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彼女と刑事の除霊事件簿 時間跳躍編  作者: ゆずさくら


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牛丼屋

 三十分ほど歩いていると、スマフォを見ていた橋口が立ち止まった。

「……」

 麗子は疲れていてあまり喋りたくなかったが、声をかけた。

「どうした?」

「ここ、どこなんだケド」

「……勘弁してよ」

 麗子は周りを見た。最初にいた場所とは違って電柱がなかった。麗子は、信号機に書いてある地名を読み上げる。

「……」

 橋口の指が、スマフォの上で動き続けているが『分かった』という声が聞こえてこない。

 麗子も画面を覗き込んで、一緒に探す。

 スマフォのGPSは使えない。単純に地図の画像と現実の歩いた道を照らし合わせているのだ。

 ドジっ子の橋口に地図と道案内を任せていたのが間違いだったか、と麗子は反省した。

「まさか全然違う方向に歩いてないよね」

 そういえば、歩き出して早々に大きく右に曲がった。どこかで逆方向に曲がって帳尻が合うのだと思っていたが、しばらく真っ直ぐ歩いている。その時、お昼の時間が近づいてきているせいか、橋口のお腹が鳴った。

「お腹空いたんだケド」

 正面にある立ち食いそば屋から、揚げ物やツユのいい匂いが流れてくる。

「お金も交通系ICカードも使えないんだから、食べれないよ。我慢して」

「……」

 橋口は目尻に涙を溜めていた。

 泣くなよ…… 泣きたいのはこっちも同じなんだから、と麗子は思った。橋口からスマフォを受け取って、一連の地図の写真からこの近くの信号の場所を見つけた。

「ここだ」

 スマフォを見て、信号機を見て、名称を照らし合わせた。

 予想通り最初に曲がった方向が間違っていて、A川に近づくどころか、遠ざかっている。麗子は今いる場所からもう一度一番近そうな道筋を組み立てる。

「かんな、予備のバッテリー持ってるよね?」

 橋口は頷いた。

 きっと声を出したら、泣き出してしまうのだろう。口を歪ませ必死に耐えていた。

 橋口のスマフォを使いながら、麗子が道を決め、歩き出した。

 完全に元の場所に戻ってからA川を目指す道ではないので、三十分の往復分のロスではないだろうが、かなり回り道になったのは間違いなかった。


 一時間ほど歩くと、二人は疲れてガードレールに寄りかかった。

「お腹空いたんだケド」

「お腹空いたね」

 麗子は橋口のスマフォの画面をみせた。

「あとこれくらいだから、今のペースだと残り四十分ぐらいかな」

「……」

 橋口は俯いて、頭を抱えてしまった。

 都心のアスファルトを歩くのが、こんなにきついとは思っていなかった。もちろん、学校に行く格好や、靴のせいでもあるだろう。土や岩に比べれば平坦なコンクリートやアスファルトの方が歩きやすいように思えたが、実際は山道とは違った負荷が掛かっているようだった。

「がんばろ」

 顔を上げた橋口は頷いた。

 さっきと同じように歯を食いしばっているのか、口が歪んでいる。

 麗子は橋口の手を握って歩き始めた。


 ようやく川が見えてきて、いくつか橋を渡った。

 そろそろ最初に調べた住所の付近に近づいていることは間違いない。

 麗子は周囲を見ながら歩いていると、橋口が立ち止まった。

 なんだろう、と思って麗子が見ると、そこにはオレンジに黒い文字の看板の店があった。

 その店に人が出入りするたびに、食欲をそそる良い匂いが流れてくる。メジャーな牛丼チェーン店だ。

「お腹…… お腹空いたんだケド」

 麗子はため息をついた。永江除霊事務所につけば、この時代の永江所長に会える。この時代の永江所長なら、この時代のお金を持っているから、食べに連れて行ってくれるかもしれない。そう言って説得するしかない、そう思った瞬間だった。

「偽札だ! そいつ、捕まえろ」

 店内から、青ざめた顔をした男が飛び出してきた。男の髪は、サイドや前髪はあるのだが、頭頂の毛だけが薄かった。

 男は勢い余って、麗子にぶつかってしまう。

 麗子は通りに尻もちを突いてしまった。

 中から店員が追いかけてくるのを見ると、男は何も言わずに走り去っていく。

 麗子は、ぶつかった時に霊感が働いていた。

「麗子、だいじょうぶ?」

「今の人……」

 麗子は逃げていった男の方を見つめている。

 店員は逃げた客を見失ってしまい、お札を握りしめたまま震えていた。

 橋口も何かピンときたようで、店員に近づいて言った。

「店員さん『偽札』って言ってたけど、どんなお札か見せて欲しいんだケド」

「あんたに見せてどうする?」

 店員は疑った感じでそう言う。

「私は霊視ができるから、それ渡して貰えれば持ち主探せるかもしれないんだケド」

 麗子も立ち上がって、店員に言う。

「二人で持ち主を探して、連れ戻してきます」

「こんな分かりやすい偽札っ。ほらっ」

 店員は、紙幣をくしゃくしゃにしてから、橋口の手を叩くかのような勢いで渡した。

「……」

 橋口がキレかかるのを抑えるように前に出て、麗子が言った。

「ありがとうございます。すぐに探してきます」

「おう」

 気が晴れたのか、店員は店に引っ込んでいく。

 橋口が紙幣を真っ直ぐに伸ばす。

 麗子が指先で紙幣に触れる。

「やっぱり」

「今、逃げって言った人が『永江除霊事務所』の人なんだケド」

「所長から預かった紙…… これだ、『鈴木一雄(かずお)』さん。色恋関係の案件が得意だって。そんな人いるんだね。この正面の写真一枚じゃよくわからないね」

 橋口が麗子の持っている紙を覗き込みながら言う。

「さっき逃げて行った人は、前髪やサイドの毛量もこんなにはなくて、特に頭頂の毛がほぼ無かったんだケド」

「写真撮るときは『カツラ』をつけているのかしら」

 橋口がペンで麗子の持っている紙に『カツラ?』と書き入れる。

「やめなさいよ」

「まあ、とにかく捕まえることが先決なんだケド」

「そうね」




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