第54話
「そこの君、少しいいか?」
団欒部屋に搬入を終えた俺は一階ダンジョンロビーに到着後、足早に駐車場に向かおうとしていた所を、スーツを着た白髪交じりの眼鏡の男性に呼び止められた。
「昨日もダンジョンに潜ってたよね?」
誰だこのおっさん。俺の知り合いじゃないのは確かだ。
「魔物を殺して心を痛めないのか?」
知らんがな。その前に名乗れよ、誰だよあんた。
「聞こえてるのか?私は生物を無差別に殺して、心が痛まないのかと聞いているんだ!」
あぁ思い出した。昨日のテレビに出てた自称ダンジョン専門家がいたな。それに洗脳された奴か。
面倒くさい奴に捕まってしまった。本当にこの手の奴は面倒くさい。洗脳が解けない限り何を言っても無駄だから。
「生物を殺した?知らんな。まず、証拠を持ってから出直してこい」
こう言う輩は無視するのが一番だが、思わず反論してしまった。
どうせ魔物を生物として証明する事は出来ないだろう。倒された魔物は霧となり消えるのだから。それにもうすぐ魔物は外敵扱いになるだろうし、こいつらの主張は外患誘致罪に抵触する恐れもでてくる。
「魔物は生物だぞ!その魔m・・・・・・・・・・」
何かを言い続けているが、無視して俺はこの場を立ち去る。本当に面倒な奴等だ。
流石に駐車場までは追ってこなかったが、面倒だな。明日から家族で潜る予定なのに。
「と言う事が有ったから、明日そいつが居ても無視して行こう」
「何それ、そいつバカなの?」
「明日になれば、嫌でも考えを改めるだろ」
明日は琴音さんの言っていた『次のダンジョン発生には気を付けろ』の答えが待っている。
だから俺はその準備の為に、毎日団欒部屋に荷物を搬入してたって訳だ。
しかし、ダンジョンにあと一往復はしたい所だ。スチールラックが足りなくなってきたので、出来ればあと二つは欲しい。あのおっさんさえいなければ・・と思ったがどうしようもない。仕方がない、行くか。
最後の搬入に向けて準備を開始する。他に忘れ物が無いかをチェックしながらバッグに詰め込んでいき、準備が整った所で車に積込みダンジョンへ出発した。
ダンジョン協会駐車場に着くと自衛隊の車が多数止まっていた。漸く来たかと思いながら、搬入準備をする。両手に持つ荷物は、重いながらも自然と持てるようになったのは、ダンジョン活動により地力が鍛えられたお陰だろうと思う。初めの頃よりあきらかに持てる量が格段に増えたのである。
一階ロビーの入口をくぐると、今朝よりも酷い怒号が聞こえてきた。
「ダンジョンを早く開放しろ!」
「自衛隊は魔物を殺すな!今すぐ保護しろ!」
「自衛隊はこの国にいらない!今すぐ出ていけ!」
最後のは意味が分からない。お前が出ていけよ。何処の国の回し者だ?
自衛隊が相手だからかは知らないが、今朝より酷い光景だ。
ダンジョン開放を唱える探索者側とダンジョン共存派が入り乱れて抗議していた。それも罵詈雑言(意:汚い言葉で相手を悪口でののしる)を交えてだ。
お前ら、自衛隊がやり返さない事をいいように、やりたい放題だな。大人がこれだからイジメと言う名の犯罪が無くならないんだよ。
いっその事、動画で証拠残して、逮捕して牢屋にぶち込めるようにしたら?とは思う。ほんと日本は甘い。
そんな事はさておき、今がチャンスだ。此方に注意が向いていない今のうちに、搬入を済ませてしまおう。




