もしかして、ハロウィン?
橋口と麗子は、中島を元の時代に帰した後、永江除霊事務所で悩んでいた。
残りの一人、有栖刑事がどこにいるか分からないからだ。
有栖刑事について知っていることは、警視庁の霊能課の刑事である、と言う程度。この時代に来て、どこに行くかはなんて見当がつかない。
「所長、アリスの親が書いたって言う住所を教えてください」
「この近くよ、行くなら一緒にいきましょう。もう私もここで待っている必要もなくなったし」
三人は事務所を出て、アリスが住んでいた場所に向かった。
永江事務所から商店街を抜けて、住宅地に入る。すでに別の建物になっていて、アリスの親は住んでいない場所だ。
「お話ししていただいた通りの状況ですね」
「この辺りに有栖というお家はないの」
他に心当たりがなく、三人はしばらくそこでアリスが来ないかを待っていた。
ダメだ、ここで待っていても仕方ない。麗子は首を振って諦めた。一旦、事務所に戻ることを提案し、三人は元来た道を帰る。
商店街を歩いている時、橋口が突然立ち止まった。
「ごめん。もう耐えきれないんだケド」
「どうしたの、かんな。何が耐えきれないの」
「私たち、お昼食べてないんだケド」
すぐ横の商店で、コロッケを揚げて売っている。非常に分かりやすい立ち止まり方だ。
確かに時間をみると、昼を大きく過ぎていて、おやつの時間になっている。
「コロッケ食べたいのね」
橋口は頷くと同時に店に移動し、おばさんに五個注文していた。
麗子も二つ注文した。
揚がってきたコロッケが袋に入って手渡される。
顔から突っ込むようにコロッケを食べ始める橋口。
店のおばさんは微笑みながら言う。
「ほら、そんなに慌てると喉につかえるよ。ああ、そうだ、ほら、コロッケにソースかけるかい?」
橋口はコロッケを頬張りながら、店のおばさんに向かって頷いてみせた。
ソースをかけてもらうと、さらに食べるスピードが上がった。
麗子が一つ食べ終わる頃に、五つ全て平らげていた。
「もう三個追加なんだケド」
「いい食べっぷりだね。気に入ったよ。御代は、二つ分でいいよ、一個はサービスだ」
橋口は渡されたコロッケを、既に口に入れていて声が出せない。
麗子が代わりに言った。
「すみません。ありがとうございます」
麗子が二個目のコロッケを食べ終わった時には、橋口はすでに追加の三個のコロッケを食べ終えていて、商店街通りを眺めながら何か考えごとをしていた。
「麗子、ちょっと思ったことがあるんだケド」
「コロッケ美味しかったね」
「そりゃ、出来立てだし、中のジャガイモの潰し具合がちょうど良くて、めちゃめちゃ美味しかったんだケド…… って、話を逸らさないで欲しいんだケド」
橋口はムッとしている。
「ごめん。あまりに美味しかったから」
「私気づいたんだケド。この商店街ハロウィンだっていうのに、子供たちの仮装の行列がないんだケド」
確かに、と麗子は思った。そして、少し考えてから、コロッケを売っていたおばさんの方に振り返り、聞いてみた。
「あの、すみません。この商店街ってハロウィンイベントやらないんですか?」
「ハロウィン? そのハロウィンってどういうものなの?」
あれ? あまりに反応が薄い。この商店街ではやらないのよ、とか、近所に小さい子が少なくて、とかではない。ハロウィン自体を知らない感じだ。麗子は丁寧に内容を説明したが、いまいちピンと来ていないようだ。
麗子はおばさんにお礼を言って、橋口を押しながら商店街を進んだ。
「かんな、そもそもこの時代、ハロウィン自体やらないんじゃない?」
「けど、私たちの時代に来たアリスちゃんは『トリックオアトリート』って言ってたんだケド」
「それがどうしたの? なんか引っかかることでもあるの」
麗子は橋口が拘る理由がわからなかった。
「三井さんたち、アリスちゃんにそう言われて、何もお菓子をあげなかったのね。それで『いたずら』されたらしいんだケド」
「いたずらの結果、悪霊が憑いて、この時代に来たってこと?」
橋口は大きく頷く。
「話をつなげていくと、そうとしか考えられないんだケド」
そういえば、アリスに飴をあげたあの時、所長は酷く慌てていた。おそらく、アリスちゃんと話していた除霊士が、次々と消えたからだろう。私たちは結果的にこの時代にくることにはなったものの、橋口がたまたま飴ちゃんをあげて『いたずら』されなかった。つまり、悪霊に取り憑かれる事や、過去に飛ばされる事はなかったのだ。
永江所長が言う。
「うーん。私もハロウィンってのは聞いたことないな」
所長も知らないようなことを、あの八歳のアリスは知っていた。そう考えると、この『ハロウィン』が今回のキーワードになりそうだ。麗子は考えた。
だが、あまりこの時代の人にハロウィンのことを言ってはいけない気がする。
予めミライで流行ることを教えてしまって、パラドックスが起きたら大変だ。
「所長はここにいてください。ほら、かんな、ちょっとあそこ行ってみよう」
そう言って所長から離れ、二人だけになると、麗子は橋口にだけ聞こえるように言った。
「S谷」
この時代、S谷でハロウィンをしているかはわからない。だが、それを聞くと言うことは、永江所長に余計な未来の情報を与えることになる。なるべく余計な情報のやり取りはしない方が良いのだ。
橋口は細かく何度か頷く。
「うん。S谷。そうね。そこでアリスの格好しているかもしれないね。分かったんだケド」
麗子は振り返る。
「永江所長。すみませんが、私たちは行くところが出来ましたので駅に向かいます」
「そう。気をつけて」
「必ず、事務所に戻りますから待っていてください」
麗子と橋口はそこで手を振って、永江所長と別れた。




