A川区のボロ事務所からTヒルズへと引っ越せた訳
麗子と橋口は、S谷の警察署を出てから、永江所長から全ての顛末を聞いた。
大通り沿いを歩いている麗子は、視野の隅に気になる動きの車があった。
だが、話を聞いている手前、言い出せなかった。
永江所長が手を上げてタクシーを止める。
この車だ、と麗子は思った。所長の行動からタクシーを探している、と察したのかもしれない。
すぐに三人はタクシーに乗り込んだ。
「Tヒルズへ」
運転席側の一番奥に乗っている永江所長が、真ん中に乗っている橋口の手を取り言った。
「今回の手当は、ちゃんと出すからね」
指を二本を立て、その後で、人差し指と親指で丸を作る。
「えっ、そんなに?」
「ええ。あと、二十年前のお金はもう清算済みだから心配しないで」
「す、すみません」
そう言ってから麗子は思わず聞いた。
「二十年前のあのボロ事務所から、どうやってTヒルズに事務所を移せたんですか? 今回の五本って、もしかして五百万じゃなく、五千万だったんですか?」
「気になる?」
二人は端に座る永江所長を、覗き込むようにして言う。
「ええ」
「すごい気になるんだケド」
麗子は言葉を加える。
「どうしても除霊事業だけでTヒルズに事務所を構えられるとは思えないんです」
永江は手を振って否定した。
「そんなことないわよ。良い場所に事務所を構えると、自然と高額な案件が入ってくるんだから」
「いや、今はそうかもしれないですけど……」
あのA川区の事務所の感じからすると、相当上手くやらないとTヒルズの事務所を持てない。麗子はそう感じていた。と言うより、今回の時間跳躍で何かあったに違いない。そう思っていた。
「バレてるか」
永江所長は自分のポケットからスマートフォンを出し、背面のマークを指差す。
「これよ」
「……株ですね」
永江は唇に指を立てて言う。
「シー。大きい声出さないの。だってすごい便利そうだったし、二人とも同じものを使っていたから、その会社、相当大きく発展したと思ったのよ」
橋口は何かスマフォで調べているようだった。
しばらくスマフォを操作した後、永江に言った。
「TDL駐車場事件も、永江除霊事務所が調査を受け持ったってこの記事に書いてあるんだケド」
「よくそんな記事見つけたわね。警視庁もウチの事務所のお得意様よ。有栖のお父さんには良くしてもらったわ…… 今は金額が低いんで警視庁の案件は請け負わないけど」
うわぁ…… 麗子は『引いた』。隙あらばお金にしようと言うガメツさが感じられたからだ。だが、これくらいしないと除霊事務所は生き残れないのだろう。麗子は逆に反省した。この程度で『引いて』いたら自分の除霊事務所を持つなど夢のまた夢だ。
「有栖刑事に頭上がらないですね」
「大丈夫、それだけのことはしているから」
有栖は永江所長を母親のように慕ってくれていたと言う。
結婚していない永江所長が、八歳のアリスの面倒を見るのは大変だったと思われる。自分の子供でも大変なことを、他人の子供に対してした訳なのだ。
永江所長が急に窓の外をみて、さらに辺りを確認した。
「運転手さん。ちょっと! 行き先違うわよ!」
「いいえ。ここで良いんです」
「良い訳ないでしょ! 降りるわ。止めて!」
タクシーは、大きな門をくぐると、正面にあった建物の地下に滑り込んでいく。
「残念ですが、ここでは治外法権が適用されます」
橋口がスマフォで現在位置の地図を見て叫ぶ。
「あっ! ここ『ガスト王国大使館』なんだケド!?」
どうなる冴島麗子! そして橋口かんな!
数々の困難を乗り越え、正式な除霊士となり、自らの除霊事務所を開くことができるのか。
この後のお話は、また別の機会に。
終わり
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