地獄への道しるべ
朝食は夕食とは違い、僕とロイスも一緒に食べた。
「本日は何か予定はありますか?」
「はい。今から少し街の方を散策してこようと思いますの!」
「そうですか。我が家から護衛を付けましょうか?」
「大丈夫ですわ。私達には最高の護衛の彼ら達がいますから」
「そうですか。わかりました。楽しんできてください!」
「ありがとうございます。もちろん昼には戻りますので昼食はご一緒に食べましょうね。そして、その後に男爵のコレクションを拝見させていただきたいですわ」
「もちろんです。用意しときますよ」
朝食の後、僕らは街に出掛けた。
街に出ると、やはり感じる活気のなさ。
男爵への怒りが込み上げてくる。
今日、僕らが街に出てきた理由は観光が目的ではない。
ラザンさんの家族の身柄の確保だ。
家の場所はラザンさんに確認している。
事前にこの街に入る前に護衛のロベールさんとフレイヤさんに街に入り込んで目的地の確認や情報収集をしてもらっている。
「フロースどう? 誰かにつけられたり、見られたりしてない?」
「はい。大丈夫です」
男爵は相当、イザベル達を信頼したみたいだ。
これで気兼ねなくラザンさんの家族の元にいける。
途中でロベールさんとフレイヤさんと合流して家まで案内してもらう。
「フレイヤさん・ロベールさん、この街についてどう感じましたか?」
「私はやはり領民の覇気のなさに目がいきました。そして、とても貧富の差を感じました。調べましたところ、やはりフェザー病の薬の販売などに関わっている者は比較的に裕福な生活をおくっているようです。それも本の一部の男爵の息のかかった者です。結局なところ、この領地にはそれしか特産品がありませんから他の領民は大変でしょう」
「私もフレイヤさんと同じ考えです。本当に考えられません。領民をここまで蔑ろにするなんて領主失格です」
聞くまでもなかったよね。
二人の案内でラザンさんの家にやってきた。
扉をノックすると、中から女性の声が聞こえた。
「どなたですか?」
「突然の訪問失礼します。僕たちはラザンさんの知り合いなんですが、少しよろしいですか?」
「夫の知り合い? 私には皆さんがかなり若く見えるんだけど」
「はい。僕らは王都にある学園の生徒です」
「王都の学園の生徒! どうしてそんな方達が夫と知り合いなんですか?」
「詳しい話は中でしてもいいですか?」
「はい。狭い家で申し訳ないですけれど、どうぞ」
ラザンさんの奥さんは終始、驚いた顔をしていた。
そりゃあそうだよね。
いきなり見ず知らずの人達がやってきたんだから
「単刀直入に言います。僕たちはあなた方を保護しにきました」
「???」
僕はこれまでラザンさんの身に起きた事を細かく説明した。
途中、フェザー病の症状でもある咳が止まらなくなるハプニングも起きたが、何とか薬を飲んでおさまった。
そんな中、何とか状況を把握して納得してもらえた。
ラザンさんに関しては相当怒っていたのであとで雷が落ちる事だろう。
僕らはその場にフレイヤさん・ロベールさんを護衛に残し、家を出た。
そのまま少し街を散策した後に僕らは男爵邸に戻った。
「おかえりなさいませ。街はどうでございましたか?」
「はい。いろいろと楽しめました」
「それはようございました。旦那様が食堂でお待ちですので皆様もどうぞお越しください」
そして、昼食後、男爵に宝石室という名の趣味の悪い部屋に案内された。
ついに、レモール男爵を地獄に落とす時がやってきた。
準備は万全に整えた。
今までの報いを受けてもらうよ。
部屋に入ると、壁一面に宝石が敷き詰められている。
机の上にはたくさんの宝石のついた宝飾品があった。
何この量!
これは薬を売ったお金だけでどうこうなるレベルなのか?
それほどの異常な光景が目の前に広がっいた。
「イザベル殿どうですか? 気に入っていただげましたか?」
「素晴らしいですわ! ここまでの量の宝石を集められるなんて男爵、尊敬しますわ」
「お褒めいただきありがとうございます。存分にご覧になってください。アレックス殿、アンジェリカ殿、リディアナ殿も是非!」
「ありがとうございますわ。じっくり拝見させていただきますわ!」
四人は男爵の言われるがままに部屋を見渡し始める。
すると、男爵はおもむろに残された僕とロイスの二人に近づいてきた。
「君たちも是非どうぞ。平民の君たちにはもう一生見ることもないだろうからね」
男爵は僕らを本当にゴミを見るかのように見下していた。
一通り部屋を見て回ると、今度は椅子に座り、装飾品を見せられる。
「どうですか? イザベル殿のお眼鏡に敵う品はありましたか?」
「そうですわね。これ何か素晴らしいですわ。このエメラルドのブローチなんて宝石の大きさ・輝き、共に素晴らしいですわ!」
イザベルがエメラルドのブローチを誉めると、男爵は予想通り顔を歪ませた。
僕らは男爵がこのブローチについているエメラルドよりも更に輝きが強く、大きい女神の瞳をどうしても欲しがっているのを知っている。
「流石お目が高い。これは素晴らしい品ですよ。でもイザベル殿にはこちらのダイヤモンドのネックレスがお似合いですよ」
「そうですか。もし良かったら着けてみてもいいかしら?」
「もちろんてすよ」
イザベルはネックレスを手に取り、身につける。
そんな時だった。ノックの音が聞こえた。
「旦那様、お伝えしたい事があります。入室してもよろしいですか?」
「今すぐに必要な事か?」
「はい」
「入れ」
執事のサジルさんが部屋に入ってきて、男爵に耳打ちをした。
その瞬間、男爵は満面の笑みを浮かべた。
そして、凄く興奮していた。
普通は何があったのかと疑問に思う所だけど、僕らは今なぜ男爵がこんなにも興奮しているのかを知っている。
理由はもちろん女神の瞳だ。
きっと、ラザンさんが街に到着したんだ。
その後も男爵は凄くソワソワした雰囲気を醸し出しながらも顔はにやけている。
今の内に笑っているといいよ。
地獄へのカウントダウンはもう始まっているのだから。
そして、ついに男爵念願の報告が入った。
「旦那様、到着いたしました」
「何をぐずぐずしていたんだ!」
「申し訳ございません。なにぶん、とても大きく、高価な物ですので、細心の注意を払わしていただきました。」
「言い訳はいい。早く持ってこい!」
「はぁ! ただいま!」
「男爵様、先程からどうなさいましたの? 何かが到着したみたいですが」
「皆さんは幸運ですよ。滅多に見れない宝石の原石を目にする事が出来ますから」
「まぁ!」
そして、ついに部屋に運ばれてきた。
三人がかりで運ばれてきた原石が机の上に置かれる。
上から袋が被せられている。
男爵は我慢出来なかったのかすぐに袋を外し、中身を確認する。
その瞬間、今まで以上に男爵の顔がにやける。
「ラザン、でかしたぞ!」
「ありがとうございます」
「まぁ! すごいわ。これは何の原石ですか? 色からしてエメラルドかしら?」
「その通りですよ。しかし、このエメラルドはそんじょそこらのエメラルドではありません。最上級のエメラルド、通称女神の瞳と言います」
「女神の瞳! 私、聞いた事がありますわ。確かマークウェル公爵領で採掘される最上級のエメラルドの事でしたわよね! すごく貴重なものだと聞いた事がありますわ。男爵様はどうやってこれを手に入れたんですの?」
「それは企業秘密ですな」
「まぁ! 意地悪ですわね」
企業秘密って。ただ盗んできただけだろう。
もういいよね。
最後の至福の瞬間を男爵は楽しんだよね。
「男爵すみません。ちょっといいですか?」
「何だ!」
至福の時間を邪魔されたのが不愉快だったのか不機嫌な雰囲気をまじまじと感じる
「この女神の瞳はどこで買われたんですか?」
「先程、企業秘密だと言っただろう。聞こえなかったのか!」
「どうしたんですか? 急に不機嫌になって、平民の僕に至福の時間を邪魔されてイラついているですか?」
僕はわざと男爵をイラつかせるように言葉を選んで言った。
「なんだ。平民の癖に理解力はあるようだな。その通りだよ。ゴミ以下の身分で俺の大切な瞬間を邪魔するな!」
男爵は予想通りに返してきた。
「今までと性格が変わってますよ。イザベル達に引かれちゃいますよ?」
「ハハハ。構わないさ」
「なぜですか?」
「彼女達も私と同じ考えだからさ!」
「同じ考え?」
「わからないのか。まぁそうだろうな。気づいていないよな。教えてやるよ。彼女達は平民の事を俺のようにゴミだと思っているんだぞ。つまり、お前の事もそう思っているって事だ」
「……」
「言葉も出ないみたいだな。悲しいか? 友達だと思っていた者達に裏切られて」
「ハハハ」
「どうした? 想像以上な事が起きて、気がおかしくなったか?」
「そんな訳ないでしょ。男爵がここまで騙されるとは思わなくて」
「騙されただと! 何にだ?」
「わかりませんか? イザベル達の演技にですよ」
「演技だと!」
男爵は驚愕の表情を浮かべ、イザベルの方を見る。
「イザベル殿……」
「嫌いですわよ」
「やはり……」
「男爵のような貴族としとの責務を果たさずに私欲にまみれた生活をおくり、領民を見下す最低な貴族。同じ貴族家に名を連ねる者として非常に不愉快ですわ!」
「……」
これまで同じ考えを持つ同士だと思っていた者からの裏切り。
先程まで男爵が僕に対して悲しいか? と聞いてきた。
これで理解できたでしょ。
そういう気持ちになるんだよ。
「そういえば、言ってなかった事がありました。聞きたいですか?」
「何だ」
「実は僕らは挨拶をするためにここを訪れたんではないんですよ」
「何! ならなぜ来た?」
「なぜだと思います? 先程から聞いてばかりで少しは自分で考えてみたらどうですか?」
「……」
「しょうがない人ですね~それでは一つヒントを差し上げます。僕らは少し前まで違う領地に滞在していました。男爵もよく知っておられる所ですよ」
僕のヒントを聞いて男爵は考える。
そして、ふと女神の瞳の原石の方を見る。
「マークウェル公爵領か!」
「ご名答です。僕らはマークウェル公爵領領都ロンダークに滞在していました。どこに滞在していたと思いますか?」
「……! まさか公爵邸……」
「先程から冴えてますね。正解です。そこまで聞いて何か思うところはないですか?」
男爵は先程より更に驚愕の顔を浮かべ、原石を持ってきて隅に待機していたラザンさんを凝視した。
「まさかラザン!」
「気づきました? 多分、男爵の思っているとおりですよ。僕らとラザンさんは仲間同士ですよ」
「ラザン貴様! お前の妻と子供の命がどうなってもいいのか」
「脅しても意味はないですよ。ラザンさんの奥さんとお子さんは僕らの護衛達がすでに保護していますから。もう逃げ道はありませんよ男爵!」
男爵を相当追い詰められたはずだ。
あともう少しかな?
多分もうそろそろ行動を起こすはずだ。
「もういい。お前もまだまだ詰めが甘いな。ここがどこだと思っている。ここは私の屋敷だ。お前達を屋敷から出さなければいいだけの話だろ。サジル、屋敷の者を総動員して、こいつらを絶対に屋敷から出すな! 逃げ出そうとしたら力強くでいけ!」
「……」
僕らの予想通りすぎる行動をする男爵。
男爵の言葉に反応を示さないサジルさん。
「どうしたサジル。なぜ行動に移さない。早くこいつらを捕らえろ!」
再度、男爵はサジルさんに命令する。
しかし、動かない。
「男爵、もうこの屋敷にあなたの言うことを聞く人間はいませんよ。ねぇサジルさん?」
「何を馬鹿な事を言っている」
「はい。トーラス様のおっしゃる通りでございます」
「サ・ジ・ル!」
部屋中に男爵の叫びが木霊する。
男爵、この状況を招いたのはね、自業自得なんだよ。あなたには一生わからないだろうけどね。
こうして男爵は完全に孤立したのだった。




