他人の気持ち
「あなたは?」
「いきなりすまない。若い二人の邪魔をしてしまったようだ。申し遅れたが、私はイザベルの叔父のマクシミリアン・ザフィードだ。是非、私の可愛い姪のイザベルの友人達に挨拶をしたいと思ってね」
何か凄い存在感がある人だな。威厳というか、只者ではない雰囲気がぷんぷんする。
「初めまして。僕はトーラスです」
「初めまして。私はリディアナです」
「よろしく頼む。イザベルの友人になってくれて本当にありがとう。今日、イザベルに久しぶりに会ったが、昔とは見違えたよ。きっと君達のお陰だろう。これからも仲良くてしてくれ」
「僕達は少しきっかけ作りをしただけです。イザベルの努力の賜物ですよ」
「そうか。そう言ってくれると、本当に嬉しいよ。それで一つ、君達に聞きたい事があるねだが、いいかな?」
マクシミリアンさんは急に固い表情を見せた。
何を聞きたいのかな? とても重要な事かもしれない。
「私達でお答え出来る範囲でしたら。でもなぜ私達なのですか?」
「君達が私の質問に答えてくれる適任者だと思ったんだ」
「適任者?」
「君達は先程の雰囲気を見ると、恋人同士だね?」
「「はい」」
返事がリディアナと被った。
「ハハハ。仲の良い事だ。聞きたいのは一つだ。今現在、イザベルに意中の異性はいるのだろうか?」
「「えっ!」」
「そんなに驚く事かい?」
「いえ、そういう訳では……」
「どうなんだ、いるのか、いないのか」
どうしよう。言うべきか言わないべきか。
「もしも、いると言ったらマクシミリアンさんはどうされるんですか?」
「やはりいるのか!」
「もしもって言いましたよね」
顔、怖いよ。これは絶対にアレックスとの関係がバレてしまったらまずい事になりそうだ、
「すまない。もしいるなら、その男に会って見極める」
「何をですか?」
「イザベルに相応しい男であるかどうかをだ」
これは本気だ。目がそう言ってる。本当にどうしよう。あの二人はまだ恋人同士って訳ではないし、ここで劇薬であるマクシミリアンさんを投入したら、駄目な気がする。困った。
「ザフィードの国王であるお父様が何、若い二人をいじめておられるんですか?」
「レナールト、誤解だ」
「何が誤解ですか。二人とも、怖がってるではありませんか。行きますよお父様」
「おい。待て。まだ二人に聞いてないんだ」
「これ以上、何か言いましたら、お母様に言いつけますわよ」
マクシミリアンさんの顔が一気に青ざめた。よほど、奥さんが怖いのかな。
「お二人とも、ごめんなさいね。後で改めてお詫びに伺わしていただくけど、今は失礼しますね」
そう言うと、マクシミリアンさんは連れていかれた。助かった? のかな。
僕らは呆然と、二人を見守る事しか出来なかった。
「リディアナ、何だったんだろうね」
「何が何だかわからないけど、マクシミリアンさん大丈夫かな?」
「そうだね。とりあえず、イザベルの所でも行かない? きっと疲れきってるだろうし」
「そうね。今日くらいは少しくらい労ってあげましょう」
「そうだね。お腹も減ってるだろうから食事でも持っていこうか?」
「いいわね」
僕らは料理を取って、イザベルの元に向かった。
近くにいたメイドさんにイザベルの場所を尋ねると、案内してもらえる事になった。
メイドさん言わく、イザベルは挨拶回りとマクシミリアンさんの対応で疲れきって、一旦、裏に下がったらしい。
「イザベル、生きてる?」
「何とか生きてますわ」
イザベルは裏の控え室で椅子に座り、ぐったりしていた。
「お腹すいてるかもしれないと思ったから適当に持ってきたんだけど、食べれそう?」
「取りに行く元気がなかったから助かりますわ。凄くお腹空いてましたの」
「使用人の誰かに取ってきてもらえば良かったじゃない?」
「それは……」
「どうしたの?」
「私、多分なんですけど、使用人の人達に嫌われているかもしれませんの」
「何でそう思うのよ」
「昔から私、屋敷で我が儘三昧でいつも使用人の方たちを振り回していましたわ。つらく当たることもありましたわ。だからきっと嫌われてますの」
話を聞いたリディアナは『ちょっと待ってて』って言い残して、部屋の外に出ていった。
「リディアナ、どうしたのかしら?」
「さぁ?」
リディアナが戻ってくるまでイザベルは料理を食べ、僕も少し疲れたからゆっくりしていた。
そして、丁度、イザベルが料理を食べ終わった時にリディアナが帰って来た。数名のメイドさんを連れて。
「ロザリア、キュリー、エイミー!」
「イザベル、人の気持ちは本人から聞かないとわからないよ」
「リディアナ……」
なるほど。リディアナは使用人の方たちを探しに行っていたのか。
「お嬢様、リディアナ様からお嬢様がお呼びだとお聞きしたのですが」
「うん。はい。えっーと、そうよ。三人に聞きたい事があるんですわ」
「「「何でございますか」」」
「……」
極度の緊張からか言葉がうまく出てこないみたいだ。
「お嬢様、どうなさいましたか? もしかして体調がお悪いのではありませんか?」
「えっ! いや、そうな事ありませんわ」
「キュリー、至急、ハロルド先生を呼んできて、エイミーはベッドの準備を!」
「「わかりました!」」
「ロザリア違うわ。私、体調が悪い訳では……」
「お嬢様、気を使わなくても大丈夫でございますよ。優しいお嬢様の事です。パーティーで忙しい私達の手を煩わしたくないというお気持ちから大丈夫なふりをされておられるのですね。そんな心配はご無用でございます。この屋敷の者の中でパーティーよりお嬢様を優先しない者などおりません」
「何で?」
「何をおっしゃいます? 屋敷の使用人一同、お嬢様の事が大好きだからに決まっているではありませんか」
「えっ?」
イザベルはロザリアさんの言葉を空耳だとでも思っているのか、確認を求めているのか、僕とリディアナの方を見た。
それを見て僕とリディアナは笑顔で頷いた。
「お嬢様?」
「ごめんなさい。少しびっくりしましたの」
「なぜでしょうか?」
「それはこっちのセリフですわ。逆になぜ私、皆から好かれてますの? あれだけ昔から我が儘放題の最低な子供だったのに。辛くあたる事もありましたわ」
「そうですね。お嬢様は小さい頃から本当に我が儘で私どもの言う事を一切、聞いていただけませんでしたし、横暴な振る舞いも多々ございました」
「ならなぜですの?」
「皆、知っているからです」
「何を?」
「そういう態度を取ってしまった後、お嬢様が一人、凄く後悔されて何度もごめんなさいと言っていた事をです」
「えっ?」
イザベルのこの素直になれないツンデレ体質は昔からなんだなぁ。
「でもロザリアみたいに私付きの使用人なら分かりますけど、他の使用人は……」
どんどんイザベルの声が小さくなっていく。
「そんなの決まっています。皆、見てますので」
「見てた?」
「はい。やはり私達も人間です。昔は使用人の中にはお嬢様に不満を持っている人もいました。特に新しく雇われて働き始めた者は顕著でした。でもそれが私達、特にお嬢様が生まれた時から働いている使用人にとっては我慢なりませんでした。なので不満を持った使用人にはお嬢様の反省シーンを見てもらう事になりました」
「誰の許可を取って……」
「許可なら奥様から頂きました」
「お母様!」
イザベルの何とも言えない絶叫が部屋に響き渡った。
恥ずかしいだろうな。使用人皆に反省シーンを見られていたと知ったんだから。
「それはもう、効果テキメンでございました。本当のお嬢様を見た使用人達の中に不満を持つ者などいませんでした。それどころか皆、どんどん、お嬢様の事が大好きになっていきました。素直になれないお嬢様をずっと心配しておりました。本当の意味での友人が出来ないお嬢様を心配しておりました。なので去年の長期休みに帰省された時、私共は感激に打ち震えました。学園から帰られたお嬢様はすっかり変わられ、そして、学園で御友人が出来たと聞いた時は使用人一同、お祭り騒ぎでございました」
もう、イザベルは呆然としていた。驚きを通り越したのかな? 今まで嫌われていたと思っていた使用人たちから本当は好かれているという事実を知った訳だから無理もない。
でも今回の事でわかったよ。人の気持ちなんて本人にしかわからない。自分で感じる事が全てではない。
「お嬢様、ハロルド先生をお連れしました。隣の部屋にベッドを用意しましたので、そちらに。歩けますか? お辛いようでしたら私どもがお連れいたします?」
「大丈夫ですわ。歩けますわ」
隣の部屋のベッドに移動したイザベルはお医者様のハロルド先生に診察してもらい、ベッドに横になっていた。
「お嬢様、喉は渇いてはおられませんか? 部屋は寒くはないですか?」
「大丈夫ですわ。ありがとうキュリー」
「そうでございますか。何かございましたらすぐにおっしゃってくださいませ。私とエイミーは外で控えておりますので」
そう言うと、僕とリディアナに『お嬢様をよろしくお願いいたします』と言って部屋を出ていった。
「言った通りでしょ」
「そうですわねリディアナ。本当にびっくりしました」
「リディアナはよく使用人の人達がイザベルの事が大好きだってわかったね」
「そりゃあ、屋敷で会う使用人の皆さんから『お嬢様は少しツンツンしておりますが、本当は凄く優しいお方なのです。これからもお嬢様をよろしくお願いいたします』って言われたもの。トーラスは言われなかったの?」
僕は思い返してみるが、特にないな。何か皆、僕の前では挙動不審だったんだよな。モゾモゾしているというか。何か言いたそうではあったんだけど……
その事を二人に言ったら何故か呆れられた。何で?
少しすると、部屋にアンジェリカ、アレックス、カルロス、ロイスがやってきた。
「イザベル、大丈夫? 倒れたって聞いたけど……でも元気そうね」
アンジェリカの発言に僕はきっと今回の事も使用人の人達に大げさに広まっているんだろうなぁと思った。
せっかく全員揃ったので部屋で少しのんびりする事にした。特に僕とロイスはパーティーになれていないしね。
先程起こった事を皆に話すと、皆、『良かったね』とイザベルに言うと、「別に嬉しいわけではありませんわ」と平常運転のイザベルだった。
「レナールトよ。イザベル、入るわよ」
皆でのんびりしていると、ノックと共に声が聞こえてきた。




