第71話
「ただいま」
「宗ちゃん、お帰り」
さっきまで名前を思い出そうと必死だったのに、妻の美晴の顔を見ると脳の何処かの引き出しに閉まってしまった。すまない、思い出せなくて。
「ほい、お土産」
「わぁ、これって駅前のケーキ屋さんのよね?」
少し寄り道をして、ケーキを買っていた。
「宗ちゃん、ありがとう。何か良い事でもあったの?」
「そうだな、良い事あったぞ」
雷魔法の指輪をテーブルの上に置いた。
「十四階層がボス部屋だったんだ。そこのボスが通常一匹の所、琴音さんの悪戯で五匹に改変されててな。それを無事撃破できたご褒美だと思う」
スマートな戦いではなく、乱闘に近かったけどな?いや、死闘かな?
「へー、私も行きたかったなー。それで、その指輪のスキルは?」
「雷魔法だ。壱~伍までの雷魔法習得となっているけど、魔法についての知識がないから今は使えないだろうな」
「それはあとで詩織に調べてもらうのがいいかもね」
「ところで肝心の詩織は?」
「友達とケーキの食べ放題に出かけたわよ」
相変わらずだな。まぁダンジョンであれだけ動いていたのだ、カロリーはかなり消費していただろうし、それを取り戻しに行ったのだと思えばプラスマイナスゼロって事か?
そう言えば、詩織も仕事を辞めてダンジョンに専念したいって言ってたな。毎日ダンジョンに潜っていれば消費カロリーも多く食べても食べても太らなさそうだし、いいんじゃないかな?
次の日、美晴と詩織を連れてダンジョン協会へ向かった。
昨日の夕方に帰宅した詩織に雷魔法の指輪の話をすると、一緒にダンジョンに潜る流れとなった。元々美晴と二人で潜る予定だったので異論はなかったが、以前から魔法が使いたかったらしく、すぐにパソコンを起動させ雷魔法を調べていた。勿論今日は詩織に指輪を渡してある。
朝も早いと言うのに本日も探索者達で混雑している。その内、国技館で使われているような満員御礼の垂れ幕でも吊るしそうな勢いだ。
相変わらず、新ダンジョンに並ぶ行列が見てとれるが、俺達が潜るダンジョンには人気がなかった。俺達はそのダンジョンのゲートを潜り階段を降っていった。
一階層に降りて転移の石碑に到着する。昨夜彼女達には、転移に必要な条件が十四階層ボスの攻略である可能性があると説明はしている。そして美晴、詩織、俺の順に石碑の上部に手を置いていった。
数瞬後セ-フティーゾーンへと続く階段が見えたので転移が成功したのが分かった。そして周りを確認するが誰もいない。もう一度石碑に触れ、一階層へ転移する。
「やはりダメだな」
「そうね、仕方ないわね」
「宗ちゃんボスに行くよ!切り刻んでやるんだから!」
それって、ただの奴当たりだからな?
それに琴音さん達はわざと転移の条件を設定しているのだと思うぞ?誰もが簡単に転移ができる状態だと、実力の無い探索者達が下層へと目指してしまい、命を無駄に散らしてしまう可能性があるだろ?たぶん琴音さん達は、そんな事を望んでいないはずだ。




