愚者への分岐点
「という事があったんですよ。あなたが僕とロイスを除け者にしている間にね。さぁもう逃げ場はありませんよ」
「ふざけるな! この私がこんな平民の子供にしてやられただと。しかし、お前らでどうやって俺を裁こうというんだ。まだ学園すら卒業してもいない学生の分際で、図に乗るのも大概にしろ」
「誰が僕らが貴方を裁くと言ったんですか。勘違いしないでください。ここまでは序章に過ぎないんですよ。地獄はこれからですよ。ではよろしくお願いします。オズ先生」
「オズ先生?」
男爵は僕が言葉をかけた方を見る。
そこにはフードを深く被った人が二人いる。
そして、その内の一人がフードを外す。
すると、そこから鬼の形相をしたオズ先生が降臨したのだった。
僕らの仕事はこれで終了だ。
「やぁレモール男爵お久しぶりですね。私の顔は覚えていますか?」
「オ・オズワルド・マークウェル!」
「良かった。覚えていただいていたんですね。それなら話は早いですね」
「なぜここに? まさか……」
「馬鹿なあなたでもわかりましたか? そうですよ。黒幕は私です。よくも我が公爵領から女神の瞳を盗み出してくれましたね。どうしてくれましょうか?」
今の丁寧な口調が逆に凄く怖いんだけど……
「私じゃない。そこのラザンが売り込んできたんだ」
「ほう。ラザン、そうなのか?」
男爵が悪足掻きを始める。
「いえ、私はレモール男爵から脅され女神の瞳を盗みました」
「どう脅されたんだい?」
「女神の瞳が発掘されたら盗めと言われました。もし盗んでこなかったらお前の妻に一生薬は売ってやらんと言われました」
「ほう」
「デマカセだ」
「話が進まないな。ではサジルだったか、執事のお前なら知っているだろう。どうだ?」
「全てラザンの言う通りでございます」
「サジル貴様!」
「これは疑いようのない証拠が出ましたな。何か弁解はありますか男爵?」
「私じゃない。誰かの陰謀だ!」
見苦しい。誰がどう見たってどうしようもない状況だというのにまだ認めようとしない。
「わかりました。私も鬼ではありません。この件に関しては許してあげましょう。あなたが認めるならね」
「えっ! 本当ですか?」
「もちろんですよ。男に二言はありません」
男爵はオズ先生の言葉に凄く安心した様子だった。
「認めます。私がラザンに命令して盗ませました」
「そうですか。少し残念な気持ちですが、この件は多めにみましょう。それでは帰りますか」
男爵は更に安心した様子を見せる。
「と言うと思ったか! お前は流石に俺の事を甘く見すぎじゃないのか? 我が公爵家を敵に回して生きてこの場を逃れると思うなよ。お前の地獄はこれから始まるんだよ」
「……」
男爵はオズ先生のいきなりの豹変ぶりに言葉を失っていた。
「俺は今回の事件が無くてもお前を地獄に落とそうと思っていろいろ調べていたんだよ。そしたら出るわ出るわ。悪事のオンパレードだったわ。情状酌量の余地なし」
「なぜ私の事をそんなに調べている?」
「お前のノミ以下の脳みそはもう忘れたのか! いろんな所で我が公爵家を馬鹿にしていただろう。俺や父の事ならまだ許せた。しかし、お前は母の事も沢山言ってくれたな。本当にいい度胸をしている。終わりだよ男爵。いや、ゲスール」
「待ってくれ。私が居なくなったらこの領地はどうする?」
「代わりの代官がすぐに王都から来るから問題ないと思うが」
「問題ある! この領地の特産品であるフェザー病の製法は私しか知らない。だから俺がいなくなれば沢山の者が苦しい思いをして死ぬぞ!」
オズ先生は呆れたように言い放った。
「そんな事か」
「そんな事とは何だ! 貴様は沢山の人々が死んでもいいというのか」
「その薬に高い金をかけて金儲けしてた奴はどこのどいつだよ。心配しなくていい。製法を知る者はお前以外にいる。お前は気兼ねなく牢屋に入れるぞ」
「どこにいるというんだそんな人間! 薬の製法は我が男爵家の相伝なんだぞ!」
「そこにいる」
オズ先生は指を指す。
そこには先程のもう一人のフードの人物。
まさか、その人は!
「久しぶりだなゲスール。お前はもう私の事を忘れてしまったのかい?」
フードを外した男性の言葉に男爵は驚愕の表情を浮かべる。
「父上……なぜあなたが? あなたは私が……」
「殺したはずか」
「……」
「サジル達、使用人が助けてくれたんだよ」
「……」
「お前はあれからずっと変わらないな。いつも自分の事ばかり。なぁゲスール、なぜ私がお前を次期当主に任命しなかったかわかるか?」
「そんなの決まってます。私が正妻の子ではないから……」
「違う! お前のその性格だ。領主とは自分の事を優先してはいけない。まず領民の事を第一に考えなければならない。その考えをお前は持っていなかった。それだけだ。もし、お前がそれを持っていたらお前を次期当主に任命していた。たとえ、実の子で無かったとしてもな」
「何を言っているのですか?」
「お前は私の子供ではないと言ったんだ。確かに昔、サニーニャとは付き合っていたが、関係を持った事は一度もない。だからお前が私の息子であるはずがないんだ」
「ならなぜ私を引き取ったんですか?」
「お前は悪くないと思ったからだ。小さい頃からサニーニャに言われて育ったんだろ。あなたはレモール男爵の息子なのよって。私はお前に罪はないと思ったんだ。お前が私の子供として頑張っていきたいと思うなら私の子として頑張ってほしかったんだ。だが私の考えは甘かったようだ。君はきっと最初から我が家を乗っ取る気だったのだろうな」
男爵は崩れ落ち、床に手をつく。
そして、何かを呟いている。
今、何を考えているのかはわからないけど、もう手遅れだよ。
あなたはそれだけの事をしてきた。
その人生を選んだのはあなた自身。
どんな人生だってあなたは選ぶ事が出来た。
しかし、一番最悪な形を選んでしまった。
自業自得だよ。
あなたに残された道などないのだから。
こうしてオズ先生が手配していた者達によってゲスール前男爵は王都におくられたのだった。
僕は今回、グレイシアルさんの登場には驚いた。
僕らは屋敷でメイドさん達から聞いて初めてグレイシアルさんの存在を知った。
オズ先生は全て知っていたんだろうな。
多分、僕らを試したんだろうな。
男爵が連れていかれ、残されたのは僕らとオズ先生、使用人達、そして、グレイシアルさん。
「オズワルド様、この度は大変お世話になりました。感謝してもしきれません」
グレイシアルさんは土下座していた。
「止してください。感謝は是非あの子達に! 一番の功労者ですから」
グレイシアル様は僕たちに何度も頭を下げてお礼を言ってくれた。
雰囲気だけでわかる。
物凄くいい人だ。
領民や使用人達に好かれているのもうなずける。
「僕らは男爵家を救うためにやった訳ではありません。男爵が許せない事をしていたからやっつけたんです。でもその事によって沢山の人を救えたんだとしたら凄く嬉しいです。頑張った甲斐があります。グレイシアルさんも頑張って昔の笑顔に溢れたレモール男爵領を取り戻してくださいね。じゃないとまた僕らが成敗しちゃいますよ」
グレイシアルさんは涙を流しながら笑って『気が抜けないなぁ。頑張るよ。昔以上に笑顔で溢れさせてみせるよ。家族と一緒にね』と言っていた。
その後のグレイシアルさんと男爵家使用人一同との涙の再会は感動した。
メイドさん達は僕らに何度も『ありがとうございます』と言ってくれた。
凄く良かったなぁって心が温かくなったよ。
これで次の目的地に出発出来る。
僕らは屋敷の外で待機していたカルロスと合流してテンペスター公爵領に出発する事にした。
「それではオズ先生、僕らは行きますね」
「おう。今回は本当にお前らに助けられた。感謝する。これからの旅も楽しめよ!」
「ありがとうございます」
オズ先生に挨拶をして、僕らはテンペスター公爵領へと出発した。
余談だが、その後、オズ先生の尽力もあり、グレイシアル様はレモール男爵家の当主に復帰した。
数日後には家族の人達も屋敷に戻り元の幸せなレモール男爵家が戻ってきたのだった。




