用意されており、腰を据えて話す雰囲気だ。

「授業の進捗はどうだ?ラクエウスからは驚くほど順調だと聞いているが。」

 まだまだ知らないことがある。まだ一部の種族に関しての挨拶ができた程度で、詳しい文化的な話は聞けていない。禁止食材も習い、うっかり贈ってしまわないようにはなっている。学ぶために衣装も作ってくれた上、着る予定まで立てられた。ファルクスの指示という話を聞いているため、おそらくはただ俺を着飾りたいだけだろう。何故か彼はそうした行動を取っている。

 おおよその内容を伝えれば、既にラクエウスから聞いていると言っていたのに満足そうだ。何も情報は増えていないだろうに何故なのだろう。

「そろそろ公務に同行してもらおうと思ってな。最初は知人の出身集落が良いだろう。ミールウス、お前の集落はどうだ?」

「もう見知った人なんてそこには生きてないよ。鳥人にするんなら、俺の部下のルスキニアの出身はどう?綺麗な歌声はフラールも気に入るんじゃないかな。」

 ラクエウスがこそっとミールウスの家族関係を教えてくれる。ご両親とお姉さんは既に亡くなっているが、甥っ子や姪っ子は生きている。俺にはまだ甥っ子も姪っ子もいないため分からないが、兄に子が出来ていたなら会っていただろう。これからできても、十年に一回にはなるだろうが会う機会を得られる。その子達が魔王国の王子妃をしている叔父をどう受け止めるかは全く予想できない。

 ミールウスの部下についても教えてくれた。ルスキニアはウグイスの鳥人で、歌が上手い。ウグイスなど一部鳥人には音色の澄んだ種族もいるらしく、小型で鳴き声の美しい鳥人達の集落があるそうだ。鳥の姿で囀り、歓迎してくれることも多いとか。歓迎される側は聴き、楽しむことでその歓待を受け入れる。そう難しくはないお作法だ。

「なら最初は鳥奏(ちょうそう)村に行こう。今から連絡すれば春には準備も整っているだろう。」

 春までは彼らの特性や作法の勉強を中心にしよう。そうラクエウスに提案すれば、近隣集落幾つかにも同時に行くと返答があった。二つ目の村はファルクスの前妻グラティアさんの出身集落、木果(もっか)村。栗鼠の獣人達の住まう村で、多くの木の実のなる木、果樹が育てられている。こちらも自慢の料理を振る舞うことが歓待であり、美味しそうに食べるだけで良い。食べ方に関しては令嬢教育を受けてきた俺の所作なら何ら問題ないそうだ。

 最後の村はその二つの村の近くの平原にある馬や牛の獣人の集落、駒里(こまさと)村だ。この村はこの前御者をしてくれた、ファルクス邸の使用人コルヌの出身村でもある。

 これら三つの集落はこの屋敷から見える山脈を越えた先にあり、鳥奏村と木果村は山際、駒里村は平原にある。まずはこの三つの集落へ向かうらしい。つまり俺が最優先で勉強する内容もこの三つの村のための作法になる。山を越えるため移動方法はメルの背に乗ること。特別鍛える必要も心配する必要もない。

「鳥奏村にはルスキニア、駒里村にはコルヌにも同行してもらおうと考えている。俺が調整するから、フラールは自分の勉強に専念してくれ。」

 そう言ってくれるのなら早速ラクエウスと勉強に戻る。茶の時間を終わらせ、集中する時間だ。最初は鳥奏村関係の話から始よう。鳥奏村は、ウグイスを始めとした小型で囀りの美しい鳥人達の住まう村。メルの住んでいる山の向こう側、麓にあり、村の中にメルが着陸できるような場所はない。ラクエウスが以前行った際には囀りで歓迎を示し、茶も振る舞ってくれたそうだ。どんな旋律だったのか、どんな味なのかは教えてくれない。その代わり、人型の際にも小柄な人が多く、急な動きや大きな動きは怖がらせてしまうかもしれないため気を付けるようにとの助言はくれた。

「フラール様は元々小柄ですから、そう気にする必要はないかもしれませんね。」

 気を付けて悪いことはないだろう。それにしても、俺の先生をしてくれているラクエウスが俺に敬語で、俺が敬語を使わないのはやはり違和感がある。しかし王子妃と王子の補佐官という立場のため、俺のほうが上だとラクエウスは態度を改めず、俺から彼への敬語も止める。互いに敬語を使うなら良さそうなものなのに、俺がファルクスに敬語でないのにラクエウスに敬語になるのが問題なのだろうか。夜も一緒に寝るのに敬語で話すなんて、それこそ落ち着かない。

 勉強に集中しよう。令嬢教育を参考にした動きなら急な動きが少ない。基本的には淑やかな令嬢の振る舞いを続ければ問題なさそうだ。

「音色に意味を込め、会話することもあります。口笛や鼻歌は控えたほうがよろしいでしょう。」

 普段でもそんなにしないことだ。頭の片隅に置いておくだけで問題ないだろう。一緒に歌うことはあるのだろうか。音痴というわけではないが、取り立てて歌うことが得意というわけでもない。楽器もできない。令嬢の嗜みとして習わされそうになったこともあるが、騎士を目指すと宣言し、そのために全力を尽くした結果、令嬢の嗜みからは逃れられた。女装任務の際は時間がなく難を逃れた。もっとも、勉強の合間に習うくらいなら構わない。音楽が嫌いなわけではないのだ。第一、楽器は令息でもしている人が珍しくなかった。

「では余裕があれば横笛の練習もしましょう。彼らの言語として学ぶのもまた良いものです。」

 まだまだ先のことになりそうだ。現状、余裕は全くない。まずは音を鳴らすところからだろうか。時間が掛かりそうだ。

 次は木果村について。栗鼠の獣人ばかりで構成される村で、鳥奏村にほど近い。二つの村では交流もあるらしい。木の実の生る樹を育てており、食事で歓迎してくれる。これも味は教えてもらえない。どんな食事なのかすら教えてくれない。こちらも小柄な人の多い種族のため、大振りな動きは控えよう。

「グラティア様の気質を垣間見ることができるかもしれません。ファルクス殿下に思い出を尋ねて見ても良いでしょう。」

 墓で少しだけ聞いた。語りかける声色や内容から、とても大切にしていたことが窺えた。これ以上聞きたくない気持ちも少しだけある。聞いたとてどう反応すれば良いのだろう。俺が心から惚れて嫁いだ令嬢なら嫉妬もしたのだろうが、そうでないのにファルクスの前妻に取る態度が分からない。後妻との関係性については聞いたこともあるが、あれは実母が亡くなり、あるいは出奔し、後妻が迎えられたという子ども視点の話だ。自分が後妻になった話は聞いていない。まさか自分が後妻になるなんて、そもそも妻の立場になるなんて想定外。ファルクスの妻という仕事をすること、交流のために努力すること。それらはできるが、愛情を伴った妻という話になると別だ。自分の立ち位置が分からない。

 態度に困る俺を見てか、ラクエウスは面白そうにしている。そんなに楽しいなら自分が誰かの妻になってみれば良いのだ。任務で女装しただけなのに、本気で妻になるなんて想像しないだろう。

「失礼致しました。では最後は駒里村についてです。」

 この前の御者コルヌがそこの出身だ。彼から聞いてみるのも一つの手か。ラクエウスも行ったことがあるようなのに、やはり詳細を教えてくれない。馬と交流できる、食事の振る舞いがあるというだけだ。乗馬は当然できる、食事の作法も問題ない。囀りの言語を学ぶ余裕はあるだろうか。

 駒里村は牛や馬を育てており、多くは食用らしい。一部騎乗用に育てられており、ファルクスやラクエウスも騎乗用の馬を買うために訪ねたことがあるそうだ。その際、ファルクスはコルヌの技術を見て、熱意を買い、使用人として雇った。やはり王族に仕えることは魔王国でも名誉なのだろう。俺もそう思っていたことはある。実際に直接任務を与えられて以降は、距離を保っていたいと感じるようになった。ファルクスは夫になっているため例外だ。

「では、実際にコルヌに聞いてみましょう。この時間なら厩舎にいるはずです。」

 ここでも馬は飼っている。馬車にするならコルヌに御者兼馬をしてもらうが、乗馬なら本物の馬を使う。荷物を運ぶ際にも使うことがあると聞いた。それらの馬の世話がコルヌの仕事だ。餌と水を遣り、掃除をし、俺達が乗りたい時に馬が従うよう調教してくれている。

 厩舎に向かえば、近くの湧き水で水分補給をしているところだった。今なら話を聞かせてもらえるだろうか。いきなり故郷の話から始めて良いものか。まずは日々の仕事のお礼から始め、体調を聞くことにしよう。

「お陰様でこの通り!良い場所に厩舎を建ててくださっているおかげで、水を運ぶ距離も短いですからね。」

 力瘤を作って見せてくれるコルヌは元気そうだ。この屋敷は敷地内数カ所で水が湧いており、そのうちの一箇所が厩舎の近く。良い水を常に用意できるようにとの配慮なのだろう。これはファルクス以前の主が建てたものだろうか。馬達も元気そうに餌を食べている。食事中ではあるが声を掛けると顔を上げてくれた。軽く挨拶を返すように鳴き、また食事に戻る。可愛い子達だ。そのうち俺も乗せてもらえるだろうか。

 少しだけ馬を眺め、本題に入る。春に駒里村へ行く予定が立った。ファルクスの意向ではコルヌにも同行してほしいという話だった。そこはどういう場所なのだろう。

「何もない所ですよ。馬と牛しかいません。ですが、馬と共に走ることで体は鍛えられます。魔王軍に志願する人も多かったですね。俺はファルクス殿下が来られた際に屋敷で仕えたいと希望を伝え、面接の機会を頂きました。」

 本当に広い平原なのだろう。大勢の馬と目一杯走って馬の獣人が鍛えられるほどだ。景色としても気になる。しばらく乗馬もできていないため、その復習もしたい。横乗りの練習もしたほうが良いだろうか。練習についてはファルクスにも相談してからにしよう。仕事や休憩の邪魔をこれ以上しないよう、コルヌにお礼を言ってその場を離れた。

 今後の予定としては、令嬢教育の復習、鳥奏村のための笛の練習、余裕があれば言語としての勉強、木果村のためのお話をファルクスにも聞くこと、乗馬復習、横乗りの練習。これだけ並べるとやはり言語として囀りを学ぶ余裕はないと分かる。それを除いてラクエウスには予定の希望を出す。これでファルクスにも相談して良いだろうか。

「乗馬に関しては希望があればいつでも乗せて良いと許可があります。横乗りは教えられる人を探す必要がありますね。魔王国では横乗りが一般的ではありませんから。」

 男女問わず横乗りはあまりしない。ドレスやスカートで乗馬することにはならないのだろうか。思い出せばヴェルート王国でも乗馬を好む令嬢か、女性騎士くらいしかしていなかった。ラパーチェは自ら狩りをするほど活動的だが、元侯爵夫人だ。乗馬をしていたかは怪しい。まず聞いてみようか。

 呼び鈴でラパーチェに来てもらい、横乗り経験の有無について尋ねる。騎士ではなかったようだが、狩りをできる人だ。馬には乗っているだろう。

「嫁ぐ以前は横乗りも学びましたが、もう何十年も昔の話です。自分が乗れるよう思い出すところからになってしまいます。」

 残念だが、ラパーチェも横乗りに慣れているわけではなさそうだ。ファルクスやミールウスなら適任を知っているだろうか。この点も相談しよう。来てもらったラパーチェについでに俺の服装を確認してもらい、おそらく仕事に戻っているファルクスの部屋へと向かった。

 春に向けての準備のため相談がしたい。そう切り出しただけなのに手招きされ、太腿に座らせられる。軽い口付けも無視しよう。ラクエウスもいるというのに、どう反応しろと言うのか。

「令嬢の動きに関してはラパーチェと協力してくれ。一通り習っているのだろう?外から見て確認できる人がいれば十分だ。笛はミールウスに頼もう。横乗りは一人でさせないから安心すると良い。二人で乗る場合は俺が練習に付き合う。」

 二人乗りの場合は踊る時以上に密着する。ファルクスも大柄ではないが俺よりは大きい。騎士として鍛えきたはずの俺と同じように筋肉も付いており、体格面では俺よりも立派に見えやすい。恋する乙女なら喜ぶような姿勢になるだろう。別に練習はファルクスでなくともラクエウスやミールウスでも良い。しかしそれを口に出すとファルクスは何故か自分が相手すると重ねて言った。一体なんなのだろう。

 ひとまず目的は果たせた。ラパーチェの仕事も調整しよう。俺と令嬢の動きを確認するための時間を作ってもらう。ミールウスとの笛の練習時間はファルクスが調整してくれる。横乗りはファルクスと練習。乗馬は外出の予定だけ伝え、護衛を同行させれば良いため特別調整は必要ないか。残るはグラティアさんの出身の木果村について、ファルクスに聞いてみることだ。緊張しながらの質問には口付けが返ってきた。本当に何がしたいのだろう、この人は。

「昔のことだ。木果村に行った時に気が向けば話そう。」

 今は話したくない、と。それなら強いて聞くようなことはしない。誰にだって聞かれたくないことの一つや二つあるだろう。聞いても聞かなくても、俺のやることは変わらないのだから。

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