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騎士の俺がお妃様!?  作者: 現野翔子
ヴェルート王国編

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20/22

ファルクス視点:弟からの連絡

 出掛けていた一ヶ月。その間にも報告すべき事柄はあり、溜まっていた書類を片付けていく。ミールウスと共に俺を支えてくれているアトレータがいない間の代理を務めてくれていたが、俺でなければならないものも中にはある。弟からの連絡もあった。

 南部の敵対的なコンシアンス王国との関係は弟である第二王子グランスが基本は担っているが、こちらにも連絡はしてくれる。俺の担当するヴェルート王国との関係も未だ安定しておらず、二国が手を取り合う危険も存在するからだ。そして今回の連絡はその可能性を知らせるもの。コンシアンス王国がまた国境を超えて襲撃を仕掛けてきた。それはこれまでも何度も起きていたことだが、今回は本格的。何もないのに本腰を入れられるほどの余裕があるのか、支援があったから実行できたのか。それはこれから調べることだが、後手に回ることのないよう、事前に俺にも知らせてくれた。

 本格的な襲撃の詳細は、コンシアンス王国軍本隊を動かし、聖女と勇者を支援したこと。長く続く伝承を信じ、人間は魔王討伐を目指し続けている。五百年前の聖女が魔王の妻となり二人の子を生していることも、勇者が妃を支えていることも人間は知らない。先代魔王が長い生を終え、代替わりした魔王が人間との関係性を変えるため姿を隠したために、封印に成功したと勘違いしたのだろう。そして魔王子がここ百年に渡って積極的に姿を見せるようになったことが人間からは魔王復活の兆しに見え、また聖女と勇者を矢面に立たせての侵攻を始めたのだ。

 数日でミールウスから簡単な報告と追加調査、人員追加の要望が伝えられた。ヴェルート王国とコンシアンス王国による魔王国襲撃疑い。まだヴェルート王国第二王子の独断とは断言できないようで、慎重にさらなる調査を試みている。当然そちらの調査は頼みたいため、最低限の警備を残して調査に適した者をミールウスに預けた。俺も少し屋敷を空ける。フラールを残す形になるが、屋敷の者たちとも上手く交流できているようであるため心配要らないだろう。そう外出を伝える。

「行ってらっしゃい。帰って来なくて良いから。」

 連れてきておきながら置き去りは印象が良くないことなど分かっている。不機嫌な返事も納得だ。こちらに怒りをぶつけてくれても良いのに、目を合わせてくれないだけ。好きな服を着られるようズボンも用意した。可愛いからといって常に女装させているわけでもない。彼に協力してほしいならその格好や令嬢としての行動に慣れさせるより信頼を得ることが先決だ。そのための最初の時間を離れて過ごすことは避けたいが、まだ城まで連れて行き、血生臭い話を聞かせるには早い。特に今回は彼の故郷ヴェルート王国の関与も考えられる。心穏やかではいられないだろう。

 後ろ髪を引かれながら魔王城へ向かう。両親への紹介もまた次回に先延ばしだ。それより先にやることがある。弟への返信も出した。魔王城への滞在予定も記しているため、状況によってはそちらに手紙が届くだろう。


 何の緊迫感もない魔王城。両親の趣味で固められた内装は落ち着くものだ。この中で育ったからでもあるのだろう。もうここを出てからのほうが長いが、帰ってきた感覚は変わらない。まだ昼過ぎのこの時間なら父は執務中だ。母は軍人の鍛錬でも見ているだろうか。母がいるだけで打ち込み方が変わる。それを分かってよく見学をしていた。怪我をすぐに治してもらえることも心配なく全力を出せる理由の一つだろう。鍛錬の邪魔をしないよう、まずは父を訪ねよう。

 日常の近況報告は省略し、ヴェルート王国とコンシアンス王国の動きを報告する。現在の対処も伝え、今後の方針も共有だ。

「クリスタロ神国が無関係とは思えないな。そちらとのやり取りはなかったか。」

 まだその報告はない。魔王国と国境を接してはいないが、最も敵対的。何度もコンシアンス王国を通じて襲撃を試みており、今回もその一環だろう。過去にはヴェルート王国を通じての攻撃もあった。聖女と勇者がいるならクリスタロ神国が無関係ということはない。直接の攻撃はできないため、今はコンシアンス王国とヴェルート王国を警戒すれば良い。コンシアンス王国経由で届く、おそらくグランスが捕虜として捕らえる相手が持っているのだろう手紙の内容もミールウスに確認してもらい、第二王子が書いた物と内容に変化がなければ特別な対応も不要だ。現在の担当に任せたままにしよう。弟とは連携して事に当たるつもりだ。

「援軍の用意はしよう。ヴェルート王国に不意を突かれても困る。お前はそちらへの警戒を緩めるな。」

 戦力面での心配は不要になった。他は今話し合えることでもない。ヴェルート王国から連れ帰った婚約者のことでも伝えようか。女装して気を惹く任務を与えられた可愛らしい騎士だった。小柄で人の警戒心を奪う童顔と雰囲気を纏っている。潜入捜査には最適だ。危険地帯に突っ込ませる気はないが、いざとなれば頼れる相手ではある。まだ落ち着いた環境にできていない中で、祖国との戦争の可能性を伝えることはしていない。

「賢明だな。知り合いが全員死ぬくらいの時間は必要なんじゃないか?」

 両親の事例は参考にできない。母は祖国で良い扱いを受けていなかった。祖国に何の未練もない人物と良好な関係の家族や友人を残してきた人物を同等には考えられない。やはり今回の件にフラールは関わらせない。家の采配を任せ、そちらに意識を割いてもらおう。母のように訓練場に顔を出してくれても良い。見ている人物がいれば緊張感も増すだろう。

 父に伝えたいことは全て伝えた。母にもフラールのことは報告しよう。予想通り訓練場で見学しており、元勇者による指導も行われていた。全面戦争になった場合、彼も前線に立つのだろうか。五百年も昔のことなら人間は誰も覚えていない。向かっても面白いことは起きないか。

「久しぶり、ファルクス。気分はどう?何だか表情が明るくなったわね。ヴェルートで良いことでもあった?」

 母に隠し事は難しい。特に感情に由来するものはすぐに読み取られてしまう。素敵な人間を見つけた、婚約者として連れ帰った。そう事実だけを答えれば微笑みが返ってくる。祝福と暖かい言葉は詳細を尋ねない。妻を亡くして以降、多くが心配してくれていたことを知っている。だからこそ竜の子が俺に預けられたのだろう。友人を何度失っていてもそれともまた異なる喪失感に、これを繰り返すことになるのかと次を見ることを拒んでいた。フラールは俺と同じ時を生きてくれるだろうか。家族も友人も全て死んだ先の世界を、自分と。

「私に聞いても分からないわよ。それよりその子を沢山見て、沢山お話してあげなさい。こんなところで相談するよりね。でも、来てくれたなら脈アリよ。自信を持ちなさい。あなたは素敵な子なんだから。」

 彼の祖国と戦争になったとしても、傍にいてくれるだろうか。恨まれはしないだろうか。まだ戦うと決めたわけではないが、そうなる可能性もある。今でなくともこれから何度もその危険は訪れる。まだヴェルート王国との交流は俺とミールウスが十年に一度訪問するだけに留まっているのだ。いつ敵対するか分からない。その場の勢いだけで連れ帰ってしまったが、もう少しよく考え、次の訪問を待っても良かったのではないか。

「優しいあなたの悪い所ね。たまには自分の思うままに行動なさい。その子のことが大切なら自分が守るんだって気合を入れるのよ。今はもう自分の手の中にあるのだから。今更帰しても遅いわ。」

 フラールが魔王国に同行してくれた理由には俺が断れない状況を用意したことが大きく影響している。伯爵家の人間が他国の王子にドレスを用意され、それを拒めば王族主催の夜会に遅刻する上、他国の王子もそれに巻き込む状態になるなど許容できないだろう。ミールウスも二度と会えないと自分の偽りの寿命を盾に脅していた。フラール本人の意思と呼べそうなものは食事への興味くらいだ。ただ、俺の婚約者として同行することは認めてくれた。諦めてくれただけかもしれない。そうだとしてもその責任は俺が負うべきだ。

 少しだけ不安になった心を励まされ、弟への訪問予定も伝える。今の状況で長く屋敷を空けたくない。今夜だけ魔王城で休み、すぐ次に行こう。


 コンシアンス王国との国境では既に戦闘が始まっていた。弟の抱える部下達も優秀で、まだ余裕を持って撃退できている。今回の聖女と勇者は上手く洗脳できているのか、世界平和のためと互いに鼓舞しているそうだ。こちらが殺さないよう手加減していることにも気付かず、奴らは特攻を繰り返す。一人また一人と捕らえられていることには気付いているようだが、全く怯む様子はない。父からの文も預かった。援軍の用意はある。不安に思うことなどない。新たな妻を迎える話などしている場合ではなさそうだ。

「兄上。兄上はどうやってあのヴェルート王国の敵愾心を削いだのですか。俺にはどうやってもできません。またこうして攻撃を許してしまいました。」

 負けたことは一度もない。しかし戦闘になれば被害が生じる。こちらの死人は避けられても、多くの人間を殺すことになる。運悪く一撃を貰えば後遺症の残る怪我も最悪死もある。圧倒的な力の差があったとしても、決して油断はできない。それを分かっているからこそ、戦争を始めてしまったと気に病んでいる。

 ヴェルート王国に度々顔を出すようにしている。それが功を奏しているのか、クリスタロ神国がコンシアンス王国に集中して対立を煽っているのか。後者なら俺達の行動が同じでも結果は変わる。何よりヴェルート王国とコンシアンス王国にいる人間は別の者たちだ。同じ行動や関わり方でも感じ方も様々だろう。同じことをしても戦争は避けられない。努力が実らない場合もある。今はこの戦いに勝つことに集中すべきだ。

「はい!やはり誰かを愛する心がなければ、分かり合えないのでしょうか。」

 良い返事をしているのにまだ戦争が始まる前のことを考えている。弟には妻がいたことがない。恋人くらいならあるだろうが、誰か一人を選ぶことも選ばれることもなかった。一度だけそのことを問うたことがある。あれは俺が妻を失った時だった。天寿を全うした、幸せな人生だったと言ってもらえた。気分が沈み、それでも何度やり直しても彼女の手を取らないことなどできないだろうと出会いからの時間を思い返していた時に、弟ならどうしたのだろうと聞いてみたのだ。愛することでそうまで苦しむのなら誰も愛したくない、と迷わず彼は言った。彼が誰も選ばないことも愛する気を失くしたことも、悲しむ姿を隠せなかった俺のせいだ。

 今は目の前の戦いに集中すべきだ。再び活を入れ、戦況を確認する。聖女と勇者は何組もいるが、何も特別な力はない。他の人間と比べて魔術や武術に多少長けるだけだ。人間の中では若い精鋭という立ち位置なのだろう。彼らを軸に横に長い陣形で、周辺に兵士を配置し、突撃を仕掛けてくる。最近剣は無駄と気付いたのか弓と魔術を主戦力とし、こちらの接近を許さないための槍兵が増えている。魔人と竜に魔術勝負は愚かだが、数の少ないそれらは常に全ての組に対して用意できるわけではない。今の所は魔術の得意な鳥人や人間の手を借りることで大きな怪我人を出すことなく撃退できているそうだ。必要とあらば父も援軍を送ってくれる、ヴェルート王国が共同で動いても俺が止められる。戦の指揮官としては弟のほうが経験豊富だ。具体的な助言は要らない。今この瞬間だけ後ろを向いていてもいざとなれば勝利に向けて戦える。少しの弱音を聞きつつ、魔王国優勢、まだ十分休息を取りつつ応戦できていると報告を受ける。話しているうちに戦う顔になり、目の前の敵に集中できたようだ。もう任せて戻っても良いだろう。

「ありがとうございます、兄上。おかげで頭の整理ができました。兄上も少し気分が晴れましたか?」

 俺の気分はフラールのおかげで晴れている。ただ、残念なことに帰ってもまだ時間の用意は難しい。ヴェルート王国の襲撃に備えなければならない。ミールウスの報告も気になる。一週間でどの程度調べられただろうか。

 ここでも一泊だけさせてもらう。体力には余裕があるため少し手を出して士気を高めることもできるが、ここに王子二人が揃っていると相手に教えるのも都合が悪い。ここは大人しく休んでいよう。そう眠っていた夜、騒がしさに気付く。庭に出れば一組の男女が花壇を荒らしていた。庭師が弟の癒しとなるよう手を入れている花壇が見るも無惨な姿になっている。

「ここで何をしている。」

「魔王か?なんでこんな所に!?」

「言ってる場合じゃないわ。人間を解放しなさい!」

 随分攻撃的な聖女だ。聖女だったらしい母は治癒術が得意だった。しかし聖女全てがそうとは限らない。この聖女は魔力を纏わせた剣を握り、俺に突撃してくる。小さな勇者がその身を守るように障壁を張り、魔術で援護している。ただどちらの魔力も荒く、簡単に乱せる程度だ。剣も純粋に金属を鍛えた物ではなく、魔術を駆使して強化した物のようで、魔力による攻撃で簡単に折れてしまう。

「なっ!?手の一振りで全部壊した?剣なんて粉々だ。こんなの勝てないよ。」

「怯んじゃ駄目。私達には世界樹の加護があるんだから。破滅の魔王には決して破れない。」

 聖女の意志が強い。彼女は本気で魔王を倒すことが世界平和に繋がると信じている。しかし俺が魔王でないことには気付いていない。ヴェルート王国からの情報はないのだろう。あったなら黒目黒髪は第一王子と気付ける。それとも王子がその容姿なら父である魔王も同じはずという思考だろうか。訂正する必要はない。俺は魔王として彼らを拘束し、後は弟に任せるだけだ。こんな所で時間を使うより早くフラールに会って、彼の心を聞きたい。

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