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彼女と刑事の除霊事件簿 時間跳躍編  作者: ゆずさくら


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炎対炎

 橋口は小さくなったキツネを、制服の上着の内ポケットに入れた。

「ここで霊力を回復するといいんだケド」

 鞭を握り締めると、橋口は立ち上がる。

 七階に上がり、フロアを探すが、人の気配はない。

 とると、残るは屋上。

 橋口は急いだ。

 キツネが弱っているから頼れないが、同じぐらい炎を使う悪霊も弱っている。橋口としては、今のうちに勝負を決めたかったのだ。

 急いて屋上に上がる。

 屋上を回ると橋口は声を上げた。

「三井さん、やっと見つけたんだケド」

 給水設備のためにさらに一段高くなっている場所から、三井の体が縄で巻かれ、吊るされている。

 黒いスーツに、ホスト風に首元を開いたシャツ、長めの髪を後ろに遊ばせながら流している。

 三井は力無く俯いて、目を閉じていた。

 その下には例の金属の格子が置かれていて、小さく炎が上がっている。

 三井の霊力も、さっき麗子の霊弾を弾き返す為に使われて、弱っているはずだ。

 だが、この状況は、近づけば本体を焼き殺す、と言う『脅し』だろうか。

 その格子から出る炎に、小さく三井の顔が映った。

『力は弱ってても、こいつも弱ってる。だから焼き尽くすことは出来るぞ』

「あんた自分の力が弱ってる事、自白しちゃたんだケド」

 橋口は鞭を構えた。

 炎の本体をやるか、三井を助けるか。炎の本体を攻撃すれば、悪霊は迷わず三井を焼くだろう。炎の悪霊を除霊できても、三井が戻らないと未来が歪んでしまう。やはり三井を助けることが優先だ、と橋口は判断する。

 相手の悪霊の霊力が低いなら、三井を鞭でこっちに引き寄せ、返す鞭で倒せるだろう。

 橋口は思い切って鞭を振り下ろす。

 高速で炎に向かって伸びていくと、橋口が手元を力強く振った。

 下に向かっている鞭が、急に動きが変わり、三井の体の方に振り上げられる。

 三井の体に鞭があたり、縛っている綱を破壊する……

 綱を破壊すれば、そのまま鞭が三井の体に巻き付き、引っ張る予定だった。が……

「綱が切れないんだケド!」

 吊り下げられ、俯いている三井の口が笑ったように見えた。

 三井の身体にオーラが立ち(のぼ)るが、オーラは下の炎に吸い込まれていく。

 炎は大きくなり、悪霊の笑い声がした。

「……」

 麗子は鞭を巻き戻す。

『三井の霊力を引き出してくれるとは、礼を言うぞ』

「は? 鞭で叩いたのに力が湧き上がるなんて意味わからないんだケド」

 炎の悪霊はさらに笑った。

『こいつは根っからの変態なんだよ。踏みつけられたり、縄で縛られたり、鞭で叩かれたりしたがってる。それが生きるパワーを生み出すんだ。生きるパワーは霊力と直結してるからな』

 橋口は左手で顔を押さえて言う。

「鈴木といい、金田といい、ウチの除霊事務所は全員どうかしてるんだケド」

『お前もそうだろうが』

 金属の格子から、橋口を狙って炎の玉が飛び出してきた。

 橋口は鞭を振って、炎の玉の破壊を狙う。

 炎の玉は意志を持っているように自ら、空中で軌道を変え、鞭を避ける。

「ウソッ!? なんだケド」

 もう間合いの内側に入っていて、鞭では破壊できない。

 橋口は左足を踏み込んで、蹴り出し、右によけた。

 しかし、炎の玉も橋口の動きをトレースしてくる。

 ダメだ…… これは当たる。橋口は体を腕でガードした。

「……」

 おかしい。

 時間経過的に、飛んできた炎の球が当たっているはずだった。

 橋口はゆっくりガードを解く。

 目の前に、炎の玉を咥えたキツネがいた。

 子犬のような大きさだったキツネは、大型犬ぐらいにサイズアップしている。

 炎の玉を橋口に見せつけるように振り返り、それを噛み砕くと、炎と共に消えてなくなった。

『俺も大復活だぜ』

 橋口は自らの両胸に手をおく。

「私、霊力吸われている感じはなかったんだケド」

『そんなものいらねぇよ。俺にも生きるパワーが湧いてきたってことだ』

 橋口は首を傾げた。

「キツネさんは、そもそも『生きて』ないでしょ。さっき自分で霊体だって言ってたんだケド」

『まあまあ、(そこ)の居心地が良かったって思ってくれよ』

「あー、そういうこと? もー、まったく、どいつもこいつも。変態だらけなんだケド」

 キツネは橋口の言葉など意に介せず、格子の炎を睨みつけて言う。

『俺が炎勝負で負けるわけにはいかねぇんだ』

 炎に映る三井が言う。

『キツネ、この俺がお前ごときに負けるものか。大体、お前が操るのは狐火であって、炎ではない」

『うるさい!』

 キツネが吠えるように口を開くと、大きな円形で十六の青白い火が飛び出した。

 青白い炎は、回りながら半径を小さくして飛んでいき、格子の炎を取り囲む。

 突然、格子が回転して、転がった。

 狐火に囲まれるのを嫌ったようだった。

『そうはいくか』

 十六の青白い炎は舞い上がると大きく広がり、移動した格子を目がけ、回りながら半径を狭めていく。

 今度も格子が回転して避けると、キツネは橋口に目配せした。

 橋口が無言で動き出す。

 挑発するようにキツネが言う。

『逃げるしか能がないのか!?』

 すると、格子の炎が突然燃え上がった。

 長く伸びた炎が、十六の青白い炎の一つに衝突する。

 ぶつかった青白い炎は、弾かれたように高く飛ばされる。

 その弾かれた一つの炎を追いかけるように、残りの十五の炎も回転しながらついて行き、消えてしまった。

 三井の姿が言う。

『思った通り、単純な構造だな』

 キツネは再び口を開き、新しい炎を作る。

 口から青白い炎が吐き出されると、今度は炎の壁のように高く伸びた。

 かと思うと、壁は低くなっていく。その替わりに壁の前に、炎が立ち上がる。

 またその壁が低くなると同時に、前方に炎が立ち上がった。

 青白い炎は、そんな風に、まるで波のように移動していく。

『また弾き返してやる』

 格子から前方に炎が伸びると、波のように立ち上がった青白い炎に突き刺さる。

 しかし、波が前方に動くと、真っ直ぐ伸びた炎を折ってしまった。

 キツネは笑う。

『ふん』

 格子はスピンしながら跳ね上がると、炎の波が下を通過してしまう。

『避けやがった』

『今度はこっちからいくぞ!』

 床に落ちた格子で燃えている炎は、同じ大きさの炎の玉に分割され、一つは格子の前に飛び出した。

 キツネを目がけ、床を跳ねるように転がってくる。

 キツネは、さっきの炎の玉と同じ王に咥えて処理しようと口を開いて飛びかかった。

『やっぱりそう来たか、脳なしキツネめ』

 噛み付く直前、キツネの目の前の炎は強い光を発して止まると、爆発した。

 爆発した炎の玉から、四方八方に広がる霊光が、キツネの体に突き刺さる。

 その爆発の力でキツネは飛ばされ、宙を舞い、落ちた。

『ざまあないな…… なんだ、どういうことだ?』

 格子の炎の勢い弱く、小さくなった。

『どうして勝った俺がダメージを受けている?』

 言っている間にも、さらに小さく、炎は弱まっていく。

『なぜだ!? なぜなんだ!』




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