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騎士の俺がお妃様!?  作者: 現野翔子
ヴェルート王国編

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18/22

最後の夜会

 結局俺の作戦は何も通用せず、待っていてくれて嬉しいという余裕の態度でファルクス殿下には受け流された。その後も何度か反撃を試みるが、一度として成功しないまま、最後の夜会の日を迎えてしまった。

 この一ヶ月ですっかり恒例となってしまったファルクス殿下の迎えをフィブラ邸にて待つ。ドレスの用意すら彼任せであり、本人が持って来ることになっていた。一体何を着せられるのだろう。人前に出られない格好ではないと分かるが、過剰に着飾ってくる危険はある。両親も事前に聞いていると言いつつ、どのような物なのかは教えてくれなかった。

 余裕の笑みを浮かべるファルクス殿下を出迎える。その手に持つ箱の中身は教えてもらえないまま、着替えに向かわされた。着替え終わるまで目隠しをするほどの徹底ぶりだ。侍女が可哀想なため従うが、ファルクス殿下は一体何をお考えなのだろう。

 無事に着替え終わったようで、ファルクス殿下の入室が許可される。着ている本人より先に見る権利が与えられた。一番に見たのは着付けてくれた侍女だという事実で心を落ち着ける。

「よく似合っているよ、フラウ。目隠しを外してあげよう。」

 外してあげよう、と言っているが殿下のせいで外せなかっただけだ。言い方に引っ掛かりつつ、外してはもらう。目の前には礼装のファルクス殿下がいる。今までとは打って変わって全体的に白い衣装に身を包み、ボタンやベルト、手袋、ブローチ、刺繍など部分的に黒の要素が入っているだけだ。白と黒しか含まないその服装でも様になっている。

 鏡の前まで誘導され、そんな彼の隣に立つ自分を見る。純白のドレスはまるで婚礼衣装だ。裾が床に触れており、長いヴェールも垂れ下がっている。裾の黒い刺繍がファルクス殿下とお揃いだ。完全な婚礼衣装ではないが、全体の雰囲気は婚礼衣装。胸元の黒い宝石も落ち着かない。白い手袋と、胸元までレースで覆われている点で体型が露出しない安心感はあるが、この服装で今夜のダンスパーティに向かうことには不安しかない。まず裾を踏んで転びそうだ。他の令嬢でもこんなに裾の長いドレスで踊っている姿は見たことがない。

 もうここから着替える時間はない。これを狙ってわざわざファルクス殿下本人が俺のドレスを持ってきたのだ。事前に教えてくれなかったことも俺に断られると分かっていたから。なんてずるい人だ。分かっていてもここから逃げるわけにはいかない。まだ任務は終わっていないのだ。伯爵令嬢に過ぎないはずのフラウから一方的に致し方ない事情もないのにわざわざ迎えに来られたファルクス殿下を断るわけにはいかない。

 立場上仕方ないと彼の先延ばしの結果を受け入れ、馬車に乗り込む。ミールウス様は先に入場されていると聞いた。俺達二人が最後の入場だ。大きな扉が開き、全員が注目する。婚礼衣装のような物で揃え、最後に二人だけで入場する。何かあると皆思うことだろう。答えを先延ばしにし続けたが、もう断れないのだろうとひしひしと感じている。この服装でこの入場をしてしまったのなら、俺は事実上魔王国第一王子の婚約者扱いになるだろう。任務が長期に渡ることを考え、事前に騎士団の寮は片付けてきた。実家のほうは任せておけば良い。断るほどの理由を失い続けている。

 全員に注目されながら壇上に上る。陛下もご存知のようで、涼しい顔で楽団に演奏を止めるよう指示された。ファルクス殿下も声を張り上げ、俺フラウ・フィブラを婚約者として連れ帰ることを宣言する。今回は正式な結婚式でも婚約式でもないが、両親もいる場で晴れ舞台を用意するために急遽この場を借りた、と。本物の令嬢であったなら大変有り難い配慮だっただろう。俺にとっては中身が騎士フラールだと知っている人もいる中での晒し上げだ。この対応ができるということは王族の方々は事前に知っていたのだろう。もしかすると寮の部屋を整理するよう促した王都騎士団長もご存知だったのかも知れない。衣装の件を事前に知っていたのなら両親もこうなると分かっていたはずだ。警備に当たっている近衛騎士達もフラウが男性騎士フラールの女装としか聞かされていないだろう。

 ファルクス殿下からの宣言と祝福の長い拍手が終わり、ようやく壇上から降ろされる。この後の挨拶も祝福と困惑の声が聞かれるだろう。知り合いからはどうしてという目で見られるのだろう。こんな場所でフラールとしての回答はできない。嘘に真実も混ぜる形になるが、全てが真実だとは思われたくない。苦しい言い訳の時間だ。多種多様な種族の集まる地、それぞれに適した食事の話を聞いたという事実から、興味があって自ら志願した、ファルクス殿下の優しさに惹かれたという嘘を交える。彼からは面白い令嬢に運命を感じた、この短い交流でも好ましい人物と知った、と俺を積極的に連れ帰りたいという想いを話される。もう後には戻れない。ファルクス殿下の帰国前日に開かれるこの盛大な夜会でお披露目までされてしまった以上、俺はフラウ・フィブラとして嫁ぐことになる。騎士としての引き抜きではないと表向きの立場を示されたが、実際ファルクス殿下はどういうおつもりなのだろう。ただ面白い騎士、令嬢、友人として求められたのだろうか。

 夜会が終われば一緒に離宮へと向かった。今夜から俺もこの離宮にて過ごす。外では婚約者らしく歩くが、ここでは不必要に触れる必要がない。そのことを明確にした上で休ませてもらう。着替えが済めば当然のように夕食を共にし、脱衣所まで連れて行かれた。既に数回共に入浴している。今日は結婚式ではなかったが、婚礼衣装にも近いドレスだった。まさか何かするつもりだろうか。

「君の心が決まるまで待とう。時間は幾らでもある。千年でも待っていよう。」

 魔人の時間感覚だ。俺が千年も生きられない。ともかく待ってくれるというのなら今は気にせず入浴しよう。手早く体を洗い、注目を浴びてばかりだった一日の緊張を解す。ファルクス殿下も整えていた髪が緩やかに落ち、決めきっていた婚礼衣装のような服から自然な体へと戻っていた。自分が本物の令嬢だったなら玉の輿と喜んだのだろうか、それとも責務の重さに慄いたのだろうか。その体を滴が伝う瞬間を見てもいまいち現実味に欠ける。人間の令嬢が魔王国に大々的に渡る事実が両国の友好に影響するのなら、このまま令嬢として嫁ぐのだろう。国家としての関係性にファルクス殿下が影響させないと断言していても、貴族達は信じ切らない。俺の耳にだって政略結婚の話は入ってきた。自分の家が恋愛結婚をしても良いという方針でも、周囲を見ればその有用性や必要性も理解できた。人々を守るために騎士になったのなら、人々を守るために結婚だってできるのではないか。特別結婚したい相手もおらず、自分を尊重してくれる相手なら、強く拒む理由も見つからない。それこそ性別しか挙げるものがなくなってしまった。

 とりとめのない思考がぼんやりと頭の中に流れていく。純粋に他国の王子が来たとして遠目から眺めるだけなら、凛々しい人が来たと思うだけだっただろう。俺に女装させるおかしな趣味があることも知らず、異文化の隣人と思うだけだったはずだ。この漆黒の目が悪戯に輝く瞬間を見ることもなかった。そもそも伯爵家出身の騎士と隣国の王子に接点などできないはずだった。姫様がもっと国のことを考えない我が儘だったなら、王太子殿下も心配せず、俺が女装する任務もなかった。自国の王族の方々が国のことを想ってくださることは安心だが、代わりに俺が嫁ぐことになるなんて聞いていない。俺の心が決まるまで千年でも待つと言える人なら、姫様が嫁いでも幸せになれるのではないだろうか。たった一人異国の地に足を踏み入れる女性を無下にする人ではない。一見鋭いこの目は存外こちらの様子を窺っている。

「そんなに見つめてどうした?妻になる覚悟でも決めたか。」

 慌てて目を逸らす。幸い今回は結婚式ではなかった。親に子の嫁ぐ姿を見せられるよう、婚礼衣装に似せたドレスを着せる形にしたらしい。俺が令嬢なら気遣いだが、全く要らない配慮だ。上辺を取り繕うなら自然な行動ではある。魔王国の王子は伯爵令嬢相手でも礼儀を尽くす人物だと知らしめられる行動だ。少なくとも俺に対しても、多少強引に連れ帰るための状況を用意しただけで、個人的な付き合いの中では無理強いされていない。いや、国境を越えることを要求されている時点で、無理を言われているのだろうか。

 思考を打ち切り、のぼせる前に湯から上がる。ファルクス殿下も一緒に上がってきた。互いに自分を体を手早く拭っていたはずなのに、彼は何故か服を着る前に侍女のように俺の着替えを手伝い始めた。その手にある俺の寝間着は若干透けているように見える。レースもひらひらと揺れていた。しかし拒めば裸になるか大きめのタオルに身を包むだけになる。何も着ないよりは良いだろう。

 諦めて半分透けているようなネグリジェを着る。寝室の前に立ち、本当にこの服装で今、同じ布団に入るのか。深呼吸をし、まだ結婚していない、形式上の問題だと自分に言い聞かせた。

「王子妃として連れ帰るんだ。多少同衾が結婚と前後したところで問題ない。人間ほど拘りがないのでな。」

 本当に夫婦として見せかける必要はない。結婚前でもある。同じ部屋であれば一緒に寝なくとも恋仲という話は疑われない。ここは人間の治める国だ。不必要に密着している必要はない。そんなことをしなくともファルクス殿下やミールウス様が俺を特別扱いしていることは見せられている。しかし既に一緒に寝ることも決定事項のようで、ファルクス殿下は動かない。せめてと大きな寝台の中央に指で線を引き、その片側を俺の陣地、ファルクス殿下は進入禁止と主張した。

「警戒心が強いな。約束しよう。魔王国で式を挙げるまでは一線を超えない。」

 気になる言い回しだが、今夜の安全が確保できるなら聞き流そう。式を挙げさせなければ良いだけだ。花嫁不在の結婚式になる危険は冒さないだろう。

 警戒心を強めつつ布団に入る。被る布団が一枚だったため、思ったより距離は取れなかったが仕方ない。少し触れてしまうことも許してあげよう。わざと触ってくるなら怒る。睨んでも堪えた様子はなく、諦めて目を瞑る。何度か細目で確認してもこちらを見ていた。一体何のつもりなのか。

「寝顔を見ようと思っているだけだ。さっさと寝ろ。何なら朝まで寝かせないこともできるが?」

 一線を超えないという話はどこに行ったのか。せめてもの抵抗のつもりで背を向けて目を瞑った。


 極力触れないようにという配慮はなかったようで、しっかりと抱き締められた体勢で目が覚める。睨みつけても余裕の笑みを浮かべ、堪えた様子はない。もう何も言わないと心に決め、朝食も済ませて一緒に馬車に乗り込む。荷物も既に纏められており、侍女は同行しない。身一つで嫁ぐなんて令嬢としては異例のことだが、常に付いている人もいないのに連れて行くのは可哀想だ。

 今回の見送りは王族の方々とフィブラ家の面々のみ。最後に両親にも会えるようにと取り計らってくださった。既に別れの挨拶は済ませているため、今は簡単なものだ。道中にあるジョストラ辺境伯家にも寄らせてくださった。日程を合わせてくださったため、ジョストラ辺境伯家の護衛とティーロ様も別の馬車ではあるが一緒に移動し、今夜はここで宿泊だ。

 部屋の用意もファスクス殿下がわざわざ俺と同じ部屋を頼み、ここでも一緒に眠る羽目になった。これはもうファルクス殿下の屋敷の到着しても同じだろう。諦めて慣れるしかないのかもしれない。そんな気持ちも抱えつつ、魔王国領との国境に近づく。ヴェルート王国から借りている馬車と御者はここまでだ。国境は徒歩で越え、この先は魔王国からの馬車だろうか。深い森に見えるが、馬で走れるのだろうか。馬車の走る広さはないように見える。迎えが来ているようにも見えない。

「ミールウス、フラールだけ先に連れて帰ってくれ。俺は地上から追いかける。」

「了解。フラール、ちょっと失礼。」

 しっかり暖かい服を着せられ、向かい合う形で体をミールウス様に縛り付けられる。魔法も掛けられた。熱いほどになり、それを確かめるとミールウス様は翼を大きく広げ飛び立つ。手を振ってくださる殿下に振り返し、どんどん高くなる景色に息を呑む。上空になればなるほど暑さもなくなっていた。眼下には森と国境の壁が続く。こうして飛べてしまうのであれば国境の壁など何の意味もないではないか。

「あれは主にこの周辺で発生する魔物を防ぐための物だね。一応この範囲も魔王国の領地扱いだから気軽に狩りには来られるよ。」

 人の出入りを制限する物ではなかった。実際に上からでも見えるほど大きな魔物もいる。鳥のように飛んでいるものもいる。攻撃を仕掛けてくるものはいない。

「魔力の強さを感知できる魔物が多いから、魔人や竜人、強い鳥人は狙われにくいんだ。逆に魔力のない、あるいは少ない獣人や人間は狙われやすい。一人で行動しないようにね。」

 俺は人間だ。ミールウス様は鳥人だ。強いらしい。だから一緒にいると安全。今も魔物に襲われることなく快適な空の旅だ。俺を抱えて何時間も飛び続けるなんて大変ではないだろうか。もう寿命も近いお爺さんだと言っていた。若く見えるが、体は心配だ。

「ああ、それ?嘘だから大丈夫。魔人化っていう秘術があって、不老になってるんだ。おおよそ魔人と同じ時間を生きられる。怪我や病気で死ぬことはあるよ。俺も魔人化してるから、百年生きてるけどまだ若々しいでしょ?」

 鳥人の寿命は五十年、ミールウス様は五十年以上生きている。確かにその点だけなら嘘ではないが、ヴェルート王国にいては次会えないかもしれないという点は誇張だ。いつ何が起きるか分からないとしても、寿命で死んでいるかもしれないと思わせる言い方はずるい。

「だから嘘だって言ったでしょ?どうしてもフラールちゃんに来てほしくて。」

 そんなことを言われても俺が魔王国に来るかどうかの判断材料にはならない。結局ファルクス殿下が色々手を回し、気付けば俺が拒否できない状況を整えられていただけだ。今更激しく抵抗する気もない。そんなことをすれば地面に真っ逆さまだ。

「あれだけ盛大に出て行って何事もなかったかのように帰るの?特に何か嫌なことがあったわけでもないのに?」

 煽るような言い方で引き留め、動きは全く淀みなく遠くに見えた屋敷に向かっている。戻ることなどできないのだろう。それなら魔王国での生活を楽しんだほうがまだ良い。美味しい食事だってきっとある。こちらの人とも話してみよう。騙されたことは一度横に置き、魔王国の生活を体験してやっても良い。

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