第70話
俺は一度帰宅する事にした。
サンドワームとの戦いで疲弊しているのもあるが、お腹が空いた。碌に食事も取らずに探索に精を出してしまったのは俺のせいなのであって、単に自己管理が出来ていないのが悪い。時間を忘れて探索してしまうのは俺の悪い癖なのかもな。
地上に戻った俺の目に飛び込んできたのは、沢山の探索者。朝とは比べ物にならない程の探索者に驚いた。
「凄い数の探索者だな」
ダンジョン協会一階ロビーどころか二階のカフェにまで人が溢れ、まるで福袋商戦のような賑わいだが一つだけ違うとすれば、ここに集まった人達の恰好だろう。あきらかに探索者と思わせる鎧や剣等の装備を身に纏い、福袋を狙いにここに来ているはずがない。そんな屈強そうな人達の隙間を抜け、駐車場へと辿り着いた。
「武田さんじゃないですか」
突然声を掛けられ振り返ると、会社の・・・同僚の・・・・・えっと誰だっけ?
いかんいかん、ボケるにはまだ早い。名前を思い出したいが・・・たしか・・・長女と年齢が近かったはずだ。
俺の勤める会社は重労働の為従業員の出入れが激しく、日勤業務担当の俺は話したこともない人がチラホラいる。この人物とは挨拶する程度なので余り印象に残っていなかった。誰だったかな・・・
「おぉこんにちは。もしかして探索者だったのか?」
ここに居るのだから探索者なのは当たり前か。兎に角当たり障りのない会話でヒントを引き出そう。
「武田さんもですか?・・確か・・・」
おいおい、年齢の事言おうとしてないか?その前に名前のヒントくれ。
「そうだぞ?探索者歴は短いが、立派な探索者だ。その前にアラフィフと言いそうになってないか?」
名前の頭の文字はなんだ?イニシャルでもいいぞ?
「い、いえ、そんな事ないですよ。武田さん結構若く見えますし!」
そんなに焦って答えるないや。まるで俺が脅しているように見えるじゃないか。ア、アキラだっけ?
「今から潜るのか?早く行かなくていいのか?かなりの人数の探索者でごった返してたぞ?」
潜れるまで三十分はかかるんじゃないかな?いや・・ミツオ・・・・違うな・・
「あっ、そうでした。友達を待たしてるので行きます。お疲れさまでした」
名前は・・・もう諦めよう・・・昨日の晩御飯何だっけかな?
「おぅ、気を付けてな。危なくなったら絶対撤退しろよ。じゃ、お疲れさん」
名も無き男は去っていった・・・・・じゃなくて、すまない!思い出せん!恨むなら会社を恨んでくれ!重労働対策をしていない会社が悪いんだ!
俺は何事もなかったように車に乗り込み、この場をあとにした。




