レモール男爵家の真実
「なぜ誰も私の言うことを聞かない?」
「なぜでしょうね? 不思議ですね」
「もしかしてお前が何かしたのか!」
「僕ももちろん関わってますよ」
「いつだ! いつ屋敷のもの達を掌握したんだ!」
「そんなの決まってますよ。男爵が僕とロイスを放置して、イザベル達と夕食を食べていた時ですよ」
そう。僕とロイスは昨日、サジルさんが男爵が体調を崩されたと報告しにきた後、アンジェリカが考えた作戦を実行していたのだ。
あれはサジルさんが去った後の事だ。
「予想通りに僕らだけ夕食は別になったね」
「そうだね。作戦実行のチャンスだね」
「本当にやるのトーラス?」
「ロイス何言ってるのさ。イザベルも頑張って演技してくれてるんだから」
「そうだよね。ごめん。少し恥ずかしいなぁと思っちゃって」
「そんなの僕も恥ずかしいよ」
すばり、アンジェリカが考えた作戦とは僕とロイスで男爵家の使用人達を籠絡しちゃおう大作戦である。
最初、アンジェリカから聞いた時は僕とロイスの開いた口が塞がらなかったよ。
それにそんなに簡単にはいかないと思ったし、でもアンジェリカは絶対いけるわ! って言うんだ。
完全無欠王子様トーラス、学園ランキング、守ってあげたい男子生徒No.1ロイスの双璧に落とせない女はいないわ!
この時ばかりは僕よりロイスの方が数倍驚いていたなぁ。
まぁ男の僕からしてもロイスは儚げの美少年って感じだからその称号は納得ではあるんだけどね。
何はともあれ、僕らは使用人(女性中心)を味方につけるために行動する事になったのだ。
少しすると、メイド4名が部屋まで食事を持ってきてくれた。
「お待たせいたしました。どうぞお召し上がりください」
「「ありがとうございます」」
僕とロイスはアンジェリカに教わった、女性を落とす笑顔とやらを実践した。
「ふぁい。どういたしまして」
メイドさんは明らかに動揺している。
「ロイス、二人の食事は寂しいね」
「そうだね」
僕らはわかりやすいようにションボリした雰囲気を出す。
「メイドさん達のお名前を聞いてもいいですか?」
「申し訳ありません。お客様との私的な会話は旦那様より禁じられております」
「そうなんですか! ごめんなさい。少し寂しくてメイドさん達と話したかっただけなんです。どうしよう。僕らのせいでメイドさん達に罰でも与えられたら」
ロイスは出来る限りの捨てられた子犬のような目を心掛けて言っている。
「大丈夫ですから。バレなければいいですから。気を落とさないでください」
「本当ですか?」
僕らは最大限に上目遣いを意識する。
「ハァ!」
メイドさん達は顔を赤らめ僕らから少し距離を取った。
「ヤバイ! 可愛すぎるんだけど!」
「あの子達二人共美形すぎ! 出来る事なら話したいわ」
「どうする?」
「バレなきゃいいんじゃない」
「でも~」
「こんな子達と会話する機会なんて一生訪れないわよ」
メイドさん達は遠くからこちらを見る。
僕とロイスはそちらに向かって笑顔を向ける。
メイドさん達が崩れ落ちる。
「「大丈夫ですか?」」
僕とロイスは崩れ落ちたメイドさんに駆け寄る。
「大丈夫です。気遣いありがとうございます。料理が冷めてしまいますのでお食事をお召し上がりください」
「わかりました。食事を取りながら沢山おしゃべりしましょうね!」
僕らはとどめの笑顔を炸裂させた。
「グハァ!」
その後、食事をしながらもメイドさん達と会話を楽しんだ。
そんな中、話は男爵に対して使用人達がどういう印象を持っているかという話になった。
ここではメイドさん達の中で一番長くこの男爵家で仕えているネムさんが話してくれた。
「はっきり言いまして、旦那様は最低の人間です。使用人使いは荒いし、いつも私達を見下してきます。使用人一同、不満が蔓延しています」
「それはつらいですね。辞めたいとは思わないのですか?」
「もちろん何度も思いました。でも私達はこの男爵家が大好きなんです!」
大好きだって。ここまで男爵からひどい仕打ちを受けてきたというのに何でなんだ。
「大好き? なぜですか?」
「語弊がありましたね。男爵家は好きです。しかし、前のが付きます。実を言いますと、この男爵家は五年前までは現男爵のお父上様が領主をしておりました。その方はグレイシアル様というお名前でとても優しく、領民思いで皆が尊敬していた素晴らしい領主でした。しかし、現当主の旦那様に嵌められて領地を追い出されてしまったんです」
「じゃあ何ですか! 男爵は自分の父親を追い出して無理やり領地を継いだんですか?」
「多分、違うと思います」
「違う?」
「私は旦那様はグレイシアル様の実の子では無いと思うんです」
「なんでそう思われるんですか?」
「旦那様は15年前、突然、男爵家に現れました。俺はあなたの息子だ!それが最初の言葉でした。グレイシアル様が話を聞くと、自分の母親はサニーニャだと告げました。その名前をグレイシアル様は知っていました。実はグレイシアル様が奥様と結婚される前に短期間でしたが、付き合っていた方だったのです。なので確証はありませんでしたが、グレイシアル様は旦那様を引き取りました」
凄く複雑な感じになってきたな。
でも絶対に怪しいよね。
結局、男爵家を乗っ取ったわけだし
「いきなりそんな人が現れて、ご家族は混乱されなかったんですか?」
「少し混乱されていたとは思いますが奥様もお子様達もグレイシアル様に似て、お優しい方達でしたので笑顔で迎えておられました」
はぁ。男爵は本当にクズだな。
そんな素晴らしい人達に出会えた幸運を感謝もせずに最悪な方法で返すなんて!
ふざけている! 絶対に許せない!
まぁ元々許す気なんてサラサラなかったけどね。
「グレイシアル様達は今、どうしているかは知っていますか?」
「はい。マークウェル公爵領内で働いていると聞いた事があります」
「もし、グレイシアル様が領主に戻れるとしたらどうしますか?」
「使用人一同何でもします!」
即答だった。
「わかりました。あなた方の気持ちはわかりました。なら男爵を追い出しましょう!」
「えっ! 何を……」
「実は僕達がここに来たのは男爵を地獄の底に引きずり落とすためなんです。そして、あなた方の協力があればそれが可能です。どうしますか? 子供の戯れ言だと思って無視しますか? 僕の言葉を信じてあなた方の愛した男爵家を取り戻しますか?」
僕は真剣にメイドさん全員に対して告げた。
この作戦には全ての使用人の協力が必要だ。
男爵に逃げ道一つ作らないために。
「信じます。グレイシアル様とご家族を……領民を……そして私達を助けてください!」
「お任せください!僕らが皆さんの笑顔を取り戻すと約束します!」
僕の言葉にネムさんは泣き崩れた。
周りのメイドさん達も目に涙を溜めていた。
「男爵が寝たら全ての使用人をここに連れてきてもらえますか? 作戦をお伝えしたいので」
「かしこまりました」
そして、少し時間が経ち、男爵が眠った後、僕らの寝室に男爵家で働く全ての使用人が集結した。
皆、僕の作戦を真剣に聞いていた。
こうして、この屋敷にいる男爵以外の人間の考えが一つになった。




