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騎士の俺がお妃様!?  作者: 現野翔子
ヴェルート王国編

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11/22

姫様との戦い

 ファルクス殿下の隣で目覚める。彼は既に起き、俺の寝顔を見つめていた。何が楽しいのか微笑んでいる。本当に愛されている令嬢になったようで居心地が悪い。誤魔化すように起き上がり、侍女を呼んで着替えの手伝いを頼む。その横でファルクス殿下は自分で着替え始めた。何故か俺の着替えまでこちらの部屋に持って来られている。ファルクス殿下が何か頼んでいたのだろうか。俺の服は令嬢の物であり、一人での着替えが難しく、手伝ってもらってもファルクス殿下の着替えより遅い。そのせいで眺められる羽目になった。素肌ではないが見られている。何だか乙女になった気分だ。今日の格好も似合うだろうか。

「ああ、今日も愛らしい。」

 まだ下着だ。ドレスの下に着るワンピースのような物だが、部屋から出られる姿ではない。素肌が見える箇所もある。その肌は侍女のおかげで他のご令嬢方にも劣らぬ艶を持つが、騎士として鍛えている逞しさもあるはずだ。着込んだ後の愛らしいならともかく、十分に着られていない状態で褒められてもあまり嬉しくない。

 完全に着終わってから鏡を見る。水色のドレスに漆黒の刺繍が施され、朝食後ブラックオニキスまで付けるそうだ。髪を結ぶリボンも黒で、ファルクス殿下の髪や瞳と同じ色になる。家に帰るだけではあるが、馬車から姿が見えるように意識しよう。離宮帰りにファルクス殿下の色を身に着けている。意味深にできそうだ。ショールは紺色。胸元は開いているが、馬車の中に隠れられるなら気付かれないと期待しよう。

「まだ帰さない。今朝早く王太子殿と姫君から文が届いた。姫君からは君宛てだ。」

 帰さない理由が分かると言わんばかりに手紙が差し出される。封の開いた手紙は王太子殿下からファルクス殿下宛て、封のされた手紙は姫様から俺宛て。王太子殿下からの手紙に何か姫様と俺のことも書かれていたのだろうか。ともかく姫様からの手紙の封を切る。

 一言交わしただけの間柄に相応しい定型文の挨拶から始まり、急な茶会への誘いが続く。茶会自体は以前より企画されていたもので、他の公爵家や侯爵家のご令嬢方も参加されるものだ。そこに特別な客人として俺を招くと記載されている。そしてその茶会の開催日時が本日午前。だからこそのドレスだ。帰るだけならと胸元と肩口の露出も受け入れたが、茶会に参加するならこれは避けたい。紺のショールで肩周りは隠せるとしても、鎖骨から胸元を隠すには手で押さえる必要が出てしまう。

「とても綺麗だ。何も心配は要らない。」

 目を細めて愛でているようにも見える表情に居心地の悪さを感じる。魔王子殿下を夢中にさせるという任務としては大成功だが、他の令嬢に男と気付かれたくはない。しかし今から着替える時間もないと馬車に乗り込んだ。ファルクス殿下も同行すると一緒に乗り込む。王宮まででも隣にいてくれるなら安心、なのだろうか。

 視線を感じながらの移動を終え、馬車から降りる。ここでお別れだ。そのつもりだったのだが、馬車を降りてからも何故かファルクス殿下は姫様との茶会会場まで一緒に向かっている。

「送り迎えはすると言っただろう?」

 王宮までと思っていた。まさか茶会会場まで行くとは思わなかった。しかもエスコートしてくれている。このまま姫様の前に出るのか。確かに姫様の割り込む隙がないと見せつけられる。案内され、令嬢達の姿が見えれば俺からも体を寄せた。ファルクス殿下もそれに応じ、出迎えてくださった姫様の前で俺に口付ける。帰りの迎えの約束も聞かせてくださった。笑顔の下で何を考えているのか分からないが、俺にとっても都合の良い行動だ。愛情の証とこちらも勝手に話させていただこう。二晩過ごしたことも事実だ。

 ファルクス殿下を見送った。姫様は握りしめた拳を震わせている。表情は取り繕っておられるが、目は笑っていない。失礼のないよう挨拶しても戦いの始まりを告げられただけだ。本日の参加者は数少なく、全員が一つのテーブルの囲める程度。公爵令嬢、侯爵令嬢に限られており、伯爵令嬢は俺一人。非常に怖い状況だが、臆してなどいられない。彼女らにも礼儀に則った挨拶をする。

「貴女も大変ね。」

 同情的な言葉をくださるご令嬢もおられた。敵しかいない場所というわけではなさそうだ。姫様の恋心が本物なのか確かめよう。こちらが身構えたことに気付いたのか、令嬢のお一人が俺のドレスについて尋ねてくださった。以前の夜会では黒い物など身に着けていなかったため、疑問に感じてくださったのだろう。ここで自慢できる。昨日ファルクス殿下と城下を歩き、その時も花の妖精のようだと褒めていただいた。

「もう名前で呼び合う仲になられたのね。」

 名前で呼びたいと、呼ばれたいとファルクス殿下が仰った。有り難く嬉しい申し出を受け入れた。そう言うだけで俺のほうがファルクス殿下と一歩も二歩も先の関係性を築いていると含められる。

 さらにファルクス殿下との出来事を話していく。夜は離宮にお持ち帰りされた。同衾したことは一度伏せよう。自信満々に言ってはむしろ不自然だ。夕食を共に取った話から朝の着替えの話まで飛ばす。ドレスを選んで頂き、と頬に手を当て、続いて自分を抱きしめて見せた。下着姿を見られたことまでは言わない。

「あの方が、お選びになったの?」

 肯定すれば姫様からの視線はさらに強まった。胸の膨らみは下着で誤魔化した分しかないが、その上にはファルクス殿下がくださったブラックオニキスが着けられている。意味深にその宝石を握りしめ、微笑んでみせた。これで胸元も隠れているはずだ。この仕草を見てか姫様の表情は一瞬険しくなるが、すぐに取り繕われる。そして始まったのは長々とした政略結婚の意味と魔王国第一王子という立場、ヴェルート王国第一王女という立場の意味のお話だ。

 政略結婚は両家の結びつきを強め、当人だけでなく両家ひいては有する領地の繁栄のために協力し合おうという意思の確認だ。それが魔王国第一王子とヴェルート王国第一王女の間で行われた場合、魔王国とヴェルート王国の友好の約束となる。今はまだ十年に一度第一王子とその腹心が来られるだけで、それ以外の交流がほとんどない。

「私と魔王子殿下の婚姻は国同士の関係において、とてつもなく重要ということよ。それは王女と王子だから。伯爵令嬢では務まらないわ。」

「苦労するわ。これは意地悪で言っているわけではないの。愛だけで解決できるものではないのよ。」

 説明は主に姫様が行われるが、公爵令嬢もその応援はしている。俺もファルクス殿下から教えていただくと言い訳する。ミールウス様ともお出かけの予定がある。会話の合間にもブラックオニキスや黒い刺繍の一部に触れた。その都度姫様の視線も鋭くなる。公爵令嬢のお一人は俺に同情的に、もうお一人は姫様に寄り添う態度ではあるが敵対的ではない。残る侯爵令嬢は姫様以上に刺さるような視線で俺を睨んでいる。

 魔王国に同行すると決めたわけでもない、一伯爵家の令嬢である俺に教えられる情報など口外できないもののはずがない。魔王国は王子が王位を継がない、魔王は魔王として生まれ、王子はその補佐をするに留まるとファルクス殿下から教えていただいたことを姫様方にもお伝えする。俺も領地経営に関してなら学んだと言えば説得力も増すだろう。箱入り娘として領地に留まるつもりだったのなら、兄を補佐できる知識が必要だと言っても信じてもらえる。両国の友好を気にするのなら殿下自身に求められる人物をヴェルート王国から出したほうが効果的だろう。そう姫様より自分のほうがファルクス殿下に相応しいと訴える。姫様にはまだ許されていない名前も何度も呼び、彼女にも聞かせた。しかし反応したのは姫様ではなかった。

「いい加減になさい!姫様が寛容だからといって調子に乗りすぎよ!立場を弁えなさい!」

 侯爵令嬢の手にある紅茶が浴びせられる。火傷するほどではないが、到底許せる行動ではない。姫様が驚いたように扇で口元を隠すが、隠される瞬間、僅かに歪んでいたことを俺は見逃さなかった。内心喜んでいるのだ。公爵令嬢は俺に同情的なほうも、姫様に寄り添うほうも慌てている。俺寄りの公爵令嬢カミーチア・ヴェスティ様はすぐにハンカチを取り出し、俺の顔や髪を拭ってくださった。姫様寄りの公爵令嬢セータ様も侯爵令嬢に俺への謝罪を指示され、半ば強引に彼女の頭を下げさせている。

 着替えのため、カミーチア様の呼び寄せた侍女に別室へと連れて行かれる。拒むことも不自然のため移動したが、着替えの手伝いを受け入れるわけにはいかない。俺が男だと気付かれては問題だ。せっかくファルクス殿下に選んでいただいたのに、勝手に脱がないと約束した、と着替えを拒む。ショールを握りしめ、決して脱がされることのないように体を隠す。このままここでファルクス殿下を待たせていただこう。姫様に対して失礼だろうか。しかし姫様は俺が紅茶を浴びせられた時、何の対処もされなかった。拭ってくださったのも、侍女を呼び寄せたのも、謝罪をさせたのも他の公爵令嬢方だ。

 侍女の伝言を受け取った姫様が俺の待たせていただいている部屋まで来られた。彼女が主催した茶会を放置している状態になっているのだが、そのことにお気付きなのだろうか。それとも先に解散してきたのだろうか。

「心配には及ばなくてよ。貴女とは十分な話し合いが必要だと伝えたら、理解してくれたわ。」

 解散したか、待たせているか。流石に危害を加えられるようなことはないだろう。下手に反撃して怪我をさせたほうが問題だ。こちらの小さな怪我程度は許容しよう。この後ファルクス殿下も迎えに来る。帰りの馬車で何をされたか言いつけてやろう。

 俺が落ち着いて彼女を迎えているからか、姫様は苛立ったように先程も聞いたヴェルート王女と魔王子の責務について語られる。ヴェルート王女の責務はともかく、他国の王子の責務を勝手に語っても良いのだろうか。王にならなくとも責務はあるという言葉にも納得はできるが、その責務の内容は俺達が決めることではない。

「貴女で十分という理由にもならないわ。」

 必要な気品や教養がある。そんな訴えも俺には届かない。結果両方ファルクス殿下に振られる結果になっても俺としては問題ないため、どれだけ豪語しても俺に傷は残らない。フラウという令嬢がまた箱入りに戻ったとしても良い。礼儀作法は十分に学び直した。まだ不足はあるかもしれないが、それでもファルクス殿下の気を惹けたという事実は残る。二人きりの時間を許された令嬢は俺一人だ。その点でもファルクス殿下との仲で俺が一歩も二歩も進んでいると言える。

 ファルクス殿下のお相手に相応しいかどうかは魔王国の価値観に合わせてファルクス殿下ご自身がお選びになる。ヴェルート王国の王太子殿下も姫様がファルクス殿下と結ばれることを望んでおられない。ファルクス殿下もヴェルート王国の姫を求めていない。国同士の友好関係を訴えるなら、王や王太子を先に説得すべきだ。彼らの協力を得てからファルクス殿下との仲を取り持ってもらえば良い。既にファルクス殿下の興味が俺にある今、もう手遅れだ。俺が男であることを伏せた場合、ファルクス殿下の興味を惹けた理由も無くなってしまうが、そのことは棚に上げよう。伯爵令嬢の立場でも高位の男性に嫁げるよう努力した人は他にもいるはずだ。そのことだけを理由にすることはできない。俺だけの特徴と言えば箱入り娘だった点か。箱入り娘が急に高い水準の礼儀作法や教養を修めようと努力し、ファルクス殿下に挨拶した。そこを重視してくださったと言い訳できる。何もなければないで純粋に人としての魅力で勝ったと煽れるか。女としての魅力と言ってあげたほうが攻撃力は高いかもしれない。さすがに不敬に当たるだろうか。後で王太子殿下からフラウが実は男だと聞かされた時のことも怖い。

「こんな子どもみたいな女のどこが良いのかしら。化け物の趣味はやっぱり理解できないわね。」

 自分のほうが相応しいと言いつつ、その相手のことは化け物呼ばわり。少しでも心の通った会話をすれば相手が化け物でないことくらい分かるはずだ。子どものような体型でも気にしない、中身を見てくれる人だとファルクス殿下を持ち上げておこう。お話が楽しかった、外見など気にせずに抱きしめてくださった。これは言えないが、性別も気にせず面白いと言うどころか、女装してまで近づくなんて面白いと言ってくださる。二百年生きているという話のため、感じ方が人とは異なるのだろう。姫様を心配する王太子殿下からの命だと知っても親しくしてくださっている。畏れ多くも友人のように話させていただき、魔王国へも興味が増していることも確かだ。

 見た目が良いだけでなく、気遣いもしてくださる。声が良いだけでなく、会話も楽しい。体だけでなく心も温かい。澄ました格好良さではなく、逞しさを持ち合わせておられる。まだ良く知らない相手ではあるが、姫様より親しいと見せつけるために、少々盛ってファルクス殿下の話を続けた。どんどん険しくなる姫様の顔を見るのも悪くない気分だ。品格高い王女はどこにいるのか。

「いい加減になさい!」

「王女ともあろう者が自国の民に手を上げるのだな。」

 振り上げられた姫様の手は下りて来なかった。ファルクス殿下の手が姫様の手首を掴んでいる。ここは見せつける良い機会だ。俺にとって都合の良い情報をファルクス殿下に訴える。他の侯爵令嬢に紅茶を浴びせられたこと、姫様はその場におられたのに何もしてくださらなかったこと、それどころか笑っておられたこと、俺を心配してくださったのも謝罪を促してくださったのも同席されていた公爵令嬢のお二人であること。ドレスは着替えたくなかったことも伝えよう。

 姫様の腕を離し、ファルクス殿下は俺を背に庇ってくださる。王太子殿下の望んだ状況はこれなのだろうか。他国の王子が姫様を敵視するような状況は好ましくないのではないか。これ以上対立を深めないため、早く帰りたいと甘えて引き離そう。背後から服を摘み、怖がる少女を演出する。

「安全のためにも離宮に留まると良い。伯爵家では王女に逆らいにくいだろう?」

 何も反論できずに姫様は俺達を見送られる。よく考えると姫様に喧嘩を売る必要はなかった。俺の任務はファルクス殿下の気を惹き、姫様に興味を持たないようにすること。ファルクス殿下の気持ちだけで十分なため、姫様に対しては何もする必要がない。恙無く茶会を終わらせるだけに留めたほうが良かったか。実家には悪影響がないだろう。王太子殿下は何故こうなっているのか、ご自身で依頼されたため知ってくださっている。姫様にも十分説明してくださるだろうか。それでも喧嘩を売ったことに対する弁明は必要かもしれない。

 馬車に乗り込み、何故かファルクス殿下の膝の上に座らせられる。本当に姫に傷付けられた少女を慰めてくれているようだ。

「怪我はないか。」

 頬や手首を触られる。訓練中や暴れる人の捕縛中に怪我をすることも多い。令嬢に打たれたとしても大した怪我にはならない。心配されるほどのことではないのだが、悪い気分でもない。姫様も割り込む隙がないと分かったことだろう。一度王太子殿下に報告し、姫様の興味がファルクス殿下にあることも含めてこの作戦を続けるのか確かめよう。

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