表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女と刑事の除霊事件簿 時間跳躍編  作者: ゆずさくら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/36

秘書の影

 橋口がメニューの端からケーキを頼んで食べているのを横目に、麗子は永江に質問していた。

「……で、お給料はどうなんですか?」

「基本的には歩合制なので、やったらやっただけ、クライアントが払う額に応じて対応した除霊士に支払われることになるわ」

「すごい!」

「DやMは大手だから、大きい案件もくるでしょう。けど、あなた達は、この近辺の事務所に配属になるわよね。それだと、おそらく除霊の依頼は小さなモノばかりになる。込み入ったものは中央の事務所が処理するから。だから、バイトには実践的なことはほとんど何もやらせられない。ほとんどの仕事が事務手伝いみたいな感じね」

「それ本当ですか」

「仕事内容までは言わなかったでしょ? 一応、事務でも実践経験にはなるから受験の条件は満たせるし、筆記のサポートはしてくれるだろうけど。ちなみに、DもMも、除霊士の試験用に勉強教えてもらう場合、テキスト代とか、勉強教えたりする時間分は、バイト代から天引きよ」

「えっ、そんなこと一言も」

「ちゃんと書類見てみなさいよ」

「……」

「うちは実践あるのみだから、筆記は自分達でクリアしてもらうことになるけど」

 橋口は、ケーキを犬食いしながら、顔を上げず、言う。

「じゃあ、そもそも比較になんないんだケド」

「まあまあ、Tヒルズの事務所だから、それはそれはガッポリ稼げるわけ」

「『カッポリ稼げる』って素敵!」

 麗子は両手の指を絡め、瞳の中はハート状態だった。

 橋口は、口に生クリームをつけ、フォークを持った手を掲げた。

「そんなに儲かってるのに、DやM見たいに複数の事務所持たないのはなぜなんだケド」

「それは金の取れない個人案件は捨てて、企業案件や大規模案件に集中するためよ」

「……それはそれでどうなの、って思うところはあるんだケド」

 永江はズレてきたサングラスを指で戻して整えた。

「そうよね。お金がなくて困っている人は救われないのか、ってことよね。まあ、そういうのは警察の除霊課にお願いしてってことで。どうかしら。麗子ちゃんならわかるわよね」

「はい! もちろんです!」

 麗子の目の中に浮かぶハートマークは『¥』が入っている。

「麗子、除霊はお金のためだけじゃないんだケド」

「かんな、お金は大事よ。こんなにケーキ食べれるのはなぜ? それはね、お金があるからなのよ!」

 永江リサは笑いながら、テーブルにスッと書面を出してきた。

「じゃあ、ここにサインもらえるかしら」

「はい!」

 永江はテーブルにペンと朱肉を出した。

「麗子、ちょっと、ちゃんと考えてから決めよう…… って、もう書いちゃってんだケド」

「ほら、かんなも契約して」

 麗子がぐいっとかんなの手を引っ張って、拇印を押させてしまう。

「あっ……」

「じゃあ、明日、一度事務所に来てちょうだい。事務所への行き方は、名刺の裏に書いてあるから」

「はい!」

 永江は立ち上がると軽く手を振って「支払いは済ませておくから」と言って、店を出て行ってしまった。


 次の日、麗子達がTヒルズに行き事務所に入った。

 打ち合わせ用に区切られたスペースから、事務所側を見て感動していた。

「オフィスがすごいよ、やっぱりTヒルズだけあるよ」

 橋口は椅子に座ってブスっとしている。昨日無理矢理契約してしまったのをまだ根に持っているのだ。

「ここにしか事務所がないってのは、やっぱり中小企業なんだケド」

「こんにちは」

 麗子と橋口の二人は、打ち合わせスペースの入り口で頭を下げた女性を振り向いた。

「こんにちは」

 きっちりしたスカートタイプのビジネススーツ。真っ赤なリップグロスをしているが、全く下品な感じがしない。下品どころか、上質な感じだ。長い髪を後ろで一つにまとめ、大きなフレームのメガネを掛けている。ただ、レンズを通して見た風景が歪んでいない。これは伊達メガネだ、と麗子は思った。

「所長秘書の中島と申します」

 橋口も立ち上がり、差し出された名刺を受け取る。

 中島メアリーと書いてある。

 麗子より少し高いぐらいの身長で、橋口と同じぐらいのバストとヒップがある。

 目鼻立ちも均整が取れていて、モデルか芸能人と言われても信じてしまうだろう。

 橋口は秘書の中島を見上げながら、少し劣等感を感じてしまう。

「私、宝仙院中等部の橋口かんな、なんだケド……」

「ねぇ、かんな、自己紹介の時ぐらい、『ケド』っていう変な口癖やめなさいよ。私も宝仙院の中等部で、冴島麗子です」

 麗子も名刺を受け取った。

 中島は何かブツブツと麗子達の名前を繰り返し言い直していたかと思うと、突然、目を見開いた。

「あっ、やっぱり! お二人があの謎の前払金の方ですか……」

「はぁ?」

 麗子が首を傾げると、中島は激しく手を振った。

「いえ、なんでもありません、こちらの話です。実際の経理上の処理は私がいたしますので、お気になさらないでください」

「すごい気になるんだケド」

 橋口が目を細めて、さらに顔を下にして、上目遣いで見つめた。

「ご心配なく、わからないように処理しますから」

 どういう意味だろう。何か、すごく嫌な予感がする。麗子は中島をじっと見つめた。

「二人ともいらっしゃい」

 と、中島の後ろから声がした。

「所長」

 そう言うと麗子と橋口の視線は、所長に向かった。

 助かったとばかりに秘書の中島が、所長の脇を通って下がっていく。

「今日は身分証のための写真を撮るわ。後で申請書も書いてね。申請してカードの作成まで二週間で出来るから、そうね。高校に上がって、オリエンテーションが終わったぐらいから仕事できるわよ」

 秘書の中島は、カメラを用意した。

「そこの壁をバックにして撮影しますから」

 中島は、紙に『冴島麗子』と『橋口かんな』と書かれたものを各々に渡した。

「それをこんな風に胸のちょっと下あたりに掲げてください」

 麗子が紙を持って壁際に立つと、カメラのシャッター音が響いた。


 あの時。永江所長にリボンを取られた時からだ。麗子は思った。あの時からリボンに何か術をかけると、より強く反応するようになった。多分、永江所長と出会ったあの時、所長がこのリボンに何か細工をしたのだろう。

「!」

 麗子は気配を感じ、慌てて立ちあがろうとするが、足の痛みで転んでしまう。

「中島さん!」

 階段付近に、永江事務所の秘書、中島メアリーがいた。

 二年前、Tヒルズで出会った時と同じ、スーツに伊達メガネ、真っ赤なグロスリップ。

 急に(うつむ)くと、上目遣いで麗子を見て、ニヤリと笑う。

 ヤバイ! 中島さんも悪霊に操られている可能性が高いのだ。麗子は気合を入れ、手をついてゆっくり立ち上がった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ