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騎士の俺がお妃様!?  作者: 現野翔子
ヴェルート王国編

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2/22

騎士学校行き決定

 騎士の任務の中には毎年恒例のものもある。それが騎士学校の卒業年生への授業だ。その中には手合わせも含まれる。本物の騎士を体験させ、夏に予定される実技最終試験を兼ねた実地訓練への心構えをさせるものだ。今年は男性騎士からは俺とフェロンドが選ばれた。フェロンドは一昨年まで学生だったため、まだ懐かしいと言うほどの記憶にはなっていないだろう。俺はもう五年も六年も前のことになるが、苦手な先生はまだ在籍しているだろうか。年齢的にはまだ勤めているだろう。

 気の重い騎士学校行きの日は近づいてくる。俺は魔術を用いない剣術のみの試験だと及第点、最下位での合格だった。そこから鍛錬を続けているとはいえ、最終学年のおそらく騎士になれるだろう生徒との手合わせでは十分負ける可能性がある。本物の騎士を分からせる目的もあるのなら、余裕のある者を選定すると思っていた。だから俺が選ばれることはないだろうと高を括っていたのに、予想は裏切られている。治安維持のためにも実力の向上には努めているが、騎士同士の試合を想定した鍛錬ではない。今回は騎士同士の試合想定でも勝てるように鍛える必要がある。

「気合入ってますね、フラール先輩。」

 当然だ。学生に負けるわけにはいかないのだから。担当が俺の苦手なあの先生なら意地悪く多くの学生達の前で剣術のみの試合もされるかもしれない。学生からの申し出は基本受け入れることになっており、魔術と剣術併用を希望する学生ばかりでもないだろう。今回舐められては実技最終試験に同行する際の関係にも影響する。ここで彼らがいざという時に従ってくれるような、十分な実力を見せることが必要だ。流石に魔術と併用の試合もあるだろうが、剣術だけでも落胆させない程度の実力は見せつけたい。

 騎士学校での俺達の主な役割は手合わせの相手、鍛錬を見ること、など実技面に偏るが、一部授業にも同席するため、それ以外の交流もある。だからこそ騎士同士の不仲を見せないような組み合わせで送り込まれるのだ。しかしそこに学生時代の先生との関係は考慮されないらしい。

 フェロンドに少し手合わせしてもらおう。彼は魔術が不得手で剣術が得意。俺とは真逆だ。剣術の試験では余裕で合格だったらしい。使う剣の種類も異なり、彼は斬りや突き、受け止めなど様々な使い方のしやすい長剣、俺は突き特化で受け止めることは難しい細剣。騎士の多くはフェロンドと同じように長剣、もしくは身長を少し超える程度の長さの槍を用いる。俺は剣と魔術で手一杯だ。槍よりは剣のほうがまだ扱えたという理由もある。

「参ります!」

 訓練用の木製長剣でもフェロンドの力で打ち付けられれば骨くらい折れる。体で受け止めるべきではない。素早い斬りでも小さな動きの苦手な彼の攻撃なら避けられる。問題は避ける一方にしてしまうと俺の体力が先に尽きることだ。喉元や目に突きつけられれば俺の勝ち。しかしそこへの警戒は強く、フェロンドも簡単には隙を見せてくれない。蹴りも使って彼は上からの攻撃と下からの攻撃で翻弄してくる。俺も様々な方向からの攻撃を試みるが、彼の頭上からの攻撃は物理的に不可能だ。その不利を背負う代わり、懐に入り込んでの攻撃はできる。

 入り込んでしまえば喉元に剣先が届く。そう真っ直ぐ伸ばそうとすれば腹部に大きな衝撃。体が浮き上がり、辛うじて受け身を取れただけに終わった。既に首筋に剣が当てられている。誰がどう見ても俺の負けだ。

「お疲れ様です。お腹大丈夫ですか?思いっきり蹴ってしまいましたけど。」

 痛みはあるが骨は折れていなさそうだ。念の為医務室で診てもらうことにする。鍛錬していれば痣程度いつものことではあるが、痛いものは痛い。これがあるからフェロンドとの手合わせは好きではない。

 医務室では最後の一撃を食らった腹だけでなく、蹴られた足やぶつけられた腕の痣にも薬草を貼ってもらった。医務官もこの作業には慣れたものだ。そっと痣に薬草を添わせ、包帯を巻く。ずれないように、同時に押さえつけすぎないように。丁寧な作業だ。

「俺の時より丁寧じゃないですか。」

「馬車に轢かれても無傷でいられそうなお前と、人間の腕力でも折れそうなフラールを一緒にするんじゃない。」

 か弱い扱いされることに不満はあるが、雑な手当をされたいわけでもないため、ここは黙っておく。残りの時間は魔術の鍛錬に当てよう。その前にお菓子も食べて栄養補給だ。今日の鍛錬の様子を伝えたら少し多めに貰えないだろうか。怪我を治すためにはたくさん食べる必要があるのだから。

 この後の算段を立てていると、他の人も入ってきた。訓練に怪我はつきものだ。珍しいことではないが、こうして遭遇したくない相手はいる。彼女はその一人だ。

「ご令嬢、怪我は大丈夫か?」

 バイオネッタ・リコニトーレ。騎士学校時代からの知り合いであり、同期。毎回俺をご令嬢と揶揄してくる本物の伯爵令嬢。試合では勝てた試しがないが、魔術操作の実力では負けていない。並んで歩いた時にもエスコートをするという嫌がらせをしてくる上、それが様になるほど体は鍛え上げられている。隣を歩くと軽く見上げる羽目になる点も今立ち上がりたくない理由の一つだ。

 無情にも医務官は手当の終了を告げた。必要もないのに治療のための椅子を埋めるわけにはいかない。フェロンドの手を借り、仕方なく立ち上がる。案の定ほんの少しだけ上にある彼女の目が面白くない。フェロンドから見れば俺達の差などないに等しいだろう。それなのにこの女は毎回毎回俺を令嬢と揶揄してくる。本人こそが令嬢だというのに、どういう気分なのか。

「お前は茶会という戦場で戦うこともできなさそうだな。表情を隠すことを覚えたらどうだ?」

 彼女だって思っていることが顔に出ているだろう。勝利を確信した瞬間に勝ち誇る表情は何度見ても腹が立つ。最大の油断を見せていると分かってもその時には本当に決着しており、気付いても反撃できない状態に陥っているのだ。儀礼的な動きは欠かさないため、真正面から批判する材料すらない点も悔しい部分だ。今も同じ表情を浮かべている。口喧嘩でも勝てないのか。

 フェロンドはまだ俺達のやり取りに慣れていないのか、毎回オロオロと俺とバイオネッタを交互に見ている。体は大きく実力はあっても度胸が足りない。この程度の言葉と視線にいちいち狼狽えていてどうするのだ。ただこの狼狽が俺のことを心配してくれているからだと知ってしまうと、いまいち注意しきれない。今もオロオロと見ている視線の中に気遣いが感じられた。

「フラール。お前が令嬢と揶揄される理由を知っているか?」

 小柄だからだろう。身長は女性の平均ほどしかなく、肩幅もあまりない。体を鍛えても見える筋肉はつきにくく、武器も細剣。魔術士と一見変わらない体型で、私服では貴族の坊っちゃんにしか見られない。純粋な筋力勝負なら流石にバイオネッタに勝てる自信はあるが、その勝負を挑む事自体、それ以外では負けていると認めることになる。

 俺の隣ではフェロンドも考えている。確かに小柄、という言葉の他に、聞き取れないほど小さな声で何か呟いた。じっと俺を見て、すっと視線を逸らす。一体何を言ったのだろう。

「お前と私の違いはなんだ?」

 性別以外に、という話だろう。バイオネッタは令嬢と揶揄してくる以外には特に問題のない騎士だ。多少面白くない話をされる程度か。今の彼女は堂々とフェロンドの前に立ち、しっかりと正面から目を合わせている。フェロンドは背が高いため見上げる形になっているが、そこは俺も同じだ。そもそも彼女は医務室に何をしに来たのだろう。怪我をしているようでもなければ、助けを呼びに来たようでもない。

「ちょっとした思いつきを実行しにきただけだ。それより、お前もこいつの前に立ってみろ。」

 バイオネッタに言われ、任務で行動を共にすることの多いフェロンドの前に立つ。縦にも横にも大きい、厚みもある筋肉でできた存在感のある肉体。一年ですっかり騎士としての風格を持った顔つき、まだ素朴さを残す瞳。目の前にあるのがその立派な胸筋であることにも嫉妬の念を覚える。俺はどんなに鍛えても服の上から分かるほどの筋肉は付かなかった。

 何故かフェロンドが目を逸らす。バイオネッタははっきりと笑い声を上げている。並べて立たせた上、人を笑い者にするなどどんな教育を受けてきたのか。令嬢教育ではそもそも声を上げて笑わない。彼女は最初から騎士を目指していたのだろうか。それでも令嬢教育を受けたことがないなんてあり得るのか。令嬢でない俺ですら受けさせられたというのに。

「所作がお上品過ぎる。私が風呂に連れ込んで本当に男なのか確かめてやろうか?」

 素早く拳を振り上げても、彼女に当たったことは一度もない。試合という状況でなくとも、俺は彼女に勝てていない。今怪我をしているからというだけでなく、軽く捻り上げるような動きで拳を受け流される。こうして殴りかかればお上品などとは言えないだろう。それなのにバイオネッタは余裕の態度だ。フェロンドまで彼女の言葉に賛同するように、俺のことを可愛い系と評価した。

「フラール先輩、普段から上目遣いなんですよね。熱い物はちょこんと持ってふぅふぅ冷ましてますし。令嬢というか、なんと言うか。」

 言葉を濁される。要は子どもっぽいという話だろう。上目遣いになるのも身長の問題だ。フェロンドはおおよその相手から同じ見られ方をしているはずだ。熱い物は苦手なのだから仕方ない。ちょこんと、というのもフェロンドに比べると俺が小さいからそう見えるだけのことだ。

 反論しようとすると、医務官に煩いと三人纏めて叩き出された。俺まで一緒くたに怒られるなんて納得できない。原因はバイオネッタだ。

「今年の騎士学校行きは私も一緒だ。楽しみだな。」

 最悪だ。騎士同士の不仲を見せないために人を選んでいるのではないのか。それぞれ別行動になるため、学内で一緒に行動することは少ない。それでも会うことはあるため、言動には細心の注意を払わなければならない。学生時代や今のように喧嘩などしていてはいけない。

 颯爽と立ち去るバイオネッタを見送り、食堂へと向かう。本当に彼女は何をしに来たのか。令嬢と揶揄されることはあっても女性に間違えられたことはないため、本当に男だと確かめようと言うつもりであの話をしたわけではないだろう。だからこそ彼女の目的が全く分からなかった。

「あの、先輩。馬鹿にするつもりでは、ないですからね。」

 分かっている。バイオネッタの意図はともかく、それに賛同したフェロンドにその意図がないことは伝わっていた。お茶の時間を共に過ごそうとしているのも、彼に後ろめたさがあるからだろう。手合わせで怪我をすることは当然にあるが、大柄な彼といることで俺が令嬢と揶揄される頻度が上がったという愚痴を酔いに任せて一度聞かせてしまった。入団して一年に満たない後輩に聞かせる話ではなかった。俺が鍛えても大きくなれなかったように、彼が努力しても小さくなれるわけではない。

 今日のお菓子はティラミスだ。フェロンドはサンドイッチも貰っている。あの大きな体を維持するにはたくさん食べる必要があるのだろう。甘いティラミスに酸味のあるコーヒー。冷めすぎるとこのコーヒーは少々飲みづらくなるが、熱すぎても飲めない。常に適温に維持するコップがあれば良いのにと思いつつ、作れたとしても備品として置かれることはないだろうと思い直す。使われたとしても貴族の家くらいになるだろう。魔術を駆使すればできそうな気はするが、そのために時間を使うなら少しでも鍛錬や魔術の勉強をすべきだ。温度を気にして一気に食べてしまっては勿体ない。一口一口ティラミスを味わっていく。気付けば既にフェロンドはサンドイッチを食べ終えていた。一口も大きい人だ。

「楽しみですね、騎士学校。一年ぶりです。」

 毎年卒業したての団員を見るが、学校まで出向くのは初めてだ。新入団員を見る度、一年間の成長を実感する。同時に負けていられないという気分も高まる。今年は学生相手のため、さらに負けられない。集団戦なら勝てるが、一対一では負けることも多い。剣術のみならなおさらだ。俺からできる話は主に魔術との組み合わせや支援の話になるだろう。ある程度求められるだろう助言も用意しておきたい。

 フェロンドは二学年下の後輩相手になる。面識のある者もいるだろう。彼の体格と実力なら舐められることはないだろうが、その先輩である俺もしっかり騎士として認識される実力は見せたい。今及第点の実力の子にも努力を続ければ騎士としてやっていけるだけの実力や判断力が付くと励ますことはできる。俺に期待される役割はむしろそちらなのだろうか。

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