TDL
『何もないなら、いたずらってことで』
とアリスが不気味な声を発した。
その時、背後からアリスの頭を撫でる者が現れた。
「アリスちゃん、ほら、アメあげるんだケド」
「かんな!?」
麗子は驚いた。
「集まってくる浮遊霊から、TDLのお客さまを守るのはすごい大変だったんだケド」
小声で『無限列車編の炎柱と一緒の働きだ』とか、橋口はずっと自慢していたが、麗子には聞こえなかった。
アメを貰ったアリスは、屈託のない笑顔を見せて言った。
『ありがとう!』
「麗子、お金余ってるでしょ、アリスちゃんも一緒に三人でTDL入るんだケド」
『ヤッタァ!』
橋口にしがみつくアリス。
そうだった。かんなにはTDLを恐れないよう、命令を入れてあったのだ。
「いや、二人ならともかく、三人分のお金はないよ。なかったら諦めてね」
「そんなのわからないからチケット窓口に行くんだケド」
橋口はアリスと繋いで、窓口に行った。
麗子は思った、私のお金を足さないと二人分でも厳しいのに、橋口が持っているお金だけではチケットは買えないはずだ。
案の定、あっというまに引き返してくる。
「TDLの偉い人が、私とアリスは無料で入場して良いって言ったらしいんだケド!」
「えっ、マジ?」
いや、だったら私もついでに『無料』の交渉してくれないかな……
「先に入ってるんだケド」
橋口は手に持った二枚のパスを、見せびらかすようにして振ると、入口へ行ってしまった。
「ちょっと、そのアリスには……」
なにか悪霊がついているに違いない。言いかけてやめた。橋口だって除霊士を目指しているのだ、手を握った相手に悪霊がついていたら、なにか感じるに違いない。さっきの声といい雰囲気といい、アリスには何かが憑いてしまったはずだ。それとも私の考え違いなのだろうか。
麗子は慌ててチケットを買い、入口へ回る。
「まさか二十年前のTDLに入るとは思ってなかったな……」
橋口たちは、ワールドバザールを抜けて、広場に出たところで○デレラ城をバックにして自撮りしていた。
「ねぇ、かんな……」
アリスに何か、悪い霊は憑いていない? と続けようとしたが、橋口にスマフォを押し付けられたので、黙ってしまった。
「ほら、麗子、中々うまく撮れないから、これで撮って欲しいんだケド」
橋口のスマフォを使って写真を撮って返した。
橋口とアリスは写真を見て喜んでいる。
「アリスちゃん、LINKのIDある?」
麗子は慌てて止めに入った。
橋口を引っ張って、耳元で言う。
「(こんな小さい子供は携帯持ってないわよ。あと、かんな、この時代はLINKもスマフォもないの。だから、もうそれ以上喋らないで。この時代の人に聞こえるから。変な干渉しちゃダメよ)」
「(そうか、ガラケー時代はLINKは一般的じゃないんだケド)」
「(ガラケーという言葉も、きっとまだ無いわよ。みんながみんな、ガラケー使ってるんだから)」
橋口は反論する。
「(そんなの分かんないんだけど。だって、今はみんなスマフォ使ってるけど、スマフォって言葉が存在する訳なんだケド)」
まあ、それは一理あるが、ガラケーはスマフォに対して発生した単語だから、スマフォがない状況では使われていない気がする。麗子は微笑んでいるアリスを見ながら、橋口に言った。
「(それより、アリスちゃんに何か憑いてない?)」
「(全くそんな感じしないんだケド。どんな人間でも、ある程度、霊は混ざっているものなんだケド)」
「(最初の時から声が変わった。絶対に何か憑いている)」
二人で、アリスの方を見る。
アリスはアリスで、何かに気づいたらしく、二人に寄ってくる。
『パレードがあるって。ハロウィンパレードだって!』
「……」
麗子は『疑念』から、笑顔が歪になる。
橋口は全く疑わないから、全力の笑顔を見せて返した。
「よし、アリスちゃん。一緒に見にいくんだケド!」
『わーい!』
アリスが走るのを、橋口が追いかける。
麗子はさらに後からゆっくりついて行き、様子を観察していた。
あの霊弾は周囲に沢山の霊が集まっていたせいか、自分の絞り出した霊力より大きくなっていて、思ったより威力があったと思う。だが、鈴木から始まった一連の除霊が、昇天していないのだとしたら、少し出力の大きい霊弾を食らったからと言って、昇天するのだろうか。
アリスが走るのを見て、周囲の人々が「かわいい」だの「子供はコスプレできて良いわね」とか話している。
確かに大人は『ネズミさんカチューシャ』をしている程度で、仮装はしていない。大人の有栖刑事があの格好で入園を断られたように、TDLの規則があるのだろう。
麗子は改めてアリスを見つめ直した。
自分の心の問題かもしれない。さっきの完全霊体を見て、自信を喪失していることで『アリスに霊が取り憑いた』と思い込んでいるのかも知れない。
『俺もそう思うぞ』
「えっ?」
麗子は声に出してしまった。キツネが心に話しかけてきているのだ。
『土、木、火、金、水の悪霊はいないと思う』
「昇天したのかしら」
前に立ってパレードを見ている見知らぬ人が、変な顔をして麗子を振り返った。
麗子は素知らぬ顔で場所を移動する。
『俺も、お前を通して見ていた訳だからな。真実が見えているかはわからない。だがあの子の中にはいない。いや、もし、万一、いたとしても非常に弱く、小さい』
麗子の右肩に、小さな小さなキツネの姿が見えた。
だが、自信ありげには見えない。さっきの発言も、何か、言葉で保険をかけているように思えて仕方ない。あるいは何かのフラグというべきか。
だが、あまりモヤモヤし続けても仕方ない。麗子は決断した。
「分かった」
橋口もそう言っていた。そして、キツネが私を通さずに直視して、アリスの中に霊が憑いていないと判断するならいないのだ。私の判断が間違っていたのだ。
気持ちを切り替えて、パレードを見ることにした。
橋口がアリスを抱えて、楽しそうに笑顔を浮かべている。
その前をジャックオーランタンに乗った、魔女やら、お化けに仮装したキャラクター達が進んでいく。
パレードルートに並ぶ観客は、思い思いに手を振ったり、ガラケーで写真を撮ったりしている。
キャラクターたちの明るい振る舞いや、その場の雰囲気に麗子も次第に明るく、楽しい気持ちになってきた。
これがTDL。TDLの力なんだ。
そう思い、麗子は感動した。
「ねぇ、ねぇ、三人で撮らない?」
三人はパレードを背景に、スマフォで写真を撮った。




