第73話
「怪我はないか?」
振り返り聞いてみるが、怪我は無いようだ。
「で、初めて魔法を使ってみてどうだ?」
普通に使えてたとは思うが、使用感が知りたい。雷鳴と痺雷の使用時のアクションは、体の一部に接触させていないと魔法の発動が出来ないのか?
「そうね、特に難しく考える必要はないわ。雷鳴と痺雷の発動条件は相手に触れる事と魔法名を声に出すだけよ。今の所使用後のリスクも無さそうだし、使い勝手はかなり良いんじゃないかな」
ノーリスクで相手を無力化出来るのはいいな。発動条件も簡素だし、この先の探索が捗りそうだ。
「だけど個人差はあるのだけど、探索者には魔力と呼ばれるものがあるの。これはゲームで言うMPみたいなものね。それで、その魔力が無くなれば魔法が使えなくなるらしいわ」
個人差ってのがどれ位なのかは知らないが、魔法の使用回数が探索者それぞれで変わるって事か。まぁ、これは追々調べていけばいいか。
「じゃぁ一度下の階層に降りて、転移装置部屋に行こうか」
今回は宝箱が無かったので、次に進もう。やはり、前回の宝箱は琴音さんからのサービスだったのかもな。
「ここが、セーフティーゾーンだ」
この階層に魔物が出ない事を説明し、目的の転送装置のある場所へ向かった。そして全員で転送装置に触れ、一階層へ転移する。無事全員転移出来たのを確認した俺達は二階層へ向かった。
「スラちゃん、ただいま。お利口さんにしてたかな?」
団欒部屋の扉を開けると、俺達が来るのが分かっていたのかスライムが入口で待っていた。
美晴がスライムを抱き上げ撫でまわす。溺愛状態の美晴は置いておいて、詩織をキッチンへ連れて行く。
「良い感じのキッチンじゃないの」
詩織はキッチンに備え付けられている水道のレバーを操作し、水が出るのを確認すると次はコンロのスイッチを入れる。しかし電源が入らない。
「あら、電源が入らないわね」
俺は以前確かめたコンセントへと誘導し、ドライヤーのプラグを差し込み電気が付かない事を説明した。そして、二人でブレーカーらしきものを探すが見つからない。唯一見つけたのが、何かを置く為なのかインテリなのかは分からないが丸い窪みが五つある台座くらいだ。怪しいと言えば怪しい。
「怪しいわね、何かを置けば良いのかしら」
俺も知らん。琴音さんにでも聞けば解決するとは思うが、それじゃ面白くない。
何をどうすれば良いかを自分達で考えるから楽しいのであり、何でもかんでも答えを聞くものじゃない。
「さぁな、手当たり次第にドロップ品を置いていけば、その内分かるだろ」
と、ここでカセットコンロをキッチンに置いた。今はこれさえ有れば事足りる。
「そうね。冷蔵庫がある訳でも洗濯機が備え付けてある訳でもないし、今は重要じゃないわね」
テーブルの上にお菓子を並べ、お茶も出す。
ここでまったりと過ごすのはダンジョンに潜る上で時間の無駄になりそうだが、目の前でスライムを愛でている美晴を見ていると先を促す事を躊躇してしまう。
久しぶりのスライムとの癒しの時間だ。仕方ないと割り切るしかないか。
「(そろそろ行かなくていいの?)」
「(俺も行きたいよ?だけど見てみろよ)」
未だにスライムと戯れる美晴。あれは絶対にスライムと一緒に探索したいって感じだよな。
仕方なく俺は重い腰を上げ、美晴に歩み寄った。
「スライムを一緒に連れて行きたいって事か?」
頷く美晴に、仕方ないと諦める。
「わかった、連れて行ってもいいが他の探索者の目もあるんだ、目立たないように鞄の中に入れておくようにな」
「パパいいの?」
「仕方ないだろ?」
「呆れた。ほんとママには激甘だよね、パパは」
当たり前だ。愛する妻の我が儘を全部聞くつもりだ。




