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彼女と刑事の除霊事件簿 時間跳躍編  作者: ゆずさくら


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情報収集は大事

「駅に行く前に、本屋に寄っていきましょう」

 麗子と橋口は本屋に寄った。

「地図でTヒルズがあるか確認しとけば、行ってから『無い』なんて慌てずに済むわ」

「ここで『無い』って分かってもショックなのは同じなんだケド』

「まぁまぁ。先に対策が考えられるじゃない」

 二人は本屋に入り、地図を探した。

 地図を開くと、Tヒルズのある位置には小さなMビルが幾つか点在しているだけだった。

「無い。Mビル自体は近くにあるのに」

 また橋口が震え始めた。

「もうダメ。ダメなんだケド」

 麗子はここに来る前に言われたことを思い出していた。

『過去に飛ばされた事務所の社員と有栖刑事を探して、こっちの世界に連れ戻して。社員達は自分自身に会ったらタイムパラドックスを起こしてしまうから、早く見つけてそれを伝えないと』

 違う。ここでは、どうやったら元の世界に戻るとか、そういうことは言っていない。永江所長が言った言葉をさらに思い出す。

『向こうの世界で私に会ってちょうだい。多分、あなた達が着くころ、私は事情を認識しているから』

「そうか」

 と麗子は独り言を言った。

 何はなくとも、永江除霊除霊事務所に行くことが必要なのだ。きっとこの世界の永江所長がこのタイムリープの謎を解いているはず。逆を言えばたどり着けないと一生帰れない。

「聞いてみよう。とりあえず、手っ取り早く本屋さんに」

 麗子は地図を元に戻すと、レジで新聞を読んでいるおじさんに話しかけた。

「すみません。『永江除霊事務所』ってご存知ないですか?」

 本屋のおじさんは、メガネの上、何も無い部分を通して麗子を見た。

「なんだって?」

「あ、いや、『永江除霊事務所』の住所、ご存知ないですか?」

 おじさんはメガネをテーブルに置いた。

「聞いたことないが……」

「誰か知ってそうな人を知りませんか?」

「難しいこと聞くね」

「そうですよね」

 麗子が肩を落として俯く。

 見かねたのか、おじさんが二人に近づいてくると言った。

「とりあえず、そこらへんの電話ボックスに入って電話帳で調べてみたらどうだい?」

「?」

 おじさんは親指で、おじさんの後ろの方向をさした。

「外だよ外。電話ボックス」

「わ、わかりました」

 麗子はとりあえず橋口の袖を引っ張って、本屋を飛び出した。

「電話ボックスだって」

「なにそれ? なんだケド」

「私もよくわからないよ」

 麗子達は、書店を出て通りを行ったり来たりした。

 何度か行き来するうち、駅の方向に透明なボックスに気がついた。本屋のすぐ近くにあった。おじさんはこれを言っていたのだ。

 中に緑色の大きな電話機が設置してある。

「きっと、あれだ」

 二人は確証を持てぬまま、緑色の電話機が設置してあるボックスに近づいた。

 緑の電話機だけでなく、黄いデザインの分厚い本が置いてあった。

 扉を押して中に入る。

「電話帳っていうと、これ、だよね」

 狭い中に二人で入ってしまったために、黄色いデザインの本を広げるのに困った。

 なんとか工夫して開くと、そこには店や会社の名前と、電話番号、住所が書かれていた。

「こ、個人情報の塊なんだケド」

「いや、すごいよ、辞書並みの厚さ。これなら探せるよ」

 麗子は『永江除霊事務所』を必死に探す。

「永江…… 永江……」

 除霊事務所、というものがそもそもどんなジャンルに含まれているのか、この電話帳の分類がわからなかった。麗子がジャンルを変えて探していると、ようやく見つけることが出来た。

「あった、これじゃない? 『永江除霊事務所』って、これひとつしかないし。けど、A川区A川って……」

「結構遠いんだケド」

「電話かけてみよう」

 麗子は使い方を見ながら、緑の電話の受話器をとり、硬貨を入れた。

「永江除霊事務所さんですか? あの、所長の永江さんを」

『どなたさま?』

「バイトでお世話になってる冴島麗子です」

『ガチャ(ツー・ツー・ツー)』

「……えっ?」

 そりゃそうか。今年は二千二年と言っていた。私は生まれていない。けど、永江所長は、私たちが来ることは知っているんじゃないのだろうか。そうじゃないと、所長にあっても自分達の時代に帰れないことになる。

「どうしたの麗子?」

「何も答えない内に切られた」

「もう、何やってんのよ。それ貸してみるんだケド」

 今度は橋口が電話をする。

「もしもし、私橋口かんななんだケド」

『ガチャ(ツー・ツー・ツー)』

「なめんな! なんだケド!」

 そう言うと橋口は、受話器を銀色のフックに勢いよく戻した。

 狭いボックスの中で音が響いた。

「それがやりたかっただけじゃないの。お金もったいないからやめてよね」

「麗子が何を言いたいかわからないんだケド」

「となると、この世界の永江所長は、現時点で私たちの名前も何も知らないんだわ」

「じゃあ、なんでこっちの世界の『永江事務所』を訪ねろと言ったかわからないんだケド」

 橋口の言う通りだ、と麗子は思った。いつの時点で今日がタイムリープの日だと認識したかまではわからない。あくまで今時点では永江所長は私達のことを知らない。なぜ私たちが未来から来なければならないのか、それを永江所長に伝えないといけない。

「とにかく、事務所に行こう」

「……」

「このリストのいなくなった除霊事務所の人たちが、自分自身と出会ってタイムパラドックスを起こしてしまうとすれば、きっと今の『永江除霊事務所』で起こるに違いない」

 麗子は頭の中で整理した。

「過去、この時代に生きていたなら、事務所がTヒルズじゃなくて、A川にあることも覚えているはずだし」

「そういうこと? それじゃ急がなきゃ行けないんだケド。永江所長を訪ねて行くところで、ばったり本人と出会ったら最悪なんだケド」

「急いで駅に向かおう!」

 麗子がそう言うと、橋口が電話ボックスを出ようと動く。

「あれ」

「どうしたのよ、早くして」

「開かないんだケド」

「開かないのにどうやって入れたっていうの」

「とにかく開かないんだケド」

「分かった、こっちが引っ込んでこないと開かないのよ」

 二人で押したり引いたりガチャガチャとやった後、ようやく電話ボックスから出ることができた。

「つ、疲れたんだケド」

「汗かいた。喉乾いた」

 橋口が通りの赤い色の自販機を指さす。

「麗子、そこの自販機で何か買って飲むんだケド」

 麗子が自販機の前でお財布を開くと、ちょうど小銭がない。

「これ交通系ICカード使えないわ。かんなはお金持ってる?」

「十円硬貨が五枚しかないんだケド」

 合わせても足りない。麗子は千円札を取り出すと、赤い自販機に差し込んだ。しかし、戻ってくる。

「?」

 もう一度、丁寧に皺を伸ばして、差し込む。やはり戻ってくる。

「なんだろう」

「そういうの得意なんだケド」

 橋口に千円札を渡すと、丁寧にお札を指でしごくと、慎重に自販機に差し込む。中でモーターが回り綺麗にお札を吸い込んでいくが、戻ってくる。

 千円札を手に取ると、橋口は自販機を蹴った。

「この自販機、人を馬鹿にしてんだケド!」

 いきなり、自販機が大きな警報音を鳴らし始める。

「やばい、逃げよう!」

 麗子は橋口の手を引いて、走った。

 通りを走っていくと、駅名が書かれた看板が見えた。

 看板はあるが駅は見えない。看板のある場所は、地下鉄の入り口だった。

 二人は階段を下りていき、駅に着いた。路線図を見ながら、どういくとA川に着くかを考えた。

「スマフォが使えないとこんなに面倒なのね」

 麗子が乗り換え駅をメモしていると、橋口が言った。

「ちょっと待って、ここ交通系ICカード使えないんだケド」

 橋口が指差す改札を見ると、切符を吸い込む穴はあるが、交通系ICカードをタッチする場所が付いていない。

「マジか……」

 麗子は切符を買おうと自販機にお札を入れる。

 やはり戻ってきてしまう。

 橋口が親指で指し示す。

「ほら、駅員さんに行き先言って買う方法があるんだケド」

 麗子は言われた通りに窓口に行き、行き先を告げてお札を出した。

「何これ。君、ふざけてんの?」

「……ふざけてはいませんが」

 そう言うと、駅員はイラついた表情に変わる。

「これだよ、これ。それっぽく渡すから本物かと思ったじゃないか」

 お札を突き返され、それを指で叩かれた。

 麗子はようやくそれがどういうことか気づいた。この時代は、この柄で、この肖像画の紙幣はまだ発行されていないのだ。自販機が拒絶するのも、そのせいだった。もっと早く気づくべきだった。

「す、すみません」

 慌ててお札を引っ込める。

 お財布にこの時代でも使える柄のものがあるかどうか確認しようとして、躊躇した。ここでやったら、この駅員に疑われる。適当にお茶を濁してこの場を離れよう。麗子は作り笑いをして手を振った。

「(かんな、一度外に出よう)」

「?」

 麗子は橋口の手を引いて階段を駆け上がった。

 元の通りに出ると、膝に手を付いて休んだ。

「麗子どうしたのよ」

「私たちのお札、新しすぎるんだよ。この時代の千円札はまだ、その…… N口さんじゃないんだよ」

「交通系ICカードも、お札も使えなかったら、A川までどうやって行くんだケド」

「……そこから考えよう」

 麗子と橋口は一旦本屋に戻った。

 再び地図と睨めっこになった。

「今回こそ事務所払いでタクシーを利用するべきよ」

「この世界で捕まったら、誰も私たちの身元を証明できないんだケド」

「けど目測でも4、5キロあるわ。迷わないで一時間ちょっと。歩けないでしょ」

「自然教室では、もっと歩いたんだケド」

「いざとなれば、命令(コマンド)入れればタクシー代くらい」

「ダメ、ダメ。この時代はどうか知らないけど、コンプライアンスは『重要』なんだケド」

 コンプライアンスと口では言っておきながら、橋口はこっそりスマフォで地図を撮影していた。

「幸い、時間はまだ早いんだケド」

 確かに変なサラリーマンに絡まれたぐらい『学生なら出歩いてない時間』なのだ。だから、歩いてもなんとかなるはずだった。麗子も橋口の『歩いてA川に行く方法』で妥協した。

 書店を出ると、二人は通りに沿って歩き出した。




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