テンペスター公爵領マキュリー
「何だかイザベル、テンション低いけどどうしたの? もうすぐ実家に着くよ」
「……」
リディアナの問いにも返答がない。
本当にイザベルは実家のテンペスター公爵家に近づくにつれてどんどんテンションが目に見えて下がっているのが、僕にもわかった。
レモール男爵領からの旅は順調に進み、今はもうテンペスター公爵領領都マキュリーの街にはいっていて、公爵邸を目指しているところだ。
マキュリーの街もロンダークの街くらい賑やかで活気がある。
あともう一つ思ったのが、街並みが凄くオシャレというのか色鮮やかというのか凄く斬新な感じなのである。
テンションが普通の頃のイザベルから聞いたテンペスター公爵領は製糸産業と織物産業が有名で、そのため領内で様々な種類の衣類が製作されているみたいだ。
イザベルいわく、ここマキュリーはジルベスター王国のファッションの中心地だと言っても過言ではないそうだ。
リディアナに聞いても同意してたからかなり有名なのだろう。
きっとファッションへの意識が街並みにも影響を及ぼしているのだろう。
そして、ついに公爵邸の前に到着した。
遠くから見えてはいたけど、やはり斬新な建物だった。
馬車を降りると、一人の女性が走ってきた。
「イザベルちゃんー! 会いたかったわ」
女性はイザベルを抱き締め、頬をスリスリしていた。
「恥ずかしいですわお母様。皆が見てますのよ。自重してください」
イザベルの言葉に我に返ったのか動きを止めた。
「わかっていただけましたか? よかったです。とりあえず、友達を紹介しますわ」
「キャアー! イザベルちゃんの友達! あっ!
そこにいるのはリディアナちゃんとアンジェリカちゃんじゃない?」
「お久しぶりでございます。サフィーヤ様」
「やだリディアナちゃんったら、かしこまっちゃって、可愛い。やっとイザベルちゃんの友達になってくれたのよね。嬉しいわ。アンジェリカちゃんもまた一段と可愛くなっちゃって創作意欲が湧くわ」
「サフィーヤ様もお変わりのないようで安心しました」
「もちろんよ。これが私のポリシーだから。美しい物は正義。私にとって美しいってだけで愛すべき対象なのよ」
「それならあちらにサフィーヤ様のお心をくすぐる神が作りたもうた最高傑作がおりますよ。是非拝見ください」
えっ!アンジェリカ、僕の方を指差している気がするんだけど……
サフィーヤ様は指の方向を向き、僕と目があった。
「まぁー!!」
サフィーヤ様は絶叫と共にこちらに走ってくる。
すごいプレッシャーだ。
なぜか体がいうことをきかない。
気がついた時にはもうサフィーヤ様に抱き締められていた。
「可愛い! 凛々しい! カッコいい! 素晴らしい!!!」
「あなた、お名前は?」
「トーラスです」
「トーラス君ね。よろしく。あなた、私の服のファッションモデルやらない?」
「えっ!」
何? ファッションモデル? もしかしてサフィーヤ様はデザイナーなのかな。
「お母様、恥ずかしいですから止めてください! とりあえず落ち着いてぐたさい。じゃないと当分、口を聞きませんわよ」
イザベルの言葉にやっとサフィーヤ様の行動は停止した。
「それだけは嫌よ。イザベルちゃんが口を聞いてくれないなんて、私、生きていけないわ!」
「おおげさですわ。とりあえず落ち着いていただけたらいいですから」
「わかりました」
「はぁ。やっとですわね。それではお母様、残りの友人達を紹介しますわ。左からアレックス、カルロス、ロイスですわ。皆、私のかけがえのない友人達ですわ。だからあまり恥ずかしい真似をしないでくださいねお母様」
「キャアー! 他の子達も最高の素材揃いね」
「もう!とりあえず中に入りませんかお母様?」
「そうね。皆、長旅で疲れてるわよね。どうぞ入ってちょうだい」
僕らはそのまま屋敷の中に入った。
「アンジェリカ、ひどいよ。僕を囮に使ったよね」
「ごめんトーラス。咄嗟に言葉が出ちゃって」
「次したら怒るからね」
「了解です!」
とりあえず、サフィーヤ様がもっと話をしたいとおっしゃったので応接間に案内された。
「改めましてイザベルちゃんの母親のサフィーヤです。様とかいらないから気軽にサフィーヤちゃんって呼んでね!」
「お・か・あ・さ・ま!」
「冗談にきまってるでしょ。そんな怖い顔しないで可愛い顔が台無しよ。とりあえず最初に皆さんに言いたい事があります」
ずっと明るくお茶目な雰囲気だったサフィーヤさんが急に真剣な顔つきになった。
僕らはそのギャップによって緊張が走る。
何だろう?
「皆さん、本当にイザベルと友達になってくれてありがとうございます。今回、皆さんがうちに遊びにきてくれると聞いて、とても楽しみにしていました。我が儘で素直になれない子ですけど、本当にいい子なんです。これからも末永くイザベルをよろしくおねがいしますね」
「お母様……!」
「はい。お堅いのはここまででーす。今から皆には明日のパーティーの衣装選びをしてもらいまーす! 」
えっ!何? パーティー? どういう事?
「サフィーヤさん、パーティーって何ですか?」
「ロイス君、よくぞ聞いてくれました。それでは発表します。その名も『テンペスター公爵邸、イザベルちゃんの初友達、初訪問記念パーティー』でーす!」
「何なんですのそのパーティー名! 先程の私の感動を返してくださいお母様!」
あれ? イザベルはパーティーが行われる事じゃなくてパーティー名が気になるの?
まぁ恥ずかしいパーティー名ではあるけどね。
「何を言っているのイザベルちゃん。あなたの初めてのお友達が、しかも6人もが我が家を訪問するのよ。パーティーを開かなくてどうするのよ! もう私の友達には招待状も送って準備万端なんだから! 後はあなた達の衣装選びだけよ。皆、美形揃いだから私の作った服が似合うわよ。楽しみ!」
「お母様のお友達に招待状……」
どう考えてもイザベルが恥ずかしい目に合うであろうパーティーに招待客までいると知ったイザベルは完全にその場で固まってしまった。
「サフィーヤさんは衣装のデザインをされるんですか?」
「そうよ。昔は趣味の範囲でデザインを考えていたんだけど、最近では仕事として商業ギルドから注文を受けることも多いの。今では私の生きがいの一つね。綺麗なもの、可愛いものを見ると、インスピレーションが働くのよ。だから今、もううずうずしてるの! さぁ皆、行くわよ!」
その後、僕らは男女別の部屋に案内された。結局、じっくり一人一人、サフィーヤさんと一緒に衣装を選んだ。最終的にはサフィーヤさんが選んでくれた衣装を着る事に決まった。
何でもイザベルから事前に僕たちの容姿の特徴を聞いていて、それに合わせて一人につき、何着かを用意していたみたいだ。
衣装を選んでいる時のサフィーヤさんの興奮具合は僕たちが少し引いてしまうくらいだった。
試着も終わり、衣装は裁縫師の方による微調整に回されていった。
パーティーは明日なので屋敷内は準備に使用人の人達が走り回っていた。
一体、どれくらいの規模になるんだろうか?
屋敷内はそういう状況なので僕らは部屋でおとなしくしている事にした。
衣装選びで少し疲れていた僕はベッドでゴロゴロしていた。
イザベルは大丈夫かな?
いろいろと堪えていたみたいだし、明日のパーティーにちゃんと参加するかな?
そんな事を考えていた時に部屋にアンジェリカがやってきた。
「ヤッホー! トーラス、生きてる?」
「アンジェリカ、生きてるよ。でも少し疲れたよ」
「サフィーヤさん、どうだった? トーラスは特に凄かったんじゃないの?」
「他の皆も相当、凄かったよ。僕、着せ替え人形の気持ちが理解出来たよ」
「ハハハ! サフィーヤさんは昔からあんな感じだからね。私はもう慣れたわ」
「アンジェリカがサフィーヤさんと面識あるのはわかるけど、慣れてるってどういう事? 学園入る前はイザベルとそんなに仲良くはなかったよね?」
「そうね。でもサフィーヤさんにそんな事は関係ないの。気に入った子を見つけると、自分の作った服を着せたくなる人だったの」
「へぇ~そうなんだ。それでアンジェリカは何しにきたの? 」
「そうだったわ。イザベルが大変なの!」
「えっ! どうしたの?」
「パーティーに参加したくないって、部屋に籠城しちゃったのよ!」
予想的中しちゃったよ。




