02話 人生最悪の日
PM22:00阪巻は残業を終え、ようやく帰路についた。
会社からの指示で、最近は勤務態度が腑抜けているという理由で残業を命じられた。
阪巻の会社の社長はボクシングの元世界王者で、スポーツ用品を製造・販売する会社である。
その営業部の一社員が阪巻であった。
会社には様々な社会人選手が所属しており、野球やバレー、サッカーといった日本代表選手にも選ばれるほどの実力者たちが集まっていた。
阪巻もかつては社会人ボクシング選手権を三連覇し、その後プロに転向し順風満帆に勝ち進んでいった。そしていよいよ念願である世界タイトルマッチの挑戦権を手にしたのだが、試合前日の計量で事件が起きる。
計量に向かう途中の路地でグラビアモデルのようなスタイルの美女が、二人組の男に声をかけられて戸惑っていた。
リングの上でなら阪巻はこの輩どもを瞬殺できるが、外でプロボクサーが一般人相手に手を出したらそれだけで大問題だ。
最悪翌日の世界戦が流れる可能性だってある。
だが美女が腕を掴まれて、身体にも触られそうになっていたので見過ごす訳には行かなかった。
「おい、いい加減にしとけよ。クソ野郎ども・・・!」
阪巻は男の腕を掴み、彼女から引き離した。
「痛ったたた・・!マジで折れる、は、離せ・・!」
「バカなことをしていないで、帰りな。本気で折るぞ?」
阪巻の握力は常人離れした握力だった。握力を鍛えればパンチ力アップにも繋がるだろうと、普段からトレーニングメニューに入れていて、現在は左右ともに100キロオーバーの握力だった。
「こいつ、よくみたらプロボクサーの阪巻一じゃあねーか!勝てるわけない、す・すいませんっしたー!!!」二人組は一目散に逃げ出した。
「(はぁー良かったぁー・・・。一応穏便に済んで、事件になったら大変だったぜ。)」
冷静を装っているものの阪巻は内心ひやひやしていた。
「さて、怪我はないですか?お姉さ・・・ん?」
振り返り彼女の安否を確認しようとした瞬間、阪巻の右眼に激痛が走った。
「え・・右眼、切られたのか?なんで・・・。」
動体視力が並外れているボクサーの阪巻でも反応できなかった、いや反応できなかったというよりもまさか助けた相手に切られるなど予想外過ぎて脳の思考も追いつかなかったのだろう。
阪巻はそのまま病院に運ばれ、右眼は失明。世界タイトルマッチも白紙になってしまった。
ちなみに私の握力は53キロくらいです・・・。
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