第56話
一階層に戻ってきた俺達は、装備の確認をしつつ時間になるのを待つ。
そしてきっかり十二時となると、世界中の新ダンジョンから規模の大小はあれど、魔物がダンジョンから溢れ出してきたのだ。いわゆる魔物大氾濫と呼ばれる現象だ。
以前、琴音さんに『次のダンジョン発生には気を付けろ』が、抽象的な表現で分からないと訴え、琴音さんも聞かれたら答えるつもりだったらしく、現象と日時とその後の経緯を教えてくれていた。
なので、ダンジョン協会HPのお問い合わせに、一月三日に魔物が溢れ出す事を伝えている。勿論匿名ではあるが、日本政府宛にも手紙を送付しておいた。これらを彼等が本気で対応するとは思えないが、一応は義理を果たしている。正月休みで対応できているかどうかは知らないが。
国内のダンジョンは自衛隊が常駐していたので、各地の自衛隊が魔物を駆逐していく。しかし突然の魔物の襲撃と大量の魔物に準備が完全な状態ではなく、撃ち漏れた魔物がダンジョン一階ロビーに溢れていき、何人かの民間人が巻き込まれ阿鼻叫喚の地獄絵図に変わり果てていく。
この田舎にあるダンジョンも例外なく、魔物大氾濫による影響を受けていた。
最初は、ダンジョン入口近くで対処出来ていたが、魔物が時間を増す毎に多くなり、徐々に防衛ラインを下げていくしかなかった。それでも自衛隊員は民間人を守りながらも、懸命に戦い続けた。
そんな中、一人の男が歓声を上げ魔物に向かっていく。
「おぉ、我々の祈りが通じたのだ。さぁ魔物の諸君、私と友達になろうではないか!」
スーツを着た白髪交じりの眼鏡の男性が、両腕を広げ一歩一歩と進み魔物と接触を試みる。
「バカ!お前戻れ!殺されるぞ!」
自衛隊員に呼び戻されるも、無視して進んで行くスーツを着た白髪交じりの眼鏡の男性。
「何を言っている。魔物達は私に会いに来てくれたのだ。友好の態度で迎えれば、彼等だっt・・・ピギャッ」
魔物の一撃に、スーツを着た白髪交じりの眼鏡の男性は頭部を吹き飛ばされ、絶命した。
「クソッ!何がしたいんだ、あいつは!」
「俵さん!一旦外まで防衛ラインを下げましょう!ここはもう持ちません!」
今の場所が不利だと判断した俵は、すぐに指示を出す。
「分かった!稲葉ぁ!全車両を入口に集めてこい!それから本部の応援要請も頼む!それまでは、俺達がここを絶対に死守する!」
「はい!すぐに用意しますから、無事でいてください!」
稲葉は入口から外へ出て、応援を要請し車両の移動を開始した。
俵は稲葉を見送った後、「まさか本当に魔物大氾濫が起きるとはな・・・・十二時まで、まだまだあるぞ・・・」と一人呟いた。
俺達は魔物が現れる度に、一体又一体と駆逐していく。
ここは地上と違い、ダンジョン内に流れ込んでくる魔物の数はそこそこいるが、ダンジョンの入口が狭いため単体で現れた魔物を、楽に駆逐できている。武器を新調したばかりなのもあるが、余力を持って防衛していた。
適度に魔物を倒していると、美晴の鞭の扱いが目に入る。
鞭の動きを言葉に表すのは難しいが、兎に角先端に付いてある鋭利な重りが、高速かつ生きているかのような動きに、魔物はなすすべなく倒されていく。あれを躱すのは俺でも無理だ。
それに、鞭の先端から三分の一程まで鋭利な突起物が所々に付いており、そこに触れるだけで肉が抉られていく。この武器は距離感がかなり難しそうではあるが、美晴は見事に扱いきれている感じだった。
俺の感想は、鞭は後衛最強武器と思わせる程に強く、到底扱える気がしない事だけは分かった。




