潜入開始
途中で視点が何回か変わります。
僕らは今、レモール男爵領領都レミスの前まで来ていた。
門の前に着くと、僕らは作戦を決行した。
「すみません」
「何でしょうか?」
「私達は王都にあるセルベリース学園の生徒なのですが、今、長期休みを利用して僕らの実家を回る旅をしています。その途中でレモール男爵領に来たのですが、もしよろしければ男爵に挨拶をしたいと思うのですが、お取りつぎいただいてもよろしいですか」
「かしこまりました。お名前を伺ってもよろしいですか?」
「はい」
門番の一人は名前を聞くと、血相を変えて馬に乗って駆けていった。
《レモール男爵視点》
「旦那様、少々よろしいでしょうか?」
「どうした?」
「只今、門番から報告が入りました。何でも王都にあるセルベリース学園の生徒が旅の途中で立ち寄ったので旦那様に挨拶をしたいとおっしゃっているそうです。どうなさいますか?」
セルベリース学園の生徒だと!という事は貴族の子供か。
「家名は聞いているか?」
「はい。テンペスター公爵家、シュナウザー侯爵家、ローゼンフェルト伯爵家、アシュレー伯爵家とあと二人は平民です」
平民二人は置いといて、凄い面子だ。名門貴族ばかりじゃないか!
これはチャンスだな。子供達を懐柔して名門貴族達とのパイプを作ってやる。
「丁重に屋敷にお連れしろ。出来る事なら今日1日我が屋敷に滞在してもらえ!」
「かしこまりました」
《トーラス視点》
少し待っていると、門番の人と共に執事服を着た人がやってきた。
「お待たせいたしました。私はレモール男爵邸で執事長をやっておりますサジルと申します。旦那様は皆様の事を大歓迎されております。出来る事なら本日は屋敷に滞在していただきたいと申しております。どうでしょうか?」
「本当ですか? すごくありがたいです。是非ともお願いします」
「かしこまりました。では参りましょう」
僕らはサジルさんに連れられて街に入った。
今回、僕は平民という事にした。
ロンヘスター子爵家はマークウェル公爵家の分家なので万が一にも作戦がバレないようにするためだ。
街を馬車から見てみると、昨日までいたロンダークの街と雲泥の差だった。
街に活気はなく、歩いている人々に覇気をあまり感じられない。
なんて言ったらいいんだろうか。皆、生きていくのに精一杯って感じだ。
少しすると、大きくて凄く豪華な雰囲気を醸し出す建物が見えてきた。
屋敷の前に着くと、レモール男爵に歓迎された。
「ようこそ皆様、はじめまして! 私がこの地の支配……ゴホン、治めているゲスール・レモールと申します。この旅は我が領地を訪れていただきありがとうございます。どうぞ我が屋敷でゆっくりしていってください」
この人、今、支配者って言おうとしたよね。
どう考えてもいい人には思えない。
体は贅沢三昧の影響なのか、肉だるま。体中にジャラジャラと宝石を大量に付けている。
典型的なクズ領主って感じだ。
「ありがとうございますわ。私、イザベル・テンペスターが代表して男爵様にお礼を申します。お言葉に甘えてゆっくりさせていただきますわ」
話し合いの結果、今回はこの中で一番位の高い公爵家の令嬢であるイザベルに代表を務めてもらう事になった。
中に入ると、先ずは応接間に案内された。
いたるところに高価そうな壺やら絵画やら沢山配置されていた。
「皆さんはセルベリース学園の生徒と聞きましが……」
男爵は言葉を詰まらせながら僕とロイスをジロジロ見てきた。
「はいそうですわ。皆、学園の友達ですわ」
「そうですか。流石テンペスター公爵家のご令嬢のお友達は名家の者ばかりですね……いや、例外も居ましたね」
なるほど。理解した。
つまり、男爵はなぜ平民である僕とロイスが一緒にいる事を疑問に想っているんだな。
「気を使わなくてもよろしいですわよ男爵様。二人の事を疑問に思ってるんですわよね」
「そんな事は思っていませんよ」
動揺を見せる男爵を余所にイザベルは立ち上がり、男爵の側に行き、耳元で囁いた。
「よろしいですわよ。たかが平民ごときに気を使わなくても」
「えっ!」
「あの二人とは友達ごっこをしているだけですの。今は友達だと思わせといて後で思い知らせて上げる予定ですのよ」
「何をですか?」
「決まっているじゃないですか! 私達貴族とは生きている世界が違うという事をですわ!」
「なぜそこまで」
「たかが平民の分際で優秀な成績を取って、いい気になってるからですわ! だから貴族である私が教えて差し上げないといけませんの! 所詮平民は私達貴族の足下に膝まつく存在である事を!」
イザベルの渾身の演技が炸裂した。
男爵はイザベルの言葉にゲスい笑みを浮かべて『あなたとは気が合いそうですな』と言った。
「どうしたのイザベル」
「男爵様にいかに私が二人の事を大切な友人であるかを教えて差し上げたんですわ!」
僕らはずっとどうすれば男爵の信用を得られるのかを考えていた。
男爵は平民の事を確実に下に見ているだろうからね。
イザベルも同じ考えを持っていると思わせれば、信用しやすいだろう。
「本当の友人達も同じ考えですわ。今晩でもまたお話ししたいですわね」
「是非に」
その後、僕らは各自、部屋に案内された。
僕とロイスは一緒の部屋。他の皆は一人部屋だった。
いきなり、差別してきた。
これはいい傾向だ。
そして、夕食前に執事が僕とロイスの部屋にやってきて告げた。
「トーラス様・ロイス様、夕食なのですが、旦那様が体調を崩されましたので部屋でお召し上がりいただいてもよろしいでしょうか?」
「そうなんですか。男爵様は大丈夫ですか?」
「ご心配おそれいります。少し休めばすぐよくなりますので」
「そうですか。わかりました。なら他の皆と食べたいんだけど」
「申し訳ありません。先程、皆様お召し上がりになられたんですよ」
「そうなんですか。わかりました」
「それではお食事をお持ちいたします。本日は疲れていますでしょうからお早めに就寝してくださいませ」
「ありがとうございます!」
執事は食事を取りに一旦部屋を出ていった。
「予定通りだね!」
「そうだねロイス!後は皆に頑張ってもらおう。特にイザベルにね!」
《リディアナ視点》
「お疲れ様! イザベル、名演技だったわよ!」
「疲れましたわ。口が腐りそうですわ。リディアナ変わってください」
「本当にね。でも自信を持ちなさいよ。イザベルほど適任はいないわよ!」
「どういう意味ですの!」
「まぁまぁ落ち着いてイザベル。作戦は順調よ。このまま頑張りましょう!それに格好良かったわよ」
「何か府に落ちませんわ」
「これからが本番よ! きっと夕食には私達だけが呼ばれるわ。そこで更に男爵に近づきましょう!」
夕食の時間になると案の定、執事が来て、部屋に案内された。
もちろんメンバーは男爵、私、イザベル、アンジェ、アレックスだ。
「美味しいですわ。流石男爵様ですわ! 全てが一流ですわね!」
「お褒めの言葉ありがとうございます」
「男爵は本当に素晴らしい方ですね。家に帰ったら父に話しますね。男爵様は素晴らしい方だから是非交流しましょうって」
「それはそれはアレックス殿、ありがとうございます」
「私も父上に言うわ! アナも言うでしょ!」
「もちろんよアンジェ。男爵様みたいな方がこの国に必要だもの」
「それはどんな人間ですか?」
「決まってますよ。平民を従える事の出来る方ですよ」
「ほう!」
「本当に憧れますわ。私、この街に来て、感動しましたのよ。平民達の顔、傑作でしたわ」
「気づかれるとはイザベル殿もなかなかの素質がありますな」
「本当ですか?嬉しいですわ!私、もっと男爵様と仲良くなりたいわ」
「私もですよ。何か私にご要望があったら言ってください」
きた!
今よイザベル!
「ならお言葉に甘えてまして、私は宝石収集が趣味なのですが、確か男爵は相当な収集家だと聞いた事がありますの。良ければコレクションを見せてほしいんですの」
「ほう! イザベル殿も宝石好きなのですね。私達は本当に気が合いますな。私のコレクションは王国随一だと思ってますよ。明日にでも見ますか?」
「よろしいのですか? 是非お願いしますわ!」
「では明日に」
「よろしくお願いしますわ!」
その後も男爵は自分の自慢話を沢山してきた。
「それでは私達は失礼しますわ。アナ、アンジェ今日は一緒に寝ましょう!」
「「いいわよ」」
「執事さん準備お願いしますわ!」
「かしこまりました」
「じゃあ俺はあいつらの様子でも見てくるわ」
「アレックスは優しいわね」
「人間は信頼された奴から裏切られた方が堪えるんだよ」
「「「アレックス怖い!!!」」」
私達三人は部屋に戻り、お風呂に入ると、ベッドに飛び込んだ!
「疲れましたわ」
「私は耳が腐ると思ったわ。何あの気持ち悪い生物。話す話は自慢ばかりだし」
「本当にね」
「まぁこれで作戦は最終段階に突入ね。頑張りましょう!」
「もう実家に帰りたいですわ」
「イザベル本当に頑張ったわね。安心して明日の主役はトーラスとロイスだから」
私達は仲良く一緒のベッドで眠りについた。
《トーラス視点》
ノックの音が聞こえた。
「誰ですか?」
「俺だ! 俺!」
「アレックス」
「どうだった?」
「完璧! 予定通りに明日、男爵のコレクションを見せてもらう事になったぜ」
「了解! 明日が楽しみだね」
「イザベルが頑張ったんだ。明日は二人とも頼むぜ!男爵を地獄の底に突き落としてやろうぜ!」
「「了解!」」




