表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士の俺がお妃様!?  作者: 現野翔子
ヴェルート王国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/23

騎士学校での授業

 準備を整え、いよいよ騎士学校へ向かう。最初ということでしっかり騎士としての制服を着用しての授業だ。明日以降はもう少し楽な格好をして良いことになっている。

「お前は騎士服が良いんじゃないか?学生に紛れそうだ。」

「バイオネッタ先輩は隣の教室では?」

 フェロンドに促され、バイオネッタとラーマ隊長は隣の教室に入っていく。俺達も向かおう。またやっているのかと言うような視線を向けていたラーマ隊長と話すことと比べれば、これからの緊張などなんてことない。

 隣の教室から聞こえる悲鳴のような歓声を聞き流し、深呼吸をする。ラーマ隊長は最も人気があると言っても過言ではないほどの騎士だ。物語の中に出てくる騎士様のようであり、実際に多くの令嬢から求婚されたこともあるという。俺から見ても憧れの騎士だ。それはそれとしてあの鋭い視線を浴び続けたいとは思えない。細身なのに圧力のある視線で、こちらが小動物にでもなった気分だ。

 俺が先導し、教室に入る。少し遅れてこちらもおぉっという声が上がる。おそらく体格立派なフェロンドを見ての反応だろう。俺もフェロンドも憧れの騎士として名前の挙がる人間ではない。フェロンドはまだ二年目であり、親しみのほうが感じられるかもしれない。俺はまず実力を疑う目から逃れることから始まるだろう。

 自己紹介には当然戦闘に関するものも含まれる。今後の授業のため、生徒の武器、得意分野なども把握する。長剣、大剣、細剣、長槍、短槍、弓、それから魔術。魔術も陽動のために用いるのか、魔術が主戦力なのか、治癒術や支援術を使うのか様々だ。俺は細剣を用いて、支援術を使うことが多い。花形は剣や槍で敵を仕留めること、あるいは魔術で一網打尽にすること。しかし世界樹の根の先端に実る魔力の結晶、魔花から生まれる魔物討伐においては支援も必要な役割だ。その点をしっかり学んでいる生徒は理解してくれるが、それでも花形にしか価値を見出さない者もいる。

「フラール先輩、今からお時間ありますか。手合わせ願います。」

 授業が終わるなり男子学生の一人が申し出た。こうした申し出は基本的に受け入れることになっているのだが、挑発的な目が気に掛かる。

 訓練場に移動する。手合わせで使う武器は木製武器だ。彼の武器は長剣。フェロンドやバイオネッタと同じだ。魔術を用いずに戦おうという申し出は、やはり俺相手なら勝てるという算段なのだろう。身長はラーマ隊長と同じくらいに見える。体格は俺より良いが、圧はバイオネッタに劣る。剣術に自信のある態度を証明するように、構える姿に隙はない。一部学生は見学のためについて来ている。どちらが勝つかという声も聞こえるため、他から見ても十分実力のある生徒なのだろう。

「学年五位の実力を見せつけてやる!」

 負けるかもしれない。いや最初から弱気になっていては駄目だ。正面から見据え、相手の出方を窺う。真正面から受け止めてはいけない。搦手を使うタイプなのかどうかの見極めも必要だ。陽動の魔術がないだけマシと考えるか、こちらも使えない分不利と考えるか。魔術で相手の動きを封じられない点は大きく影響する。

「随分お可愛らしい武器を使うのですね。そんな細い剣で受け止められるんですか?」

 おそらく搦手を好むタイプだ。言葉での動揺を狙う人間は純粋な剣術勝負にしない。それなのに魔術を使わない手合わせを望んだ点からは魔術への自信の無さが想像できる。騎士の先輩として教育に来ている立場で、同じように煽り返すわけにはいかない。ただ黙って聞くだけだ。返事は必要ない。細剣の使い方も知らないのかと言い返してやりたい気持ちはぐっと堪える。

 ペラペラと軽い口がよく回る。しかし目はしっかりとこちらの隙を窺っており、口先だけの人間ではないとも感じられた。魔術は封じるがそれ以外は使う、そこも含めて実力。その考え方自体は悪くない。身長や体格、顔立ちを揶揄する言葉に反応しないことも騎士として必要な資質の一つだ。それらへの教育は手合わせが終わってからで良い。

 訓練場の入口方向から歓声が聞こえた。ラーマ様と呼びかける声もある。彼女も誰かに手合わせを申し込まれたのだろう。なおさら無様な姿を見せるわけにはいかなくなった。

 まだ手合わせの相手は口先を動かしている。学生相手なら先手を譲るのが基本だが、相手にその気がないのならこちらから動かせてもらおう。地面の土を蹴り上げ、足の動きと土で視界を制御する。視界を遮るほどの量ではないが、それでも急な動きに一瞬反応は遅れた。その隙を突いても流石に一撃で決着とは行かない。彼も躱すことくらいはでき、反撃と剣を薙ぎ払う。一歩の踏み込みの距離、突き出した腕の長さ。それらが不利に働く場面は多い。しかし大げさに身を屈めて見せれば激しい下からの攻撃を予測させることはできる。その予測を肯定するように頭からぶつかるように飛び込めば、それを躱すために相手の動きは一定方向に向かう。予想通りの動き、と躱した着地点目掛けて剣を繰り出す。しかし彼も躱しつつ俺の動きをしっかりと視認しており、見てからの対応が間に合った。剣先が逸らされ、空いた俺の胴目掛けて拳が飛んでくる。直撃を避けたのに十分伝わる重さは日頃の鍛錬、学年五位という説得力を持っていた。

 決着していない。それなのに彼は何故か笑っている。本物の騎士に一撃入れられたことを喜んでいるなら良い。しかしそれにしては純粋な笑みに見えない。何か他に企んでいるのだろうか。少し距離を置いた場所ではラーマ隊長が学生と手合わせしているのだろう人垣ができている。こちらを見ている生徒達に不審な点はない。杞憂だろうか。手合わせ相手の彼はまだニヤニヤと笑っていた。

「騎士様がよそ見ですか?一撃食らっても余裕なんですね。」

 今度は彼から斬り掛かってくる。武器が訓練用の木製長剣だ。斬れることはないが、それでも当たれば痛みはあり、痣もできる。俺でも余裕を持って対応できる真っ直ぐな剣が不審を煽った。口先で煽るような人間の剣だろうか。騎士と初めて刃を交える学生の態度にも見えない。

 一撃、二撃とあしらううち、彼の剣が見えてくる。本来剣の腹を使うことはしない。それなのに彼は時折俺の細剣が自身の剣の中腹に当たるよう動いているように見えた。木製の武器には簡単に細工ができる。それは当然騎士学校でも騎士団でも禁じられており、厳しく管理されているはずだ。しかし使う直前に持ち出し、効率よく纏めた術式を用いれば剣の内部に見えないよう術式を転写することも不可能ではない。濃い魔力を纏わせたなら気付かれやすく、傷を付ける方式なら剣の耐久力が犠牲になる。しかしほんの少し相手を油断させる程度の薄い魔力なら、戦いながら気付くことが難しい程度にできるだろう。おそらく条件が剣の腹への衝撃だ。暴発しないよう、剣の中腹に設定したのだ。

 投げて条件と指定されていると思しき場所にこちらの細剣を当てる選択肢もある。しかし騎士として戦うなら剣を捨てるべきではない。弱い魔術だったとしても魔術を使わない想定の状況で、禁止されている訓練用武器への術式刻印を使う相手からの攻撃。大したことないと高を括るべきではないだろう。

 焦れてきたのか、攻撃が大振りになり始めた。俺の体に剣の中腹を当てようとしているようだ。策略に溺れている。それができるなら施した術式を発動させずに勝つこともできるだろう。それなのに術式を発動させることに固執している。それなら俺も相手の細工を暴くことに専念しようか。

「フラール!お前の見立てを答えろ。」

 いつの間にかラーマ隊長もこちらを見ていた。そして同じことに気付いている。相手が自身の長剣に細工を施していること、おそらく発動条件が剣の腹への衝撃であること。相手しながら気付いた二点をあしらいながら答える。相手から余裕の笑みが消えた。こうして暴くことは俺の本領だ。ただし俺ができるのはここまで。何を仕込んでいるのか分からない以上、それを封じて勝つほどの技量はない。

「ここからは私が相手してやろう。よもや卑怯だなどとほざくまい。」

 場所を譲り、男子学生とラーマ隊長の手合わせを見守る。学生相手に騎士二人掛かりのようになるが、魔術を使わないという制約の中で戦うという話を先に反故にしたのはあちらだ。それを分かっているからこそ、ラーマ隊長も俺に細工の話をさせ、自分が代わったのだろう。

 あの有名な騎士ラーマを前にし、彼も腰が引けている。ラーマ隊長の戦闘は見たい人が多く、毎年開催される闘技大会でも注目されていた。その時はこんなに近くから見られないため、皆も集中して見ているのだろう。先程まで俺に対して饒舌に発せられていた煽り文句も止まり、ラーマ隊長の出方を窺っている。ラーマ隊長は規則違反に厳しい人だ。木製長剣に細工を施して手合わせなどという卑怯な手、許しはしないだろう。細工の内容によっては大きな危険を伴う。最悪破片が目に入り、失明するのだ。騎士として致命的な怪我を負いかねない行為を許すはずがない。

 ラーマ隊長が大きく一歩踏み込み、相手の逃げも許さない鋭い一撃をくれてやる。同時に手加減がされており、相手が剣で受け止められる程度の速度にはされていた。ただしそれは衝撃を軽減できるほどではなく、ラーマ隊長の一撃をまともに食らう羽目になる。火花が散り、しかしラーマ隊長はそのまま振り切った。受け止めきれず相手は剣を取り落とす。

 決着だ。呆然とラーマ隊長を見つめ、自分の剣を拾うこともできていない。素早くラーマ隊長は木製長剣を拾った。

「これはこちらの教員に渡しておこう。備品に細工を施す人間は信用できない。その点も言い添えよう。」

 騎士に評価の権限はない。しかし教員に伝えることで反映させられることはある。勝つために手段を選ばない点を褒められることもあるが、備品への細工などという明確に禁じられている手段は含まない。俺としてもこの細工をした人物や協力者と一緒に任務には当たりたくない。

 細工の件を伝えるとして、ラーマ隊長が彼を連れて職員室へと向かった。残された生徒達も現場に留まるよう指示されている。しかし彼らは最初から出ていくつもりなどなかったように俺への質問を始めた。

「どうして細工があると分かったのですか?」

 不自然な動き、そこから相手の狙いを推測すること。そうすれば細工という結論にも辿り着ける。ただしどのような細工が施されているか分からず、細工ごと貫く勢いを出せないのなら、自分だけでの解決は難しい。爆発が起こるのか、閃光が放たれるのか、はたまた突風でも発生するのか。どれが起きても纏めて打ち砕くつもりの攻撃はできる人が限られる。ラーマ隊長だからこそできた。その事実と俺はできないだろうという自己認識をそのまま表に出しても、疑いの目はもうない。ラーマ隊長が俺に見立てを尋ね、俺が答えるという場を用意してくださったからだ。

 この調子なら恙無く騎士学校での交流も行えそうだ。そう質問や相談に対応していった。俺の得意分野は魔術と剣術を組み合わせた戦闘や情報収集。相手の出方を窺い、動きを読み、それに対応すること。真正面からぶつかる戦い方は不得手だ。それでも騎士として一人前と認められている。日々の鍛錬で実力を高める努力は必要だが、剣術だけ、魔術だけで自分の騎士としての価値を決める必要はない。

「魔術が得意な人もいますが、それでも剣術や槍術は必要ですか。」

 高い魔術の実力のみで騎士と認められる者も少数ではあるが存在する。詠唱から発動までが短く、臨機応変に対応できる高い実力の持ち主限定だ。ただ強く広範囲の魔術を発動できるだけの場合は魔術士塔所属になり、騎士ではなくなる。騎士学校という名前ではあるが、魔術士塔に就職する者も一定数存在する。毎年何人かいるという話であり、俺の友人にも魔術士塔に就職し、研究にも携わっている者がいる。騎士になりたいなら何かしらの武器の心得も必要だろう。最終学年まで上がれている時点で、及第点は得られているはずだ。

「及第点でしかありません。それも進級に必要な点であって、卒業に必要な点数ではありません。」

 俺も毎年剣術や武術の点数がギリギリだった。追試で何とか合格させてもらった年もある。入団試験は最下位での合格だった。油断はできないが、悲観することもない。俺の場合は観察力と魔術との組み合わせ方を評価され、剣術の点数が振るわなくとも認められた。ただし鍛錬を怠って良いわけではない。

 次は魔術を用いての手合わせだ。俺の本領を発揮する機会でもある。先手を譲ることは余裕とも捉えられるが、俺としてはこれが最も勝率の高い戦法になる。相手の出方を見て、動き方の癖や好む戦法を推測し、それに対応して反撃する。相手がラーマ隊長ほどの実力になると避けたり逃げたりすることで手一杯になるが、そこまでではない相手の場合は十分通用する戦法だ。

 質問してくれた剣術に自信のない女子学生と手合わせを行う。持っている武器は短剣で、そもそもあまり使わない想定なのだろうとこの時点で推測できる。つまり高い魔術の実力を持っているということだ。片手で短剣を構え、もう一方の手を自分の手首に添えている。おそらく短剣で照準を合わせ、素早く詠唱を完了させるのだろう。短剣は照準を合わせるためであり、それそのもので戦うわけではない。

 もう観察は十分だろう。魔術を主にする相手に時間を与えることは得策でない。俺も剣に魔力を纏わせ、十分な術に仕上がらないうちに魔力を発する。この状態でも俺の魔力は淡い緑の光を発するため、相手の集中力を削いだり視界を遮ったりする効果はある。何より発動しようとしている魔術のための魔力を乱せるため、相手の魔術準備の時間を引き伸ばせる。戦闘において時間は命だ。魔術を主にしているのに発動までに時間が掛かるのは致命的。そしてこちらは魔術が主というわけでもない。剣術が主とも言えないが、十分実用に耐え得る実力にはしている。

 俺の細剣でも彼女の短剣はぶれた。そのまま突き出せば眼前に細剣が迫る。俺の勝ちだ。周囲の魔力の乱れに影響されないようできたならもう少し戦えたかもしれないが、まだそれは難しかったらしい。おそらく一人で敵と対峙するタイプではないため、一対一の戦いでは分が悪いのだろう。複数人で協力しての戦闘で高く評価されるという点では俺と同じだ。

「ご指導ありがとうございました。」

 流石に魔術込みなら十分指導できる実力はある。魔力の乱れの影響を体感できたという言葉からはどう影響されないかという解決法を既に探り始めているようにも感じられる。彼女がこの手合わせで何かを感じられたなら良かった。フェロンドもバイオネッタもそれぞれ学生の求めに応じている。俺もこのままもう少し相手しよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ