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騎士の俺がお妃様!?  作者: 現野翔子
ヴェルート王国編

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12/22

鳥人の彼

 次はミールウス様とのお出掛け。全力で抵抗し、なんとか女装での外出は避けられた。フラールとしてならいつも巡回しているため、街の人々とも顔見知り。魔王国からの客人を案内するという体面も保てる。ミールウス様は楽しそうに歩き、道行く人の声掛けにも快く応じた。翼は全く見えない大きさにまで縮められており、外見上ただの人間だ。ただし目立つ容姿であることには変わりなく、お金も持っていそうだからか客引きには絡まれがちだ。前回会ったことを覚えている人もちらほらおり、相変わらず美しいと老若男女問わず褒めている。お婆さんにもお嬢さんと声を掛けることも彼女達が喜んで話そうとする一因だろう。特に俺の母親くらいの年齢の女性と親しいようだが、同年代だからだろうか。そう考えると不思議な気分だ。どう見ても俺と同年代か少し上程度にしか見えない。

「フラールちゃん、興味ある?三十年前の話よ。四十年だったっけ?一ヶ月だけの夢を見させてもらったことがあってね。」

「ソリーソさん、やめてください。知らない人にわざわざ教えなくても良いでしょう?可愛い男の子に軽蔑されたくないんです。」

「あら、お姫様体験をさせてもらって良い思い出なのだけれどねぇ。お陰で良い旦那も捕まえられたし。あんたには感謝してるよ。似たようなことを何人にもしていたことは、知られるとまずいかい?」

 噂通り以前は遊んでいたらしい。円満に別れられているのなら良いが、そうでない場合もあるだろう。ミールウス様の言葉は鵜呑みにしないよう特に気を付けよう。

 警戒心を隠し、王都を歩く。彼にはもう案内など必要ないだろうに、来なかった十年での変化があるだろうと求められた。確かに日常的に巡回をしており、住民達ともよく話すため変化に詳しい自負はある。休日の買い物の際もお勧めの店の話などはよく聞かされた。彼になら何が良いだろう。お洒落な人であり、肌も美しい。日頃どんな手入れをしているのだろう。そうした化粧品に関心があるのだろうか。それとも魔王国第一王子の補佐官なら侍女が全て手配しているだろうか。

「お使いは頼むけど、どれにするかは自分で選んでるよ。あんまり頼ると王子殿下の愛人扱いされちゃうからね。」

 同じ家に住んでいるらしい。そこが最大の原因だろうが、変えるつもりもないようだ。

「可愛い恋人がいれば愛人扱いはされないかも。どう?」

 何が「どう?」なのか分からないが、とりあえず断っておこう。彼の言うことには従わないほうが良い。簡単にあしらい、案内を続ける。行き先は安価な化粧品や香水の類が売っている店。彼はもっと高価な物を使っているだろうか。

「香水はともかく毎日大量に使うような物はそんなに高価な物にしないよ。湯水のように使えるほどお金があるわけじゃないからね。見栄えさせる必要のある所には使うし、場合によっては経費で落ちるけど。」

 この国の化粧品にも興味を持ってもらえるだろうか。そう店に入れば、香りや付け心地の話も店員と行い、何より成分に細心の注意を払っていた。

「人間と鳥人では毒になる成分が違うんだ。ここには人間しかいないってことは、何の気なしに俺にとって毒になる成分が含まれている危険がある。食事も外では迂闊に食べられないね。離宮では伝えてあるから大丈夫だけど。」

 魔王国では多くの種族がいるからこそ、それぞれに対応した食事を提供する店がある。何を使っているかの表示も各種族に対応した物になっており、そもそもどの種族向けの店なのか店ごと分かれていることもあるそうだ。

「ただ、人間と魔人は数が少ないからそれ向けの店はほとんどないね。魔人は料理人を自分で雇えるような立場の人ばかりだし、人間も他種族向けで成分表示を見て食べられるから大きく問題にはなってないけど。君も王子妃になるなら特に困ることはないね。」

 食事に関して大きくことなる点があるようだ。魔王国の食堂で食べることも楽しそうだ。いや、俺は嫁がないためそんな機会はない。俺は毒に関する知識なら多少学んだが、他種族の食事に使われる食材で人間にとって毒になるものがあるかどうかは知らない。そもそも他種族の食事によく使われる食材も知らないのだ。この話は長引かせないでおこう。前向きに検討すると言ってはいるが、それは気を惹く作戦のためだ。

 専属料理人のことは聞いてみたい。化粧品を見ているのにお腹が空いてきてしまった。食材など細かく書かれていることはないため、ミールウス様と外で食事は難しい。一度離宮に戻る必要があるか。結局何も買わずに戻り、ミールウス様に楽しんでいただけたか不安になる。

「楽しかったよ。色んな人と話せたし、君の興味も分かった。人間だけのああいった場所の並べ方も面白いね。成分についてあまり触れられていない。どの種族向けかと分けて並べることもない。人間しかいないからこそ、使い心地と香りに特化して並べられるし、表示もできる。」

 毒になる成分が種族ごとに様々だからこそ、間違って購入しまわないような配置が最優先になる。魔王国に行った時にはそこも見てみよう。いや、だから俺は魔王国に行かないのだ。ミールウス様と話していると俺が魔王国に行くこと前提の会話になってしまう。気を引き締めなければならない。

 離宮ではファルクス殿下も一緒に昼食を取ってくださった。そもそも俺と食事を取るつもりで時間を空けてくださっていたそうだ。午前も午後も忙しくこの国の貴族達と交流され、そのためにヴェルート王国まで来られている。食事くらいゆっくり取りたいだろうに、魔王国の話を聞かせてくださった。特にミールウス様が会話を誘導しているような気もするが、気の所為だろうか。騎士としての嗅覚を最大限に働かせなければならないような気にもなってくる。

「フラールは今みたいな食事をいつも取ってる?それとも屋台で見たような物のほうが多い?」

 屋台の食事のほうが多い。今の食事は王宮で食べられるようなものだろう。俺も夜会で食べられることがある程度で、珍しい。今回だって魔王子の気を惹くという任務を受け、それが成功しなければ離宮での食事なんて叶わなかった。忘れないように味を覚えておこう。魔王国でも王宮ではこんなに美味しい食事なのだろうか。

「俺達は基本王宮じゃなく殿下の領地にいるね。料理人が用意してくれるから同じくらい美味しいよ。」

「そうと決まれば早速婚礼の準備を始めよう。」

 何が、そうと決まれば、なのだろう。何も決まっていない。ファルクス殿下は非常に乗り気だ。騎士一人抜けた程度でどうにかなるような国なのかという挑発までされた。確かに騎士一人が抜けた程度で国は揺るがない。それと俺が嫁ぐかどうかは別の話だ。しかしまだ滞在期間はほとんど残っている。ファルクス殿下の気は惹き続けなければならない。はっきりと婚礼を断っては距離ができてしまう。しかし結婚を約束したのに反故にするのも問題だ。そう答えを渋れば、誰に連絡を入れるか、連れ帰る時の衣装をどうするのかという具体的な話まで始められてしまった。俺は返事をしていないという点を言い訳として受け取ってもらえるだろうか。

 妃として向かうことが決定事項になっていく。騎士を引き抜く形になっては揉め事の種になるから、という理由にも上手く反論できない。二人とも悪い顔をしているように見える。何か俺には言わない理由もあるのだろうか。本当に令嬢としてなら問題ないのかも気になる点だ。迎え入れることになるファルクス殿下が問題視していないならその点は揉め事の種にはならないか。

 魔王国に連れ帰ることをお二人が具体的に考え始めている。これを止めないことは任務のための引き伸ばしとして許されるのだろうか。騎士団長に報告が必要だ。相談もしたい。そう昼食を終え、早速騎士団へと戻った。ファルクス殿下とついでにミールウス様の気を上手く惹くことに成功し、性別には気付かれたが連れ帰りたいと言われている。他の令嬢との交流もしているが特別なものではなく、連れ帰るような話は出ていない。任務は成功だ。問題は本当に妃として連れ帰ろうとしている点だ。

「そうか。彼らが帰還されるまでは騎士として扱おう。ご家族にも伝えたか。」

 団長も報告を適当に聞いているのだろうか。ファルクス殿下が俺を妃にしようとしており、俺は任務のために返事を渋っている状況だ。具体的にどの店が良いのかという話にも加わっていない。令嬢としてのドレス、特に婚礼衣装の話など俺に分かるはずもない。相手に任せておけば良いという問題でもない。そもそも俺に本気で嫁ぐ気はないのだという話だ。

「お前も貴族なら分かるだろう?政略結婚などよくある話だ。」

 政略結婚なら伯爵令嬢と王子が結婚することにはならない。礼儀作法や役割という面で苦労が大きいという話は姫様もされていた。令嬢としての教育は礼儀作法という上辺しか習っていない。夫人になった際にどういった仕事をするのかという話は聞いていないのだ。

「不安ならお相手にそのことを言えば良いだろう?騎士だとバレているなら、一般的な夫人の役割を期待されているとも思えないが。」

 魔王国は世襲ではない。そんな話もされた以上、一般的な第一王子の妻としての責務とは異なるものがあるのだろう。この国で学んだかどうかが大きく影響しないという話をされたかったのかもしれない。跡継ぎの問題もないため、女性を妻として迎える必要もない。断る口実すらなくなっていく。

 一度両親に伝えて来ると良いと締められ、団長室を出されてしまった。両親は止めてくれるだろうか。両親の結婚が政略結婚だったのかどうかすら俺は知らない。結婚した頃の話など聞いた覚えがない。政略結婚だったのなら、これも当然として送り出されるのだろうか。恋愛結婚だったのなら止めるのだろうか。俺に喜々として女装をさせた母と、本物の娘のように心配した父のことだ。どう出るか全く読めない。

 フィブラ伯爵家王都邸。ファルクス殿下の行動、騎士団長の言葉と事実を伝える。万一俺が本当に嫁いでしまったら、会えるのは十年に一回になる点も強調した。婚礼衣装のことも問題として挙げる。娘が嫁ぐ想定でのお金のやりくりはしていない。資金面の心配は無いのだろうか。俺の給金では魔王子殿下に嫁ぐための婚礼衣装の調達などできない。そんな金銭面での課題も伝えれば、現実的に嫁ぐことは不可能だと言えないだろうか。

「魔王子殿下から聞いていないのか?こちらに婚礼衣装の用意を連絡されている。代金もあちらが持ってくださる。以前の採寸をそのまま使っていただいたが、体型は変わっていないな?」

 俺が騎士団長に報告している一瞬の隙に挨拶に来られていた。なんて行動が早いんだ。俺が乗り気でないことには気付いていたのだろう。だから周囲の状況を整えることを優先し、俺が断りにくいようにされている。そこまでして俺を連れ帰りたい理由はわからない。衣装に関しても体型は維持しているため着られるが、問題はそこではない。俺が色々と覚悟を決めて断った場合にはどうするつもりだったのだろう。どんなドレスが用意されているかはお父様もご存じない。これらは本人への追求が必要だ。寮に戻ったら先日のお出掛けへのお礼とドレスの件を尋ねる手紙を書こう。離宮で一晩中でもお話したいと可愛らしいことも書く。嘘は吐いていない。一晩中でも問い詰めたい気持ちはあるのだ。

「特に相手がいないなら受けるのも良いんじゃないか?良い人のように感じたが。」

 父上はファルクス殿下に陥落したようだ。確かに俺は誰かと付き合っているわけではないが、男性と結婚する可能性など考えたこともない。両親からも結婚しろという話をされてこなかったため、特に意識もしていなかった。

 母上にも相談するが、父上同様受けてみると良いと同じような返答だった。一ヶ月間で相手を見極めると良いという助言は経験から来るものなのだろうか。たった一ヶ月で何が分かるのかとも思うが、結婚して初めて会う相手のこともあるという政略結婚の話を知っている身では、それを経験したかもしれない母上にこのことは言い辛い。見てみる、以外の返答なんてできっこない。

「信じてないわね?駄目だったら帰ってらっしゃい。出戻り娘と言われるだろうけど、耳を塞ぐことも時には必要よ。」

 出戻り娘と言われる人物など本当は存在しない。フラウとして嫁ぎ、帰って来た場合、フラウという令嬢は存在しなかったことになるだろうから。そう考えると気分は一瞬楽になるが、男に自分が嫁いでいくという違和感や抵抗が薄れるわけではない。

「私は完全な政略結婚というわけでもなかったからねぇ。無理に嫁ぎなさいとは言えないけど、どこまで断れるか分からないわ。フィブラ伯爵家として協力しても、相手は王族だものねぇ。」

 協力してくれるつもりはあるらしい。母上が説得してくれるなら父上も協力してくれるだろう。団長の反応から察するに、王太子殿下は自分の命令で起きた事だが、むしろ結婚してくれたほうが都合良いという考えもありそうだ。姫様を嫁がせることなく、魔王国との友好を深められるのだから。政略的には都合が良い。騎士は国を守る準貴族だ。それを考えるならこの政略結婚も受け入れるべきなのだろうか。少なくとも楽しい会話をできる相手ではあるが、当然恋愛対象ではない。

 考えを纏められないまま、離宮にお呼ばれする。既に両親は娘を魔王国に送り出す気分なのか、十分に吟味した服を着せられた。彼らの部屋に招かれてしまえば取り繕う必要もなくなるのだが、俺としてもこれでフラウとしての演技だと言い張る要素を得られるなら許容しよう。令嬢らしい演技で婚礼衣装の件も問いかける。

「最終日前日の夜会まで楽しみにしていてくれ。」

 教えてくれる気はないらしい。このままでは本当に嫁ぐことになってしまう。気を惹く任務は重要だが、そのために自分の結婚相手まで決定するつもりはない。ここまで手が早いなんて想定外だ。だからこそこんなに簡単に気を惹くことができたのだろう。一ヶ月程度、どっち付かずの態度できっと上手く誤魔化せる。まだ嫁ぐと決めたわけではないと繰り返し、断る場合にも備えた。婚礼衣装を用意されてしまっていた場合はどうしよう。


 ファルクス殿下とミールウス様が帰還される日までは彼らの相手が俺の仕事。不敬に見えない態度は必要だが、お二人は何も気にされないため比較的楽な仕事だ。そのはずだったのだが、この国の第二王子殿下に呼び出された。末端の騎士一人一人を把握されているはずもないが、今回の特別任務の件は王家の方々にも伝えていると団長は仰っていた。報告もそちらから行くことになっているが、何か直接聞きたい点でもあったのだろうか。気になる点は俺宛に直接手紙が来たことと、誰も伴わず一人で来るよう指定されていたことだ。団長の同行すら拒んでいる。何の話をされるつもりなのだろう。

 第二王子殿下との交流は当然ない。失礼のないよう気を付けつつ、騎士の挨拶を行う。何か問題でも起こしてしまっただろうか。

「そう緊張しないでくれ。直接話してみたかっただけだ。」

 そんな前置きをしておきながら、魔王子の気に入った騎士が気になった、男でも連れ帰ると言い張るほどの価値が何か知りたい、と探る姿勢を見せる。純粋に話したいだけではない。

「着替えを用意した。見せてくれ。」

 女装姿も見たいらしい。王子の求めは断れない。そう侍女の手を借りてドレスを着る。既に慣れた行動だ。王子殿下もまじまじと見つめ、令嬢に見えると太鼓判を押してくださった。そして有用だ、と付け加える。

「治癒術の心得もあったか。」

 医務室の怪我人を治したことはある。魔力量が少ないため、重症人を多く治すことが難しく、魔物討伐に治癒術士として同行したことはない。公園で木から落ちた子の怪我を治したことはある。転んだ傷程度は自然治癒に任せたほうが良いと洗い流すに留めた。

「国から出すのが惜しいな。城下の民からは人気があると聞く。」

 人気はあるかもしれないが、近所の少し心配な子が頑張っている、という感覚に近そうだ。国に影響があるほどではない。

「ふむ。単刀直入に言おう。魔王国内の内情を流してほしい。家族への手紙の中に報告を混ぜ込めるだろう。」

 友好関係を維持するならそういった情報収集は避けるべきではないのか。ファルクス殿下なら聞けばある程度教えてくれるだろう。結婚しろという命令なら従わざるを得ないが、結婚後の行動に関してはファルクス殿下に従うことになる。騎士を辞め、ヴェルート王国への忠誠も撤回する形になる。何より形だけでも結婚するならファルクス殿下を裏切るような真似をするべきではない。

「辞めてからの話だ。今はまだ騎士だろう。」

 辞めた後に関する任務は受けられない。どんな時も支え合うと誓うなら、密かに情報を流すような真似はできない。これはいくら王子殿下の命令でも従えない。

「それならばせめて国の安全に努めろ。相手は第一王子だ。まさか政略結婚でもない愛する女の故郷を責め滅ぼすような真似はしないだろう。」

 言われなくても国の安全のため、そして任務遂行のために動いている。ファルクス殿下の気を惹き、悪意が見えないようにお断りできるならする。少なくとも滞在期間中は十分にもてなすつもりだ。

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