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騎士の俺がお妃様!?  作者: 現野翔子
魔王国編

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魔王城での交流

 充実した時間を過ごし、王宮でミールウスと合流する。俺達が王都観光している間に到着したそうだ。シャワーで汗を流し、ファルクスの両親に挨拶できるような服装に着替え始める。スカートとズボン、どちらが良いだろう。

「好きにしたら良い。成人した息子の伴侶にいちいち口出しするような親じゃないからな。」

 伴侶、つまり妻。ドレスにしよう。結婚お披露目会もウェディングドレスのような物を用意してくれていると聞いた。それなら今回も妻としてドレスを着て挨拶しよう。これから正式な場に出るならドレスになるだろう。今回もそのつもりで会いに行く。第一印象は重要だ。ゆっくり挨拶してお話する機会は今までなかった。どんな人なのか楽しみだ。ファルクスの親だからそう心配することはないだろうが、ファルクスが二百年生きているなら俺の想像する親子の関係性とは異なるかもしれない。両親は二人とも五百年ほど生きているらしい。そんな情報を得て部屋を訪ねると、ファルクスと変わらない年齢に見える男女が座って待っていた。どちらも若々しい。魔王陛下はファルクスと同じ黒髪で、魔王妃殿下の柔らかな表情はファルクスが俺を見ている時の表情とよく似ている。魔王陛下のほうも似ているが、体格が立派で印象としてファルクスは母親似。確か魔王妃殿下は魔人化した人間で、俺と同じという話だった。五百年前の元聖女という話も覚えている。その人が魔王陛下と手を繋ぎ、今も相思相愛の様子を我が子の前で見せていた。

「何だか私に似ている子ね。ほら、並んだら親子みたいでしょ?私の娘ね。」

 そうだろうか。彼女の穏やかな雰囲気は星を愛する聖女様と言われれば疑うことなく信じてしまいそうなほどなのに、女装しているだけの元騎士が娘に見えるのか。魔王妃殿下は俺よりも小柄なのに、そんな彼女からも俺が女性に見えるのか、それとも息子の妻だから俺を娘と言っているのか。シャワーを浴びた際にドレスに着替えたことは失敗だったか。妻としての挨拶だからとドレスにしたが、女性になってくれとは言われていない。変声器も使っていないが、女性扱いだ。気を遣ってくださっているのだろうか。

「娘はいなかったから新鮮ね。この後三人でお話しない?恋する乙女の恋バナよ。女の子じゃなくても大丈夫。」

 乙女なのに女の子でなくて良いらしい。もう一人はメルの産みの母アウルムさん。よく二人でお話されているらしく、惚気話の参加者が増えると嬉しそうだ。俺は惚気る内容などないが、聞き手にはなれる。仲良くなれるなら少しくらい聞いて差し上げよう。

 魔王陛下からも祝福の言葉を頂き、今後について心配する必要はないとの心強いお言葉も頂いた。長い時間を生きることになる俺に対する心配も言葉にしてくださる。魔王妃殿下は人間の友人や知り合いが一緒に魔王国まで来た勇者しかおらず、その勇者も竜化されたため、別れの苦しみは最小限だった。友人は魔人化してから出会った鳥人や獣人、魔王国に住む人間に限られた。しかし俺には親も兄弟もおり、ヴェルート王国での友人もいる。これから何百年と生きるのに、彼らとは最初の百年で別れることになる。その孤独を背負う。魔人化や竜化すれば長い寿命を得られるのにその事例が少ないのは、孤独に耐えきれず心を失う人を生み出さないためだ。もちろん魔人化や竜化させる側の負担もあるだろうが、それだけが理由ではない。

「俺がそんな思いはさせない。十分に選んだ。やり方が少々強引だったことは認めよう。だが、それは心を失わせるためではない。」

 気遣いは感じる。選択肢だってあった。俺は自分で魔人化することを、ファルクスの妻として生きることを選んだ。俺が拒んだなら全面戦争回避のために他の方法を考えてくれただろう。俺の許容範囲内だったから受け入れただけだ。是非ともと言うほどの熱量ではなくとも、仕方なくと言うほど嫌々でもない。魔王陛下も俺を心配し、ファルクスに責任を強く自覚させるための言葉だったようで、俺達の選択を尊重してくださった。

 少しだけ重くなった会話を終え、メルとその両親に会いに行く。ミールウスとメルは先に会っていたようで、俺達もそこに合流だ。メルは父親にそっくりだ。しかし竜型になると変わるようで、広い庭園に移動し、二人の竜型も見せてくれる。母親はメルよりもさらに巨大で美しい金の鱗、父親は小型犬ほどの小さな竜。竜としての特性は母親似、人型の容姿は父親似。父親は竜人化した人間のため、竜型は不得手らしい。とても可愛らしいペットのようだ。人型の時はメルと同じくらい大きな青年の姿をしており、当然だがファルクス以上に落ち着いた大人の男性の雰囲気を持っている。それなのに竜型は小さなペット。人型に戻った奥様がどうだ、魅力的だろうと自信満々の態度を取ることにも納得だ。

「父さんと母さんみたいに強くて格好良い、守れる大人になるんだ。」

 あの体躯が領内の見回りをしてくれているだけで心強い。安心感ある日常を送れる。ファルクスの領民を、いや俺達の領民を今も可能な範囲で守ってくれている。強く見えすぎるから国境から離されているほどだ。何となく俺もメルを褒めてみようとそのことを伝え、頭を撫でる。無邪気に喜ぶ姿はやはり精神年齢が同じ年頃の人間より幼いように感じられる。長生きする分、成長はゆっくりなのだろうか。大きな体で無邪気に動き回られると危険だが、その辺りはしっかり躾けられているようで、表情は大きく、動きは控えめ。怖がる必要はなさそうだ。よほど褒められて嬉しかったのか、俺にくっつき始めた。素直な弟ができたようで良い気分だ。本物の弟は生意気な部分も多かった。

 メルの父親シュヴァルさんにも竜化してからのことを尋ねてみる。もう五百年生きているそうだが、ご自身の家族や友人との別れはどう受け止めたのだろう。

「旅立つ時に親に言われたんだ。行かなければならない感覚があるならそれに従え、ってね。その感覚に従って聖女様に出会い、彼女に従って魔王討伐をしなかった。アウルムに番と求められて、応えたいし、応えるべきって感覚があったからそれに従った。自分の感覚に従った結果が幸福な今なら、そのために必要だった別れだって良い思い出として受け止められる。」

 現在が幸福だから。アウルムさんと出会えなければ後悔したのだろうか。いや、出会えなければそもそも竜化していない。仕える主たる元聖女も魔人化して同じ時を生きている。出身国の友人はもういないかもしれないが、魔王妃殿下も友人なら全てを失ったわけではない。俺も心配要らなさそうか。ミールウスもメルも同じ時間を生きてくれる。魔王妃殿下も仲良くしてくださるつもりだった。友人の母親という立場のアウルムさんも魔王妃殿下同様三人でのお話を楽しみにしてくださっており、友人としても親しくなれそうだ。

 夕食を挟んで三人での談笑の時間。向かおうとすればメルも付いてきた。妻の立場にある三人で、という意図だと思うのだが、他の二人にも確認してみよう。俺としては他二人ともミールウスやラクエウスとも異なる立場からファルクスの話が聞けるかもしれないため、参加してもらって良い。むしろ参加を控えてくれという話なら後で俺から聞きたいくらいだ。

「良いね。子どもは参加可能なの。アウルムも良いよね。」

「もちろん。可愛い我が子の参加を拒むはずないわ。」

 ゆっくりとお茶だけ飲み、二人の惚け話が始まる。互いの夢に出てきて、その後本当に出会ったのだと言う魔王妃殿下、当時聖女の連れて来た勇者が運命の相手だったのだと喜ぶアウルムさん。どちらもうら若い少女のように楽しそうだ。魔王妃殿下は戦うべきと言われていたであろう魔王陛下とどうして添い遂げようと思ったのだろう。

「魔王妃殿下なんて他人行儀だわ。お母様と呼んで頂戴。抵抗があるならカンナと呼んで。」

 彼女のことをお母様と呼ぶなら魔王陛下のこともお父様と呼ぶことになってしまう。お二人とも俺の両親より若く見えるため抵抗はある。しかし他人行儀だからとお母様呼びを求めているのなら、名前で呼ぶより家族感の出る呼び方のほうが喜ばれるのではないだろうか。そう深呼吸一つ分の時間をもらい、それからお母様と呼んだ。お母様は満足したように魔王陛下と出会った頃の話を始めた。

 聖女だったお母様は夢で魔王陛下と会っており、その魔術で人形の姿での交流ができるようにしていただいたそうだ。そのため討伐すべきと言われつつ、最初から戦うつもりなく魔王国に向かった。そして実際会った時に対話を行い、妻として傍にいたいと、勇者を従者にすると取り決めを行った。そんな昔話を幸せそうに語ってくださった。

 続くアウルムさんも語り、メルも大人しく、いや興味深そうに聞いている。時折する質問もお二人には好評で、さらに饒舌になった。メルにはこうした恋の話が身近ではなかったのかもしれない。人間の十八歳ならこうした話を好む年頃だ。もう少し早い段階から触れる機会はあるが、メルの場合はなかったのだろう。ファルクスは俺が来るまでずっと、メルがいるのにその内装や庭を替えようとしなかった。それなら恋愛関係でこうした賑やかな話にはならなかっただろうと推測できる。ミールウスからは碌でもない話しか聞けないだろう。もしかしたらファルクスが口止めしていたかもしれない。あれの女性関係の話は教育に悪そうだ。ラクエウスだって妻を失って悲しむファルクスに気遣っていただろう。恋のお話をできる雰囲気ではなかったのかもしれない。

 一頻り話して満足したお二人は、次は俺の番、とでも言いたげにこちらを見る。俺は二人のようにファルクスに恋して結婚したわけではない。成り行きで結婚することになり、それなら仲良くしようと努力しているところだ。良い人ではあるが、恋はしていない。大切にしてくれていることは分かり、お返ししたいとも思うが、恋して心が華やぐような感覚はない。正直に現状の関係性を伝えているだけなのに、何故かお二人とも訳知り顔だ。何を察したのだろう。

「フラール、顔赤い。」

 気の所為だろう。揶揄われて熱くなっているだけだ。メルの指摘も上手く誤魔化したはずなのに、お二人は楽しそうにする。俺も恋する乙女の一員に数えられているようで落ち着かない。二人の言うような戯れは多くない。夫婦だから風呂や寝室が一緒なだけだ。

 自分から話題を変えなければ逃がしてくれなさそうだ。そうまだ新婚旅行にだって行けていないと不満を述べる。自分達の足でゆっくり歩いて観光しても良い。メルに乗らせてもらって上空からの風景を眺めるのも良いが、新婚旅行なら二人で行くものだ。メルは使用人ではなく、俺達は二人だけでも自分の世話ができる。使用人を同行させる必要すらない。

 話の内容が俺の意図したものと変わってきた。誘導を避けるため、また茶に口を付ける。意識すれば果物とも砂糖とも異なる甘さが口に広がった。心も体も落ち着く味だ。元気になったような気もする。流石にそれは気の所為だろうか。

「魔人化の術をしているのでしょう?魔力を沢山摂って、ゆっくり休む時期よ。竜の巣にはおおよそ魔花があるから、その近くで休ませてもらうのも効果的ね。ね、アウルム。」

「ええ。私も夫を竜化させた時は数カ月滞在してもらったものよ。その後はお仕事が休みの時限定だけど。私が竜型にならないと遠すぎるのよ、あそこ。」

 メルの巣と言っていた場所もヴェルート王国の人間が警戒しないほど離れているが、メルが飛んで移動すれば日帰り可能な場所だった。彼一人が全力で行き来できればもっと近場に感じられるのだろう。アウルムさんの巣の場所は分からないが、あの竜型とシュヴァルさんの竜型では大きな体感の差がありそうだ。俺は竜化ではなく魔人化だが、それでも竜の巣に行って効果があるのだろうか。

「魔力を豊富に摂る部分が重要だから、魔花の近くで活動する、って感じね。」

「俺の巣ならご主人様とも会いやすいし、フラールなら大歓迎。後で許可貰おうよ。」

 ファルクスが良いと言うならそこでしばらく生活しても良い。一度は行った場所だ。少し滞在期間が延びるくらいで、体が今よりもさらに楽になるなら大歓迎だ。今も決して体調不良というわけではない。疲れが溜まっている感覚が少しある程度だ。寿命が延びるなら体も頑丈になるのだろうか。瞬間の強度と長期間使える耐久は少々異なるような気もするが、どちらも良くなるなら魔力を十分な量摂取することも意識しよう。まずは目の前の結婚お披露目会に臨み、その後ファルクスと観光し、メルの巣に滞在する許可を得る。作戦は完璧だ。

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