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彼女と刑事の除霊事件簿 時間跳躍編  作者: ゆずさくら


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まだ二つ

「まだ二つありますよ」

「……」

 有栖は取調室で、自分のこめかみに指を押し当て、記憶を探ると共に自分に悪霊がついていないかを調べる。

「分からない……」

 その時取調室の外で大きな声が交わされた。

「誰がここに入って()いって言った!」

「許可なら貰ってるわよ」

「ダメだ、今取り調べ中だ」

「このタイミングしかないのよ!」

 揉み合うようにガタガタと音がして、扉が勢いよく開いた。

 開いた扉には、サングラスをかけ、髪を後ろに撫で付けた女性が立っている。

 それを見て、柴田も、有栖も、ほぼ同時に立ち上がった。

「あんた誰だ!」

「お母さ、いえ、永江所長!」

 自分でそう言った瞬間、有栖の中の記憶が蘇った。

 二十年前のハロウィンで、あの()たちが帰った後、私はA区の永江事務所で所長に除霊を受けた。

 小さい頃の記憶で、一度切りの出来事にも関わらず、今、鮮明に思い出される。

『今、火を操る悪霊がいたわ。まだ貴方の中に四つあるけど、小さすぎてあなたの心に隠れてしまった』

 所長は言っていた。

「そうか、八歳の私に憑いていた五つの霊を、永江所長が除霊したんだわ」

 現実と過去がオーバーラップする。

『隠れていたって、いつか、どこかで除霊するチャンスがあるから、大丈夫。安心して』

 所長がそういうと、アリスを抱きしめる。

 私は安心して、頷き、そして忘れた。

 母を失った私に、永江所長はいつも優しく接してくれた。

 事務所に出入りする内、私も除霊の手伝いなどを始めていた。

 そして、いつしか所長のような除霊士を目指していた。

 まあ、今は警察にいるけれど……

『お前を先に殺すべきだな』

 有栖はまるで別人のような声でそう言うと、躊躇なく柴田の拳銃を抜き取った。

 銃口は扉、永江所長に向けられている。

「有栖巡査長!」

 柴田が有栖の腕にしがみつくようにして押さえた。

 有栖と柴田のせめぎ合いで、銃口の向きが目まぐるしく変わる。

 向けられた銃口を気にせず、所長は口を開いた。

「隠れていたその悪霊を除霊するには今しかない」

 そして永江所長は、その場で指を組みながら、九字を切る。

「臨、兵、闘、者、皆、陣、烈、在、前」

 両手を揃えて、鋭く前に突き出した。

「悪霊退散!」

 何か見えない気合いが届くと、有栖は喉を手で押さえた。

 嘔吐(えず)いたように何度か吐く仕草をすると、有栖の体の中から何かが上がってきた。

 取調室の机に、指の爪ほどの大きさのものが、音を立てて転がった。

 有栖の口から出たそれは、小さな木の実だった。

 有栖は目を閉じて、口をハンカチで拭いている。

 一部始終を見ていた柴田が言った。

「これ、どんぐり? ですか?」

「触らない!」

 永江所長のその声をきっかけに、その木の実は煙を上げ始めると、次第に小さくなり消えていった。

 煙の先に、キラキラと光が空に向かって、立ち昇っていくにように見える。

「さっきドングリは悪霊が実体化したものね。これで除霊完了したわよ」

 有栖が謝った。

「申し訳御座いません。柴田は、まだ経験値が少ないもので」

「厳しいこと言うようだけど、経験不足が言い訳ではダメなのよ。初見の判断が『大きく間違う人』の場合、この仕事、向いていないのかも」

「……」

 柴田の表情が変わり、言葉を詰まらせた。

「気にしない。これから頑張ればいいの」

 そう言って有栖は柴田の肩を叩く。

「柴田くん、ほら。これで計算が合うわね。整理してみて。あなたの良いところよ」

「時系列にまとめてみましょうか」

 柴田は手元のメモに書き記しながら、言った。

「まず、除霊士見習いの()が『水』を操る霊を除霊しました。これは二十年前です。次に、子供のアリスに入り込んでいた『火』を操る悪霊を、永江所長が除霊します」

 有栖は指を折りながら頷く。

「次に、有栖巡査長が霊能課の案件として『金』の悪霊を除霊しました。これがきっかけで、『水』の霊が有栖巡査長に取り憑く訳ですが…… ややこしいですね」

「巡査長は省いて良いから」

「そして除霊士見習いの二人が、S谷のセンター街で除霊しました。あれは何を操る悪霊なんでしょう?」

 差し出された椅子に永江所長が座ると、言った。

「今のが『木』だから、推測になるけどそれは『土』ね」

「そうですか『土』ですね。その『土』の悪霊を除霊した後、今、まさにここで『木』も除霊されました。これで五つ全て揃いました」

「『抜け』はないわよね」

 柴田はもう一度、頭の中で、別の角度から話を見直し、指を折って数え直し、言い切る。

「間違い無いです」

 永江所長は笑った。

「これで、いただいたお金に相当する仕事はしたわ」

 通路側から、麗子と橋口がやってきた。

「なんの話してんだケド?」

「永江所長、どうしてこんなところに」

「ちょっと事情があってね」

 柴田が言う。

「この案件って、いくらでしたか?」

「五本。二十年もかかった仕事なんだから激安よ、激安!」

 有栖の母が払ったお金だ。もう二十年前の話だし、有栖自身、永江所長に面倒をみて貰っているから、お金では割り切れない部分もある。

 永江は、それを察して妙に明るく、派手に答えたのだが、逆効果だった。

 皆の様々な思いが交錯して、静まり返っていた。

 その場の沈黙を破り、橋口が口を開く。

「私らも二十年前に行ったり色々頑張ったから、少し手当がほしいんだケド」

「ダメダメ。二十年前の借金とその複利で帳消しよ」

 橋口は手を広げて肩をすくめる。

「永江除霊事務所はブラック企業で酷すぎる。私、警察で雇ってほしいんだケド」

 有栖がそれに乗ってきた。

「柴田よりは役に立つかもね」

「そんな……」

「冗談よ」

 そう言ってから『笑うところですよ』という風に、有栖が口火を切って笑った。

 場にいる全員がその笑いに合わせて笑った。




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