03話 逃げ恥
結局のところあの美女の狙いが何だったのかは未だにわからない。
俺に恨みがあるなら、わざわざ眼を切りつけるのではなく心臓を刺せばよかったのに。
ただボクサーとしての選手生命を終わらせた。
精神攻撃だとしたら、十分すぎるほど効いてはいるんだが。
なんてことを今でも時折思い出す、過去に縛られても意味はないのだけれど。
まぁ今日は久しぶりの休日だし、家でゆっくりと二次元の世界に浸りますか。
二次元の世界観は好きだ、何故なら二次元のキャラクターたちは裏切ったりしないからだ。
こういうと何言ってんだお前、ヤバっとか思われるかもしれないが、自分が生活している世界とはまるで違う世界線。
本を開いたりすれば文字通り二次元の世界観に入り込めるのだ。
いつもそこにはそのキャラクターがいる安心感とでもいうのだろうか。
なんて、現実逃避するのも束の間の出来事であって翌日にはスーツを着て会社に行く毎日が待っている。ハジメは日曜の夕方になると少し憂鬱な気分になってしまうタイプだった・・・。
ボクシング漬けの生活から一変し、燃え尽きたように仕事にも身が入らなくなっていた。
たしかに部長の言う通りだ。もう34だし、いつまでも2次元に現実逃避するのはいい加減卒業しないとな。俺だって元々はボクシングの世界ランカー、自分でいうのもなんだが、鋼のメンタリティでここまでやってきたんだ。
何事もあの時の練習量に比べれば、今の仕事なんてたいして難しくないんじゃないか。
そろそろ本気出すか・・・!
そんな決意をした矢先、スマホアプリから新着メッセージが届く。
誰だ?知らない人から・・・匿名メッセージか。
「今すぐ剛楽園ホールにこい。お前と真剣勝負がしたい。」
んー・・・?一瞬、新手の迷惑メールの類かと思ったが、剛楽園ホールといえばボクシングの聖地でもある。俺のファンか何かか?てか、今日は休日でホール空いてないんじゃ・・・。
「安心しろ、貸し切りだ。すぐに来い。」
この上から目線の発言・・・。いつかのチンピラか?
「全く、かなーり面倒だがこういう輩には一度説教をして更生させないといけないな、日本の将来の為にも。」
「待ってろ」
ハジメはそれだけ送り、剛楽園ホールに向かった。
――本当に貸し切りかよ。何者だよ、どっかのセレブか?
ライトアップされたホールのリング上に一人の女が立っていた。
「ようやく来たか・・・。」
「あぁ君ね、いつかのお姉さん。俺から右眼の視力を奪っておいて、そのせいで今は眼帯してるんだぞ。あのときは世話になったな。」
「意外と冷静じゃないか。激昂して殴りかかってくるものだと思っていたが。」
「女を殴る趣味はねーよ。それにあれは油断していた俺が悪い。ボクシングの引退は心残りはあるけど、もう過去に囚われていてもしょうがないしな。で、真剣勝負もする気はないぞ。」
「お前には戦う理由がなくても私にはあるっ!!!」
女は日本刀のようなものを背中から取り出した。
「いやどっから出してんだよ!てか、真剣勝負って本当に文字通り真剣での勝負かよ!?」
「むりむりむり!!逃げるぞ俺は!逃げるのは時として恥だが、役に立つんだよ!」
ハジメはリングから降り、一目散に逃げ出した。
「逃さんっ!!」
女もリングから降りようとロープを飛び越えようとしたが胸がロープに引っかかり、その刺激で握っていた刀が宙に舞ってしまった。
「・・・え?」
その刀が勢いよく回転し、ハジメの身体を背中から貫いた。
(な・・・なんでだー!!!)
逃げるのは全然恥ではないです!
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